聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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レトナーク平原の決戦

第80話 勝利 B

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 敵軍は混乱している。
 それはそうだろう。

 前面に展開していた盾部隊があっけなく弾き飛ばされて、部隊の中央まで侵入されたのだ。
 身体の中に寄生虫が入り込んで、暴れている様なものだ。

 こんな破られ方をするなんて、想定していないだろう。

 前線で盾を構えて列をなしている部隊の兵士は、自分の後ろに敵が入り込んで暴れ出したのを見て、このままここで盾を構えていればいいのか、それとも侵入者を迎撃するのか――

 どうすれば良いのか分からずに、気持ちが浮足立っている。

 


 そこに東の戦場から、リーズラグド連合軍の本体がやって来た。

 騎馬突撃の混乱から回復し、周囲の敵兵を掃討しつつ、こちらへと来たようだ。


 

 敵陣の中に入り込んだ俺は、まずは弓兵を狙って斬って回り、盾を構えた敵を後ろから斬り、向かってくる兵士を片っ端から斬って回った。

 敵の数は三万だ。
 俺が斬った敵の数などたかが知れるが、それでも陣形の内部で暴れ回ることで、敵全体に動揺と混乱をもたらした。

 軍隊としての機能を麻痺させていく。

 そこに、リーズラグド連合軍の本体が、攻め寄せて戦闘が開始された。




 時刻は夕方に差し掛かっている。
 レトナーク平原にいたチャルズコート連合軍は瓦解した。

 俺たちが中央の三万の兵を壊滅させる頃には、西の山に布陣していた一万の敵の本陣は逃げ出し始めていた。

 中央の敗北を見て、それまで互角の押し合いに終始していた右翼と左翼の軍も、撤退を開始――
 今は逃げる敵兵を追撃し、追い打ちをかけている所だ。



 俺の周囲では、野営の準備が進んでいる。

 自分専用のテントの前の腰掛に座って休んでいると、親衛隊の面々がやって来た。

 今は隊長のリスティーヌが産休中なので、ティリアが臨時で隊長代理を務めている。彼女には別動隊として、好きに動けと言ってあった。

 彼女たちは本隊から離れて、遊撃隊としてこの平原のどこにいた。
 どこにいたのかは、俺も知らない。


 そのティリアが、縄で縛った落ち武者を引き連れてきた。




 
「アレス様、見て下さい! 大物を捕らえました!!」

 ティリアは大声でそう言うと、嬉しそうにその『獲物』を俺の方に寄こす。


「ぶ、無礼者がっ、私は中央神殿の最高司祭だぞ!! このような扱い……女神ガイア様が黙ってはおらぬッ!! 貴様らには必ず、神罰が下るぞ!!」


 こいつはチャルズコートの、チェルズスカルとかいう奴だそうだ。
 この戦争の仕掛人で、俺に聖女暗殺の汚名を着せた黒幕……。

 ――ローレインの人物分析では、かなりのナルシストらしい。

 俺は剣を抜いて、一振りする。

 チェルズスカルの頭上の髪の毛が、切り取られて河童のような頭になった。
 敗残兵に相応しいヘアスタイルだろう。

「面白いことをいう奴だ。人間同士の争いに、女神が口出しする訳ないだろう」



 チェルズスカルは俺のセリフを無視して、喚きたてている。
 

 ――髪の毛を剃られたことが、よほど気に入らなかったらしい。
 真っ赤な顔でブチ切れている。

 五月蠅いので、口に猿轡を噛ませておく。



 こいつは利用価値があるから殺さないが、もう用はない。

 捕虜として捕らえておくように言うと、ティリアは故郷の知り合いにチェルズスカルを見せびらかして回る。

 無邪気な女だ。
 それにしても、彼女は『運が良い』――

 戦いの嗅覚も優れているので、隊長代理を任せて自由に行動させていた。
 戦争に勝つには、運の良さも必要なのだと実感する。
 




 もうじき日が落ちて暗くなる。
 
 本陣のあちこちで篝火が焚かれていて、食事の用意も出来ていた。

 残党狩りに勤しんでいる者も多いが、俺はもう寝よう。
 流石に、今日は疲れた。

 ゆっくりと休んで、明日に備える。


 さて、この決戦に敗れたチャルズコートは、どう出るか――
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