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戦いの場へ
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いよいよ今日から、セレナの戦闘訓練が始まる。初日は座学ということで、教師はヴィラン。付き添いでミリアが一緒に居てくれている。
「一応確認ですが、セレナさんはこれまで戦いに身を投じてこなかった。ということでよろしいですね?」
「そうだね。だから聖獣奏者以前に、普通の魔導士としての戦い方の知識もゼロに等しいよ」
「わかりました。まずは戦闘においての基礎知識、“属性”についてからですね」
この世界に誕生するすべての生き物の魔力には、属性というものが備わっている。属性には火・水・風・地・草・鋼・PKなど様々な種類が発見されており、現段階でその種類は50を超えるという。また、属性は習得するものではなく、誕生した瞬間にその生物の属性が決まる。ゆえに、自身で選択することはできない。
「私たちの聖獣は、元は私たちの魔力が変異したものですので、当然聖獣自身にも属性はあります。いわば聖獣は、意志を持った属性のようなものです。そして私たち聖獣奏者は、聖獣を聖獣帰還術で体内に取り込むことで、聖獣の持つ属性を自らの力として使役することができるのです」
「ふむふむ・・・」
「人間に限らず、生物が生まれながらに持つ属性の数は、基本的には1つのみですが、世の中何事にも例外はつきものです」
「例外?」
「お姉ちゃんのことだよ」
「へ?」
この世界に誕生する生物の中には、稀に属性を2つ以上同時に持って生まれる例が存在する。その要因の1つとして、生まれながらに持つ魔力量が、並の生物より多いことが挙げられる。
「恐らくセレナさんの生まれながらに持つ魔力量は、並の魔力量の4倍以上はあるのではないのでしょうか。セレナさんと共に誕生した聖獣の数が4体な理由は、それで説明がつきます」
「4倍って・・・私の魔力量ってそんなに多いの?」
「あくまでも可能性の話です。ですがこれが当たっているとすれば、あなたは聖獣奏者だけではなく、人類から見ても特別な存在になるでしょうね」
セレナの表情がみるみる青に染まってゆく。セレナにとって、人前で目立つということは、できれば避けたいことだからだ。
「一応聞くけど、なんで?」
「だってだって、普通は2つの属性を持っているだけでも魔導士として才能があるといわれているんだよ。お姉ちゃんの聖獣が4体ということは、お姉ちゃんが生まれながらに持つ属性の数も当然4。これはもう、大賢者並みの特別な存在でしょ!」
ミリアがまるで自分のことのように鼻高々にものをいう反面、セレナの中では何かが崩れ落ちてしまう。喜ぶミリアに対し、セレナは苦笑いで反応するしかなかった。
ちなみに大賢者とは、この国を統治する国家権力において、国が認めた優れた魔導士に贈られる称号である。これが騎士の場合だと、大剣豪となる。
「心中色々とお察ししますが、これを錘ではなく、天から授かった才能としてきちんと受け入れるべきかと」
セレナはヴィランの助言に、大きく深呼吸する。
「わかってる。否定するつもりはないよ。だってこれを否定したら、アイたちの力のこともすべて否定してしまうことになる。それだけは嫌。ちゃんと自分の力の一部として向き合っていくよ。それに・・・」
「それに?」
「ううん、何でもない(それに、この力を否定すれば、この才能を喉から手が出るほど欲しがっている人にとって嫌味に聞こえるだろうしね。特にミチルの前では・・・)」
思えばこの寮に来てから、やたらとミチルの視線が気になっていたセレナ。恐らく自身の才能に無自覚なセレナに苛ついていたのかもしれない。セレナは、この長期休暇の戦闘訓練で己の無知を少しでも無くしていこうと心に誓うのであった。
セレナはさっそくと、重い腰を持ち上げようとする。
「じゃあここからは、私が持つ4つの属性を知ることと、それを戦闘に応用していく訓練だね」
「いえ、まだ座学は終わりません」
「えっ、そうなの?」
セレナは若干、がっかりしたような表情をしていた。慣れないことをして疲れたのもあるだろうが、意外にも実践的な性格をしていると直感するヴィランであった。
「ここまでは普通の魔導士とも共通することを話してきましたが、ここからは聖獣奏者ならではの戦闘知識です」
「ああ、なるほどね」
「まず聖獣には、普通の人間にはない、獣ならではの性能を備えていることが分かりました。これは戦闘だけでなく、普段の生活の中でも活用できるものです。私たちはその力を“獣能”と呼んでいます」
約1年前。聖獣奏者学部が設立したてのころ、ヴィランとその母であるヒリスをはじめとした聖獣奏者学部に派遣された研究者たちは、まず魔力が聖獣に成り代わることで発生する利点についてから研究が始まった。
聖獣奏者を新たな学部として設立させるには、他の学部にはない聖獣奏者ならではの特徴を見つけ出す必要があったからだ。
繰り返す日々の中で、世界各国から聖獣奏者をスカウトしていくと同時に、それら聖獣が持つ力を日々の観察の中で根気強く見つけだそうとしてきた。
それから約9カ月後。その出来事は突然だった。聖獣であるククを聖獣帰還術で自身の体内に収めた状態のヴィランを、普段の生活の中で観察していた際、属性とは異なる普通ではありえない現象を発動させたのだ。
「それが“獣能”ってこと?」
「そうです。ですが、その発見にはかなりの苦労がありました」
属性に関しては、体内の魔力を外に放出することで、それが何の属性を示しているのか目で判断するだけでよかった。しかし、獣能に関しては勝手が違った。
最初のころは、聖獣のみに注目して観察を行っていた。だがのちの研究結果で、獣能は聖獣が呼吸するのと同じ感覚で使用していることが分かる。つまり獣能とは、他の生物にはありえない現象ではあるものの、聖獣にとっては自然現象の一部に過ぎないということだ。
ある研究者の機転により、観察対象を聖獣から聖獣と取り込んだ聖獣奏者に変えなければ、おそらく人の一生を賭けても見つからなかっただろう。
「それから私たちは、聖獣奏者同士でお互いの普段の行動を観察しあい、獣能と思われる力を見つけていきました」
「獣能も属性と同じ、1体につき1つなの?」
「今のところはそう結論付けています。ですが、これに関しては、後から1体の聖獣から複数見つかる可能性もゼロとは言い切れません」
「ふーん・・・あれ?」
ここでセレナが、ある重要なことに気付く。
「ちょっと待って。私の聖獣が4体いるってことは・・・」
ヴィランは黙って頷く。セレナの表情からは再び絶望が生まれ、顔色もだんだんと青いものへと変わっていく。
「属性同様、セレナさんが使える獣能も4つあるでしょうね。1つでも見つけるのが大変私たちでしたが、セレナさんの場合はその4倍を見つけないといけないですから大変です。しかもセレナさんの場合、例え見つけられたとしても、どの獣能がどの聖獣のものなのかを把握しなくてはなりません。まるで色のないパズルを完成させるかのごとく難しさです」
「それに、戦いにおいては属性と獣能を組み合わせる場合もあるからね。お姉ちゃんは戦いの中で、8つの武器を同時に使い分けなきゃいけないから慣れるのも大変そう」
セレナの頭に激痛が走る。生まれながらに強力な才能が与えられても、それに見合った努力をしなければ使いこなすなどできはしない。これまで努力とは無縁だったセレナにとっては、果てのない道のりだろう。
『セレナ、大丈夫?』
『獣能なんて力、俺たちが把握できてるわけもないしな。俺たちに出来ることと言えば・・・』
すると突然、セレナが大声を上げる。
「うわああああああ!!!」
大声と同時に、両頬を力いっぱい叩く。頬は真っ赤に腫れていた。そんなセレナの行動に、周囲は驚き、言葉を失う。
「どうしたの?お姉ちゃん」
「もう、やってやるわよ!どうせやらなかったら、元居た地獄に戻るだけだし。先にも地獄、後にも地獄なら、先に進んで道をこじ開けるしかないでしょ!それにやれることができた分、これまでのやりたくても何もできない生活よりはずっとましだっての!」
セレナの目はいつの間にか輝き、表情は吹っ切れたようにスッキリしたものになっている。
「アイたちも手伝ってよ!こういう時こそ、あんたたちの喋れるっていう特異な能力が役に立つんだから」
『任せておけ』
『僕も頑張る!』
「そっか。私たちの聖獣は喋れない分、発見するのに時間がかかった。でも“喋る”や“意志”といったほかの聖獣にはない規格外な能力を生かせれば、聖獣自身からも情報を得られる可能性もありますね。まさか特異という人によっては弱点となりえる部分を、このような形で役立てるとは」
セレナは同時にヴィランとミリアにも呼び掛ける。
「私たちの獣能探し、2人も手伝ってよね」
「もちろんです」
「うん!」
こうして座学は終わり、セレナの聖獣奏者としての修業が始まるのだった。その様子を本館にある窓からのぞく影があった。
「ほぅ、あそこから吹っ切れちまいやがった。大したもんだね。さすが、あの年で数々の困難を乗り越えてきた子たちだよ。あんたたちもそう思わないかい?」
温かい目でセレナを見つめるカナリア。その横には、複雑な表情でセレナを見つめる更なる2つの影が。
「ええ、本当に。ここまで強くなっているなんて」
「ああ」
そんな2人に対し、カナリアは大きなため息を漏らす。
「いい加減、姿を見せてやったらどうだい?会って話すこともあるんだろ?」
「はい・・・ですが、私たちの存在が修行の邪魔になりかねません。今はまだその時では・・・」
「便利な逃げの言葉を使うんじゃないよ。それにああまでたくましい子が、そう簡単に乱れるとは、私には思えないがね」
「それは私たちだって。むしろ私たちなんかよりよっぽど。ですが・・・」
「やれやれ。これじゃあ、どっちが多くの人生を経験しているかわかったもんじゃないね」
その日からセレナの修業は始まった。もちろんセレナだけではない。セレナより以前に聖獣奏者学部にいた5人の聖獣奏者たちも、それぞれの課題に向かって、時に競い合い、時に切磋琢磨しながら日々を重ねていった。
「お姉ちゃん!今日もランニング行こう!」
「ふぁー。おはようミリア」
新たなる日課。新たなる仲間。新たな家族。すべてにおいて新しい世界で、セレナは今日も仲間と共に新たな力を探求してゆく。
それから数週間後。長期休暇期間を抜け、セレナにとっては待ち遠しかった学園への登校の日だ。すでに日課となっていたミリアとの早朝ジョギングと、これまた日課となった全員での朝食も済ませる。
「これが制服・・・」
「お姉ちゃん、似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
寮から支給された制服に着替え、セレナたちは寮を出る。サラたちとは、道中まで一緒だったが、いったん別れることに。初登校ということもあり、ヴィランの母親で、聖獣奏者学部の創設者であるヒリス学部長へのあいさつへ向かうためだ。ヴィランが付き添いでついてきてくれている。
「ミリアは駄々をこねていましたね。連れて来ても構わなかったのですが」
「いや、今回はちょっと。これから、見苦しい場面を見せることになるだろうし」
「?」
セレナはこの先何かが起こると予感していたようだった。しかし、これからやるべきことといえば、学部長からの歓迎の言葉が贈られる程度のはず。であるならば、これから物事を起こそうとしているのは、セレナ自身ではないか。そう思うヴィランは、その物事の中身が何なのか、気になってしょうがなかった。
「さて、着きましたよ」
ここは、グーラン王立魔導学園内にある職員棟。学園に勤務する職員の研究室が備わっている棟だ。目的の部屋までの道中、セレナはある研究室のネームプレートに目が留まる。
「(やっぱりか・・・)」
それから少し先を進んだところに目的の部屋はあった。
セレナたちの立ち止まった扉の横には“聖獣奏者学部 学部長研究室”と書かれてある。ヴィランはその扉を軽くノックした。
「失礼いたします、聖獣奏者学部ヴィランです。本日から聖獣奏者学部に入学いたします、聖獣奏者セレナをお連れしました」
「入りなさい」
入口の扉を開くと、そこはまるでどこかの社長室のような装飾や家具が設置されて部屋だった。そして中央の机で堂々と待ち構えていたのが、ヒリス学部長だ。何やらセレナのことを興味津々な表情で見つめてくる。
セレナは思わず背筋を伸ばす。
「初めましてセレナさん。ようこそ、グーラン王立魔導学園聖獣奏者学部へ。学部長を務めていますヒリスです。どうぞよろしく」
「セ、セレナです。よ、よろしくお願いします」
慣れていない様子で緊張するセレナに、思わず笑みがこぼれるヒリス学部長。それでも威厳を保ち続ける姿勢は変わらない。
「堅苦しい挨拶はこれくらいにして、あとは手短にこれからのことを・・・」
「その前に1ついいですか?」
「はい?」
ヒリス学部長の言葉を遮り、手を挙げて発言するセレナ。失礼は重々承知の上だが、どうしてもあることを先に聞いておきたい欲求が勝ってしまった。
その真剣な眼差しに、何かと興味をそそるヒリス学部長。そして、事前に知らされていた“見苦しい場面”がこれから起こるのかと焦るヴィラン。
そんな2人をよそに、セレナは手を伸ばせば届く距離にまでようやくたどり着いた、ずっと胸に抱え込んでいたある疑問に、手を届かせることで精一杯のようだ。そしてセレナはいよいよ本題を切り出す。
「ここに居ますよね?私の両親」
「一応確認ですが、セレナさんはこれまで戦いに身を投じてこなかった。ということでよろしいですね?」
「そうだね。だから聖獣奏者以前に、普通の魔導士としての戦い方の知識もゼロに等しいよ」
「わかりました。まずは戦闘においての基礎知識、“属性”についてからですね」
この世界に誕生するすべての生き物の魔力には、属性というものが備わっている。属性には火・水・風・地・草・鋼・PKなど様々な種類が発見されており、現段階でその種類は50を超えるという。また、属性は習得するものではなく、誕生した瞬間にその生物の属性が決まる。ゆえに、自身で選択することはできない。
「私たちの聖獣は、元は私たちの魔力が変異したものですので、当然聖獣自身にも属性はあります。いわば聖獣は、意志を持った属性のようなものです。そして私たち聖獣奏者は、聖獣を聖獣帰還術で体内に取り込むことで、聖獣の持つ属性を自らの力として使役することができるのです」
「ふむふむ・・・」
「人間に限らず、生物が生まれながらに持つ属性の数は、基本的には1つのみですが、世の中何事にも例外はつきものです」
「例外?」
「お姉ちゃんのことだよ」
「へ?」
この世界に誕生する生物の中には、稀に属性を2つ以上同時に持って生まれる例が存在する。その要因の1つとして、生まれながらに持つ魔力量が、並の生物より多いことが挙げられる。
「恐らくセレナさんの生まれながらに持つ魔力量は、並の魔力量の4倍以上はあるのではないのでしょうか。セレナさんと共に誕生した聖獣の数が4体な理由は、それで説明がつきます」
「4倍って・・・私の魔力量ってそんなに多いの?」
「あくまでも可能性の話です。ですがこれが当たっているとすれば、あなたは聖獣奏者だけではなく、人類から見ても特別な存在になるでしょうね」
セレナの表情がみるみる青に染まってゆく。セレナにとって、人前で目立つということは、できれば避けたいことだからだ。
「一応聞くけど、なんで?」
「だってだって、普通は2つの属性を持っているだけでも魔導士として才能があるといわれているんだよ。お姉ちゃんの聖獣が4体ということは、お姉ちゃんが生まれながらに持つ属性の数も当然4。これはもう、大賢者並みの特別な存在でしょ!」
ミリアがまるで自分のことのように鼻高々にものをいう反面、セレナの中では何かが崩れ落ちてしまう。喜ぶミリアに対し、セレナは苦笑いで反応するしかなかった。
ちなみに大賢者とは、この国を統治する国家権力において、国が認めた優れた魔導士に贈られる称号である。これが騎士の場合だと、大剣豪となる。
「心中色々とお察ししますが、これを錘ではなく、天から授かった才能としてきちんと受け入れるべきかと」
セレナはヴィランの助言に、大きく深呼吸する。
「わかってる。否定するつもりはないよ。だってこれを否定したら、アイたちの力のこともすべて否定してしまうことになる。それだけは嫌。ちゃんと自分の力の一部として向き合っていくよ。それに・・・」
「それに?」
「ううん、何でもない(それに、この力を否定すれば、この才能を喉から手が出るほど欲しがっている人にとって嫌味に聞こえるだろうしね。特にミチルの前では・・・)」
思えばこの寮に来てから、やたらとミチルの視線が気になっていたセレナ。恐らく自身の才能に無自覚なセレナに苛ついていたのかもしれない。セレナは、この長期休暇の戦闘訓練で己の無知を少しでも無くしていこうと心に誓うのであった。
セレナはさっそくと、重い腰を持ち上げようとする。
「じゃあここからは、私が持つ4つの属性を知ることと、それを戦闘に応用していく訓練だね」
「いえ、まだ座学は終わりません」
「えっ、そうなの?」
セレナは若干、がっかりしたような表情をしていた。慣れないことをして疲れたのもあるだろうが、意外にも実践的な性格をしていると直感するヴィランであった。
「ここまでは普通の魔導士とも共通することを話してきましたが、ここからは聖獣奏者ならではの戦闘知識です」
「ああ、なるほどね」
「まず聖獣には、普通の人間にはない、獣ならではの性能を備えていることが分かりました。これは戦闘だけでなく、普段の生活の中でも活用できるものです。私たちはその力を“獣能”と呼んでいます」
約1年前。聖獣奏者学部が設立したてのころ、ヴィランとその母であるヒリスをはじめとした聖獣奏者学部に派遣された研究者たちは、まず魔力が聖獣に成り代わることで発生する利点についてから研究が始まった。
聖獣奏者を新たな学部として設立させるには、他の学部にはない聖獣奏者ならではの特徴を見つけ出す必要があったからだ。
繰り返す日々の中で、世界各国から聖獣奏者をスカウトしていくと同時に、それら聖獣が持つ力を日々の観察の中で根気強く見つけだそうとしてきた。
それから約9カ月後。その出来事は突然だった。聖獣であるククを聖獣帰還術で自身の体内に収めた状態のヴィランを、普段の生活の中で観察していた際、属性とは異なる普通ではありえない現象を発動させたのだ。
「それが“獣能”ってこと?」
「そうです。ですが、その発見にはかなりの苦労がありました」
属性に関しては、体内の魔力を外に放出することで、それが何の属性を示しているのか目で判断するだけでよかった。しかし、獣能に関しては勝手が違った。
最初のころは、聖獣のみに注目して観察を行っていた。だがのちの研究結果で、獣能は聖獣が呼吸するのと同じ感覚で使用していることが分かる。つまり獣能とは、他の生物にはありえない現象ではあるものの、聖獣にとっては自然現象の一部に過ぎないということだ。
ある研究者の機転により、観察対象を聖獣から聖獣と取り込んだ聖獣奏者に変えなければ、おそらく人の一生を賭けても見つからなかっただろう。
「それから私たちは、聖獣奏者同士でお互いの普段の行動を観察しあい、獣能と思われる力を見つけていきました」
「獣能も属性と同じ、1体につき1つなの?」
「今のところはそう結論付けています。ですが、これに関しては、後から1体の聖獣から複数見つかる可能性もゼロとは言い切れません」
「ふーん・・・あれ?」
ここでセレナが、ある重要なことに気付く。
「ちょっと待って。私の聖獣が4体いるってことは・・・」
ヴィランは黙って頷く。セレナの表情からは再び絶望が生まれ、顔色もだんだんと青いものへと変わっていく。
「属性同様、セレナさんが使える獣能も4つあるでしょうね。1つでも見つけるのが大変私たちでしたが、セレナさんの場合はその4倍を見つけないといけないですから大変です。しかもセレナさんの場合、例え見つけられたとしても、どの獣能がどの聖獣のものなのかを把握しなくてはなりません。まるで色のないパズルを完成させるかのごとく難しさです」
「それに、戦いにおいては属性と獣能を組み合わせる場合もあるからね。お姉ちゃんは戦いの中で、8つの武器を同時に使い分けなきゃいけないから慣れるのも大変そう」
セレナの頭に激痛が走る。生まれながらに強力な才能が与えられても、それに見合った努力をしなければ使いこなすなどできはしない。これまで努力とは無縁だったセレナにとっては、果てのない道のりだろう。
『セレナ、大丈夫?』
『獣能なんて力、俺たちが把握できてるわけもないしな。俺たちに出来ることと言えば・・・』
すると突然、セレナが大声を上げる。
「うわああああああ!!!」
大声と同時に、両頬を力いっぱい叩く。頬は真っ赤に腫れていた。そんなセレナの行動に、周囲は驚き、言葉を失う。
「どうしたの?お姉ちゃん」
「もう、やってやるわよ!どうせやらなかったら、元居た地獄に戻るだけだし。先にも地獄、後にも地獄なら、先に進んで道をこじ開けるしかないでしょ!それにやれることができた分、これまでのやりたくても何もできない生活よりはずっとましだっての!」
セレナの目はいつの間にか輝き、表情は吹っ切れたようにスッキリしたものになっている。
「アイたちも手伝ってよ!こういう時こそ、あんたたちの喋れるっていう特異な能力が役に立つんだから」
『任せておけ』
『僕も頑張る!』
「そっか。私たちの聖獣は喋れない分、発見するのに時間がかかった。でも“喋る”や“意志”といったほかの聖獣にはない規格外な能力を生かせれば、聖獣自身からも情報を得られる可能性もありますね。まさか特異という人によっては弱点となりえる部分を、このような形で役立てるとは」
セレナは同時にヴィランとミリアにも呼び掛ける。
「私たちの獣能探し、2人も手伝ってよね」
「もちろんです」
「うん!」
こうして座学は終わり、セレナの聖獣奏者としての修業が始まるのだった。その様子を本館にある窓からのぞく影があった。
「ほぅ、あそこから吹っ切れちまいやがった。大したもんだね。さすが、あの年で数々の困難を乗り越えてきた子たちだよ。あんたたちもそう思わないかい?」
温かい目でセレナを見つめるカナリア。その横には、複雑な表情でセレナを見つめる更なる2つの影が。
「ええ、本当に。ここまで強くなっているなんて」
「ああ」
そんな2人に対し、カナリアは大きなため息を漏らす。
「いい加減、姿を見せてやったらどうだい?会って話すこともあるんだろ?」
「はい・・・ですが、私たちの存在が修行の邪魔になりかねません。今はまだその時では・・・」
「便利な逃げの言葉を使うんじゃないよ。それにああまでたくましい子が、そう簡単に乱れるとは、私には思えないがね」
「それは私たちだって。むしろ私たちなんかよりよっぽど。ですが・・・」
「やれやれ。これじゃあ、どっちが多くの人生を経験しているかわかったもんじゃないね」
その日からセレナの修業は始まった。もちろんセレナだけではない。セレナより以前に聖獣奏者学部にいた5人の聖獣奏者たちも、それぞれの課題に向かって、時に競い合い、時に切磋琢磨しながら日々を重ねていった。
「お姉ちゃん!今日もランニング行こう!」
「ふぁー。おはようミリア」
新たなる日課。新たなる仲間。新たな家族。すべてにおいて新しい世界で、セレナは今日も仲間と共に新たな力を探求してゆく。
それから数週間後。長期休暇期間を抜け、セレナにとっては待ち遠しかった学園への登校の日だ。すでに日課となっていたミリアとの早朝ジョギングと、これまた日課となった全員での朝食も済ませる。
「これが制服・・・」
「お姉ちゃん、似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
寮から支給された制服に着替え、セレナたちは寮を出る。サラたちとは、道中まで一緒だったが、いったん別れることに。初登校ということもあり、ヴィランの母親で、聖獣奏者学部の創設者であるヒリス学部長へのあいさつへ向かうためだ。ヴィランが付き添いでついてきてくれている。
「ミリアは駄々をこねていましたね。連れて来ても構わなかったのですが」
「いや、今回はちょっと。これから、見苦しい場面を見せることになるだろうし」
「?」
セレナはこの先何かが起こると予感していたようだった。しかし、これからやるべきことといえば、学部長からの歓迎の言葉が贈られる程度のはず。であるならば、これから物事を起こそうとしているのは、セレナ自身ではないか。そう思うヴィランは、その物事の中身が何なのか、気になってしょうがなかった。
「さて、着きましたよ」
ここは、グーラン王立魔導学園内にある職員棟。学園に勤務する職員の研究室が備わっている棟だ。目的の部屋までの道中、セレナはある研究室のネームプレートに目が留まる。
「(やっぱりか・・・)」
それから少し先を進んだところに目的の部屋はあった。
セレナたちの立ち止まった扉の横には“聖獣奏者学部 学部長研究室”と書かれてある。ヴィランはその扉を軽くノックした。
「失礼いたします、聖獣奏者学部ヴィランです。本日から聖獣奏者学部に入学いたします、聖獣奏者セレナをお連れしました」
「入りなさい」
入口の扉を開くと、そこはまるでどこかの社長室のような装飾や家具が設置されて部屋だった。そして中央の机で堂々と待ち構えていたのが、ヒリス学部長だ。何やらセレナのことを興味津々な表情で見つめてくる。
セレナは思わず背筋を伸ばす。
「初めましてセレナさん。ようこそ、グーラン王立魔導学園聖獣奏者学部へ。学部長を務めていますヒリスです。どうぞよろしく」
「セ、セレナです。よ、よろしくお願いします」
慣れていない様子で緊張するセレナに、思わず笑みがこぼれるヒリス学部長。それでも威厳を保ち続ける姿勢は変わらない。
「堅苦しい挨拶はこれくらいにして、あとは手短にこれからのことを・・・」
「その前に1ついいですか?」
「はい?」
ヒリス学部長の言葉を遮り、手を挙げて発言するセレナ。失礼は重々承知の上だが、どうしてもあることを先に聞いておきたい欲求が勝ってしまった。
その真剣な眼差しに、何かと興味をそそるヒリス学部長。そして、事前に知らされていた“見苦しい場面”がこれから起こるのかと焦るヴィラン。
そんな2人をよそに、セレナは手を伸ばせば届く距離にまでようやくたどり着いた、ずっと胸に抱え込んでいたある疑問に、手を届かせることで精一杯のようだ。そしてセレナはいよいよ本題を切り出す。
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小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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