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姉と妹
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楽しい思い出とともに布団に入り、セレナにとって久しぶりの安眠だった。だが、その幸せは一瞬にして崩れ去るものとなる。
「おっはよう!セレナ!」
「んん!?」
元気な朝の一喝にたたき起こされるセレナ。目をこすり、周囲を見渡しても、部屋は就寝前の暗さが保たれたままだった。まさかとは思い、窓から外を眺めると、遠くの方で朝日の光がうっすらと見える程度。頭上はまだ暗闇で覆われている。
「おはよう、ミリア。こんな朝早くからどうしたの?」
「セレナは今日から、聖獣奏者の戦い方を教えてもらうんだよね?」
「うん、そうだけど」
「ってことはつまり、セレナも戦うんだし、それに向けて体力も必要ということだよ」
セレナの目が一気に覚める。
「確かにそうかもだけど、それじゃあ私がこんな朝早くに叩き起こされたのって・・・」
「今日から毎日、朝のジョギングだよ!」
「・・・まじで?」
するとミリアは、いつから用意していたのか、セレナのサイズぴったりのジャージを取り出し、着替えるよう促す。
呆然とするセレナだったが、ミリアのいうことに間違いはなく、断る理由も言い訳も思いつかなかったため、渋々そのジャージに着替え、ミリアとともに寮を出た。
「気持ちいいね!セレナ!」
まだ肌寒い風の中、笑顔で元気よく走るミリアの姿は、セレナの目にはこんな暗い時間帯でも輝いて見えた。
走る姿も様になっており、おそらくこの早朝ランニングはミリアの日課なのだとセレナは確信する。
「いつも1人で走ってるの?」
「そうだよ!」
まだ周囲は薄暗いというのに、ミリアのテンションは最高潮だ。その異様なほどのテンションの高さにセレナはある疑問を抱いた。
「なんか、凄い嬉しそうだね」
「うん!だって、ヴィランもサラも誘ったのに来てくれないんだもん。だから、セレナが一緒に走ってくれて嬉しいんだ」
「そっか・・・(どうしよう。明日からは断ろうかと思っていたけど、あの笑顔を前に、うまく断れる自信がない)」
ここにきてセレナの人柄が裏目に出てしまう。だが、ミリアからこうして必要とされていると実感することは、セレナにとって悪い気分じゃなかった。そんなミリアの声に応えようと、セレナの心に自然と活力が湧いてくる。とはいえ・・・。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「セレナ、大丈夫?」
「最初から最後まで全力疾走で、2キロも走るとは思わなかったよ」
「本当にごめんね、セレナ初めてだったのに」
これまで運動などほとんどしてこなかったセレナにとって、初日からミリアのテンションについていくのはさすがに無理があった。
2人は国内にある公園で、一休みをすることにした。ベンチで息を整えようとするセレナ。ミリアはセレナのためにと、自動販売機で買った水をセレナに持っていく。
「セレナ、これ・・・」
「あ、ありがとう。ミリア」
するとミリアは、申し訳ない表情でセレナに頭を下げる。
「ど、どうしたの?」
「昨日もそうだけど、あの・・・本当にごめんなさい。私、新しいお友達ができるって聞いて、嬉しくてつい。謝るから、その・・・嫌いにならないで?」
流石のミリアもセレナを振り回したことを反省しているのか、思わず涙ぐんでしまう。だが、どうやら涙の理由はそれだけではないようだ。それに気づいたセレナは、そんなミリアの頭を優しく撫でる。
「セレナ?」
「大丈夫だよ、ちゃんとわかってる。ずっと寂しかったんだよね、ミリアは。私もそうだったから」
ミリアは、セレナの言葉にはっと顔を上げる。
「だから嫌われたくないように頑張ってくれていたんだよね?私のために」
「セレナ・・・」
「だったら嫌ったりしないよ。確かに空回りはしたけど、全部私のためを思ってしてくれたことなんだもん。むしろ、ありがとう。これからも私の手、一杯引っ張っていってね」
セレナの優しさに充てられ、ミリアの両目に溜まった涙が一気にあふれ出す。同時に、その感情が高ぶったミリアは、思わずセレナに抱きついた。
「セレナーーー!!!」
それからしばらく、ミリアはセレナの胸の中で泣き続けた。その温かい涙は、セレナの優しさだけでなく、これまで我慢してきたものも一緒に流れ出したのかもしれないと、セレナは感じた。そしてセレナは黙って、ミリアの頭を優しく撫で続ける。
「(ミリアもきっと、聖獣奏者として生まれて辛いことがたくさんあったんだろうな。たくさん孤独と戦ってきて、私とはまた違う、つらい出来事がたくさんあったんだろうな)」
しばらくして、ようやくミリアの涙は止み、せっかくだからとセレナとミリアはいろんな話をした。
「ミリアはいつからこの学園に来たの?」
「1ヵ月前だよ。私が来た時、女の子が3人しかいなかったから私は1人部屋になっちゃったんだ。でも、ヴィランもサラもたくさん助けてくれたよ。いっぱい遊んでくれたし、戦い方も優しく教えてくれた。アイリクもミチルも、4人は大事なお友達。だけど・・・」
「(友達という間柄で終わってしまったというわけか。家族でない以上、踏み込める範囲は限られてるし、気安くわがままなんて言えない。ヴィランたちが孤独だったミリアの心をある程度は満たしてくれはしたが、ミリアが満足するまでには至らなかったということか。確かに常に全力のミリアからしたら、あの空間は少し物足りないだろうな)」
するとミリアが、何かを求めるような切実な表情でセレナを見つめてくる。
「でも、セレナは違った。あれだけ腕を引っ張っても怒らなかったし、歓迎会でも、その後の夜でも、疲れていたはずなのに私と一杯おしゃべりしてくれた。たくさん話を聞いてくれた。文句も言わず、ずっと優しくしてくれた」
「そんな、私なんて。特別なことは何も」
「私にとっては特別だったの!私が欲しかったものを全部持ってくれている。だから、1つだけお願い」
「お願い?」
これまで自己主張ばかりしてきたミリアが、断られることを恐れてか、言いにくそうにモジモジとしている。だがここで勇気を出す判断力は、さすがはミリアだった。
「私のお姉ちゃんになってほしい。家族として、これからもずっと一緒にいてほしい」
ミリアがセレナに求めたもの、それは“家族”だった。しかし、ミリアのそのお願いはセレナにとっては予想外なものだった。
「でも家族だったらイルッペが・・・」
「イルッペが家族?うーん、セレナにとってはそうかもだけど、私にとっては家族というより、いつも私を助けてくれる“友達”みたいなものかな」
それを聞いたセレナは、自身の軽率な発言を恥じた。
「(そっか。私にとってアイたち聖獣の皆は紛れもない私の家族だ。他の聖獣奏者の皆にとっても、聖獣は家族と同類とばかり思いこんでいた。でもそれはただの思い違いなのかもしれない。
私がアイたちを家族と思えたのは、アイたちが私と同じ言葉を話せるから?意思疎通が可能だから?だから、私は聖獣と家族になれたってこと?だったら、ミリアやヴィランたちと彼らの話せない聖獣たちとの間柄は?もしかしたら、ミリアたちからして聖獣という存在は、私たちとはまた別の意味の家族・・・いや、考え方によっては、家族とはまた別の存在かもしれない)」
そう考えると、ヴィランたちのいう特異という意味がようやく理解できた気がした。力だけじゃない。聖獣との間にあるものも含めて、セレナたちは特異なのだとセレナは感じた。
そういう意味では、ミリアは本当の意味で孤独だったのかもしれない。イルッペという聖獣の存在があっても、それはミリアの力となって助けてくれる存在であって、心を満たすものではなかった。だからこそ、ミリアは本当の家族を求めていたのかもしれない。
だが、ここで気になるのはミリアの実の両親についてだが、今はその時ではないと踏みとどまるセレナだった。
「・・・私なんかでいいの?」
「いい!セレナがいい!」
これまで自分を否定され続けられたセレナにとって、ミリアの願いを叶えるということは、自分を救うことに等しいものでもあった。セレナは少々照れ臭くなりながらも、ミリアと正面から向き直り、強く頷いた。
「私でよければ。よろしく、ミリア」
「うん!セ・・・お姉ちゃん!」
ミリアは再び、セレナに強く抱きついてくる。そのミリアがくれる温かさに、セレナも何かが満たされる思いがした。
「お姉ちゃんか・・・」
それから公園を後にしたセレナは、ミリアと手を繋ぎながら寮への帰路を歩いていた。
『新しい家族が増えてよかったのう』
「やっぱり起きてたんだ。いつから?」
『セレナが、ぜえぜえと息を切らしているところからよ』
「つまり最初からかい・・・」
ミリアが妹になったことで、1つの懸念点が生まれたのではないかと不安視するセレナ。そのことについて、セレナは聖獣たちに思い切って訪ねてみる。
「みんなは大丈夫?形だけとはいえ、新しい家族が増えちゃったことになるけど」
『何を問題視する必要がある?俺たちは、お前が幸せになることを願って、ずっと見守ってきたんだ。そんなお前の環境が、この学園に来てようやく変わりつつある。思っていたものと確かに違うが、それでも俺たちにとって嬉しいことには変わりねえよ』
『僕も、さすがに家族が増えることになるまで発展するとは思わなかったけど、セレナが幸せならそれで』
『それに、セレナが私たちを守ってくれて、私たちがセレナを守るっていう、家族としての関係性は、どうあっても変わることはないでしょ?』
「もちろん!」
セレナはほっと胸をなでおろす。そして、自分のことをここまで理解してくれている家族の存在に、セレナは初めて運命というものに感謝をした。
『それにしても、聖獣と聖獣奏者の関係にもいろんな形があるんだね』
「そうだね。私たちも自分たちが常識だと、無理矢理押し付けるのは考えた直した方がいいかもね」
『そうじゃな。それにしてもセレナ、ミリアと家族になったのはいいが、ミリアの実の家族について聞かなくてもよいのか?場合によっては、大ごとになるかもしれんぞ』
「うーん・・・まあ、その時が来たらその時だよ。もしかしたらミリアにとって辛いものかもしれないし、ミリアが話したくなるまで待ってあげることにするよ」
セレナはその時が来るまではと、ミリアが握る手を少しだけ強く握り返す。
寮へと帰ってきたセレナは、何やら慌てた様子のヴィランと遭遇。どうやら部屋から消えた2人を、探していたようだ。
消えた理由をセレナから聞くと、ヴィランは一安心。セレナが庇ったおかげもあって、ミリアにはお咎めなしだった。
それからセレナは寮の食堂にて、全員での朝食にありつく。
「初日から、セレナは災難だったな。朝からミリアのハイテンションは、結構きつかったろ?」
「否定はできないけど、おかげでいろいろ話せたし。ね?」
「うん!」
寮に帰ってから、ミリアはひと時もセレナの傍を離れようとしない。そんなミリアの変わりように全員が不思議がっていたが、朝のいきさつを聞いてさらに驚いていた。
「たった数時間で、姉と妹の関係になってくるとは、本当に驚きました」
「うん。びっくり」
その時、遠くの方から足音が近づいてくる。
「でも正直、ミリアの寂しそうな表情は、見ているこっちも辛いものがあったんだ。一度は私の部屋に誘ったけど断られてねぇ。そんなときにセレナが来てくれて本当によかったよ。セレナを相部屋にして正解だった」
遠くから片づけをしていたカナリアが話の輪の中に入り込んでくる。その目からはほっとしたような感情が読み取れる。
「すみません。私の力不足で」
謝るヴィランにミリアは慌てて制しようとする。
「ヴィランは何も悪くないよ。たくさん助けてもらったし、優しくしてくれて嬉しかったよ」
「そうだよ。誰かが悪いって話じゃない。人に安心や安らぎを与えるっていうのは、口で言うほど簡単なことじゃないからね。言葉じゃなく、その人が持つ雰囲気で安心できる空間を創り出すものだ。セレナには、特別にその空間を創り出せる才能があったっていうだけさね」
「・・・はい」
照れて顔を伏せるセレナだったが、そこに横やりを入れてくる人物がいた。
「まっ、ただ単に、人の心に土足で踏み込める馬鹿なだけの可能性もあるけどね」
「ミチルさん、またそんな言い方・・・」
「まぁ、それも否定できないから」
「お姉ちゃんは、馬鹿じゃないもん!」
こうして朝の食卓は笑いに包まれた。セレナにとって、こういう賑やかな食卓を囲むのはいつぶりだろうかと考えさせられる。
それから少しして、セレナたちは中庭へと向かう。その最中、ヴィランがこの寮の構造を簡単に説明してくれた。
「正面にある本館にはお風呂場や食堂、談話室など学生同士の交流の場となっています。そして本館を出て右側にある棟が女子寮。左側の棟が男子寮となっているのです。最初は女子寮と男子寮は別々の場所に造られるはずだったんですが、将来的に人数がどうなるかわからないということでこういう形になりました。そして、今から私たちが向かっているのが3つの建物に囲まれた空間を利用してつくられた中庭です。主な戦闘訓練はそこで行われています」
そして中庭に到着したセレナたち。ここからようやく、セレナの聖獣奏者としての一歩を踏み出すことになる。
「昨日も言いましたが、現在学園は長期休暇期間。この期間を利用して、セレナさんには、聖獣奏者の戦い方を身に付けてもらいます」
いよいよ始まるのだと、セレナの胸も大きく高鳴り始める。
「まずは、戦闘における基礎知識からですね」
「おっはよう!セレナ!」
「んん!?」
元気な朝の一喝にたたき起こされるセレナ。目をこすり、周囲を見渡しても、部屋は就寝前の暗さが保たれたままだった。まさかとは思い、窓から外を眺めると、遠くの方で朝日の光がうっすらと見える程度。頭上はまだ暗闇で覆われている。
「おはよう、ミリア。こんな朝早くからどうしたの?」
「セレナは今日から、聖獣奏者の戦い方を教えてもらうんだよね?」
「うん、そうだけど」
「ってことはつまり、セレナも戦うんだし、それに向けて体力も必要ということだよ」
セレナの目が一気に覚める。
「確かにそうかもだけど、それじゃあ私がこんな朝早くに叩き起こされたのって・・・」
「今日から毎日、朝のジョギングだよ!」
「・・・まじで?」
するとミリアは、いつから用意していたのか、セレナのサイズぴったりのジャージを取り出し、着替えるよう促す。
呆然とするセレナだったが、ミリアのいうことに間違いはなく、断る理由も言い訳も思いつかなかったため、渋々そのジャージに着替え、ミリアとともに寮を出た。
「気持ちいいね!セレナ!」
まだ肌寒い風の中、笑顔で元気よく走るミリアの姿は、セレナの目にはこんな暗い時間帯でも輝いて見えた。
走る姿も様になっており、おそらくこの早朝ランニングはミリアの日課なのだとセレナは確信する。
「いつも1人で走ってるの?」
「そうだよ!」
まだ周囲は薄暗いというのに、ミリアのテンションは最高潮だ。その異様なほどのテンションの高さにセレナはある疑問を抱いた。
「なんか、凄い嬉しそうだね」
「うん!だって、ヴィランもサラも誘ったのに来てくれないんだもん。だから、セレナが一緒に走ってくれて嬉しいんだ」
「そっか・・・(どうしよう。明日からは断ろうかと思っていたけど、あの笑顔を前に、うまく断れる自信がない)」
ここにきてセレナの人柄が裏目に出てしまう。だが、ミリアからこうして必要とされていると実感することは、セレナにとって悪い気分じゃなかった。そんなミリアの声に応えようと、セレナの心に自然と活力が湧いてくる。とはいえ・・・。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「セレナ、大丈夫?」
「最初から最後まで全力疾走で、2キロも走るとは思わなかったよ」
「本当にごめんね、セレナ初めてだったのに」
これまで運動などほとんどしてこなかったセレナにとって、初日からミリアのテンションについていくのはさすがに無理があった。
2人は国内にある公園で、一休みをすることにした。ベンチで息を整えようとするセレナ。ミリアはセレナのためにと、自動販売機で買った水をセレナに持っていく。
「セレナ、これ・・・」
「あ、ありがとう。ミリア」
するとミリアは、申し訳ない表情でセレナに頭を下げる。
「ど、どうしたの?」
「昨日もそうだけど、あの・・・本当にごめんなさい。私、新しいお友達ができるって聞いて、嬉しくてつい。謝るから、その・・・嫌いにならないで?」
流石のミリアもセレナを振り回したことを反省しているのか、思わず涙ぐんでしまう。だが、どうやら涙の理由はそれだけではないようだ。それに気づいたセレナは、そんなミリアの頭を優しく撫でる。
「セレナ?」
「大丈夫だよ、ちゃんとわかってる。ずっと寂しかったんだよね、ミリアは。私もそうだったから」
ミリアは、セレナの言葉にはっと顔を上げる。
「だから嫌われたくないように頑張ってくれていたんだよね?私のために」
「セレナ・・・」
「だったら嫌ったりしないよ。確かに空回りはしたけど、全部私のためを思ってしてくれたことなんだもん。むしろ、ありがとう。これからも私の手、一杯引っ張っていってね」
セレナの優しさに充てられ、ミリアの両目に溜まった涙が一気にあふれ出す。同時に、その感情が高ぶったミリアは、思わずセレナに抱きついた。
「セレナーーー!!!」
それからしばらく、ミリアはセレナの胸の中で泣き続けた。その温かい涙は、セレナの優しさだけでなく、これまで我慢してきたものも一緒に流れ出したのかもしれないと、セレナは感じた。そしてセレナは黙って、ミリアの頭を優しく撫で続ける。
「(ミリアもきっと、聖獣奏者として生まれて辛いことがたくさんあったんだろうな。たくさん孤独と戦ってきて、私とはまた違う、つらい出来事がたくさんあったんだろうな)」
しばらくして、ようやくミリアの涙は止み、せっかくだからとセレナとミリアはいろんな話をした。
「ミリアはいつからこの学園に来たの?」
「1ヵ月前だよ。私が来た時、女の子が3人しかいなかったから私は1人部屋になっちゃったんだ。でも、ヴィランもサラもたくさん助けてくれたよ。いっぱい遊んでくれたし、戦い方も優しく教えてくれた。アイリクもミチルも、4人は大事なお友達。だけど・・・」
「(友達という間柄で終わってしまったというわけか。家族でない以上、踏み込める範囲は限られてるし、気安くわがままなんて言えない。ヴィランたちが孤独だったミリアの心をある程度は満たしてくれはしたが、ミリアが満足するまでには至らなかったということか。確かに常に全力のミリアからしたら、あの空間は少し物足りないだろうな)」
するとミリアが、何かを求めるような切実な表情でセレナを見つめてくる。
「でも、セレナは違った。あれだけ腕を引っ張っても怒らなかったし、歓迎会でも、その後の夜でも、疲れていたはずなのに私と一杯おしゃべりしてくれた。たくさん話を聞いてくれた。文句も言わず、ずっと優しくしてくれた」
「そんな、私なんて。特別なことは何も」
「私にとっては特別だったの!私が欲しかったものを全部持ってくれている。だから、1つだけお願い」
「お願い?」
これまで自己主張ばかりしてきたミリアが、断られることを恐れてか、言いにくそうにモジモジとしている。だがここで勇気を出す判断力は、さすがはミリアだった。
「私のお姉ちゃんになってほしい。家族として、これからもずっと一緒にいてほしい」
ミリアがセレナに求めたもの、それは“家族”だった。しかし、ミリアのそのお願いはセレナにとっては予想外なものだった。
「でも家族だったらイルッペが・・・」
「イルッペが家族?うーん、セレナにとってはそうかもだけど、私にとっては家族というより、いつも私を助けてくれる“友達”みたいなものかな」
それを聞いたセレナは、自身の軽率な発言を恥じた。
「(そっか。私にとってアイたち聖獣の皆は紛れもない私の家族だ。他の聖獣奏者の皆にとっても、聖獣は家族と同類とばかり思いこんでいた。でもそれはただの思い違いなのかもしれない。
私がアイたちを家族と思えたのは、アイたちが私と同じ言葉を話せるから?意思疎通が可能だから?だから、私は聖獣と家族になれたってこと?だったら、ミリアやヴィランたちと彼らの話せない聖獣たちとの間柄は?もしかしたら、ミリアたちからして聖獣という存在は、私たちとはまた別の意味の家族・・・いや、考え方によっては、家族とはまた別の存在かもしれない)」
そう考えると、ヴィランたちのいう特異という意味がようやく理解できた気がした。力だけじゃない。聖獣との間にあるものも含めて、セレナたちは特異なのだとセレナは感じた。
そういう意味では、ミリアは本当の意味で孤独だったのかもしれない。イルッペという聖獣の存在があっても、それはミリアの力となって助けてくれる存在であって、心を満たすものではなかった。だからこそ、ミリアは本当の家族を求めていたのかもしれない。
だが、ここで気になるのはミリアの実の両親についてだが、今はその時ではないと踏みとどまるセレナだった。
「・・・私なんかでいいの?」
「いい!セレナがいい!」
これまで自分を否定され続けられたセレナにとって、ミリアの願いを叶えるということは、自分を救うことに等しいものでもあった。セレナは少々照れ臭くなりながらも、ミリアと正面から向き直り、強く頷いた。
「私でよければ。よろしく、ミリア」
「うん!セ・・・お姉ちゃん!」
ミリアは再び、セレナに強く抱きついてくる。そのミリアがくれる温かさに、セレナも何かが満たされる思いがした。
「お姉ちゃんか・・・」
それから公園を後にしたセレナは、ミリアと手を繋ぎながら寮への帰路を歩いていた。
『新しい家族が増えてよかったのう』
「やっぱり起きてたんだ。いつから?」
『セレナが、ぜえぜえと息を切らしているところからよ』
「つまり最初からかい・・・」
ミリアが妹になったことで、1つの懸念点が生まれたのではないかと不安視するセレナ。そのことについて、セレナは聖獣たちに思い切って訪ねてみる。
「みんなは大丈夫?形だけとはいえ、新しい家族が増えちゃったことになるけど」
『何を問題視する必要がある?俺たちは、お前が幸せになることを願って、ずっと見守ってきたんだ。そんなお前の環境が、この学園に来てようやく変わりつつある。思っていたものと確かに違うが、それでも俺たちにとって嬉しいことには変わりねえよ』
『僕も、さすがに家族が増えることになるまで発展するとは思わなかったけど、セレナが幸せならそれで』
『それに、セレナが私たちを守ってくれて、私たちがセレナを守るっていう、家族としての関係性は、どうあっても変わることはないでしょ?』
「もちろん!」
セレナはほっと胸をなでおろす。そして、自分のことをここまで理解してくれている家族の存在に、セレナは初めて運命というものに感謝をした。
『それにしても、聖獣と聖獣奏者の関係にもいろんな形があるんだね』
「そうだね。私たちも自分たちが常識だと、無理矢理押し付けるのは考えた直した方がいいかもね」
『そうじゃな。それにしてもセレナ、ミリアと家族になったのはいいが、ミリアの実の家族について聞かなくてもよいのか?場合によっては、大ごとになるかもしれんぞ』
「うーん・・・まあ、その時が来たらその時だよ。もしかしたらミリアにとって辛いものかもしれないし、ミリアが話したくなるまで待ってあげることにするよ」
セレナはその時が来るまではと、ミリアが握る手を少しだけ強く握り返す。
寮へと帰ってきたセレナは、何やら慌てた様子のヴィランと遭遇。どうやら部屋から消えた2人を、探していたようだ。
消えた理由をセレナから聞くと、ヴィランは一安心。セレナが庇ったおかげもあって、ミリアにはお咎めなしだった。
それからセレナは寮の食堂にて、全員での朝食にありつく。
「初日から、セレナは災難だったな。朝からミリアのハイテンションは、結構きつかったろ?」
「否定はできないけど、おかげでいろいろ話せたし。ね?」
「うん!」
寮に帰ってから、ミリアはひと時もセレナの傍を離れようとしない。そんなミリアの変わりように全員が不思議がっていたが、朝のいきさつを聞いてさらに驚いていた。
「たった数時間で、姉と妹の関係になってくるとは、本当に驚きました」
「うん。びっくり」
その時、遠くの方から足音が近づいてくる。
「でも正直、ミリアの寂しそうな表情は、見ているこっちも辛いものがあったんだ。一度は私の部屋に誘ったけど断られてねぇ。そんなときにセレナが来てくれて本当によかったよ。セレナを相部屋にして正解だった」
遠くから片づけをしていたカナリアが話の輪の中に入り込んでくる。その目からはほっとしたような感情が読み取れる。
「すみません。私の力不足で」
謝るヴィランにミリアは慌てて制しようとする。
「ヴィランは何も悪くないよ。たくさん助けてもらったし、優しくしてくれて嬉しかったよ」
「そうだよ。誰かが悪いって話じゃない。人に安心や安らぎを与えるっていうのは、口で言うほど簡単なことじゃないからね。言葉じゃなく、その人が持つ雰囲気で安心できる空間を創り出すものだ。セレナには、特別にその空間を創り出せる才能があったっていうだけさね」
「・・・はい」
照れて顔を伏せるセレナだったが、そこに横やりを入れてくる人物がいた。
「まっ、ただ単に、人の心に土足で踏み込める馬鹿なだけの可能性もあるけどね」
「ミチルさん、またそんな言い方・・・」
「まぁ、それも否定できないから」
「お姉ちゃんは、馬鹿じゃないもん!」
こうして朝の食卓は笑いに包まれた。セレナにとって、こういう賑やかな食卓を囲むのはいつぶりだろうかと考えさせられる。
それから少しして、セレナたちは中庭へと向かう。その最中、ヴィランがこの寮の構造を簡単に説明してくれた。
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そして中庭に到着したセレナたち。ここからようやく、セレナの聖獣奏者としての一歩を踏み出すことになる。
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