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忍び込んだ手
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訪れた町に潜む影を引きずり出すため、町のシンボルとなった教会を訪れたアネモイたち。そこで出会ったのが、神父を名乗るグールスと聖女らしき衣装を身に付ける少女だった。
「お騒がせしてすみませんでした」
「いえいえ。改めまして、ようこそスプリブルク王国へ。私はこの植民地の教会で聖女をやらせていただいていますリアと申します」
「初めまして、私はフィルス。で、こっちがアネモイ。縁あって2人で旅をして、その道中で立ち寄らせてもらいました」
「旅のお方でしたか。主に農作物を育てる土地で何もありませんが、どうぞゆっくりしていってください」
「ありがとう」
互いに笑顔で挨拶を交わす、フィルスとリア。フィルスはアネモイの指示通り、この教会について探りを入れようとする。
「この教会って、どうして建てられたんですか?」
「数年前、独立国家だったこの土地は、スプリブルク王国によって植民地となりました。ところがその後、ここにおられるグールスの神術により、近い将来この地は流行の病に侵されると予言が出たのです」
リアはまるで、物語を読むかのような雰囲気でこの教会について語りだした。
「自国の植民地が流行の病に侵されることを危惧された本国は、神の声を聴くことができる神術を扱う私とグールスをこの地へ派遣。神の力を借りながら、植民地に住む領民を流行の病から守ることができたのです」
「神の声を聴くだけじゃなく、実際に神の力も使うことができるんだ」
「え、ええ・・・もちろん全てではないのですが、この地を脅かす病を撃退する術を頂くことができました。やがて領民の皆様は私の力を信じてくださり、ここに神との交渉をするにふさわしい施設を建ててくださったのです」
「すごい!みんな喜んでくれたんだね!」
「ええ・・・」
語りを終えたリアの表情はなぜかひきつっているような感じがする。アネモイはそれを見逃さなかった。
だがそれ以前に、アネモイは彼女が語る物語の中に、どうしてもはっきりさせておきたいことがあった。
「ちなみに、その交渉をしたという神の名前は何だ?」
「えっとー・・・確か、“リーパー”と名乗っておられたかと」
「リーパーね・・・」
アネモイは祭壇に飾られた神の絵らしきものに目を移すと、そこには大鎌を携えた神が大きく描かれていた。
「そういうことか・・・」
するとここで神父を名乗るグールスがアネモイたちにある提案を申し出てきた。
「そうだ!旅のお方であるなら、ぜひここで神の恩恵を授かったらいかがですか?」
「恩恵って?」
「神がくださるお守りのようなものです。リアの神術を介して、神の力をその身に受けることで、この先に訪れるであろう様々な厄災からその身を守ってくださいますでしょう」
「それはこの町の住民も授かっているものなのか?」
「もちろん。この地に住む者は全員。それにあなた方のような旅のお方にも、この町に立ち寄った記念にとお送りしているのです」
「神の恩恵を記念とは・・・」
アネモイは少し苛立ちを見せる。
「これは失礼。確かに軽率な発言でしたね。ですが効果は本物。その証拠に、この地に住む者たちは、病に怯えることなく過ごせているのですから」
するとリアが、少し緊張した様子でフィルスに近づいていく。
「よかったらぜひ、やっていきませんか?そんなに時間は取りませんので。懐に余裕があればですが」
「お金取るんだ?まあ、当然といえば、当然か」
「すみません・・・」
「でもせっかくだし、やってもらおうかな?」
「は、はい!」
「おいおい・・・」
アネモイは他人を疑うことを知らないフィルスの2つ返事に思わず頭を抱え込む。だがある意味で好機でもあった。この町に潜む影の手がかりを、これをきっかけに掴めるかもしれない。
「(仕方がない。もしお前の身に何か起きたら、その時は神の力でもって必ずお前を守ってやる。神の力を用いたお仕置きも交えてな)」
リアは祭壇の前にフィルスを連れてゆき、フィルスに祈りの姿勢を取らせる。そして、リアはフィルスの頭に優しく手を置いた。
「神よ。神からの恩恵をこの者にも・・・」
するとリアのフィルスの頭に置いた手が輝き始め、すぐにその輝きはフィルスの全身を包み込む。
「すごい・・・なんかポカポカする!」
気持ちよさそうに光を浴びるフィルス。
一方、それを間近で見ていたアネモイは、いくら神術とはいえ、人間が放つとは思えないその輝きの強さに、さすがの神も驚きを隠せない。
「(やはり、この少女の持つ神術は、他の人間とは桁違いだ。才能を超えた才能というものなのか。それにしても・・・)」
アネモイはあることが気になってしょうがない。
「(それにしても、なんと悲しい表情で術をかけている。心に疚しい気持ちがなければ、あの顔は自然にはできるはずがない。一体彼女は何をやっている?)」
ふとフィルスたちから視線を逸らした、その瞬間だった。
「神父がいない!?どこに行った!?」
いつの間にか姿を消していた神父をアネモイは懸命に探すも、どこにも見当たらない。
すると、リアの手から放たれていた光の輝きが消失を始める。
「ふう、終わりました。これであなたのこれからの旅に、神の祝福が訪れるでしょう」
「そう?ありがとう!」
とりあえずいつもと変わらないフィルスの雰囲気に、アネモイはほっと胸をなでおろす。
「さて、次はあなたの番ですね」
「いや、私はいい」
「え?」
すると上の方から、ある男の声が教会内に響き渡る。
「いやいやいや。これからの旅を無事に行う上で、これは貴重な体験ですぞ!ぜひやっていかれた方が・・・」
アネモイが声のする方に目を向けると、2階の教会内を見渡せる場所に神父がいた。
「ほう。どこに行ったかと思えばそんなところにいたのか。そこで何をしている?」
「いえ、私のことより、あなたのことですぞ。神の恩恵はあなた様のこれからの人生を守ってくださる貴重なもの。受けておいても損はないかと」
「ずいぶん必死ではないか?お前は予言の神術を使うそうだが、私の未来によほど不穏な出来事が待ち構えていると予言にでも出たか?」
「そ、それは・・・」
「それとも脅しか?この恩恵を受けなければ、私に不幸が待ち構えていると。お前たちの信じる神様とやらも、ずいぶん姑息な小遣い稼ぎをするものだな」
これ以上の催促は無駄だと感じた神父は、諦めたかのようにアネモイに頭を下げた。
「そうですね。教会ともあろうものが、無理強いは良くありませんでした。神の恩恵を授からずとも、あなた様に神のご加護があらんことを」
「ふん。もっともらしいことを言いおって」
アネモイは教会の出入り口の方向に体を向ける。
「帰るぞ、フィルス」
「う、うん!」
複雑な表情をしながら出口へと向かうアネモイ。フィルスはアネモイの背中を追おうとしたが、一度立ち止まり、リアの方へと向かった。
「フィルスさん?」
「また来るから。その時は聖女じゃなくて、友達としてお話ししようね」
「は、はい!お待ちしています」
リアの表情がわずかに明るくなった。
そしてフィルスは教会を後にする。
「(私にあんな顔を見せてくれる方はいつ以来でしょうか。お友達か。できれば私もあなたとそういう関係になりたい)」
だが次の瞬間、リアは寂しそうな表情で涙を流し始める。
「(でもおそらく、それは叶わない願い。あなた方は間違いなく、近いうちに別の形でこの教会を訪れる。そこで見るであろう変わり果てた姿に、私は耐えることができるのでしょうか?)」
一方、2階からアネモイたちを見送ったグールスは、アネモイに対し、警戒心を植え付けられたようだ。
「なんなのだ、あの男は?奴から放たれる威厳、只者ではない。何かに感づいておるようだし、ここは早急に手を打たなくては」
宿へと戻る道中。フィルスはアネモイにこれからのことを訪ねていた。
「それで、これからどうする?」
「とりあえず今日はここまでだ。次の作戦は、また日が昇ってから決めるすることにしよう」
「わかった」
アネモイは、とにかくグールスのことが気になって仕方がない様子。
「(完全にあの男から目を付けられたな。こちらが何かを探っていると勘付かれたようだし。だがそれならそれで好都合だ。何をせずとも、あちらの方から仕掛けてくるに違いない。人間ごときが神にどのような罰を下そうというのか、楽しみに待つとしよう)」
そしてアネモイたちは宿に到着し、何事もなかったように一晩を過ごした。
翌日、アネモイたちは宿で朝食を済ませると、いったんそれぞれの部屋に戻る。
アネモイは窓を開け、この町を見下ろしながら何やらぶつぶつと呟いている。
「恩恵とやらをフィルスに施す際の、リアという少女の悲しげな表情。あの教会がこの町に、何かをやっていることはほぼ間違いない。あの少女も恐らく利用される側だ」
だとすればと、アネモイはグールスの方に目を向ける。
「突如流行した病と、それを見計らったかのように国から派遣されたあの2人。とても無関係とは思えん。それにこの町における住民の、あの教会に対する信仰心も異常を感じるほどだ。もしや・・・」
するとその時、アネモイの部屋のドアがコンコンと音を立てる。
「アネモイ、入ってもいい?」
「いいぞ」
アネモイはフィルスを2つ返事で中に向かい入れた。
「宿の人から、紅茶の葉をもらって、試しに淹れてみたんだ。よかったらどう?」
「ずいぶん珍しいことをするじゃないか。かつていた独立国家で、お前がそういうことする姿、見たことがないが」
「それはアネモイが私に興味がなかっただけでしょ!」
アネモイは確かにと笑いながら席に着く。そしてフィルスが慣れた手つきで、紅茶を淹れ始める。
長い付き合いの中、初めて見るフィルスの意外な一面に、アネモイは感心するとともにこれまでの自分の行いを反省するのであった。
フィルスがアネモイの目の前に紅茶を差し出す。するとすぐにアネモイはある異変に気付いた。
「(これは・・・)」
アネモイは不敵な笑みを浮かべながら紅茶を一気に飲み干した。するとフィルスがそれを見計らってか、意外なことを口にする。
「ねえ、アネモイ。私、この植民地の住民になろうと思うんだ」
フィルスの一言に一瞬の戸惑いを見せるも、アネモイは平静を装い、紅茶が入っていたカップを静かに机に戻す。
「私とともに、世界を創り変えるのではなかったのか?」
「そのことについては申し訳ないと思っている。でもこの町の様子を見て、これが私にとって理想的な姿と思えて仕方がないの。みんなが笑顔で、それでいて笑い声が絶えない町。私はここにいたいと思った」
「・・・」
アネモイは黙ってフィルスの言葉に耳を貸していた。
「それに私は、あのリア・・・ううん、聖女様を応援したい。今ならこの町の人たちがどんな思いで、あの立派な教会を建てたかが分かる。私もあの方が民を大事に思うこの町で、あの方の力になってあげたいの。だから・・・」
「だからその聖女様とやらの恩恵を突っぱねた私を、この町における危険因子と判断し、こうして毒入りの紅茶で毒殺しようとしたわけか」
「!?」
フィルスは勢いよく椅子から立ち上がり、アネモイと距離を取る。
「なかなかに面白い体験であった。毒というものは初めて口にしたが、紅茶にピリリとしたスパイスが合わさったようで意外に美味かったぞ」
アネモイは笑みをこぼしながらフィルスに語り掛けるも、フィルスにとっては恐怖でしかなかった。
「しかし残念だったな。神である私が毒ごときで殺せるわけがなかろう。普段のお前なら考えられない浅はかさだ」
フィルスはその場から逃げようと、部屋のドアに向けて駆け出した。
だがアネモイは当然逃がすわけもなく、神の力を用いてフィルスを壁に貼り付けた。
「ぐっ・・・ア、アネモイ・・・」
壁に押し付けられ、苦しむフィルスを、アネモイは鋭い目で睨みつける。
「お騒がせしてすみませんでした」
「いえいえ。改めまして、ようこそスプリブルク王国へ。私はこの植民地の教会で聖女をやらせていただいていますリアと申します」
「初めまして、私はフィルス。で、こっちがアネモイ。縁あって2人で旅をして、その道中で立ち寄らせてもらいました」
「旅のお方でしたか。主に農作物を育てる土地で何もありませんが、どうぞゆっくりしていってください」
「ありがとう」
互いに笑顔で挨拶を交わす、フィルスとリア。フィルスはアネモイの指示通り、この教会について探りを入れようとする。
「この教会って、どうして建てられたんですか?」
「数年前、独立国家だったこの土地は、スプリブルク王国によって植民地となりました。ところがその後、ここにおられるグールスの神術により、近い将来この地は流行の病に侵されると予言が出たのです」
リアはまるで、物語を読むかのような雰囲気でこの教会について語りだした。
「自国の植民地が流行の病に侵されることを危惧された本国は、神の声を聴くことができる神術を扱う私とグールスをこの地へ派遣。神の力を借りながら、植民地に住む領民を流行の病から守ることができたのです」
「神の声を聴くだけじゃなく、実際に神の力も使うことができるんだ」
「え、ええ・・・もちろん全てではないのですが、この地を脅かす病を撃退する術を頂くことができました。やがて領民の皆様は私の力を信じてくださり、ここに神との交渉をするにふさわしい施設を建ててくださったのです」
「すごい!みんな喜んでくれたんだね!」
「ええ・・・」
語りを終えたリアの表情はなぜかひきつっているような感じがする。アネモイはそれを見逃さなかった。
だがそれ以前に、アネモイは彼女が語る物語の中に、どうしてもはっきりさせておきたいことがあった。
「ちなみに、その交渉をしたという神の名前は何だ?」
「えっとー・・・確か、“リーパー”と名乗っておられたかと」
「リーパーね・・・」
アネモイは祭壇に飾られた神の絵らしきものに目を移すと、そこには大鎌を携えた神が大きく描かれていた。
「そういうことか・・・」
するとここで神父を名乗るグールスがアネモイたちにある提案を申し出てきた。
「そうだ!旅のお方であるなら、ぜひここで神の恩恵を授かったらいかがですか?」
「恩恵って?」
「神がくださるお守りのようなものです。リアの神術を介して、神の力をその身に受けることで、この先に訪れるであろう様々な厄災からその身を守ってくださいますでしょう」
「それはこの町の住民も授かっているものなのか?」
「もちろん。この地に住む者は全員。それにあなた方のような旅のお方にも、この町に立ち寄った記念にとお送りしているのです」
「神の恩恵を記念とは・・・」
アネモイは少し苛立ちを見せる。
「これは失礼。確かに軽率な発言でしたね。ですが効果は本物。その証拠に、この地に住む者たちは、病に怯えることなく過ごせているのですから」
するとリアが、少し緊張した様子でフィルスに近づいていく。
「よかったらぜひ、やっていきませんか?そんなに時間は取りませんので。懐に余裕があればですが」
「お金取るんだ?まあ、当然といえば、当然か」
「すみません・・・」
「でもせっかくだし、やってもらおうかな?」
「は、はい!」
「おいおい・・・」
アネモイは他人を疑うことを知らないフィルスの2つ返事に思わず頭を抱え込む。だがある意味で好機でもあった。この町に潜む影の手がかりを、これをきっかけに掴めるかもしれない。
「(仕方がない。もしお前の身に何か起きたら、その時は神の力でもって必ずお前を守ってやる。神の力を用いたお仕置きも交えてな)」
リアは祭壇の前にフィルスを連れてゆき、フィルスに祈りの姿勢を取らせる。そして、リアはフィルスの頭に優しく手を置いた。
「神よ。神からの恩恵をこの者にも・・・」
するとリアのフィルスの頭に置いた手が輝き始め、すぐにその輝きはフィルスの全身を包み込む。
「すごい・・・なんかポカポカする!」
気持ちよさそうに光を浴びるフィルス。
一方、それを間近で見ていたアネモイは、いくら神術とはいえ、人間が放つとは思えないその輝きの強さに、さすがの神も驚きを隠せない。
「(やはり、この少女の持つ神術は、他の人間とは桁違いだ。才能を超えた才能というものなのか。それにしても・・・)」
アネモイはあることが気になってしょうがない。
「(それにしても、なんと悲しい表情で術をかけている。心に疚しい気持ちがなければ、あの顔は自然にはできるはずがない。一体彼女は何をやっている?)」
ふとフィルスたちから視線を逸らした、その瞬間だった。
「神父がいない!?どこに行った!?」
いつの間にか姿を消していた神父をアネモイは懸命に探すも、どこにも見当たらない。
すると、リアの手から放たれていた光の輝きが消失を始める。
「ふう、終わりました。これであなたのこれからの旅に、神の祝福が訪れるでしょう」
「そう?ありがとう!」
とりあえずいつもと変わらないフィルスの雰囲気に、アネモイはほっと胸をなでおろす。
「さて、次はあなたの番ですね」
「いや、私はいい」
「え?」
すると上の方から、ある男の声が教会内に響き渡る。
「いやいやいや。これからの旅を無事に行う上で、これは貴重な体験ですぞ!ぜひやっていかれた方が・・・」
アネモイが声のする方に目を向けると、2階の教会内を見渡せる場所に神父がいた。
「ほう。どこに行ったかと思えばそんなところにいたのか。そこで何をしている?」
「いえ、私のことより、あなたのことですぞ。神の恩恵はあなた様のこれからの人生を守ってくださる貴重なもの。受けておいても損はないかと」
「ずいぶん必死ではないか?お前は予言の神術を使うそうだが、私の未来によほど不穏な出来事が待ち構えていると予言にでも出たか?」
「そ、それは・・・」
「それとも脅しか?この恩恵を受けなければ、私に不幸が待ち構えていると。お前たちの信じる神様とやらも、ずいぶん姑息な小遣い稼ぎをするものだな」
これ以上の催促は無駄だと感じた神父は、諦めたかのようにアネモイに頭を下げた。
「そうですね。教会ともあろうものが、無理強いは良くありませんでした。神の恩恵を授からずとも、あなた様に神のご加護があらんことを」
「ふん。もっともらしいことを言いおって」
アネモイは教会の出入り口の方向に体を向ける。
「帰るぞ、フィルス」
「う、うん!」
複雑な表情をしながら出口へと向かうアネモイ。フィルスはアネモイの背中を追おうとしたが、一度立ち止まり、リアの方へと向かった。
「フィルスさん?」
「また来るから。その時は聖女じゃなくて、友達としてお話ししようね」
「は、はい!お待ちしています」
リアの表情がわずかに明るくなった。
そしてフィルスは教会を後にする。
「(私にあんな顔を見せてくれる方はいつ以来でしょうか。お友達か。できれば私もあなたとそういう関係になりたい)」
だが次の瞬間、リアは寂しそうな表情で涙を流し始める。
「(でもおそらく、それは叶わない願い。あなた方は間違いなく、近いうちに別の形でこの教会を訪れる。そこで見るであろう変わり果てた姿に、私は耐えることができるのでしょうか?)」
一方、2階からアネモイたちを見送ったグールスは、アネモイに対し、警戒心を植え付けられたようだ。
「なんなのだ、あの男は?奴から放たれる威厳、只者ではない。何かに感づいておるようだし、ここは早急に手を打たなくては」
宿へと戻る道中。フィルスはアネモイにこれからのことを訪ねていた。
「それで、これからどうする?」
「とりあえず今日はここまでだ。次の作戦は、また日が昇ってから決めるすることにしよう」
「わかった」
アネモイは、とにかくグールスのことが気になって仕方がない様子。
「(完全にあの男から目を付けられたな。こちらが何かを探っていると勘付かれたようだし。だがそれならそれで好都合だ。何をせずとも、あちらの方から仕掛けてくるに違いない。人間ごときが神にどのような罰を下そうというのか、楽しみに待つとしよう)」
そしてアネモイたちは宿に到着し、何事もなかったように一晩を過ごした。
翌日、アネモイたちは宿で朝食を済ませると、いったんそれぞれの部屋に戻る。
アネモイは窓を開け、この町を見下ろしながら何やらぶつぶつと呟いている。
「恩恵とやらをフィルスに施す際の、リアという少女の悲しげな表情。あの教会がこの町に、何かをやっていることはほぼ間違いない。あの少女も恐らく利用される側だ」
だとすればと、アネモイはグールスの方に目を向ける。
「突如流行した病と、それを見計らったかのように国から派遣されたあの2人。とても無関係とは思えん。それにこの町における住民の、あの教会に対する信仰心も異常を感じるほどだ。もしや・・・」
するとその時、アネモイの部屋のドアがコンコンと音を立てる。
「アネモイ、入ってもいい?」
「いいぞ」
アネモイはフィルスを2つ返事で中に向かい入れた。
「宿の人から、紅茶の葉をもらって、試しに淹れてみたんだ。よかったらどう?」
「ずいぶん珍しいことをするじゃないか。かつていた独立国家で、お前がそういうことする姿、見たことがないが」
「それはアネモイが私に興味がなかっただけでしょ!」
アネモイは確かにと笑いながら席に着く。そしてフィルスが慣れた手つきで、紅茶を淹れ始める。
長い付き合いの中、初めて見るフィルスの意外な一面に、アネモイは感心するとともにこれまでの自分の行いを反省するのであった。
フィルスがアネモイの目の前に紅茶を差し出す。するとすぐにアネモイはある異変に気付いた。
「(これは・・・)」
アネモイは不敵な笑みを浮かべながら紅茶を一気に飲み干した。するとフィルスがそれを見計らってか、意外なことを口にする。
「ねえ、アネモイ。私、この植民地の住民になろうと思うんだ」
フィルスの一言に一瞬の戸惑いを見せるも、アネモイは平静を装い、紅茶が入っていたカップを静かに机に戻す。
「私とともに、世界を創り変えるのではなかったのか?」
「そのことについては申し訳ないと思っている。でもこの町の様子を見て、これが私にとって理想的な姿と思えて仕方がないの。みんなが笑顔で、それでいて笑い声が絶えない町。私はここにいたいと思った」
「・・・」
アネモイは黙ってフィルスの言葉に耳を貸していた。
「それに私は、あのリア・・・ううん、聖女様を応援したい。今ならこの町の人たちがどんな思いで、あの立派な教会を建てたかが分かる。私もあの方が民を大事に思うこの町で、あの方の力になってあげたいの。だから・・・」
「だからその聖女様とやらの恩恵を突っぱねた私を、この町における危険因子と判断し、こうして毒入りの紅茶で毒殺しようとしたわけか」
「!?」
フィルスは勢いよく椅子から立ち上がり、アネモイと距離を取る。
「なかなかに面白い体験であった。毒というものは初めて口にしたが、紅茶にピリリとしたスパイスが合わさったようで意外に美味かったぞ」
アネモイは笑みをこぼしながらフィルスに語り掛けるも、フィルスにとっては恐怖でしかなかった。
「しかし残念だったな。神である私が毒ごときで殺せるわけがなかろう。普段のお前なら考えられない浅はかさだ」
フィルスはその場から逃げようと、部屋のドアに向けて駆け出した。
だがアネモイは当然逃がすわけもなく、神の力を用いてフィルスを壁に貼り付けた。
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