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婚約者は幼馴染と登校
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「……来ないですね」
私は、学園の正門の横にある大きな時計を見上げました。針はもうすぐ朝の予鈴(授業の前のチャイム)が鳴る時間を指そうとしています。私の名前はロゼリアで公爵家の娘です。そして私が待っているのは、十年も前から婚約している王子のアルベルト様です。
貴族の学校では婚約している男女は朝、一緒に登校して男性が女性を教室まで送るのがマナーです。それは「私たちは仲良しですよ」「将来、ちゃんと結婚しますよ」と周りに見せるための大事なお仕事のようなものです。なのに私の婚約者は、今日も約束の時間に現れません。
「お嬢様、これ以上待っては遅刻してしまいます」
お付きの侍女が、心配そうに声をかけてくれました。私はため息をつきたいのを我慢して、お腹のあたりを押さえました。
キリキリキリ……ああ、またこれです。
「毎朝、胃が痛い」
アルベルト様を待っているだけで、私の胃袋は雑巾を絞ったみたいに痛くなるのです。
「……そうね。行きましょうか」
私が諦めて一人で歩き出そうとした、その時でした。
ドガガガガッ! ガラガラガラッ!
ものすごく派手な馬車の音が響き渡りました。振り返ると、真っ赤な馬車が猛スピードで駆けてきます。車輪からは火花が散りそうで、馬車の屋根にはアルベルト様の家の紋章(ライオンのマーク)がドーンと描かれています。あれに乗っているのは間違いなく彼です。
「やっと来た……」
遅刻ギリギリでも来てくれたならまだマシです。私は気を取り直して笑顔を作る練習をしました。貴族の娘たるもの、どんな時でも優雅に微笑まなければいけません。口角を上げて優しく……。
馬車が私の目の前で、キキーッ! と乱暴に止まりました。扉がバーン! と開きます。
「さあ、着いたよ! 僕の手につかまって降りるんだ!」
元気いっぱいの大きな声。燃えるような赤い髪の美男子、アルベルト様が馬車から飛び降りてきました。そして、彼は私の方を見向きもせず、馬車の中に手を差し出したのです。
(え? 私、ここにいますけど? 馬車の中に誰かいるんですか?)
「ありがとう、アルベルト様。優しいのね」
甘い砂糖菓子のような、フワフワした声が聞こえました。アルベルト様の手を取って馬車から降りてきたのは、ピンク色の髪を揺らした可愛らしい女の子。彼の幼馴染であり、男爵家の娘のミナでした。
私の中で、何かがプツンと切れそうになりました。胃の痛みが、キリキリからズキズキに変わります。
「おはよう、ロゼリア! なんだ、君もいたのか」
ミナを降ろしたあと、アルベルト様はやっと私に気づきました。「君もいたのか」じゃありません。私がここで待っているのは約束通りです。あなたが遅れてきたんです。しかも、なんでミナと一緒なんですか? 言いたいことは山ほどありますが私は公爵令嬢です。ぐっとこらえて、ニッコリと微笑みました。
「ごきげんよう、アルベルト様。ずいぶんと、お早いご到着ですこと」
「ん? ああ、すまない! 途中でミナを見かけてね。彼女、困っていたから乗せてきたんだよ!」
アルベルト様は、真っ白な歯を見せて爽やかに笑いました。悪気なんて一ミリもありません。「僕、いいことしたでしょ?」という顔です。その後ろでミナが私の顔を見て、クスクスと笑いました。そして、わざとらしくアルベルト様の腕に自分の腕を絡ませたのです。
私は、学園の正門の横にある大きな時計を見上げました。針はもうすぐ朝の予鈴(授業の前のチャイム)が鳴る時間を指そうとしています。私の名前はロゼリアで公爵家の娘です。そして私が待っているのは、十年も前から婚約している王子のアルベルト様です。
貴族の学校では婚約している男女は朝、一緒に登校して男性が女性を教室まで送るのがマナーです。それは「私たちは仲良しですよ」「将来、ちゃんと結婚しますよ」と周りに見せるための大事なお仕事のようなものです。なのに私の婚約者は、今日も約束の時間に現れません。
「お嬢様、これ以上待っては遅刻してしまいます」
お付きの侍女が、心配そうに声をかけてくれました。私はため息をつきたいのを我慢して、お腹のあたりを押さえました。
キリキリキリ……ああ、またこれです。
「毎朝、胃が痛い」
アルベルト様を待っているだけで、私の胃袋は雑巾を絞ったみたいに痛くなるのです。
「……そうね。行きましょうか」
私が諦めて一人で歩き出そうとした、その時でした。
ドガガガガッ! ガラガラガラッ!
ものすごく派手な馬車の音が響き渡りました。振り返ると、真っ赤な馬車が猛スピードで駆けてきます。車輪からは火花が散りそうで、馬車の屋根にはアルベルト様の家の紋章(ライオンのマーク)がドーンと描かれています。あれに乗っているのは間違いなく彼です。
「やっと来た……」
遅刻ギリギリでも来てくれたならまだマシです。私は気を取り直して笑顔を作る練習をしました。貴族の娘たるもの、どんな時でも優雅に微笑まなければいけません。口角を上げて優しく……。
馬車が私の目の前で、キキーッ! と乱暴に止まりました。扉がバーン! と開きます。
「さあ、着いたよ! 僕の手につかまって降りるんだ!」
元気いっぱいの大きな声。燃えるような赤い髪の美男子、アルベルト様が馬車から飛び降りてきました。そして、彼は私の方を見向きもせず、馬車の中に手を差し出したのです。
(え? 私、ここにいますけど? 馬車の中に誰かいるんですか?)
「ありがとう、アルベルト様。優しいのね」
甘い砂糖菓子のような、フワフワした声が聞こえました。アルベルト様の手を取って馬車から降りてきたのは、ピンク色の髪を揺らした可愛らしい女の子。彼の幼馴染であり、男爵家の娘のミナでした。
私の中で、何かがプツンと切れそうになりました。胃の痛みが、キリキリからズキズキに変わります。
「おはよう、ロゼリア! なんだ、君もいたのか」
ミナを降ろしたあと、アルベルト様はやっと私に気づきました。「君もいたのか」じゃありません。私がここで待っているのは約束通りです。あなたが遅れてきたんです。しかも、なんでミナと一緒なんですか? 言いたいことは山ほどありますが私は公爵令嬢です。ぐっとこらえて、ニッコリと微笑みました。
「ごきげんよう、アルベルト様。ずいぶんと、お早いご到着ですこと」
「ん? ああ、すまない! 途中でミナを見かけてね。彼女、困っていたから乗せてきたんだよ!」
アルベルト様は、真っ白な歯を見せて爽やかに笑いました。悪気なんて一ミリもありません。「僕、いいことしたでしょ?」という顔です。その後ろでミナが私の顔を見て、クスクスと笑いました。そして、わざとらしくアルベルト様の腕に自分の腕を絡ませたのです。
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