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不穏な指摘
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「見てミナ! この難しい本! 僕にはさっぱり読めないけど、君への愛なら何万文字でも語れるよ!」
「うふふ、アルベルト様ってば詩人さん!」
「二人の愛の物語も、本にして出版しようぜーっ!」
ガストンの声が、本棚をビリビリと震わせます。司書の先生がいないのをいいことに彼らはやりたい放題です。私は頭を抱えました。せっかくの癒やしの場所が台無しです。
「……注意してきます」
私が立ち上がろうとした時、マリーが鋭い声で制止しました。
「待って、ロゼリア。動かないで」
「え?」
「……おかしいわ」
マリーは、本棚の陰からじっと彼らを凝視しています。普段の余裕たっぷりの表情が消え、科学者のような真剣な眼差しになっています。
「マリー? 何が見えているの?」
マリーの得意魔法は【鑑定・解析】です。物の値段や材質だけでなく、そこにある魔力の色や性質まで見抜くことができる真実の目です。
「キース、念のため【遮断】の結界を張って。私たちが見ていることを気づかれないように」
「わかった」
キース様が指を鳴らすと、私たちの周りに薄い膜のようなものが張られました。これで、こちらの声や姿は彼らには見えにくくなります。
マリーは、じっとミナの方を見ています。
「ロゼリア、あなたには何が見える?」
「ええと……バカ騒ぎしている婚約者と、ぶりっ子の幼馴染です」
「そうよね。普通の目にはそう映るわ。でもね……私の目には、全然違うものが見えているの」
マリーの声が少し低くなりました。
「ミナの周りだけ……『魔素』の色がおかしいのよ」
「魔素?」
「ええ。普通、人の魔力っていうのは、オーラみたいに体の周りでフワフワしているものなの。アルベルト様なら赤、ロゼリアなら青、みたいにね。でも、ミナのは……」
マリーは顔をしかめて、一番嫌いな虫を見つけた時のような顔をしました。
「ドロドロした、ピンク色の粘液みたいなものが、全身から吹き出しているわ。まるで腐った桃のシロップみたい」
「えっ……」
「しかも、それがただ漂っているだけじゃないの。アルベルト様やガストンたちの頭に、そのピンク色のネバネバが伸びて……絡みついているの」
私はゾッとしました。想像してみてください。ミナの体から、目に見えないピンク色のスライムのようなものが伸びて、アルベルト様の頭をガシッと掴んでいる光景。
「それって、まさか……」
「精神干渉。いわゆる『洗脳』の一種よ」
マリーが断言しました。
「ただの『魅了(チャーム)』魔法じゃないわ。あれはもっと強制力が強い。相手の判断能力を溶かして、自分のことを『一番大事な存在』だと思い込ませる……違法レベルの呪いに近いのよ」
心臓がドクン、と大きく鳴りました。アルベルト様がおかしい理由。
急に約束を破ったり、嘘を信じ込んだり、私を「冷酷な女」だと罵ったりする理由。それは、彼が単なる浮気者だからではなく……。
(ミナの魔法によって、心を操られているから?)
「……やっぱり、そうか」
キース様がうなずきました。
「うふふ、アルベルト様ってば詩人さん!」
「二人の愛の物語も、本にして出版しようぜーっ!」
ガストンの声が、本棚をビリビリと震わせます。司書の先生がいないのをいいことに彼らはやりたい放題です。私は頭を抱えました。せっかくの癒やしの場所が台無しです。
「……注意してきます」
私が立ち上がろうとした時、マリーが鋭い声で制止しました。
「待って、ロゼリア。動かないで」
「え?」
「……おかしいわ」
マリーは、本棚の陰からじっと彼らを凝視しています。普段の余裕たっぷりの表情が消え、科学者のような真剣な眼差しになっています。
「マリー? 何が見えているの?」
マリーの得意魔法は【鑑定・解析】です。物の値段や材質だけでなく、そこにある魔力の色や性質まで見抜くことができる真実の目です。
「キース、念のため【遮断】の結界を張って。私たちが見ていることを気づかれないように」
「わかった」
キース様が指を鳴らすと、私たちの周りに薄い膜のようなものが張られました。これで、こちらの声や姿は彼らには見えにくくなります。
マリーは、じっとミナの方を見ています。
「ロゼリア、あなたには何が見える?」
「ええと……バカ騒ぎしている婚約者と、ぶりっ子の幼馴染です」
「そうよね。普通の目にはそう映るわ。でもね……私の目には、全然違うものが見えているの」
マリーの声が少し低くなりました。
「ミナの周りだけ……『魔素』の色がおかしいのよ」
「魔素?」
「ええ。普通、人の魔力っていうのは、オーラみたいに体の周りでフワフワしているものなの。アルベルト様なら赤、ロゼリアなら青、みたいにね。でも、ミナのは……」
マリーは顔をしかめて、一番嫌いな虫を見つけた時のような顔をしました。
「ドロドロした、ピンク色の粘液みたいなものが、全身から吹き出しているわ。まるで腐った桃のシロップみたい」
「えっ……」
「しかも、それがただ漂っているだけじゃないの。アルベルト様やガストンたちの頭に、そのピンク色のネバネバが伸びて……絡みついているの」
私はゾッとしました。想像してみてください。ミナの体から、目に見えないピンク色のスライムのようなものが伸びて、アルベルト様の頭をガシッと掴んでいる光景。
「それって、まさか……」
「精神干渉。いわゆる『洗脳』の一種よ」
マリーが断言しました。
「ただの『魅了(チャーム)』魔法じゃないわ。あれはもっと強制力が強い。相手の判断能力を溶かして、自分のことを『一番大事な存在』だと思い込ませる……違法レベルの呪いに近いのよ」
心臓がドクン、と大きく鳴りました。アルベルト様がおかしい理由。
急に約束を破ったり、嘘を信じ込んだり、私を「冷酷な女」だと罵ったりする理由。それは、彼が単なる浮気者だからではなく……。
(ミナの魔法によって、心を操られているから?)
「……やっぱり、そうか」
キース様がうなずきました。
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