私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり

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幼馴染の魔法

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「俺も変だと思っていたんだ。アルベルト殿下は確かに単純で考えなしだが、昔から『正義感』だけは強かった。弱い者を助けることはあっても、婚約者をないがしろにして平気な顔をするような男じゃなかったはずだ」

そうです。思い返せば昔のアルベルト様は、不器用だけど真っ直ぐな人でした。

私が熱を出した時は、不味いおかゆを一生懸命作ってくれたりもしました。今の彼は、まるで別人のようです。



「じゃあ、アルベルト様は……病気みたいなものなのですね?」 

「ええ。脳みそがピンク色の毒に浸されている状態よ」

マリーの表現は強烈ですが、状況は理解できました。

「見て」

マリーが指差します。本棚の向こうで、ミナがアルベルト様の腕にさらに強く抱きつきました。

「アルベルト様、私、この本が読みたぁい。でも高いところにあって届かないのぉ」

ミナが甘い声でそう言った瞬間、マリーの実況解説が入ります。



「今、ミナの体から魔力の波が出たわ。ほら、アルベルト様の頭の周りのピンク色が、一瞬濃くなった」

「よし、任せてくれ! ミナのためなら、空の星だって取ってやるさ!」

アルベルト様は、異常なほどのテンションで叫びました。目が少し虚ろに見えます。

「……気持ち悪いです」

私は正直な感想を漏らしました。浮気現場を見せられるのも嫌ですが、自分の婚約者が「魔法で操り人形にされている」現場を見るのは気味が悪いです。

「でも、これはチャンスよ、ロゼリア」

マリーがニヤリと笑いました。その笑顔は美しいけれど、獲物を狙う肉食獣のようでした。



「どういうこと?」 

「もし、ミナが『無意識』ではなく『わざと』この魔法を使っているのだとしたら……それは立派な『魔法犯罪』よ。貴族社会では、他人の心を魔法で操ることは重罪。学園を退学どころか、牢屋行きもありえるわ」

「!!」

私はハッとしました。そうです。単なる性格の悪い女なら、婚約破棄して終わりです。でもなら話は別です。こちらには、決定的な武器が生まれます。

「証拠を押さえましょう」

私は【記録】魔法を発動する準備をしました。右目が熱くなります。



「マリー、その『ピンク色のドロドロ』は、映像に残せる?」 

「私の【解析】魔法を、あなたの【記録】魔法とリンクさせれば可能よ。フィルターを通して見るようなものね」 

「やりましょう」

私とマリーは手を繋ぎました。魔力を同調させます。キース様が【遮断】結界を強めて、私たちが魔法を使っている気配を完全に消してくれます。

「……見えた」

私の視界が変わりました。いつもの図書室の風景に色が重なります。ミナを中心に渦巻く、毒々しいピンク色のオーラ。

それが触手のように伸びて、アルベルト様、ガストン、リリィの首筋に突き刺さっているのがハッキリと見えました。



(うわぁ……)

ドン引きです。でも、これは決定的な証拠です。私はしっかりと、そのおぞましい光景を脳内のフィルムに焼き付けました。【記録、完了】。

「……ふぅ」

私が目を開けると、向こうではまだ馬鹿騒ぎが続いていました。でも、もう胃は痛くありません。代わりに、腹の底からフツフツと、熱い闘志が湧いてきました。

アルベルト様、あなたは馬鹿ですが被害者でもあったのですね。そしてミナさん、あなたはただの可愛い幼馴染ではありません。他人の心を魔法で土足で踏み荒らす悪党です。



「……許しませんわ」

私はココアを一気に飲み干しました。

「徹底的に調べ上げて、あの化けの皮を剥がしてやります。協力してくれるわね、二人とも?」

「もちろんよ。面白い実験になりそうだわ」 

「ああ。君の胃痛を治すためなら、なんだってしよう」

マリーは不敵に笑い、キース様は頼もしく頷いてくれました。図書室の隅で行われた小さな作戦会議。ここから、私たちの反撃カウンターが始まります。

待っていなさいピンク色のスライム女。私の【記録】とマリーの【鑑定】とキース様の【遮断】。この最強のチームが、あなたの悪事を白日の下に晒してみせます!
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