ワケアリ不動産へようこそ!~GIRLS SIDE~ボウ霊編

junhon

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ヤンキー少女・藤子の場合

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「ああ? なんて読むんだ。 ワケアリ? ブンユウ?」
 
 藤子ふじこは頭上の看板を見上げてつぶやいた。そこには『分有不動産』と書かれている。
 
 しかし、その疑問はすぐに解消した。
 
 自動ドアをくぐれば「いらっしゃいませ! ようこそワケアリ不動産へ!」と元気な声が藤子を迎える。
 
 カウンターの女性がにっこりと微笑ほほえむ。二十代後半くらいの美人だった。
 
一人暮ひとりぐらししてぇんだ。格安の部屋へやはあるか?」

 カウンターに乗り出してたずねるのは、髪を金色に染めた十代の少女。セーラー服のスカートはくるぶしまでの長さの昭和なスケバンスタイルである。

「はい、承りました。わたくし吉沢よしざわと申します。よろしくお願いいたします」

「おう。よろしく頼むぜ」

「で、ご予算はいかほどでしょう?」

「こちとらまだ高校生だからな。ズバリ千円!」

 どう考えてもその金額で部屋を借りるのは無理難題だったが、吉沢はにっこりと微笑み返す。
 
「承りました。ちょうどいい物件があります」

「……え?」

 藤子は目を点にするのだった。
 
 
       ◆
 
 
「この部屋などいかがでしょうか?」

 吉沢に案内されたのは2LDKのアパートだ。今どき畳の和室だが、それでも家賃千円は安すぎる。
 
「敷金礼金は不要。ピッタリ千円の物件です」

「お、おう……」

 藤子の方がきつねにつままれたような顔をしていた。
 
「いや、いくら何でも安すぎる。何かいわくがあるんじゃないか?」

「あー、そうですね。この部屋には夜な夜なボウ霊が出るんですよ」

 藤子の問いに吉沢はしれっと返す。
 
「ハッ! そんな脅しにのるものかよ。たとえ本当でも幽霊なんざこっちが追い出してやるぜ!」

「では契約成立ですね」

 諸々の手続きを済ませた後、部屋を出て行く際に吉沢は振り返って言う。
 
「幽霊ではなくボウ霊ですよ」


       ◆


「バカバカしい」
 
 藤子は畳に寝っ転がりながらそうつぶやく。
 
 そのまま眠りに落ち、そして深夜――
 
 ブォン! ブォン! ブォン!
 
 エンジンを吹かすけたたましい音が部屋に響く。
 
「あ? な、なんだ?」

 すっかり寝入っていた藤子が目を覚ますと、その目をまばゆい光が貫く。
 
 目を細めて確認すると、部屋の中に改造バイクにまたがった半透明の男の姿があった。
 
 その身にまとうのは白い特攻服、髪型もポマードで固めたリーゼントだ。
 
「ここは俺のシマだぜ。出て行きやがれ!」

 男は藤子を見下ろしながらそう恫喝どうかつする。
 
「あー、アンタがボウ霊とやらか? 出ていくのはそっちだぜ!」

 藤子はそう言って男をにらかえした。
 
「このスケ……ナメんじゃねぇぞ! 俺こそが烈怒馬論レツドバロンの総長だ!」

「おおう! 上等だ! 表に出やがれ!」

 そうして二人ふたりはアパート横の空き地で対峙たいじする。ツッパリ同士のタイマン勝負だ。
 
「オラァ!」

「ウラァ!」

 お互いこぶしを繰り出すが、どちらも相手に当たることなく空振りに終わる。そもそも半透明の幽霊を殴れるのか? そのまた逆もしかりだ。
 
 結局お互いに拳を当てられないまま、東の空が白み始めた。
 
「やるじゃねぇか……女」

「アンタもな、リーゼント野郎」

 一晩中ケンカを繰り広げていた双方は、共にヘトヘトになっていた。
 
「ああ……もう朝か。太陽がまぶしいぜ」

 昇る朝日を眺めながら、男は呟く。
 
「お前にならあの部屋を譲ってやってもいいぜ」

 そう言った男の姿は、朝日に溶けるようにして消えていった。
 
 
       ◆
 
 
 後日、不動産屋の吉沢にも協力してもらって調べたところ、あの部屋の前のあるじは暴走族で、事故って亡くなったということだった。
 
「まったく、バカな野郎だったぜ」

 事故現場の崖に花束を投げ入れ、藤子は呟く。
 
「暴走族の幽霊だから『暴霊』か……」

 以来、あの男の幽霊が現れることはなかった。
 
 
 
~END~
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