籠の中の令嬢

ワゾースキー

文字の大きさ
22 / 35
第二章

メモ

しおりを挟む
 ふうっとため息をついた後、ミカエラは、リチャードが持ってきてくれた本に目を移す。

「これ…懐かしい。」

 何冊か持ってきてくれた本の中に、ふと目についたのが、昔から父と読んでいた本だった。
 
「でも…これは読んだことのある本よね…リチャードが知らないとは思えないし…今更…?」

 ぱらぱらと本をめくる。すると、ミカエラは、小さなメモ紙を見つけた。

「これ…」

 メモに目を通すと、

【4日後 秘密の通路の先で待つ 壁を探れ レオナルド】

 「…お父様…」

 ミカエラは、メモを両手で抱きしめる。

まだ諦めちゃダメだ。お父様がついてる。リチャードもこの本を持ってきてくれたということは、表立っては何も出来なくても、私の力になってくれるってことだわっ!

 嬉しくて泣きそうになりながら、周りを見渡す。

「壁…何かスイッチがあるのかしら。」

 焦る気持ちを抑えながら、深く深呼吸して立ち上がる。メモを握りしめて、暖炉の方へ向かうとメモ紙を何度も見返した後、暖炉の中へ放り込む。
 暖炉の炎を見つめ、メモが燃えたのを確認した後、また壁の方へ歩き出す。

 じーっと壁を見つめて何か違いがないか隈なく見つめ、触れてみるものの、部屋は大きく、時間はあっという間に過ぎてしまう。

 コツコツと足音が聞こえてきたので、慌てて椅子へ戻り、リチャードが持ってきてくれた本を開く。

 ガチャガチャ  ガチャン

 鍵の開く音が聞こえ、ドアに目線を移すと、そこには
フレッドが立っていた。

「…フレッドお兄様…」

「やぁ、ミア。 大人しく待っていたようだね。 何をしていた? あぁ。 本を持ってきてもらったのか。 1人は寂しくなかったかい?」

 ミカエラの言葉を聞く前に一方的に話しかけてくるフレッドに、少し眉間に眉を寄せる。読んでもない開いた本をパタンと閉じて、立ち上がり、背筋を伸ばして凛と佇む。

「お兄様。 私をここから出してください。 1人になった時、ずっと考えていたんです。 私は確かにみんなに隣国へ行くことをギリギリまで黙っていました。 内緒にされていたことにみんなが怒ることも分かります。 しかし、こんな監禁されるほど悪いことをしたとは思えませんっ!」

 キッと睨み、フレッドに抗議するものの、フレッドはくっくっと声を押し殺すように笑っているだけだった。
 笑顔のまま、ミカエラにゆっくりと歩み寄って行く。

「ああ。 愚かなミア。 それがいけなかったとなぜ分からない? 私から、離れようとしたのがそもそも間違いだとなぜ気付かない? 私は君のことを愛している。 兄妹という枠を超えて…ね。 本当は私1人でミアを愛でて、囲う予定だったんだけど、色々と1人じゃ立ち回り切れない部分があってね。 彼らと利害と思いが一致してしまった。 だから協力してもらったのさ。 まぁ、足を切断すれば私1人で事足りたのだけれど。」

「お兄様…嫌…来ないで…」

 ミカエラはゆっくりと近づき、以前クラウドから聞いた足の切断の提案者が兄だという事実に恐怖を覚え、一歩ずつ後ずさる。しかしついに壁際に追い込まれ、ミカエラの背中が壁に当たるとフレッドは、目の前で青褪める妹を愛おしそうに見つめ、頬にスッと触れる。その目はもぅ、ミカエラが家族として好きだったフレッドの姿ではなかった。執着によって、狂気と化してしまったフレッドに、ミカエラは絶望する。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...