【 本編 完結 】結婚式当日に召喚された花嫁は、余興で呼ばれた聖女、でした!?

しずもり

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穢れの正体を知った日

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 十年前、元の世界に戻った時、には大いに驚かされたけれど、実は同じくらい驚く事があった。

 私の生活が一変する程の驚くべきは、穢れを祓う旅で私が感じた事は間違ってはいなかったのだ、という事にも気付く事になった。



 聖女として召喚された私は旅に出る前に、王宮で聖女とその力について学んだ。教えられた内容には、穢れや瘴気溜まりについての話もあった。


 瘴気溜まりから生まれる穢れは生物、特に人を好んで襲い力をつけていく。最初は誰の目にも見えない穢れは強くなるほどに、濃く黒い霧の様なモノとなりやがて誰の目にも見えるようになるらしい。


強力な光魔法を使える者は比較的早い段階で穢れを認識する事が出来るのだそうだ。
それでも一人で穢れを祓うのは難しい上に、そもそも強力な光魔法を使える者は少ない。だからこそ数人掛かりで穢れを祓っているのだ。


その点、聖女は目に見えない段階で穢れを認識出来るのは勿論の事、聖女一人で一度に多くの穢れを祓う事が出来る。
そして穢れを生み出す瘴気溜まりをも水晶に封じ込める力を持つ、と私はそう教えられた。


けれどその話は少しの真実と想像や間違った思い込みで語り継がれてきた話だと、私は穢れを祓う度に誰も知らない真実に辿りついていった、と思っている。


それは聖女だった私だからこそ気付く事が出来た事だった。


穢れは光魔法や聖女の使う聖魔法によって祓われる。
それなのに穢れは光魔法を扱う者や聖女にさえ近づいてくるのだ。攻撃的に近付く穢れもあった。けれどそうではない穢れもいたのだ。


旅に出て初めて穢れを祓った時の事だった。


 穢れは闇を好み活動が活発になると言われている。カイウスと深夜に二人で穢れを祓う事になったのは、カイウスの企みからだったのだろうけれど、確かに昼間に下見に行った時に比べると格段に穢れは増えていた。


 聖女は結界を張る力を持っていると文献には記されていた。
その記載の通り、私も召喚されてすぐに結界を張る事が出来るようになっていた。

穢れを祓う際は、自分の身を守る為に結界を張った上で穢れを祓う。


穢れは結界を張っている紗夜たちを取り囲むように次々と周囲に集まり、辺りは黒い霧のようなモノで覆われ、その空間にポツンと二人は取り残されているようだった。

初めてその様子を見た時には結界に守られているとはいえとても恐ろしかった。気のせいかカイウスも微かに手が震えていたように思う。


けれど、このまま震えていても穢れは消えてくれない。そばには想い人のカイウスがついていてくれる。


聖女の紗夜に期待してくれる彼を失望させたくはない。


彼に良いところを見せたい。



私は怯える心を奮い立たせ、祈るように両手を組んで穢れを祓う言葉を口にした。


その長くも無い言葉を何度も何度も声に出していると、不意に白い光が紗夜の体から溢れて結界の外へと広がっていった。
やがて白い光に触れた黒い穢れは次々に消えていき、私たちは真っ暗な闇から解放された。


「や、やったぞ!サーヤっ、穢れを祓う事に成功したぞ。
ははは、本当に聖女とは凄いな。たった一人であれ程の穢れを祓うとはっ!」

真っ暗な闇から解放された反動からなのか、カイウスは興奮して大きな声で、だけど独り言の様に口にしていた。


今、思えば確かに独り言だったのだろう。


だって紗夜の名を呼びながらもカイウスの瞳は、目の前の紗夜では無い違う何かを見ていた気がする。


けれど、名前を呼ばれ穢れを祓う事に成功した事を喜ぶカイウスの言葉を、紗夜も聞いているようで聞いてはいなかった。


紗夜の視線はカイウスを通り越してその先へと向けられていたからだ。


しかし、カイウスとは違う。

紗夜はカイウスの後ろに見える光景に釘付けになっていたのだ。


「カイウス様、たちは一体何なのでしょう?」


「ん?一体何を言っているのだ、サーヤ。あの人たちとは何の事だ」

紗夜の言葉に反応して振り向いたカイウスは周囲を見回すともう一度、紗夜の方を向いて聞き返してきた。


「え?だってあんなにたくさんの人たちが白い光に包まれて立っているじゃないですか?」


「は?それこそ何を言っているのだ。白い光など見えはしないだろう?
穢れが消え、月明かりで明るく見えるのだろうが白い光も人なども何処にも居ないぞ」


カイウスには紗夜から広がっていった白い光が最初から見えていなかったのだろうか?


今も結界の外で淡く光っているのに。


それに、あんなにたくさんの人の形をしたモノが居るのに。


そう思って紗夜は気が付いた。


穢れを祓った後は確かに沢山の人たちがいた。若い女性や年配の男性に小さな男の子。数えきれないほどの老若男女、大勢の人の姿が紗夜には見えていた。

けれど今は人の様な輪郭を残すのみ。それも次第に一つ二つと白い光に溶けていっているように紗夜の目には映っていた。


紗夜が向ける視線の先をカイウスも振り返って見ているが何の反応もない。やはり彼には見えていないのだ。


私はそれに気付くとそれ以上は何も口にしなかった。

カイウスに変な事を言っている頭のおかしな奴、とは思われたくなかった。
紗夜が穢れを祓う事に成功しカイウスは喜び、紗夜を誉めてくれているのだから。


けれど二度目もその次も、穢れを祓った後には同じ現象が起こった。


穢れを祓う際に、光魔法を使う者がいたならば、紗夜から溢れ出る白い光に気づく事が出来たかもしれない。
しかし、穢れを祓う時はいつもカイウスと二人きりだった。


そうして紗夜は、穢れを祓うという事は魂の浄化をする事である、と自然と理解していった。

穢れとは、心残りや未練、恨みや憎しみといった強い感情を残してこの世に留まった魂が、瘴気溜まりから生み出されるに魂を穢されたものなのだ。


穢された魂は誰かを想う心残りであっても、次第に負のエネルギーに引きずられていくものなのだろう。


穢れを祓う時、紗夜聖女に近づこうとする穢れは攻撃的なモノとそうでないモノがあった。
後者は救済を求めて近づいて来るのだろう、と白い光で人の姿に戻ったモノを見る度に紗夜は実感していった。


力を奪われて怒りの形相をしているモノもいるが、涙を流し紗夜に向かってお辞儀をするモノや手を合わせているモノたちも数多くいたからだ。


そう理解したが、紗夜はカイウスにはこの考えを伝えなかった。

この国に伝わる穢れについての伝承と違う事にカイウスは耳を傾けてくれるだろうか。


否定されてしまう事が紗夜には怖かった。

他の誰でもない、大好きな恋人に否定され紗夜から離れていってしまったら、そう思うと紗夜の考えを簡単に告げる事は出来なかった。


だから瘴気溜まりを水晶に封印した時、その場に残る違和感をカイウスに伝える事も紗夜には出来なかった。


そうして少しの不安を抱えたまま、紗夜を元の世界へと戻そうとするカイウスの本心も知らず、紗夜はこの世界を去る事になってしまったのだ。


黒く染まった水晶とともに。


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