8 / 61
穢れの正体を知った日
しおりを挟む
十年前、元の世界に戻った時、あの嫌がらせには大いに驚かされたけれど、実は同じくらい驚く事があった。
私の生活が一変する程の驚くべきそれは、穢れを祓う旅で私が感じた事は間違ってはいなかったのだ、という事にも気付く事になった。
聖女として召喚された私は旅に出る前に、王宮で聖女とその力について学んだ。教えられた内容には、穢れや瘴気溜まりについての話もあった。
瘴気溜まりから生まれる穢れは生物、特に人を好んで襲い力をつけていく。最初は誰の目にも見えない穢れは強くなるほどに、濃く黒い霧の様なモノとなりやがて誰の目にも見えるようになるらしい。
強力な光魔法を使える者は比較的早い段階で穢れを認識する事が出来るのだそうだ。
それでも一人で穢れを祓うのは難しい上に、そもそも強力な光魔法を使える者は少ない。だからこそ数人掛かりで穢れを祓っているのだ。
その点、聖女は目に見えない段階で穢れを認識出来るのは勿論の事、聖女一人で一度に多くの穢れを祓う事が出来る。
そして穢れを生み出す瘴気溜まりをも水晶に封じ込める力を持つ、と私はそう教えられた。
けれどその話は少しの真実と想像や間違った思い込みで語り継がれてきた話だと、私は穢れを祓う度に誰も知らない真実に辿りついていった、と思っている。
それは聖女だった私だからこそ気付く事が出来た事だった。
穢れは光魔法や聖女の使う聖魔法によって祓われる。
それなのに穢れは光魔法を扱う者や聖女にさえ近づいてくるのだ。攻撃的に近付く穢れもあった。けれどそうではない穢れもいたのだ。
旅に出て初めて穢れを祓った時の事だった。
穢れは闇を好み活動が活発になると言われている。カイウスと深夜に二人で穢れを祓う事になったのは、カイウスの企みからだったのだろうけれど、確かに昼間に下見に行った時に比べると格段に穢れは増えていた。
聖女は結界を張る力を持っていると文献には記されていた。
その記載の通り、私も召喚されてすぐに結界を張る事が出来るようになっていた。
穢れを祓う際は、自分の身を守る為に結界を張った上で穢れを祓う。
穢れは結界を張っている紗夜たちを取り囲むように次々と周囲に集まり、辺りは黒い霧のようなモノで覆われ、その空間にポツンと二人は取り残されているようだった。
初めてその様子を見た時には結界に守られているとはいえとても恐ろしかった。気のせいかカイウスも微かに手が震えていたように思う。
けれど、このまま震えていても穢れは消えてくれない。そばには想い人のカイウスがついていてくれる。
聖女の紗夜に期待してくれる彼を失望させたくはない。
彼に良いところを見せたい。
私は怯える心を奮い立たせ、祈るように両手を組んで穢れを祓う言葉を口にした。
その長くも無い言葉を何度も何度も声に出していると、不意に白い光が紗夜の体から溢れて結界の外へと広がっていった。
やがて白い光に触れた黒い穢れは次々に消えていき、私たちは真っ暗な闇から解放された。
「や、やったぞ!サーヤっ、穢れを祓う事に成功したぞ。
ははは、本当に聖女とは凄いな。たった一人であれ程の穢れを祓うとはっ!」
真っ暗な闇から解放された反動からなのか、カイウスは興奮して大きな声で、だけど独り言の様に口にしていた。
今、思えば確かに独り言だったのだろう。
だって紗夜の名を呼びながらもカイウスの瞳は、目の前の紗夜では無い違う何かを見ていた気がする。
けれど、名前を呼ばれ穢れを祓う事に成功した事を喜ぶカイウスの言葉を、紗夜も聞いているようで聞いてはいなかった。
紗夜の視線はカイウスを通り越してその先へと向けられていたからだ。
しかし、カイウスとは違う。
紗夜はカイウスの後ろに見える光景に釘付けになっていたのだ。
「カイウス様、あの人たちは一体何なのでしょう?」
「ん?一体何を言っているのだ、サーヤ。あの人たちとは何の事だ」
紗夜の言葉に反応して振り向いたカイウスは周囲を見回すともう一度、紗夜の方を向いて聞き返してきた。
「え?だってあんなにたくさんの人たちが白い光に包まれて立っているじゃないですか?」
「は?それこそ何を言っているのだ。白い光など見えはしないだろう?
穢れが消え、月明かりで明るく見えるのだろうが白い光も人なども何処にも居ないぞ」
カイウスには紗夜から広がっていった白い光が最初から見えていなかったのだろうか?
今も結界の外で淡く光っているのに。
それに、あんなにたくさんの人の形をしたモノが居るのに。
そう思って紗夜は気が付いた。
穢れを祓った後は確かに沢山の人たちがいた。若い女性や年配の男性に小さな男の子。数えきれないほどの老若男女、大勢の人の姿が紗夜には見えていた。
けれど今は人の様な輪郭を残すのみ。それも次第に一つ二つと白い光に溶けていっているように紗夜の目には映っていた。
紗夜が向ける視線の先をカイウスも振り返って見ているが何の反応もない。やはり彼には見えていないのだ。
私はそれに気付くとそれ以上は何も口にしなかった。
カイウスに変な事を言っている頭のおかしな奴、とは思われたくなかった。
紗夜が穢れを祓う事に成功しカイウスは喜び、紗夜を誉めてくれているのだから。
けれど二度目もその次も、穢れを祓った後には同じ現象が起こった。
穢れを祓う際に、光魔法を使う者がいたならば、紗夜から溢れ出る白い光に気づく事が出来たかもしれない。
しかし、穢れを祓う時はいつもカイウスと二人きりだった。
そうして紗夜は、穢れを祓うという事は魂の浄化をする事である、と自然と理解していった。
穢れとは、心残りや未練、恨みや憎しみといった強い感情を残してこの世に留まった魂が、瘴気溜まりから生み出される何かに魂を穢されたものなのだ。
穢された魂は誰かを想う心残りであっても、次第に負のエネルギーに引きずられていくものなのだろう。
穢れを祓う時、紗夜に近づこうとする穢れは攻撃的なモノとそうでないモノがあった。
後者は救済を求めて近づいて来るのだろう、と白い光で人の姿に戻ったモノを見る度に紗夜は実感していった。
力を奪われて怒りの形相をしているモノもいるが、涙を流し紗夜に向かってお辞儀をするモノや手を合わせているモノたちも数多くいたからだ。
そう理解したが、紗夜はカイウスにはこの考えを伝えなかった。
この国に伝わる穢れについての伝承と違う事にカイウスは耳を傾けてくれるだろうか。
否定されてしまう事が紗夜には怖かった。
他の誰でもない、大好きな恋人に否定され紗夜から離れていってしまったら、そう思うと紗夜の考えを簡単に告げる事は出来なかった。
だから瘴気溜まりを水晶に封印した時、その場に残る違和感をカイウスに伝える事も紗夜には出来なかった。
そうして少しの不安を抱えたまま、紗夜を元の世界へと戻そうとするカイウスの本心も知らず、紗夜はこの世界を去る事になってしまったのだ。
黒く染まった水晶とともに。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
私の生活が一変する程の驚くべきそれは、穢れを祓う旅で私が感じた事は間違ってはいなかったのだ、という事にも気付く事になった。
聖女として召喚された私は旅に出る前に、王宮で聖女とその力について学んだ。教えられた内容には、穢れや瘴気溜まりについての話もあった。
瘴気溜まりから生まれる穢れは生物、特に人を好んで襲い力をつけていく。最初は誰の目にも見えない穢れは強くなるほどに、濃く黒い霧の様なモノとなりやがて誰の目にも見えるようになるらしい。
強力な光魔法を使える者は比較的早い段階で穢れを認識する事が出来るのだそうだ。
それでも一人で穢れを祓うのは難しい上に、そもそも強力な光魔法を使える者は少ない。だからこそ数人掛かりで穢れを祓っているのだ。
その点、聖女は目に見えない段階で穢れを認識出来るのは勿論の事、聖女一人で一度に多くの穢れを祓う事が出来る。
そして穢れを生み出す瘴気溜まりをも水晶に封じ込める力を持つ、と私はそう教えられた。
けれどその話は少しの真実と想像や間違った思い込みで語り継がれてきた話だと、私は穢れを祓う度に誰も知らない真実に辿りついていった、と思っている。
それは聖女だった私だからこそ気付く事が出来た事だった。
穢れは光魔法や聖女の使う聖魔法によって祓われる。
それなのに穢れは光魔法を扱う者や聖女にさえ近づいてくるのだ。攻撃的に近付く穢れもあった。けれどそうではない穢れもいたのだ。
旅に出て初めて穢れを祓った時の事だった。
穢れは闇を好み活動が活発になると言われている。カイウスと深夜に二人で穢れを祓う事になったのは、カイウスの企みからだったのだろうけれど、確かに昼間に下見に行った時に比べると格段に穢れは増えていた。
聖女は結界を張る力を持っていると文献には記されていた。
その記載の通り、私も召喚されてすぐに結界を張る事が出来るようになっていた。
穢れを祓う際は、自分の身を守る為に結界を張った上で穢れを祓う。
穢れは結界を張っている紗夜たちを取り囲むように次々と周囲に集まり、辺りは黒い霧のようなモノで覆われ、その空間にポツンと二人は取り残されているようだった。
初めてその様子を見た時には結界に守られているとはいえとても恐ろしかった。気のせいかカイウスも微かに手が震えていたように思う。
けれど、このまま震えていても穢れは消えてくれない。そばには想い人のカイウスがついていてくれる。
聖女の紗夜に期待してくれる彼を失望させたくはない。
彼に良いところを見せたい。
私は怯える心を奮い立たせ、祈るように両手を組んで穢れを祓う言葉を口にした。
その長くも無い言葉を何度も何度も声に出していると、不意に白い光が紗夜の体から溢れて結界の外へと広がっていった。
やがて白い光に触れた黒い穢れは次々に消えていき、私たちは真っ暗な闇から解放された。
「や、やったぞ!サーヤっ、穢れを祓う事に成功したぞ。
ははは、本当に聖女とは凄いな。たった一人であれ程の穢れを祓うとはっ!」
真っ暗な闇から解放された反動からなのか、カイウスは興奮して大きな声で、だけど独り言の様に口にしていた。
今、思えば確かに独り言だったのだろう。
だって紗夜の名を呼びながらもカイウスの瞳は、目の前の紗夜では無い違う何かを見ていた気がする。
けれど、名前を呼ばれ穢れを祓う事に成功した事を喜ぶカイウスの言葉を、紗夜も聞いているようで聞いてはいなかった。
紗夜の視線はカイウスを通り越してその先へと向けられていたからだ。
しかし、カイウスとは違う。
紗夜はカイウスの後ろに見える光景に釘付けになっていたのだ。
「カイウス様、あの人たちは一体何なのでしょう?」
「ん?一体何を言っているのだ、サーヤ。あの人たちとは何の事だ」
紗夜の言葉に反応して振り向いたカイウスは周囲を見回すともう一度、紗夜の方を向いて聞き返してきた。
「え?だってあんなにたくさんの人たちが白い光に包まれて立っているじゃないですか?」
「は?それこそ何を言っているのだ。白い光など見えはしないだろう?
穢れが消え、月明かりで明るく見えるのだろうが白い光も人なども何処にも居ないぞ」
カイウスには紗夜から広がっていった白い光が最初から見えていなかったのだろうか?
今も結界の外で淡く光っているのに。
それに、あんなにたくさんの人の形をしたモノが居るのに。
そう思って紗夜は気が付いた。
穢れを祓った後は確かに沢山の人たちがいた。若い女性や年配の男性に小さな男の子。数えきれないほどの老若男女、大勢の人の姿が紗夜には見えていた。
けれど今は人の様な輪郭を残すのみ。それも次第に一つ二つと白い光に溶けていっているように紗夜の目には映っていた。
紗夜が向ける視線の先をカイウスも振り返って見ているが何の反応もない。やはり彼には見えていないのだ。
私はそれに気付くとそれ以上は何も口にしなかった。
カイウスに変な事を言っている頭のおかしな奴、とは思われたくなかった。
紗夜が穢れを祓う事に成功しカイウスは喜び、紗夜を誉めてくれているのだから。
けれど二度目もその次も、穢れを祓った後には同じ現象が起こった。
穢れを祓う際に、光魔法を使う者がいたならば、紗夜から溢れ出る白い光に気づく事が出来たかもしれない。
しかし、穢れを祓う時はいつもカイウスと二人きりだった。
そうして紗夜は、穢れを祓うという事は魂の浄化をする事である、と自然と理解していった。
穢れとは、心残りや未練、恨みや憎しみといった強い感情を残してこの世に留まった魂が、瘴気溜まりから生み出される何かに魂を穢されたものなのだ。
穢された魂は誰かを想う心残りであっても、次第に負のエネルギーに引きずられていくものなのだろう。
穢れを祓う時、紗夜に近づこうとする穢れは攻撃的なモノとそうでないモノがあった。
後者は救済を求めて近づいて来るのだろう、と白い光で人の姿に戻ったモノを見る度に紗夜は実感していった。
力を奪われて怒りの形相をしているモノもいるが、涙を流し紗夜に向かってお辞儀をするモノや手を合わせているモノたちも数多くいたからだ。
そう理解したが、紗夜はカイウスにはこの考えを伝えなかった。
この国に伝わる穢れについての伝承と違う事にカイウスは耳を傾けてくれるだろうか。
否定されてしまう事が紗夜には怖かった。
他の誰でもない、大好きな恋人に否定され紗夜から離れていってしまったら、そう思うと紗夜の考えを簡単に告げる事は出来なかった。
だから瘴気溜まりを水晶に封印した時、その場に残る違和感をカイウスに伝える事も紗夜には出来なかった。
そうして少しの不安を抱えたまま、紗夜を元の世界へと戻そうとするカイウスの本心も知らず、紗夜はこの世界を去る事になってしまったのだ。
黒く染まった水晶とともに。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
70
あなたにおすすめの小説
没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました
藤原遊
ファンタジー
魔力不足でお城が崩れる!?
貴族が足りなくて領地が回らない!?
――そんなギリギリすぎる領地を任された転生令嬢。
現代知識と少しの魔法で次々と改革を進めるけれど、
なぜか周囲を巻き込みながら大騒動に発展していく。
「領地再建」も「恋」も、予想外の展開ばかり!?
没落領地から始まる、波乱と笑いのファンタジー開幕!
※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる