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閑話
少年はある女商人と出逢った
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出来る事は全部やったつもりだった。
それでも立ち寄る客の言葉は、変わらず『何も無い村だ。』でしかなかった。
俺一人じゃ、やっぱり無理だったんだ。
村の年寄りたちは、子どもが小遣い欲しさにやっている様にしか見えていなかったし、村が寂れていく事には『仕方ない事だ』と諦めきっていた。それでも、
『馬車が立ち寄ってくれるだけでありがたい。』
『この村は忘れられていない事が嬉しいねぇ』
とも言っていた。
何だそれ?村が無くなって忘れられる事、確定かっ!
外から少しの時間訪れる客も、村でただ諦めて日々を過ごす年寄りたちにも腹が立っていた。そんな投げやりになっていた時、乗り合い馬車でやってきたのがティアナだった。
乗り合い馬車が来る時間は大体決まっている。だからその日も、いつもと同じ様に馬車が来る時間に、村の入り口で俺たちは待機していた。
いつものようにやってきた馬車は入り口の手前で止まり、客が一人、また一人と降りてきた。
20代の派手な女が3人、冒険者風の若い男2人連れ、そしてフードのついたマントを着た男は、馬車から降りると馬車の方に振り返って、同じような格好をした奴に手を差し出した。手を取って降りようとした奴はヨロケて男に倒れ込んだ。
その時フードが取れて見えたのは、光るような金髪で腰ぐらいまでありそうな髪を頭の上の方で一つに結んだ綺麗な女の人だった。
「きれーなお姉ちゃんだぁ。」
俺の前にいるエマたちが見惚れて呟いていた。確かにあんな綺麗な人は、この村にもいないし立ち寄る客たちの中でも見た事は無かった。
綺麗だけれど、マントから見える服装は冒険者のような格好だな、と思っていたら、またいつもの言葉が聞こえてきた。
「何もない村ねぇ。」
派手な格好の女3人組は、バカにした様に周囲を見渡しながら俺たちの前を通り過ぎ、フードの男と一緒に村に入って行った。
「何も無い村で悪かったなぁっ。」
ボソリと口から出た言葉は、そのすぐ後ろを歩いていく綺麗な女の人にも聞こえたかも知れない。俺の方をチラッと見た気がしたからだ。
思わず声に出してしまったのは怒りよりも、後から思えば、この人に何もない村だと思われるのが恥ずかしい、という気持ちがどこかにあったのかも知れない。
だって俺はこの時にはたぶん・・・。
エマたちは綺麗なお姉ちゃんに構って欲しかったのか、トイレを案内し、出てきたらまた近寄って、手を引っ張って切り株に座らせて話始めた。
エマたちにちゃんと向き合う為か、女の人は綺麗な顔を隠していたフードを取って面と向かいあった。
「ごめんね。お花は要らないの。」
そう言ってアンナの持つ小さな花束を断った声に、この人も俺たちの村をバカにするのか、と八つ当たりなのか、恥ずかしさからなのか、カッとなって声を荒げてしまった。
女の人はそんな俺の言葉にも気にせずアンナたちに『何故、花束が要らないのか?』をわかりやすく説明してくれた。
同情でいいから買って貰えればいい、ぐらいに思っていた花束だった。
でも、『何故売れないのか?』は深く考えた事なんて無かった。最近では『バカにされる程度の花だから』と思うようにもなっていた。
「この村、本当に何も無いの?気付いていないだけかもよ。」
この言葉にも俺はつい反発して『川が綺麗な事ぐらいだ』と、怒鳴ってしまった。
村を少し出た東の森近くには、幅2メートル程の小さい川が流れていた。村の生活水にも使われている川は、周囲や上流の方にも人が住んでいないせいか、透明度の高い川だった。
その話から女の人はケンたちと会話し、ケンたちの言葉から俺たちの村の可能性について、次々にアイデアを出して示してくれた。
たぶん、ケンたちと楽しいおしゃべりをしているように振る舞いながら、俺に向かって話してくれていたんだと思う。
捻くれた俺が否定的な言葉を吐いても頷きながら違う事を考えてくれたり、『客が何を欲しがっているのか』、『何に困っているのか』を考える事が、商売に繋がる事をそれとなく教えてくれた。
初めてきた村で、もう訪れる事も無いだろう、こんなちっぽけな村に住む俺たちに、何故、こんなによくしてくれるのか、不思議で気になった。そうして聞いた答えは
「私ね、エトリナ商会を立ち上げた商人なの。」
「商人だから、ここで商売をしている君たちにちょっとしたアドバイスをしたくなったの。」
彼女は更に俺にアドバイスをしてくれた。俺がやってきた事にも気づいてくれていた事が嬉しかった。
それからケンたちが持ってきたクッションを笑顔で全部買い取ってくれた。お古のクッションを破格の値段で。
出発時間が近づいたらしい彼女は
「いつかまたこの村に来るわ。楽しみにしているね。」
「さよなら」じゃなくてそう言った彼女の笑顔に見惚れて、まだ名前を聞いていなかった事を思い出して慌てて聞いた。
エトリナ商会のティアナ・・・・。
「手紙をくれたら返事を書くよ。またね。」
笑って手を振ってティアナは馬車に歩きだした。
思わずティアナの方に走り出して腕を取り、振り向いたティアナの頬に口づけたのはその場の勢いってやつだ。
でも、ティアナに宣言した『成人したらティアナの下で働く。』という言葉は、たった今決めた俺の目標になった。
それまでは『楽しみにしている』と言ってくれたティアナの期待を裏切らないように、次にティアナが村に訪れるまでに何も無いと思われていた村を変えてみせよう、と強く思ったんだ。
それでも立ち寄る客の言葉は、変わらず『何も無い村だ。』でしかなかった。
俺一人じゃ、やっぱり無理だったんだ。
村の年寄りたちは、子どもが小遣い欲しさにやっている様にしか見えていなかったし、村が寂れていく事には『仕方ない事だ』と諦めきっていた。それでも、
『馬車が立ち寄ってくれるだけでありがたい。』
『この村は忘れられていない事が嬉しいねぇ』
とも言っていた。
何だそれ?村が無くなって忘れられる事、確定かっ!
外から少しの時間訪れる客も、村でただ諦めて日々を過ごす年寄りたちにも腹が立っていた。そんな投げやりになっていた時、乗り合い馬車でやってきたのがティアナだった。
乗り合い馬車が来る時間は大体決まっている。だからその日も、いつもと同じ様に馬車が来る時間に、村の入り口で俺たちは待機していた。
いつものようにやってきた馬車は入り口の手前で止まり、客が一人、また一人と降りてきた。
20代の派手な女が3人、冒険者風の若い男2人連れ、そしてフードのついたマントを着た男は、馬車から降りると馬車の方に振り返って、同じような格好をした奴に手を差し出した。手を取って降りようとした奴はヨロケて男に倒れ込んだ。
その時フードが取れて見えたのは、光るような金髪で腰ぐらいまでありそうな髪を頭の上の方で一つに結んだ綺麗な女の人だった。
「きれーなお姉ちゃんだぁ。」
俺の前にいるエマたちが見惚れて呟いていた。確かにあんな綺麗な人は、この村にもいないし立ち寄る客たちの中でも見た事は無かった。
綺麗だけれど、マントから見える服装は冒険者のような格好だな、と思っていたら、またいつもの言葉が聞こえてきた。
「何もない村ねぇ。」
派手な格好の女3人組は、バカにした様に周囲を見渡しながら俺たちの前を通り過ぎ、フードの男と一緒に村に入って行った。
「何も無い村で悪かったなぁっ。」
ボソリと口から出た言葉は、そのすぐ後ろを歩いていく綺麗な女の人にも聞こえたかも知れない。俺の方をチラッと見た気がしたからだ。
思わず声に出してしまったのは怒りよりも、後から思えば、この人に何もない村だと思われるのが恥ずかしい、という気持ちがどこかにあったのかも知れない。
だって俺はこの時にはたぶん・・・。
エマたちは綺麗なお姉ちゃんに構って欲しかったのか、トイレを案内し、出てきたらまた近寄って、手を引っ張って切り株に座らせて話始めた。
エマたちにちゃんと向き合う為か、女の人は綺麗な顔を隠していたフードを取って面と向かいあった。
「ごめんね。お花は要らないの。」
そう言ってアンナの持つ小さな花束を断った声に、この人も俺たちの村をバカにするのか、と八つ当たりなのか、恥ずかしさからなのか、カッとなって声を荒げてしまった。
女の人はそんな俺の言葉にも気にせずアンナたちに『何故、花束が要らないのか?』をわかりやすく説明してくれた。
同情でいいから買って貰えればいい、ぐらいに思っていた花束だった。
でも、『何故売れないのか?』は深く考えた事なんて無かった。最近では『バカにされる程度の花だから』と思うようにもなっていた。
「この村、本当に何も無いの?気付いていないだけかもよ。」
この言葉にも俺はつい反発して『川が綺麗な事ぐらいだ』と、怒鳴ってしまった。
村を少し出た東の森近くには、幅2メートル程の小さい川が流れていた。村の生活水にも使われている川は、周囲や上流の方にも人が住んでいないせいか、透明度の高い川だった。
その話から女の人はケンたちと会話し、ケンたちの言葉から俺たちの村の可能性について、次々にアイデアを出して示してくれた。
たぶん、ケンたちと楽しいおしゃべりをしているように振る舞いながら、俺に向かって話してくれていたんだと思う。
捻くれた俺が否定的な言葉を吐いても頷きながら違う事を考えてくれたり、『客が何を欲しがっているのか』、『何に困っているのか』を考える事が、商売に繋がる事をそれとなく教えてくれた。
初めてきた村で、もう訪れる事も無いだろう、こんなちっぽけな村に住む俺たちに、何故、こんなによくしてくれるのか、不思議で気になった。そうして聞いた答えは
「私ね、エトリナ商会を立ち上げた商人なの。」
「商人だから、ここで商売をしている君たちにちょっとしたアドバイスをしたくなったの。」
彼女は更に俺にアドバイスをしてくれた。俺がやってきた事にも気づいてくれていた事が嬉しかった。
それからケンたちが持ってきたクッションを笑顔で全部買い取ってくれた。お古のクッションを破格の値段で。
出発時間が近づいたらしい彼女は
「いつかまたこの村に来るわ。楽しみにしているね。」
「さよなら」じゃなくてそう言った彼女の笑顔に見惚れて、まだ名前を聞いていなかった事を思い出して慌てて聞いた。
エトリナ商会のティアナ・・・・。
「手紙をくれたら返事を書くよ。またね。」
笑って手を振ってティアナは馬車に歩きだした。
思わずティアナの方に走り出して腕を取り、振り向いたティアナの頬に口づけたのはその場の勢いってやつだ。
でも、ティアナに宣言した『成人したらティアナの下で働く。』という言葉は、たった今決めた俺の目標になった。
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