捨てられ令嬢は屋台を使って町おこしをする。

しずもり

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イケアの街と面倒事

深く考えない人

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唐揚げの味見を終えた騎士団の人たちとレベッカさんはラリーさんを連れて詰所へと戻って行った。

ラリーさんについては書類の処理が終われば、すぐにでもピレネー子爵家預かりになる、との事だった。


お昼時間をかなり過ぎた頃、再び騎士団長トーマスさんが『まんぷく亭』のリサさんとダニエルさんを連れてピレネー邸へとやって来た。たぶんお昼の仕事を終えてから来たのだろう。


応接室に通された二人は私の姿を見つけるとホッと安堵の表情を浮かべた。


「なんだ、やっぱりそんなに心配する事は無かったのね。」


リサさんのその言葉に、クリスの雰囲気がピリリと変わる。ロイドさんは表情を変えてはいないけれど、スッと目を細めている。ロイドさん的には自分のやらかしもあるから責める事は出来ないけれど、って感じかな。


でも二人が浮かべた安堵の表情は残念ながら同じ気持ちでは無かったんだろうね。ダニエルさんの顔から安堵の表情が消えて眉間に皺が寄った事にリサさんは気付いていない。


「私も簡単にアンタにあの男を紹介しちゃって悪かったとは思うわよ。でもちょっと大騒ぎしすぎよね。

私もこれからは安請け合いしないように気をつけるわ。」


これはちっとも反省していないよね。リサさんがホッとしたのは自分がもう責められることはない、という思いからだろうなぁ。


私が行方不明になったのは知っていても、どんな事が起きていたかは知られていないし、トーマスさんからも聞かされてはいないのだろう。


チャーリーちょび髭の裁判は行われても庶民には事件そのものは知らされない。だって貴族の起こした犯罪をいちいち公表していたら貴族への反感が高まって貴族全体の立場が危うくなるからね。特に庶民相手の犯罪なんかはね。


でもさ、知らなくてももう少し心配してくれたり反省の意を表して欲しかったなぁ。


「・・・・銀貨10枚。」

私がボソリと呟けば、ビクリとリサさんの肩が跳ね上がる。

この様子だと誰にも言っていなかったみたいだ。


でも私の言葉とリサさんの態度でこの場に居る人たちには、『銀貨10枚』の言葉の意味は分かったと思うよ。


「リサさん、私は運が良かっただけです。二度とこのような事はしないで下さいね。」


「わ、分かっているわよ!料理のアドバイスを聞きたいって言うから信じてしまっただけなんだからっ!店に騎士団の人が来て、こっちだって大変だったんだからね。」


リサさん~、これ以上クリスを怒らせないで?


相変わらずなリサさんに怒りよりも呆れて苦笑してしまう。この人、私だけじゃなくて誰にでも謝れない人なのかな?

お店に行った時はレシピの押し売りで気分を害してたからだけじゃなくて元々こういう性格だった?


「ティアナさん、この度はウチのやつが本当に済まなかった。このまま騎士団に捕縛されても仕方のない事だと思っている。

だが、出来れば幾分かは軽い罰にしてやってくれないだろうか?

勿論、コイツにはしっかりと言い聞かせて反省させる。考え無しだが根は悪いヤツじゃ無いんだ。」


このままで私が怒ってリサさんを訴えたり罰を要求すると思ったのか、ダニエルさんが私に深々と頭を下げた。


「ちょっ、ちょっと!何もダニーがそんな事をする必要ないよ。だってこの子は無事だったのよ?だから問題無いじゃない。」


ダニエルさんが頭を下げてまでリサさんを庇っているのに、どうしてリサさんには分からないんだろう?

私が無事だった事で、罪の意識なんて吹っ飛んでしまったのか、それとも元から無かったのか。


ここまで来ると正直、ダニエルさんはリサさんのどこが良いんだろう、と思ってしまうよ。勿論、きっと良い所も私が知らないだけで沢山あるのだろうけど。

そろそろクリスが切れそうだから話を終わらせないといけないかな。


「そうですね。幸い私は無事でしたのでリサさんを訴えるつもりはありません。」


私の言葉にトーマスさんは『えっ!?』って顔をする。お金まで受け取って私を誘い出しているから、何かしらのお咎めがあってもおかしくはない。しかも結局、お金を受け取っている事は今も言う気はないみたいだしね。


「でも、しっかりと反省はして頂きたいので罰は受けて貰おうかと思っています。」

「勿論、分かっている。俺も出来る限り一緒に償うつもりだ。」

「はぁっ?無事だったんだからいいじゃない!」

この二人は、、、本当にこの先も上手くやっていけるのだろうか。他人事ながら心配になってくるよ。


「そんな大した罰じゃありませんよ。今後一年間、エトリナ商会が登録する料理レシピについて、『まんぷく亭』さんには販売しません。

あ、既に購入されたレシピについてはそのまま利用して構いません。

一年経ったら購入出来る様に商業ギルドには伝えておきます。」


私のレシピじゃなくたって、沢山のレシピが登録されているからそんなに困る事は無いとは思う。

でもさ、信頼を損なうような事があって反省もしていないなら、これ以上、取引は出来ないという意思表示は必要だと思う。

罪の意識も謝罪も無い相手に笑って許すのは相手の為にはならない。事の重大性に気付いて欲しいけれど、私が言った所で素直に耳を傾ける事も無ければ、今はダニエルさんの言葉でさえ届いてはいない。

ならば私は『許す』とは言わずに、『罰』を言い渡す。リサさんがキチンと自分のした事に向き合って欲しくて。


「分かった、いや、分かりました。」


「はっ!?何それ、こっちは謝ってるのに。フンっ、アンタのレシピなんて買わなくても問題無いわよ!」


ちゃんと謝ってはいないよ、リサさん。


ダニエルさんは私にもう一度頭を下げると、ブツブツ文句を言っているリサさんの腕を引き部屋を出て行った。


許す、許さないではなくて、最後まで謝罪の言葉が無かった事を残念に思う。私は去って行くリサさんに、『同じ過ちを繰り返さないで。』とただ願うしかなかった。
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