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ログワ村
彼女の気持ちが分からない side クリスフォード
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俺はあのおっさん冒険者に担がれたんだ、きっとそうだ。
別に本人から何か言われた訳じゃないし、今まで匂わせも迫られた事もない。男女の二人旅でも至って健全に過ごしていたんだ。きっとおっさんの悪い冗談だったんだ。
ティアナの事を考えるのを放棄して、そういう結論に達したのは、乗合馬車を降りて、目の前には道の両側に木々が生い茂る森が広がっているだけの景色を見た時だった。
家の一つも見えない景色に確かにこんなところまで来る商人は中々いないだろうと思った。
それにいくらこの先に村があるから大丈夫だろう、と思っていたって、森から魔物が出てくる可能性だってゼロじゃない。だから余計な事は考えずに警戒を怠らない方がいい。
そう思いながらティアナの横を歩いた。本当は先頭を歩く男の後ろをティアナ、そしてその後ろを俺が歩いた方がいいのだろうが、何故か何度促してもティアナは俺の横を歩きたがる。
まさか、、、な。
おっさん冒険者の顔が脳裏にチラついたのは無意識に言葉の方を敢えて考えないようにしていたからか?
なんて考えていた時に急に左手の袖が引っ張られた。引っ張ったのは当然、ティアナしかいない訳で。
思わず挙動不審にはなっていないよな、俺。
そうしていつものようにティアナに声をかければーー。
「あ、あのね。ちょっとこの道が歩きにくくて。クリスの腕に掴まって歩いてもいいかなぁ?」
何の真似だっ、ティアナ!?
上目遣いで見上げてくるティアナに思わず空いている手で出掛かった言葉を抑えるように自分の口をふさぐ。
ティアナの言葉に前を歩く男がニヤつきながら声を掛けてくる。その態度にムカつくよりも『やっぱりなのかっ!』という気持ちが胸に広がる。
ティアナが掴んでいる左手を意識しないように歩こうとすると歩みが何故かゆっくりになる。
まぁ、ティアナは俺より歩くのが遅いからちょうど良いか。
「あぁっ!」
暫くしてティアナがなんとも言えない声を出して俺の腕にキツくしがみついてきた。
「ど、どうしたっ!?」
他人の目もあるのに、一体どうしたんだ、ティアナ!?
いつもとは違うティアナの謎の行動に大きく動揺する。
「ご、ごめんね、クリス。何でもないよ。私、もっと早く歩けるから急いでルイさんの村に行こう?」
そう言いながらも目を潤ませて俺を見上げてくるティアナに、どう接するべきか迷いが生まれる。
もしティアナの気持ちがそうなら俺は一体どうすればいいんだ?
どうあっても俺はまだティアナの側を離れるつもりは無い。まだティアナは俺が守るべき人間だと思っている。だがーー。
ティアナの言葉で急かされていた訳ではないが、気付いたら村に到着していた。
男の村、ログワ村はどの家も、家と木々が一体となっているのかと思うほど、塀や柵ではなく木々が家をグルッと囲んでいる。もしかして本当に塀の代わりかもしれないな。
村に着いてやっと冷静に考えられるようになった、と思った時に、ティアナが俺の胸に飛び込んで来て放った言葉に俺の思考は停止した。
「・・・・・クリス、抱っこ。足、痛いから、抱っこ、シテ。」
ティアナっ、お前は一体誰なんだっ!?
・・・・かなり動揺していたらしい。
いや、ティアナ本人で間違いない。
確かに少し前から中身は別人に近いものだが、、、、。
もしかしてティアナは俺に前のティアナとは違うと言いたいのか?
今の私を見て、と。
などとごちゃごちゃ考えていたら気付いたらティアナを抱っこしてルイという男の家の前まで来ていた。
何故だっ!?
専属侍従だった頃に世話をしていた癖が抜けていなかったのか?
心の動揺を悟られないように、努めていつものように振る舞おうとしているが大丈夫だよな?いつも通りの俺だよな?
ルイの家はこの村の村長の家だけあって、周囲の家よりも二回りほどある木造の大きな家で、高さ的には屋根裏部屋のある二階建ての家のようだった。
たぶん、そう多くは使われる機会はないのだろうが、領主などが来た時用の客間が用意されているんだろう。
間口の広い玄関には農器具などが置かれてザルには白い何かが無造作に積まれている。
ティアナはこういう家に入るのは初めての為か、辺りをキョロキョロと眺めたり、ジィっと何かを見つめている。
ルイの声で奥から両親と妻らしき人が出て来て挨拶をしてきたが、人懐っこいティアナにしては珍しく口数が少ない。
後からルイの息子らしい子どもが二人やって来て、一瞬ティアナに見惚れた後で、ティアナに卵のような物を投げつけてきた。たぶん照れ隠しからの行動だったんだろう。
ティアナもいきなりの事で驚いて声も出せずに固まっていたが、平謝りする母親とルイに強張った笑顔ではあるものの怒ってはいないようだった。
けれど本当に今日のティアナはどこかおかしい。特にこの村に入ってからは、何か思い詰めた表情で心ここに在らず、といった雰囲気で話す言葉もぎこちない。
「そうだ。今夜、泊まる部屋はどうしますか?
二階の部屋はどれも使えますが、別々の部屋にしますか?
それとも同じ部屋にしますか?」
ルイがそう聞いてきたのは、きっとティアナの態度で恋人同士か何かだと勘違いしての事だろう。
あまり信用出来ない宿屋や野営なら一緒空間で寝る事はあるが、それ以外の時は当然だが別々に泊まっている。
「あぁ、別々のーー。」
俺がそう言いかけた時、ティアナが物凄い勢いで言った言葉にまたも思考が停止する。
「同じ部屋でお願いしますっ!出来れば一番大きな部屋でっ!」
ティアナっ、何故、大きな部屋が必要なんだっ!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
次のティアナ視点からは虫の話が出てきます。
気持ち悪い描写はなるべく避けたいと思っていますが、虫の生態、とあるエピソードの描写等で、もしかしたら苦手な人がいるかも知れません。
苦手な部分はすっ飛ばし読みで対処をお願いします。
別に本人から何か言われた訳じゃないし、今まで匂わせも迫られた事もない。男女の二人旅でも至って健全に過ごしていたんだ。きっとおっさんの悪い冗談だったんだ。
ティアナの事を考えるのを放棄して、そういう結論に達したのは、乗合馬車を降りて、目の前には道の両側に木々が生い茂る森が広がっているだけの景色を見た時だった。
家の一つも見えない景色に確かにこんなところまで来る商人は中々いないだろうと思った。
それにいくらこの先に村があるから大丈夫だろう、と思っていたって、森から魔物が出てくる可能性だってゼロじゃない。だから余計な事は考えずに警戒を怠らない方がいい。
そう思いながらティアナの横を歩いた。本当は先頭を歩く男の後ろをティアナ、そしてその後ろを俺が歩いた方がいいのだろうが、何故か何度促してもティアナは俺の横を歩きたがる。
まさか、、、な。
おっさん冒険者の顔が脳裏にチラついたのは無意識に言葉の方を敢えて考えないようにしていたからか?
なんて考えていた時に急に左手の袖が引っ張られた。引っ張ったのは当然、ティアナしかいない訳で。
思わず挙動不審にはなっていないよな、俺。
そうしていつものようにティアナに声をかければーー。
「あ、あのね。ちょっとこの道が歩きにくくて。クリスの腕に掴まって歩いてもいいかなぁ?」
何の真似だっ、ティアナ!?
上目遣いで見上げてくるティアナに思わず空いている手で出掛かった言葉を抑えるように自分の口をふさぐ。
ティアナの言葉に前を歩く男がニヤつきながら声を掛けてくる。その態度にムカつくよりも『やっぱりなのかっ!』という気持ちが胸に広がる。
ティアナが掴んでいる左手を意識しないように歩こうとすると歩みが何故かゆっくりになる。
まぁ、ティアナは俺より歩くのが遅いからちょうど良いか。
「あぁっ!」
暫くしてティアナがなんとも言えない声を出して俺の腕にキツくしがみついてきた。
「ど、どうしたっ!?」
他人の目もあるのに、一体どうしたんだ、ティアナ!?
いつもとは違うティアナの謎の行動に大きく動揺する。
「ご、ごめんね、クリス。何でもないよ。私、もっと早く歩けるから急いでルイさんの村に行こう?」
そう言いながらも目を潤ませて俺を見上げてくるティアナに、どう接するべきか迷いが生まれる。
もしティアナの気持ちがそうなら俺は一体どうすればいいんだ?
どうあっても俺はまだティアナの側を離れるつもりは無い。まだティアナは俺が守るべき人間だと思っている。だがーー。
ティアナの言葉で急かされていた訳ではないが、気付いたら村に到着していた。
男の村、ログワ村はどの家も、家と木々が一体となっているのかと思うほど、塀や柵ではなく木々が家をグルッと囲んでいる。もしかして本当に塀の代わりかもしれないな。
村に着いてやっと冷静に考えられるようになった、と思った時に、ティアナが俺の胸に飛び込んで来て放った言葉に俺の思考は停止した。
「・・・・・クリス、抱っこ。足、痛いから、抱っこ、シテ。」
ティアナっ、お前は一体誰なんだっ!?
・・・・かなり動揺していたらしい。
いや、ティアナ本人で間違いない。
確かに少し前から中身は別人に近いものだが、、、、。
もしかしてティアナは俺に前のティアナとは違うと言いたいのか?
今の私を見て、と。
などとごちゃごちゃ考えていたら気付いたらティアナを抱っこしてルイという男の家の前まで来ていた。
何故だっ!?
専属侍従だった頃に世話をしていた癖が抜けていなかったのか?
心の動揺を悟られないように、努めていつものように振る舞おうとしているが大丈夫だよな?いつも通りの俺だよな?
ルイの家はこの村の村長の家だけあって、周囲の家よりも二回りほどある木造の大きな家で、高さ的には屋根裏部屋のある二階建ての家のようだった。
たぶん、そう多くは使われる機会はないのだろうが、領主などが来た時用の客間が用意されているんだろう。
間口の広い玄関には農器具などが置かれてザルには白い何かが無造作に積まれている。
ティアナはこういう家に入るのは初めての為か、辺りをキョロキョロと眺めたり、ジィっと何かを見つめている。
ルイの声で奥から両親と妻らしき人が出て来て挨拶をしてきたが、人懐っこいティアナにしては珍しく口数が少ない。
後からルイの息子らしい子どもが二人やって来て、一瞬ティアナに見惚れた後で、ティアナに卵のような物を投げつけてきた。たぶん照れ隠しからの行動だったんだろう。
ティアナもいきなりの事で驚いて声も出せずに固まっていたが、平謝りする母親とルイに強張った笑顔ではあるものの怒ってはいないようだった。
けれど本当に今日のティアナはどこかおかしい。特にこの村に入ってからは、何か思い詰めた表情で心ここに在らず、といった雰囲気で話す言葉もぎこちない。
「そうだ。今夜、泊まる部屋はどうしますか?
二階の部屋はどれも使えますが、別々の部屋にしますか?
それとも同じ部屋にしますか?」
ルイがそう聞いてきたのは、きっとティアナの態度で恋人同士か何かだと勘違いしての事だろう。
あまり信用出来ない宿屋や野営なら一緒空間で寝る事はあるが、それ以外の時は当然だが別々に泊まっている。
「あぁ、別々のーー。」
俺がそう言いかけた時、ティアナが物凄い勢いで言った言葉にまたも思考が停止する。
「同じ部屋でお願いしますっ!出来れば一番大きな部屋でっ!」
ティアナっ、何故、大きな部屋が必要なんだっ!?
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
次のティアナ視点からは虫の話が出てきます。
気持ち悪い描写はなるべく避けたいと思っていますが、虫の生態、とあるエピソードの描写等で、もしかしたら苦手な人がいるかも知れません。
苦手な部分はすっ飛ばし読みで対処をお願いします。
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