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ハドソン領 領都
ハドソン伯爵 1
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「私とティアナの母親、ローズマリーについて話をする前に一つだけジョセフに聞いておきたい事がある。
あぁ、ハンナが答えてくれてもいい。
ジョセフ、ハンナ。お前たちは先代伯爵の時よりハドソン伯爵家に仕えてくれていた。当家への忠誠心を疑った事は一度もない。
ジョセフの家は代々ハドソン家に仕える家系で、ハンナは私の乳母であった。そして私の成長後もメイド長としてずっとこの屋敷で働いてくれている。
二人が私の事を我が子の様に大切に想ってくれているのも知っているし感謝もしている。」
「勿体なきお言葉です。勝手ながら私どもは、命尽きるまでチャールズ様の側近くで、貴方様をお支えする事こそを至上の喜びとし日々お仕えさせて頂いております。」
命尽きるまで、って重っ!
ハンナさんも伯爵の乳母をしていたなら、伯爵を我が子のように大事に思う気持ちは分かる。でも伯爵に対する二人の想いは暴走気味だよねぇ。
「・・・・ありがとう。
だが、ジョセフ、ハンナ。君たちから見て私は婚約を申し込んでいた相手に捨てられたぐらいで女性不信に陥るような弱い人間に見えていたのかな?」
伯爵の言葉にバーナード様はハッと息を呑み、コーナン侯爵令嬢は『あら、まぁ!』というような表情をしている。
彼女は私がこの屋敷の使用人たちに嫌われているのもその理由も聞いていなかったみたいだね。通りで私に悪意を向けてこない訳だ。
まぁ、知っていたとしても彼女は部外者だし、この屋敷の使用人たちほどハドソン伯爵に心酔してもいないんだろうね。
彼女が知らなかったのは伯爵が愛する人から捨てられた側だ、というのを言いたくなかったからかも?
貴族社会で噂になっていたかどうかは知らないけど、他人に知られたくない醜聞ではあるだろうからね。
ハドソン伯爵家はバーナード様を後継者として養子に迎えている。
だけどハドソン伯爵家に忠誠を誓っていたジョセフさんたちにとっては、伯爵が子を成し次代へと血を繋いでいく機会を奪った(と思っている)お母様の事が許せなかったんだろう。
許せないからこそ、その女の娘も憎し!だったんだろうから。
「っ!チャールズ様、それは、、、。」
「そ、それはあの時チャールズ坊っちゃまが酷く落ち込んでいらしたからですわ。
それ以降、持ち込まれた縁談も断り続けていましたし、、、。
あの女、あの女の所為でっ。」
昨日の出来事のように思い出したのか、ハンナさんは話す内に段々と怒りの表情になっていった。
二十年ぐらい前の話なのに、それでもここまで憤っているハンナさんを見てしまうと、お母様の娘の私に対する態度も理解出来るような、、、、。
だからってそれを甘んじて受ける気にはならないけど。
「はははっ。ハンナに" 坊っちゃま "と呼ばれるのも何十年振りだろうね。」
「も、申し訳ありません。つい昔の癖が。」
「いいよ、いいよ。ハンナも、ジョセフも私を赤子の頃から知っているし、それこそ親の様に愛情を注いで貰っている事も分かっているよ。」
笑い声さえ上げて話す伯爵に二人の表情が少しだけ誇らしげに口元が緩んだ。
だけど、続いて伯爵の口から出てきた言葉に二人は絶句する。
「でも私の大事な友人を、ましてや侯爵夫人だった人をあの女などと呼ぶのはどうかと思うよ。
伯爵家の使用人如きがさ。
きっと二人の中の私はいつまでも" ハドソン伯爵家の大事なお坊っちゃま "のままだったんだろうねぇ。
だから君たちは本当の私を知ることなく、勝手な思い違いをしてしまったんだ。
私はね、マリィの事を大切な友人だと思ってはいたけれど、彼女を一人の女性として愛したことは一度もなかったんだ。
第一、君たちは彼女が私を裏切ってコスト侯爵と結婚した、と思っているようだけれど、そもそも順番が違う。
彼女に婚約を打診してきたコスト侯爵家を出し抜いて、私がマリィと先に婚約しようとしていたんだよ。」
トンデモない事を何でもない事のように伯爵は言っているけれど、ジョセフさんとハンナさんは更に驚愕して固まってしまっている。
二人とも大丈夫かな?倒れちゃったりしないよね?
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」及びエールでの応援をいつもありがとうございます。
あぁ、ハンナが答えてくれてもいい。
ジョセフ、ハンナ。お前たちは先代伯爵の時よりハドソン伯爵家に仕えてくれていた。当家への忠誠心を疑った事は一度もない。
ジョセフの家は代々ハドソン家に仕える家系で、ハンナは私の乳母であった。そして私の成長後もメイド長としてずっとこの屋敷で働いてくれている。
二人が私の事を我が子の様に大切に想ってくれているのも知っているし感謝もしている。」
「勿体なきお言葉です。勝手ながら私どもは、命尽きるまでチャールズ様の側近くで、貴方様をお支えする事こそを至上の喜びとし日々お仕えさせて頂いております。」
命尽きるまで、って重っ!
ハンナさんも伯爵の乳母をしていたなら、伯爵を我が子のように大事に思う気持ちは分かる。でも伯爵に対する二人の想いは暴走気味だよねぇ。
「・・・・ありがとう。
だが、ジョセフ、ハンナ。君たちから見て私は婚約を申し込んでいた相手に捨てられたぐらいで女性不信に陥るような弱い人間に見えていたのかな?」
伯爵の言葉にバーナード様はハッと息を呑み、コーナン侯爵令嬢は『あら、まぁ!』というような表情をしている。
彼女は私がこの屋敷の使用人たちに嫌われているのもその理由も聞いていなかったみたいだね。通りで私に悪意を向けてこない訳だ。
まぁ、知っていたとしても彼女は部外者だし、この屋敷の使用人たちほどハドソン伯爵に心酔してもいないんだろうね。
彼女が知らなかったのは伯爵が愛する人から捨てられた側だ、というのを言いたくなかったからかも?
貴族社会で噂になっていたかどうかは知らないけど、他人に知られたくない醜聞ではあるだろうからね。
ハドソン伯爵家はバーナード様を後継者として養子に迎えている。
だけどハドソン伯爵家に忠誠を誓っていたジョセフさんたちにとっては、伯爵が子を成し次代へと血を繋いでいく機会を奪った(と思っている)お母様の事が許せなかったんだろう。
許せないからこそ、その女の娘も憎し!だったんだろうから。
「っ!チャールズ様、それは、、、。」
「そ、それはあの時チャールズ坊っちゃまが酷く落ち込んでいらしたからですわ。
それ以降、持ち込まれた縁談も断り続けていましたし、、、。
あの女、あの女の所為でっ。」
昨日の出来事のように思い出したのか、ハンナさんは話す内に段々と怒りの表情になっていった。
二十年ぐらい前の話なのに、それでもここまで憤っているハンナさんを見てしまうと、お母様の娘の私に対する態度も理解出来るような、、、、。
だからってそれを甘んじて受ける気にはならないけど。
「はははっ。ハンナに" 坊っちゃま "と呼ばれるのも何十年振りだろうね。」
「も、申し訳ありません。つい昔の癖が。」
「いいよ、いいよ。ハンナも、ジョセフも私を赤子の頃から知っているし、それこそ親の様に愛情を注いで貰っている事も分かっているよ。」
笑い声さえ上げて話す伯爵に二人の表情が少しだけ誇らしげに口元が緩んだ。
だけど、続いて伯爵の口から出てきた言葉に二人は絶句する。
「でも私の大事な友人を、ましてや侯爵夫人だった人をあの女などと呼ぶのはどうかと思うよ。
伯爵家の使用人如きがさ。
きっと二人の中の私はいつまでも" ハドソン伯爵家の大事なお坊っちゃま "のままだったんだろうねぇ。
だから君たちは本当の私を知ることなく、勝手な思い違いをしてしまったんだ。
私はね、マリィの事を大切な友人だと思ってはいたけれど、彼女を一人の女性として愛したことは一度もなかったんだ。
第一、君たちは彼女が私を裏切ってコスト侯爵と結婚した、と思っているようだけれど、そもそも順番が違う。
彼女に婚約を打診してきたコスト侯爵家を出し抜いて、私がマリィと先に婚約しようとしていたんだよ。」
トンデモない事を何でもない事のように伯爵は言っているけれど、ジョセフさんとハンナさんは更に驚愕して固まってしまっている。
二人とも大丈夫かな?倒れちゃったりしないよね?
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」及びエールでの応援をいつもありがとうございます。
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