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白いフードを脱ぎ、瓦礫の上を器用に降りてきたヨーゼフはいつもより疲れた表情を見せながら近寄ってきた。
よく見ると頬や腕に細かな傷がついていた。
先日家に帰ってきたときにはなかったものなので、今回の任務でついたものだろうか。
本当は見える傷だけでも治せたら良いのに、その術を俺は持っていない。
薬箱だって持ってきていないし、気の効いたものなんて何一つない。
さっきまで特訓をしていたため、ステッキは持っているが俺からしてみればただの棒だ。
「ゲルハルト先生、何でこんな危ない所にイヴを連れてきたんですか?」
近付いてきたと思ったら大きな青い瞳をゲルハルトに向けたヨーゼフの背に隠された。
何故ゲルハルトから距離を取るようにしたのか、分からないが守られているのは分かった。
それが気に食わないが、こんな所で感情的に騒いで彼らの足手まといになるのは避けたい。
周りを見たところ、見覚えのない土地だし自力で帰るのは不可能だ。
「ヨーゼフの制御が解除されるんじゃないかと思ってね」
「先輩の思い付きって当たり外れが激しいですよね」
遅れてエクベルトが俺の横に腰に手を当てて立っていた。
呆れ顔のエクベルトの顔を見上げれば、茶色の髪に真っ黒な瞳だった。
「今回は当たりだと思うけどね」
口角を上げて笑うゲルハルトに、エクベルトは大きな溜め息を吐いた後、俺の方に顔を向けた。
「何だかヨーゼフから話を聞いていたから初めてという気がしないのだけど、自己紹介をしておこうかな。私はエクベルト・スアレス。これでも一応、上級の魔法使いでヨーゼフの先生だよ。よろしくね、イヴ君」
そう言って大きな手を差し出された。
ゴツゴツとしたその手と目元を弛ませたエクベルトの顔を交互に見てから恐る恐る手を差し出した。
「イヴです、よろしくお願いします」
包まれた手のひらが予想外に温かく、遠い記憶にあった祖母のことが脳裏に浮かんでは消えた。
よく見ると頬や腕に細かな傷がついていた。
先日家に帰ってきたときにはなかったものなので、今回の任務でついたものだろうか。
本当は見える傷だけでも治せたら良いのに、その術を俺は持っていない。
薬箱だって持ってきていないし、気の効いたものなんて何一つない。
さっきまで特訓をしていたため、ステッキは持っているが俺からしてみればただの棒だ。
「ゲルハルト先生、何でこんな危ない所にイヴを連れてきたんですか?」
近付いてきたと思ったら大きな青い瞳をゲルハルトに向けたヨーゼフの背に隠された。
何故ゲルハルトから距離を取るようにしたのか、分からないが守られているのは分かった。
それが気に食わないが、こんな所で感情的に騒いで彼らの足手まといになるのは避けたい。
周りを見たところ、見覚えのない土地だし自力で帰るのは不可能だ。
「ヨーゼフの制御が解除されるんじゃないかと思ってね」
「先輩の思い付きって当たり外れが激しいですよね」
遅れてエクベルトが俺の横に腰に手を当てて立っていた。
呆れ顔のエクベルトの顔を見上げれば、茶色の髪に真っ黒な瞳だった。
「今回は当たりだと思うけどね」
口角を上げて笑うゲルハルトに、エクベルトは大きな溜め息を吐いた後、俺の方に顔を向けた。
「何だかヨーゼフから話を聞いていたから初めてという気がしないのだけど、自己紹介をしておこうかな。私はエクベルト・スアレス。これでも一応、上級の魔法使いでヨーゼフの先生だよ。よろしくね、イヴ君」
そう言って大きな手を差し出された。
ゴツゴツとしたその手と目元を弛ませたエクベルトの顔を交互に見てから恐る恐る手を差し出した。
「イヴです、よろしくお願いします」
包まれた手のひらが予想外に温かく、遠い記憶にあった祖母のことが脳裏に浮かんでは消えた。
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