カランコエの咲く所で

mahiro

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今から十年前、この城の倒壊と同時にノラン一族が全員狙われ、生き残った者は誰もいなかったという。
何故そんなことをされなければならなかったのか、何故ノラン一族が狙われなければならなかったのかは未だ謎なままだ。


「………関わってそうだよね、確かに」


両腕を伸ばしながら椅子から立ち上がったゲルハルト先輩は、目を伏せたまま私の名を呼んだ。


「エクベルト」


「はい」


「その事、イヴにはまだ言うなよ」


温度を感じさせない声音で言われ、あぁ、そうか。イヴさんにはまだあの現場が認識出来ていなかったのだと今更気付かされる。


「言いませんよ」


「なら良いけど」


ヨーゼフが善意でかけたら魔法は、さぞ幸せな世界だったのだろうと思っていたけれど、実際にイヴさんが見ていたのは、常に能力の壁にぶつかる姿で幸せとは言いがたいもののように私には見えた。
確かに一人で暮らすよりも作り物でもヨーゼフが隣にいたことはイヴさんにとって良いものであったかもしれない。
それでも、本来あるべきものがなくなっていたことすら認識できなくしたのは本人にとって幸せだったのだろうか。


「あぁ、あと、言わなくても大丈夫だと思うけど、ヨーゼフのこと頼んだよ」


「? はい、言われずとも勿論」


今更何をいきなり言い出すのかと、思ってゲルハルト先輩を見ると真剣な眼差しで私を見てきた。


「本当は英雄の子供であるヨーゼフを第一に守るのが第一優先だってのも分かるし、英雄である前に俺の恩師でもあったわけなんだから、そちらを優先にしなきゃいけないってのも分かってる。だけど」


薄い唇を強く噛み締め、目力を強めながら言った。


「俺は、二度もあいつを、イヴを失うわけには行かない。だから」
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