きっと、君は知らない

mahiro

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俺はアレシアと違い、大切なひとを目の前で失ったりその逆を経験した後に転生したわけではない。
告白もしていない。

共通点があるとすれば、前世、というべきか、日本という国に男として生まれ、男の先輩に恋をしたことだろうか。

アレシアは2つ上の先輩を、俺は1つ上の先輩を好きになったが、俺は高校の先輩ではなく中学時代にお世話になった先輩を好きになったが、高校は別々の道を歩んだ。
いや高校だけでなく、天寿を全うしてからも会うことはなかった。
 

俺と先輩は中学2年間だけを共にしたただの先輩後輩というだけで、それ以外の交わりを一切持たず過ごしたのだ。



     







先輩にだけ言えない秘密がある。


実は先輩の家族と俺はとある約束をしていた。


「○○君、どうか、○○を大切に思うなら○○の人生に入り込まないでくれ」


それは子を大切に思う親の思いだろう。
まだ中学生の我が子が男の子に道を外されそうになっているのだ。
黙ってみているわけにはいかないだろう。


「お兄ちゃんを傷つけないで!」


妹もひとりしかいない大切な兄を、こんな部活の後輩に取られ、傷つけられることが許さなかったのだろう。
だから俺は。


「分かりました。中学を最後に俺は先輩との関わりを経ちます」


先輩が行くのは地元関西ではなく、都内の高校。
ならば自分は地元の関西の高校に通おう。
部活は中学を最後に終了。
夏休みや冬休みは関西を出て、両親がいる海外へ向かい、学校開始時期に合わせて帰国していた。
大学も都内の学校に通うという情報を得た俺は関西の大学へ進学し、就職は九州の企業で定年、再雇用まで働いた。
俺はその間、誰とも付き合わず、誰とも結婚もしなかった。
先輩も結婚はしなかったが、高校時代に知り合った同級生と付き合い、最期まで添い遂げたらしい。
先輩の妹がお相手に付き合うのをやめろ、と言いに向かったらしいが、兄の幸せな姿を見たら言えずに帰ってしまったのだという。
親としても先輩が心に決めた相手を否定することは出来ず、2人の関係を認めたそうだ。

俺は別にそれを聞いてどうしようとも思わなかった。
ただ、先輩が幸せに過ごしているならそれで良いとさえ思っていた。

先輩の家族との接触は先輩が亡くなったと連絡を受けたときだった。
恋人に見守られながら苦しむことなく亡くなったと聞き、あぁ、それは良かったと心の底から思った。


「…………ごめんなさい」


「○○さん?」


電話口で先輩の妹は泣いていた。
大切な兄が亡くなったのだ。
泣いて当然だと思うが、何故謝るのかが分からなかった。


「私と...……お父さんがあんなこと言わなきゃ、お兄ちゃんの最期を看取ったのは貴方だったのに」


付き合っていたのは貴方だったのに、と震える声でそう言った。


「そんなのは分かりません。そもそも俺は先輩と両思いであったか分かりませんし。それにもし仮に付き合っていても、後輩であった俺にあの人は弱ってる姿を絶対に見せません。きっと、あの人のことですから家族以外面会謝絶にし自分が弱っていく姿なんて見せなかったと思います」


それを恋人には許したのだ。
弱さを見せられる存在だったのだ。
俺には到底出来ないそれをやってのける存在に俺が勝てるわけないじゃないか。


「それでも、その可能性を消したのは私たちよ………!」


「そうかもしれません。ですが、俺は後悔していません。俺では一生与えられなかったものを大切な恋人から与えられ、あの人は幸せな人生を歩めたのですから。だから、気にしないでください」


俺がそう言うと更に泣き出してしまったので、泣き止むまでの間、俺は黙って彼女が落ち着くまで待つことにした。
それから暫くして、やっと落ち着いたのか彼女は俺には聞き取れないほど小さな声で何かを呟いた。


「すみません、聞き取れず」


もう一回、と言ったのに彼女はそれに答えてはくれなかった。
それから数年後、俺はひとり穏やかに最期を迎えることが出来た。


はずだったのだが、気付けば見知らぬ世界で赤ん坊になっていて、聞いたことのない言葉に戸惑った。
暫くして言葉を理解できるようになり、喋れるようになり、本を読めるまでになった。
それからは早かった。
本からの知識やこの世界の親から得た情報などを整理し、必要なものは全て得ることができた。


それから程なくして、俺はアレシアと出会った。
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