31 / 174
001 F
しおりを挟む
俺はアレシアと違い、大切なひとを目の前で失ったりその逆を経験した後に転生したわけではない。
告白もしていない。
共通点があるとすれば、前世、というべきか、日本という国に男として生まれ、男の先輩に恋をしたことだろうか。
アレシアは2つ上の先輩を、俺は1つ上の先輩を好きになったが、俺は高校の先輩ではなく中学時代にお世話になった先輩を好きになったが、高校は別々の道を歩んだ。
いや高校だけでなく、天寿を全うしてからも会うことはなかった。
俺と先輩は中学2年間だけを共にしたただの先輩後輩というだけで、それ以外の交わりを一切持たず過ごしたのだ。
先輩にだけ言えない秘密がある。
実は先輩の家族と俺はとある約束をしていた。
「○○君、どうか、○○を大切に思うなら○○の人生に入り込まないでくれ」
それは子を大切に思う親の思いだろう。
まだ中学生の我が子が男の子に道を外されそうになっているのだ。
黙ってみているわけにはいかないだろう。
「お兄ちゃんを傷つけないで!」
妹もひとりしかいない大切な兄を、こんな部活の後輩に取られ、傷つけられることが許さなかったのだろう。
だから俺は。
「分かりました。中学を最後に俺は先輩との関わりを経ちます」
先輩が行くのは地元関西ではなく、都内の高校。
ならば自分は地元の関西の高校に通おう。
部活は中学を最後に終了。
夏休みや冬休みは関西を出て、両親がいる海外へ向かい、学校開始時期に合わせて帰国していた。
大学も都内の学校に通うという情報を得た俺は関西の大学へ進学し、就職は九州の企業で定年、再雇用まで働いた。
俺はその間、誰とも付き合わず、誰とも結婚もしなかった。
先輩も結婚はしなかったが、高校時代に知り合った同級生と付き合い、最期まで添い遂げたらしい。
先輩の妹がお相手に付き合うのをやめろ、と言いに向かったらしいが、兄の幸せな姿を見たら言えずに帰ってしまったのだという。
親としても先輩が心に決めた相手を否定することは出来ず、2人の関係を認めたそうだ。
俺は別にそれを聞いてどうしようとも思わなかった。
ただ、先輩が幸せに過ごしているならそれで良いとさえ思っていた。
先輩の家族との接触は先輩が亡くなったと連絡を受けたときだった。
恋人に見守られながら苦しむことなく亡くなったと聞き、あぁ、それは良かったと心の底から思った。
「…………ごめんなさい」
「○○さん?」
電話口で先輩の妹は泣いていた。
大切な兄が亡くなったのだ。
泣いて当然だと思うが、何故謝るのかが分からなかった。
「私と...……お父さんがあんなこと言わなきゃ、お兄ちゃんの最期を看取ったのは貴方だったのに」
付き合っていたのは貴方だったのに、と震える声でそう言った。
「そんなのは分かりません。そもそも俺は先輩と両思いであったか分かりませんし。それにもし仮に付き合っていても、後輩であった俺にあの人は弱ってる姿を絶対に見せません。きっと、あの人のことですから家族以外面会謝絶にし自分が弱っていく姿なんて見せなかったと思います」
それを恋人には許したのだ。
弱さを見せられる存在だったのだ。
俺には到底出来ないそれをやってのける存在に俺が勝てるわけないじゃないか。
「それでも、その可能性を消したのは私たちよ………!」
「そうかもしれません。ですが、俺は後悔していません。俺では一生与えられなかったものを大切な恋人から与えられ、あの人は幸せな人生を歩めたのですから。だから、気にしないでください」
俺がそう言うと更に泣き出してしまったので、泣き止むまでの間、俺は黙って彼女が落ち着くまで待つことにした。
それから暫くして、やっと落ち着いたのか彼女は俺には聞き取れないほど小さな声で何かを呟いた。
「すみません、聞き取れず」
もう一回、と言ったのに彼女はそれに答えてはくれなかった。
それから数年後、俺はひとり穏やかに最期を迎えることが出来た。
はずだったのだが、気付けば見知らぬ世界で赤ん坊になっていて、聞いたことのない言葉に戸惑った。
暫くして言葉を理解できるようになり、喋れるようになり、本を読めるまでになった。
それからは早かった。
本からの知識やこの世界の親から得た情報などを整理し、必要なものは全て得ることができた。
それから程なくして、俺はアレシアと出会った。
告白もしていない。
共通点があるとすれば、前世、というべきか、日本という国に男として生まれ、男の先輩に恋をしたことだろうか。
アレシアは2つ上の先輩を、俺は1つ上の先輩を好きになったが、俺は高校の先輩ではなく中学時代にお世話になった先輩を好きになったが、高校は別々の道を歩んだ。
いや高校だけでなく、天寿を全うしてからも会うことはなかった。
俺と先輩は中学2年間だけを共にしたただの先輩後輩というだけで、それ以外の交わりを一切持たず過ごしたのだ。
先輩にだけ言えない秘密がある。
実は先輩の家族と俺はとある約束をしていた。
「○○君、どうか、○○を大切に思うなら○○の人生に入り込まないでくれ」
それは子を大切に思う親の思いだろう。
まだ中学生の我が子が男の子に道を外されそうになっているのだ。
黙ってみているわけにはいかないだろう。
「お兄ちゃんを傷つけないで!」
妹もひとりしかいない大切な兄を、こんな部活の後輩に取られ、傷つけられることが許さなかったのだろう。
だから俺は。
「分かりました。中学を最後に俺は先輩との関わりを経ちます」
先輩が行くのは地元関西ではなく、都内の高校。
ならば自分は地元の関西の高校に通おう。
部活は中学を最後に終了。
夏休みや冬休みは関西を出て、両親がいる海外へ向かい、学校開始時期に合わせて帰国していた。
大学も都内の学校に通うという情報を得た俺は関西の大学へ進学し、就職は九州の企業で定年、再雇用まで働いた。
俺はその間、誰とも付き合わず、誰とも結婚もしなかった。
先輩も結婚はしなかったが、高校時代に知り合った同級生と付き合い、最期まで添い遂げたらしい。
先輩の妹がお相手に付き合うのをやめろ、と言いに向かったらしいが、兄の幸せな姿を見たら言えずに帰ってしまったのだという。
親としても先輩が心に決めた相手を否定することは出来ず、2人の関係を認めたそうだ。
俺は別にそれを聞いてどうしようとも思わなかった。
ただ、先輩が幸せに過ごしているならそれで良いとさえ思っていた。
先輩の家族との接触は先輩が亡くなったと連絡を受けたときだった。
恋人に見守られながら苦しむことなく亡くなったと聞き、あぁ、それは良かったと心の底から思った。
「…………ごめんなさい」
「○○さん?」
電話口で先輩の妹は泣いていた。
大切な兄が亡くなったのだ。
泣いて当然だと思うが、何故謝るのかが分からなかった。
「私と...……お父さんがあんなこと言わなきゃ、お兄ちゃんの最期を看取ったのは貴方だったのに」
付き合っていたのは貴方だったのに、と震える声でそう言った。
「そんなのは分かりません。そもそも俺は先輩と両思いであったか分かりませんし。それにもし仮に付き合っていても、後輩であった俺にあの人は弱ってる姿を絶対に見せません。きっと、あの人のことですから家族以外面会謝絶にし自分が弱っていく姿なんて見せなかったと思います」
それを恋人には許したのだ。
弱さを見せられる存在だったのだ。
俺には到底出来ないそれをやってのける存在に俺が勝てるわけないじゃないか。
「それでも、その可能性を消したのは私たちよ………!」
「そうかもしれません。ですが、俺は後悔していません。俺では一生与えられなかったものを大切な恋人から与えられ、あの人は幸せな人生を歩めたのですから。だから、気にしないでください」
俺がそう言うと更に泣き出してしまったので、泣き止むまでの間、俺は黙って彼女が落ち着くまで待つことにした。
それから暫くして、やっと落ち着いたのか彼女は俺には聞き取れないほど小さな声で何かを呟いた。
「すみません、聞き取れず」
もう一回、と言ったのに彼女はそれに答えてはくれなかった。
それから数年後、俺はひとり穏やかに最期を迎えることが出来た。
はずだったのだが、気付けば見知らぬ世界で赤ん坊になっていて、聞いたことのない言葉に戸惑った。
暫くして言葉を理解できるようになり、喋れるようになり、本を読めるまでになった。
それからは早かった。
本からの知識やこの世界の親から得た情報などを整理し、必要なものは全て得ることができた。
それから程なくして、俺はアレシアと出会った。
167
あなたにおすすめの小説
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
【完結済】勇者召喚の魔法使いに選ばれた俺は、勇者が嫌い。
キノア9g
BL
勇者召喚の犠牲となった家族——
魔法使いだった両親を失い、憎しみに染まった少年は、人を疑いながら生きてきた。
そんな彼が、魔法使いとして勇者召喚の儀に参加させられることになる。
召喚の儀——それは、多くの魔法使いの命を消費する狂気の儀式。
瀕死になりながら迎えた召喚の瞬間、現れたのは——スーツ姿の日本人だった。
勇者を嫌わなければならない。
それなのに、彼の孤独に共感し、手を差し伸べてしまう。
許されない関係。揺れる想い。
憎しみと運命の狭間で、二人は何を選ぶのか——。
「だけど俺は勇者が嫌いだ。嫌いでなければならない。」
運命に翻弄される勇者と魔法使いの、切ない恋の物語。
全8話。2025/07/28加筆修正済み。
第2王子は断罪役を放棄します!
木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。
前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。
それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。
記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる!
ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる!
スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します!
この話は小説家になろうにも投稿しています。
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる