広がる世界

33

「女の子泣かせだなぁ、嶋貫先生は」


その様子を教授はジト目で見てきたが、俺は無視して仕事に手をつけた。
あれが事実なのだから仕方ないじゃないか。
俺と荒巻さんとの関係を言うならば、『以前関わったことのある人』だ。
それ以上でも以下でも、ない。


「嶋貫先生はクールで真面目で格好いい！って言ってたぞ？」


「何処が格好いいんですか？」


「んー何処だろう？顔？」


「今まで生きてきて顔が格好いいなんて言われたことないですけど」


「ううん…俺も分からんな。格好いいっていうと、あそこにいる兄ちゃんたちのことを言うんだろうなぁ」


教授が見つめる窓の先には構内で撮影をしている芸能人がいるのだろうが、俺はあえてそちらには視線を向けなかった。


「そうでしょうね」


「何だっけ……三人組の、イケメンの兄ちゃんたちの名前」


「俺に聞かないでください」


「おいおい、少しは芸能人に興味持てよ」


「俺が興味を持つものは目の前にある仕事だけです」


お前なぁ、と溜め息を吐く教授に、内心持たないのではない、持ちたくないのだと言ってしまいたかった。
これ以上、あの人のことを知りたくない。
気付きたくない。
もうあのときのようには絶対になりたくない。