願うのはあなただけ

mahiro

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間近で見たルイスは遠くで見るよりも綺麗で、良い香りがした。
昔のルイスも美しかったけど、今のルイスも十分美しいし、格好いい。
私は可愛くもないし格好よさなんてなかったな、なんてあの短い時間で味わえた幸せと過去に浸りながら仕事をしてその日を終えた。

次の日、出社すると何故か私の席にルイスが座っていた。


どういうことだろう。
入る部屋を間違えたかと入り口を再度見たが、そこには間違いなく『魔法科』と書かれていた。
え、ルイスが間違えた?
なわけないよね、あのルイスが。
じゃあ、私に何か用があって来たってことかな。


「おはよう、ございます」


恐る恐る声をかければ、ルイスはこちらに顔を向け軽く頭を下げてきた。


「おはよう。君にお願いがあって待っていたんだが、今いいか?」


「お願い、ですか?勿論です」


ルイスからのお願い………そんなの生まれて初めてかも。
昔は、ルイスから依頼されたこともなかったし、直接話すこともほぼなかった。
誰かを介して話してもそれは業務連絡みたいなものであったし、必要最小限度に収まったものだった。


「エルフィアという香を知っているか?」


「え、はい。ストレスを軽減させる香ですよね」


昔よくルイスは好んで使っていた香だけど、それがどうしたんだろう。
今はあまり市場にも出回らないものだし、知っている人も少ないと思うんだけど。


「あぁ。何処で入手出来るか知っているか?」


今世での入手ははっきり言って難しい。
ただし、市場で購入しようとするのならば、の話で、魔法使いである私ならば材料さえ手に入れば簡単に作れてしまう。
昔も入手困難なときは自分で作ってルイスに渡すようメイドさんへ渡していたっけ。


「購入する方法は存じませんが、作る方法なら知っていますよ」


「………そうか。それなら必要なものはこちらで揃えるから作って貰えないか?」


「わ、分かりました」


「ありがとう」


そう言って笑ったルイスの顔があまりにも美しすぎて息が止まるかと思った。
こんな表情浮かべるんだ。
無表情がデフォルトで、眉を潜めたり、貼り付けたような笑みなら見たことあったけれど、こんな嬉しそうな顔を見るのは初めだ。


「必要なものを言ってくれ。買ってくる」


「あ、今、メモします」


ボーッとしてしまった所にルイスの声がかかり、慌てて我に返った私は近くにあったメモ用紙に必要となるものを迷いなくスラスラと書いてルイスへと渡した。


「こちらが必要なものとなります」


「…………ありがとう、助かる。揃ったらまた来る」


そう言って去っていったルイスを見送り、私は朝からルイスと話せて幸せ者だと呑気に思っていた。



魔法、小鳥、エルフィアの香、文字の癖。
それら全てがファン・ウォルソンであるという証明をしているとも気付かず。
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