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34.ただのファン
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そのあと、藤崎さんの家からどう戻ったのか記憶がない。
たぶん、作り笑いを浮かべて、ちゃんと挨拶してきたんだと思う。
だって、家に帰っても、鏡に映る私はへらへら笑ってる。
一度は自分から契約終了を告げたくせに、自分が言われるとショックのあまり頭がうまく働かない。
藤崎さんは私に対して誠実になろうとしてくれたのだとわかってはいるけど、もう私は必要ないという事実のほうがつらすぎて、胸にぽっかり穴が開いた。
ぼんやりとしたまま床に座り込み、気がつくと、夕方になっていた。
窓から西日が差し込み、まぶしさに目を閉じる。
身体が冷え切り、こわばっていた。
のろのろと立ち上がり、着たままだったコートを脱ぐ。
(本来の関係に戻っただけよ。そもそも藤崎さんが私に執着していたのがおかしかったんだし)
何度も繰り返した言葉をまた脳内で繰り返して、自分をなだめる。
でも、本当は違う関係に変わることを期待していた。
藤崎さんの甘さに、心のどこかで、もしかしたらと思ってしまっていた。
契約だけじゃない関係。
あるはずがないのに。
ミューズでない私は求められてないのがはっきりわかって、打ちのめされた。
(バカね。本当にバカだわ……)
藤崎さんは最初から契約だと言ってたのに。
曲作りのためだって言ってたのに。
自分が愚かすぎて、笑うしかない。
涙さえ出ないほど心が無になって、なにもする気になれなくて、ベッドに突っ伏した。
♪♪♪
朝、ぐうぐうなお腹とともに目覚めた。
(落ち込んでてもお腹は空くのね)
昨日は晩ごはんを食べずに寝ちゃったから、お腹がペコペコだった。
ベーコンエッグを食パンに乗せてパクつく。
「さぁ、今日も張り切って働こう!」
無理やり自分に気合いを入れて、会社へ行った。
今日も忙しいけど、その忙しさが今はとても有り難い。
TAKUYAには次々と取材や音楽番組へのオファーが入り、来春の全国ツアーの準備もあった。
バタバタと考える暇なく働いて働いて働いて。
頭の中を仕事でいっぱいにした。
今日はTAKUYAと打ち合わせをしている。
「TAKUYA、今週の水曜日にNTVで生ライブがあるから、十六時に迎えに行くね。あっと、その前に取材も入ってたから、十三時ね」
「じゃあ、十二時にして、一緒にご飯食べようよ」
「いいけど……」と言いかけて、そんな時間あったかしらと頭の中でスケジュールを確認する。
そんなゆっくり食べてる時間はなさそうだと判断して、断ろうとすると、先にTAKUYAに言われた。
「希さん、働きすぎじゃない? ご飯ちゃんと食べてる? 顔色が悪いよ?」
「えー、食べてるよ。元気元気!」
力こぶを作って、アピールする。
ちゃんと食べてるよ。コンビニのおにぎりとか。
でも、そんなのはお見通しで、TAKUYAはボソッとつぶやいた。
「から元気」
「え?」
「ううん、なんでもない。希さんは俺の大事なマネージャーなんだから、無理して倒れないでよ?」
「……ありがとう」
そうだね。ちゃんと自分の健康管理もしなきゃね。
TAKUYAには本当にいつも助けられる。
感謝の眼差しを向けると、ニパッとしたいつもの笑顔が返ってきた。
今日はTAKUYAのスタジオライブの日だ。
午後からのWEB記事の取材を終えて、テレビ局へ行く。
担当ADに連絡をすると入口まで迎えに来てくれて、TAKUYAと私にそれぞれ白いパスカードを渡してくれた。
最近、テレビ局もセキュリティが厳しくなって、このパスでゲートを通らないと出入りできなくなっている。
控室に案内されて、番組スケジュール表をもらった。事前にもらっていたのと若干スケジュールが変わったらしい。
「リハは十七時からです。また呼びに来ますね」
ADがバタバタと去っていく。
入れ替わりに、衣装さんとメイクさんが入ってきて、TAKUYAの準備を進めていった。
ここでの私の役割は、待ち時間のTAKUYAの相手ぐらいしかない。
リハーサルが始まり、それをスタジオセットの外側の大きなモニターで眺める。
TAKUYAは緊張する様子もなく、堂々としたもんだった。
(本当にTAKUYAは本番に強いよね~)
いつも頼もしく安心して見ていられる。
今日は『ブロッサム』と『One-Way』を続けて演奏することになっている。テレビ初だ。
これはセールスが期待できるわ!
ワクワクしながら、本番を待った。
「それでは、TAKUYAさんに歌ってもらいます。曲は藤崎東吾さんがご自身の心情を書いたと話題の連作『ブロッサム』と『One-Way』です。どうぞ」
突然、藤崎さんの名前が聞こえて、心臓が跳ねる。
そんなMCじゃなかったはずなのに、アドリブを入れたのね。
ざわざわした心で本番を見つめた。
TAKUYAがマイクの前に立つ。
柔らかい表情にスポットライトが当たる。
TAKUYAは高いキーで歌い始めた。
『ブロッサム』は恋に気づき、恋の高揚感を歌いあげるので、甘く耳心地のいいTAKUYAの声にピッタリ合っていた。
でも、私の頭の中では違う音声も流れていた。
私の大好きな声、大好きな人が歌う『ブロッサム』が。
ズキンと胸が痛む。
そこに続けて、『One-Way』が流れてきた。
One-Way。片想い。一方通行。
想っても想っても報われない想い。
藤崎さんの書いた切ない歌詞が、とてつもなくきれいなメロディに合わさって、私の琴線に触れ、心を激しく揺さぶる。
(ダメだ、これはダメ……)
こらえようとしたけど、ぼたぼたと涙が溢れて、泣き声が漏れないように、私は手で口を押さえた。
歌を終えて、TAKUYAが戻ってくる。
「希さん、どうしたの?」
私をかばうようにして控室へ連れていき、TAKUYAが聞いてくれた。
「ごめん、ちょっと感動しすぎちゃった」
無理やり微笑みを浮かべたけど、TAKUYAは口の端を曲げた。
「ウソばっかり」
突然、抱きしめられる。
藤崎さんとは違う男の人の香りがする。
「ねぇ、希さん、俺じゃダメかな? ベタベタに甘やかす自信はあるんだけど」
甘やかに顔を覗き込まれて、息を呑む。
訴えかけるようなまなざしに、胸が苦しくなる。
(TAKUYA……)
「ごめん。TAKUYAのことは好きだし、素敵だと思う。でも……」
でも、藤崎さんじゃない。
藤崎さんしかダメなの……。
ゆるくかぶりを振った。
「ごめん」
もう一度、つぶやいたら、「そっか」とTAKUYAは腕を緩めた。
「こちらこそ、ごめん。見守ろうと思ってたのに。でも、苦しくなったら、俺がいるのを思い出して? 希さんが呼んでくれたら、すぐ走って行くから!」
切ない表情をころっと変えて、明るくTAKUYAが言った。
その顔がまさにワンコで、一目散に走ってくる姿が想像されて、くすっと笑ってしまった。
やっぱりTAKUYAには癒やされる。
「ありがとう」
TAKUYAに、そして、こんな素敵な人のマネージャーをさせてもらっていることに感謝した。
♪♪♪
ずっと泣けなかったのに、泣けたからか、気持ちが落ち着いて、その週の後半は少し肩の力を抜くことができた。
なにをどうしても、私が藤崎さんを好きだっていうのは変わらない。じゃあ、好きなままでいいじゃないかと思えたのだ。藤崎さんがどうあれ関係ないわ。
(もともと大ファンで藤崎さんのことが大好きなんだから、なにも変わらないじゃない! これからはただのファンとして藤崎さんを応援しよう)
そう考えて、私は自分を納得させた。
休日になり、私は朝からテレビをつけていた。
今日は情報番組で藤崎さんのインタビューが放映されるのだ。
めったにテレビ取材を受けない貴重な機会をファンとしては見逃すわけにはいかないと予約録画もバッチリだ。
ワクワクして始まるのを待っているところは本当に以前のただのファンだったときと変わらない。
番組が始まった。
『今日は、なにかと話題のカリスマミュージシャン、藤崎東吾さんに来ていただきました。今日はあれこれタブーなしに語ってくれると聞いたのですが……』
『うーん、言えることなら言うけどね』
いきなり攻めるMCに予防線を張る藤崎さん。
テレビ画面の中の藤崎さんはいつもより澄ましていて、いつもと同じくかっこいい。
(どんな質問が飛ぶんだろう?)
ドキドキしながらテレビ画面を見つめた。
『藤崎さんは、今年に入って、次々と楽曲提供したり、ご自身で歌われたりしてますよね? 急に作曲ペースが上がったのにはなにか秘密があるんですか?』
『しばらくスランプだったからね。でも、ミューズに出逢ってから、音楽が絶えないんだ』
これっていつ収録したんだろう?
穏やかな顔で語る藤崎さんからして、少し前のようだった。
この間のTAKUYAとの対談のときと同じく、MCが戸惑っている。
『ミューズですか……。音楽の女神でしたっけ? それは、『ブロッサム』から曲調が変わったと言われるのにも関係があるんですか?』
『まぁ、そうだね』
『藤崎さんの音楽についてお聞きします。作詞をされるときは実体験に基づいてるんですか?』
『前は想像というか、空想の延長上でしかなかったんだけど、最近は実体験から着想することが多いかな? だから、曲調が変わったんだと思うよ』
『なるほどー。この間、SNSで、片想いをしてるって書かれてましたよね? それが反映してると?』
『そうだね。片想いってびっくりするほど、いろんな感情が湧くよね』
そう言って、藤崎さんは誰かを思い浮かべて、うっとりするような愛しげな表情をした。
(藤崎さんは好きな人がいるんだ。それなのに、私を抱いてたんだ。曲作りのために……)
せっかくファンとして、番組を楽しもうと思っていたのに、感情が揺り戻された。
私はとっくにただのファンでは満足できなくなっていた。
一気に気持ちがぐちゃぐちゃになって、手で顔を覆った。
──ピンポーン
誰よ、このタイミングで。
涙を拭いて、ドアののぞき穴から外を見る。
見えたのは、長めのストレートの前髪を流し、きれいに整った顔。
さっきまでテレビで見ていた顔。
「藤崎さん!?」
慌ててドアを開けた。
そこにいたのは藤崎さんだった。
(どうしてここに?)
ぽかんとしたまま、藤崎さんを見上げた。
彼は切れ長の目を細め、「希、最後の曲ができたんだ」と言った。
たぶん、作り笑いを浮かべて、ちゃんと挨拶してきたんだと思う。
だって、家に帰っても、鏡に映る私はへらへら笑ってる。
一度は自分から契約終了を告げたくせに、自分が言われるとショックのあまり頭がうまく働かない。
藤崎さんは私に対して誠実になろうとしてくれたのだとわかってはいるけど、もう私は必要ないという事実のほうがつらすぎて、胸にぽっかり穴が開いた。
ぼんやりとしたまま床に座り込み、気がつくと、夕方になっていた。
窓から西日が差し込み、まぶしさに目を閉じる。
身体が冷え切り、こわばっていた。
のろのろと立ち上がり、着たままだったコートを脱ぐ。
(本来の関係に戻っただけよ。そもそも藤崎さんが私に執着していたのがおかしかったんだし)
何度も繰り返した言葉をまた脳内で繰り返して、自分をなだめる。
でも、本当は違う関係に変わることを期待していた。
藤崎さんの甘さに、心のどこかで、もしかしたらと思ってしまっていた。
契約だけじゃない関係。
あるはずがないのに。
ミューズでない私は求められてないのがはっきりわかって、打ちのめされた。
(バカね。本当にバカだわ……)
藤崎さんは最初から契約だと言ってたのに。
曲作りのためだって言ってたのに。
自分が愚かすぎて、笑うしかない。
涙さえ出ないほど心が無になって、なにもする気になれなくて、ベッドに突っ伏した。
♪♪♪
朝、ぐうぐうなお腹とともに目覚めた。
(落ち込んでてもお腹は空くのね)
昨日は晩ごはんを食べずに寝ちゃったから、お腹がペコペコだった。
ベーコンエッグを食パンに乗せてパクつく。
「さぁ、今日も張り切って働こう!」
無理やり自分に気合いを入れて、会社へ行った。
今日も忙しいけど、その忙しさが今はとても有り難い。
TAKUYAには次々と取材や音楽番組へのオファーが入り、来春の全国ツアーの準備もあった。
バタバタと考える暇なく働いて働いて働いて。
頭の中を仕事でいっぱいにした。
今日はTAKUYAと打ち合わせをしている。
「TAKUYA、今週の水曜日にNTVで生ライブがあるから、十六時に迎えに行くね。あっと、その前に取材も入ってたから、十三時ね」
「じゃあ、十二時にして、一緒にご飯食べようよ」
「いいけど……」と言いかけて、そんな時間あったかしらと頭の中でスケジュールを確認する。
そんなゆっくり食べてる時間はなさそうだと判断して、断ろうとすると、先にTAKUYAに言われた。
「希さん、働きすぎじゃない? ご飯ちゃんと食べてる? 顔色が悪いよ?」
「えー、食べてるよ。元気元気!」
力こぶを作って、アピールする。
ちゃんと食べてるよ。コンビニのおにぎりとか。
でも、そんなのはお見通しで、TAKUYAはボソッとつぶやいた。
「から元気」
「え?」
「ううん、なんでもない。希さんは俺の大事なマネージャーなんだから、無理して倒れないでよ?」
「……ありがとう」
そうだね。ちゃんと自分の健康管理もしなきゃね。
TAKUYAには本当にいつも助けられる。
感謝の眼差しを向けると、ニパッとしたいつもの笑顔が返ってきた。
今日はTAKUYAのスタジオライブの日だ。
午後からのWEB記事の取材を終えて、テレビ局へ行く。
担当ADに連絡をすると入口まで迎えに来てくれて、TAKUYAと私にそれぞれ白いパスカードを渡してくれた。
最近、テレビ局もセキュリティが厳しくなって、このパスでゲートを通らないと出入りできなくなっている。
控室に案内されて、番組スケジュール表をもらった。事前にもらっていたのと若干スケジュールが変わったらしい。
「リハは十七時からです。また呼びに来ますね」
ADがバタバタと去っていく。
入れ替わりに、衣装さんとメイクさんが入ってきて、TAKUYAの準備を進めていった。
ここでの私の役割は、待ち時間のTAKUYAの相手ぐらいしかない。
リハーサルが始まり、それをスタジオセットの外側の大きなモニターで眺める。
TAKUYAは緊張する様子もなく、堂々としたもんだった。
(本当にTAKUYAは本番に強いよね~)
いつも頼もしく安心して見ていられる。
今日は『ブロッサム』と『One-Way』を続けて演奏することになっている。テレビ初だ。
これはセールスが期待できるわ!
ワクワクしながら、本番を待った。
「それでは、TAKUYAさんに歌ってもらいます。曲は藤崎東吾さんがご自身の心情を書いたと話題の連作『ブロッサム』と『One-Way』です。どうぞ」
突然、藤崎さんの名前が聞こえて、心臓が跳ねる。
そんなMCじゃなかったはずなのに、アドリブを入れたのね。
ざわざわした心で本番を見つめた。
TAKUYAがマイクの前に立つ。
柔らかい表情にスポットライトが当たる。
TAKUYAは高いキーで歌い始めた。
『ブロッサム』は恋に気づき、恋の高揚感を歌いあげるので、甘く耳心地のいいTAKUYAの声にピッタリ合っていた。
でも、私の頭の中では違う音声も流れていた。
私の大好きな声、大好きな人が歌う『ブロッサム』が。
ズキンと胸が痛む。
そこに続けて、『One-Way』が流れてきた。
One-Way。片想い。一方通行。
想っても想っても報われない想い。
藤崎さんの書いた切ない歌詞が、とてつもなくきれいなメロディに合わさって、私の琴線に触れ、心を激しく揺さぶる。
(ダメだ、これはダメ……)
こらえようとしたけど、ぼたぼたと涙が溢れて、泣き声が漏れないように、私は手で口を押さえた。
歌を終えて、TAKUYAが戻ってくる。
「希さん、どうしたの?」
私をかばうようにして控室へ連れていき、TAKUYAが聞いてくれた。
「ごめん、ちょっと感動しすぎちゃった」
無理やり微笑みを浮かべたけど、TAKUYAは口の端を曲げた。
「ウソばっかり」
突然、抱きしめられる。
藤崎さんとは違う男の人の香りがする。
「ねぇ、希さん、俺じゃダメかな? ベタベタに甘やかす自信はあるんだけど」
甘やかに顔を覗き込まれて、息を呑む。
訴えかけるようなまなざしに、胸が苦しくなる。
(TAKUYA……)
「ごめん。TAKUYAのことは好きだし、素敵だと思う。でも……」
でも、藤崎さんじゃない。
藤崎さんしかダメなの……。
ゆるくかぶりを振った。
「ごめん」
もう一度、つぶやいたら、「そっか」とTAKUYAは腕を緩めた。
「こちらこそ、ごめん。見守ろうと思ってたのに。でも、苦しくなったら、俺がいるのを思い出して? 希さんが呼んでくれたら、すぐ走って行くから!」
切ない表情をころっと変えて、明るくTAKUYAが言った。
その顔がまさにワンコで、一目散に走ってくる姿が想像されて、くすっと笑ってしまった。
やっぱりTAKUYAには癒やされる。
「ありがとう」
TAKUYAに、そして、こんな素敵な人のマネージャーをさせてもらっていることに感謝した。
♪♪♪
ずっと泣けなかったのに、泣けたからか、気持ちが落ち着いて、その週の後半は少し肩の力を抜くことができた。
なにをどうしても、私が藤崎さんを好きだっていうのは変わらない。じゃあ、好きなままでいいじゃないかと思えたのだ。藤崎さんがどうあれ関係ないわ。
(もともと大ファンで藤崎さんのことが大好きなんだから、なにも変わらないじゃない! これからはただのファンとして藤崎さんを応援しよう)
そう考えて、私は自分を納得させた。
休日になり、私は朝からテレビをつけていた。
今日は情報番組で藤崎さんのインタビューが放映されるのだ。
めったにテレビ取材を受けない貴重な機会をファンとしては見逃すわけにはいかないと予約録画もバッチリだ。
ワクワクして始まるのを待っているところは本当に以前のただのファンだったときと変わらない。
番組が始まった。
『今日は、なにかと話題のカリスマミュージシャン、藤崎東吾さんに来ていただきました。今日はあれこれタブーなしに語ってくれると聞いたのですが……』
『うーん、言えることなら言うけどね』
いきなり攻めるMCに予防線を張る藤崎さん。
テレビ画面の中の藤崎さんはいつもより澄ましていて、いつもと同じくかっこいい。
(どんな質問が飛ぶんだろう?)
ドキドキしながらテレビ画面を見つめた。
『藤崎さんは、今年に入って、次々と楽曲提供したり、ご自身で歌われたりしてますよね? 急に作曲ペースが上がったのにはなにか秘密があるんですか?』
『しばらくスランプだったからね。でも、ミューズに出逢ってから、音楽が絶えないんだ』
これっていつ収録したんだろう?
穏やかな顔で語る藤崎さんからして、少し前のようだった。
この間のTAKUYAとの対談のときと同じく、MCが戸惑っている。
『ミューズですか……。音楽の女神でしたっけ? それは、『ブロッサム』から曲調が変わったと言われるのにも関係があるんですか?』
『まぁ、そうだね』
『藤崎さんの音楽についてお聞きします。作詞をされるときは実体験に基づいてるんですか?』
『前は想像というか、空想の延長上でしかなかったんだけど、最近は実体験から着想することが多いかな? だから、曲調が変わったんだと思うよ』
『なるほどー。この間、SNSで、片想いをしてるって書かれてましたよね? それが反映してると?』
『そうだね。片想いってびっくりするほど、いろんな感情が湧くよね』
そう言って、藤崎さんは誰かを思い浮かべて、うっとりするような愛しげな表情をした。
(藤崎さんは好きな人がいるんだ。それなのに、私を抱いてたんだ。曲作りのために……)
せっかくファンとして、番組を楽しもうと思っていたのに、感情が揺り戻された。
私はとっくにただのファンでは満足できなくなっていた。
一気に気持ちがぐちゃぐちゃになって、手で顔を覆った。
──ピンポーン
誰よ、このタイミングで。
涙を拭いて、ドアののぞき穴から外を見る。
見えたのは、長めのストレートの前髪を流し、きれいに整った顔。
さっきまでテレビで見ていた顔。
「藤崎さん!?」
慌ててドアを開けた。
そこにいたのは藤崎さんだった。
(どうしてここに?)
ぽかんとしたまま、藤崎さんを見上げた。
彼は切れ長の目を細め、「希、最後の曲ができたんだ」と言った。
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