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恋じゃなかった
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拭っても拭っても涙は止まらず、泣きながらサナリは自分の部屋に戻った。
通りすがりの人がぎょっとして彼女を振り返ったが、サナリはそれに気づく余裕もなかった。
やりきれなさが募って、涙が溢れてくる。
サナリはベッドに伏せて、泣き濡れた。
シーファが彼女のためを思って行動してくれたのはわかっていたけど、どうして彼はいつも一方的で自分の意見を聞いてくれないのかと憤った。
(やっぱりシーファには私への愛はあっても恋じゃなかったんだわ。だから、こんな簡単に手を離すのよ。あんなに好きだって、愛してるって言ったのに)
そう考えて、止まらない涙を枕に擦りつける。
心がぱっくり裂けてしまったように痛い。
シーファは一生懸命サナリのことを考えてくれているようで、ちっともサナリの気持ちを考えてくれていなかった。
「もういいわ! シーファなんて、知らない! 私は誰か優しい人と結婚して、領地のために生きていくんだから!」
そう叫んでみたけれど、心は晴れず、サナリは涙をこぼし続けた。
翌朝、泣き寝入っていたサナリは顔を洗いながら、鏡に映るひどい顔を見て、溜め息をついた。
目が充血して真っ赤だし、擦りすぎて腫れている。
(でも、もうシーファの世話係じゃないから、今日は外に行かなくていいわよね)
深い溜め息をついて、サナリはのろのろと着替えた。
朝食さえもとりたいと思わず、ただソファーに座って、ぼーっとする。
(シーファはどうしてるのかな……)
サナリがいなくても淡々と日常を送っていそうだと思う。
うっかり彼のことを考えてしまって、また涙がにじんできたので、慌てて思考を他に向けようとする。
(アルザラスの皆は喜んでくれるでしょうね。お父様もきっと張り切ってワインづくりを再開するわ。私は……私は、なにをしよう?)
もう毎朝、甘ったるいココアを作らなくてもいい。
すぐ散らかる部屋を片づけなくていい。
昼食を運ばなくていいし、嫌がる人を部屋の外に引っ張っていかなくてもいい。
(シーファ……!)
こらえきれず、サナリは顔を両手で覆った。
――寝ぼけてココアをすする顔、いたずらをしかけて笑う顔、下着を洗われて恥ずかしがる顔、甘える顔、拗ねる顔、魔物に対峙する精悍な顔、熱っぽく見つめる顔、さみしげな顔……。
シーファのいろんな顔が思い浮かんで、サナリのみぞおちがキュッとなり、胸が苦しくてたまらなくなる。喉になにか詰まったかのように息ができない。
(もう私は必要ないの?)
ぽとりと手のひらに雫が落ちた。
通りすがりの人がぎょっとして彼女を振り返ったが、サナリはそれに気づく余裕もなかった。
やりきれなさが募って、涙が溢れてくる。
サナリはベッドに伏せて、泣き濡れた。
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(やっぱりシーファには私への愛はあっても恋じゃなかったんだわ。だから、こんな簡単に手を離すのよ。あんなに好きだって、愛してるって言ったのに)
そう考えて、止まらない涙を枕に擦りつける。
心がぱっくり裂けてしまったように痛い。
シーファは一生懸命サナリのことを考えてくれているようで、ちっともサナリの気持ちを考えてくれていなかった。
「もういいわ! シーファなんて、知らない! 私は誰か優しい人と結婚して、領地のために生きていくんだから!」
そう叫んでみたけれど、心は晴れず、サナリは涙をこぼし続けた。
翌朝、泣き寝入っていたサナリは顔を洗いながら、鏡に映るひどい顔を見て、溜め息をついた。
目が充血して真っ赤だし、擦りすぎて腫れている。
(でも、もうシーファの世話係じゃないから、今日は外に行かなくていいわよね)
深い溜め息をついて、サナリはのろのろと着替えた。
朝食さえもとりたいと思わず、ただソファーに座って、ぼーっとする。
(シーファはどうしてるのかな……)
サナリがいなくても淡々と日常を送っていそうだと思う。
うっかり彼のことを考えてしまって、また涙がにじんできたので、慌てて思考を他に向けようとする。
(アルザラスの皆は喜んでくれるでしょうね。お父様もきっと張り切ってワインづくりを再開するわ。私は……私は、なにをしよう?)
もう毎朝、甘ったるいココアを作らなくてもいい。
すぐ散らかる部屋を片づけなくていい。
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(シーファ……!)
こらえきれず、サナリは顔を両手で覆った。
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シーファのいろんな顔が思い浮かんで、サナリのみぞおちがキュッとなり、胸が苦しくてたまらなくなる。喉になにか詰まったかのように息ができない。
(もう私は必要ないの?)
ぽとりと手のひらに雫が落ちた。
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