雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。

入海月子

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【オフィス編】

これって勉強会?①

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(もう、土曜日なのに、なんで会社の近くまで来ないといけないの! 進藤のヤツ、ムカつく!)

 私は頭の中でぶちぶち文句を言いながら、指定されたファミレスに向かった。

「夏希!」

 噂をすれば、後ろから声をかけてきたのは進藤だった。
 ニコニコと駆け寄ってくる姿はやっぱり柴犬。
 ヤツは人懐こい顔で隣りに並んだ。

「今日はごめんな。夏希の手料理を楽しみにしてたんだけどな~」
「私は作らなくてラッキーだわ」
「いやいや、なしになってないから!」

 進藤はそう言うけど、私の手料理なんかより、吉井さんに作ってもらえる日が近いんだから、そっちでいいじゃない。
 軽く受け流して、ファミレスに入った。

「進藤さ~ん、安住さん!」

 先に来ていた吉井さんが四人席で手を振っている。
 とろんとした白のニットワンピースに水色のグラデーションネイルがオシャレだ。
 一方、私はだぼんとしたセーターにジーンズ。パーカーとジーンズ姿の進藤とほぼ一緒だ。
 女子力の違いを見せつけられる。

(別に勝負してないからいいけどね)

「こんにちは」

 挨拶して、吉井さんの向かいに座ると、進藤が横に座ってきた。
 
(なんで? あんたは彼女の隣りでいいでしょ?)

 私たちはドリンクバーを頼んで、それぞれ飲み物を取ってくると、早速テキストを広げた。

「それにしても、不動産鑑定士の問題ってすごく難しいんですね。私、さっぱりわからなくて、どこから手をつけたらいいか……」
「なにから始めてるんだ?」

 困った顔で吉井さんが微笑むと、面倒見のいい進藤が彼女のテキストを覗き込んだ。
 見ると、民法の過去問をしているらしい。

「背信的悪意者排除説の要件ってどういう意味ですか?」
「それはな……」

 吉井さんは過去問の解説文をさらに進藤に解説させている。用語だったら、調べたらわかるのに。
 そう思うけど、進藤が嫌な顔ひとつせずに教えているから、まあいいかと思う。
 私は私でせっせと会計学の問題を解いていくけど、横で声がしていると気が散って仕方がない。
 進藤の解説する声に、吉井さんの感心する声。

(私がここにいる意味ってなんだろう?)

 それに、結局、進藤は教えてばかりで自分の勉強ができていない。
 これって、吉井さんのためだけの勉強会になってない?
 モヤモヤする。

 コーヒーがなくなったから、進藤に退いてもらって、おかわりを注ぎに行く。
 戻ってきて、仲睦まじく二人がしゃべっている姿を改めて見ると、そこに入っていく気が失せた。
 

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