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すがりたかった私②

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 木佐さんは私に目を向けると、ようやく目が覚めたのか、いつもの細い目で笑った。

「おはよ。ざんねんだなぁ。もう着替えちゃったの?」
「……おはようございます」

 フワァとあくびをして、木佐さんは髪を掻き上げた。
 その一挙手一投足がムダに色っぽくて、目で追ってしまう。
 でも、木佐さんがボクサーパンツを拾い上げて、履こうとするから、慌てて、横を向いた。

「赤くなって、か~わいい。昨日バッチリ見たでしょ?」

 笑った木佐さんが近寄ってきて、私の頬をスーッとなでた。
 そのまま私の横を通り過ぎると、冷蔵庫を開けて水のペットボトルを出す。

「飲む?」
「はい。ありがとうございます」

 喉がカラカラだったから、ありがたく受け取る。
 もう一本出した木佐さんは、キャップを取って、ペットボトルをあおった。
 ゴクゴクと喉仏が動いて、やけにセクシーだった。
 なんとなく見つめていた自分に気づいて、目を引き離す。
 私もペットボトルの水を飲んだ。

 飲みかけのペットボトルをテーブルに置いた木佐さんは、ベッドに座ると私の手を引っ張った。

「きゃっ!」

 予想外の行動に、私はぐらりとバランスを崩して、木佐さんの膝に横座りする形になった。
 すぐに腰に手が回ってくる。
 私は離れようとジタバタ暴れたけど、抱きすくめられた。
 にんまり笑った木佐さんが顔を覗き込んでくる。

「宇沙ちゃんに質問~」
「なんですか?」

 抵抗をあきらめて、彼を見る。

「いつから石原係長と付き合ってるの?」
「……それ、言う必要あります?」

 不機嫌に答えると、木佐さんが首を傾げた。

「ん~、宇沙ちゃんって、不倫するタイプに見えなかったから、きっかけはなんだったのかなぁって思って」
「私だって、知……」

 私は言いかけて、口をつぐみ、視線を逸らした。

(私だって、既婚者だと知っていたら、付き合ってなかったわ……)

 溜め息をつきそうになり、ぐっと唇を引き結んだ。
 その唇をほぐすように指を這わせ、木佐さんはなおも覗き込んできた。

「まさか既婚者だって、知らなかったの?」

 そう聞かれたけど、私は答えなかった。

「言いたくないんだ。じゃあ、石原係長に聞いちゃおうかな~」
「やめてください!」

 のんきな声でとんでもないことを言う木佐さんをにらんだ。
 でも、本当に聞きかねないので、しぶしぶ答えた。


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