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第二章 ― 遥斗 ―

おせっかいな優①

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「おはようございます!」

 あんなに怒って走り去ったくせに、翌朝、優はいつも通りニコニコとやってきた。

「……おはよう」

 俺は戸惑い、ぼそっと挨拶する。
 チラリと優を観察するけど、なんのわだかまりもないようだ。

「今日のお弁当は和がテーマです。ハンバーグも和風なんですよ! ひじきも入っているから、しっかり鉄分摂ってくださいね」
「ありがとう」
「いいえー、私もおかげで女子力上がりまくりですから」
「……女子力」

 優の言葉選びに、知らず口角がくっと上がった。

「あっ、笑った! 今、笑ったでしょ? 失礼だなー」

 優が口を尖らせる。それがさらにツボに入ってしまって、くくっという笑いから堪えきれず、ハハハッと声をあげて笑ってしまった。

 昨日からなぜか笑いの沸点が低くなっている。

 優は目を丸くして、俺を見ていた。

「……女子力って、お前と対極な言葉だな」
「どーせ、色気ないですよ!」

 そう言う俺に頬を膨らませて、優が言った。

「そうだな、まったくない」

 それがいい。

 くすくす笑いながら、そう思う。

 色気はないけど、とてもかわいい……。

「もー! じゃあ、私は行きますね。また夕方!」

 膨れたまま、優は自分の教室に向かった。




 弁当の朝食を済ましてから、スケッチブックを開く。
 次になにを描こうか題材が決まらない。
 
 窓を開けて、外を見る。
 
 ここから見える景色も屋上から見る景色も部屋の中もすべて描いてしまった。
 俺の世界はとても狭い。
 
 優のようにどこかに出かけて行って、スケッチしてくるのもありなんだが、出かける度にトラブルに巻き込まれがちな俺は、どうしても躊躇してしまう。

 溜め息をついて、静物画でも描こうかと思う。

 昼に残しておいた弁当箱の中からイチゴをを取り出す。
 みずみずしくうまそうに光っている。

 よし、誰もが手に取って食べたくなるようなイチゴを描こう。

 目的ができると、集中して、鉛筆を走らせた。





「遥斗先輩、見て見て! 桜が満開で綺麗だったんですよー。この山の緑も鮮やかでいい色でしょ?」

 放課後、優はここに来ると、パソコンを操作して、どんどん写真を印刷していた。
 華やかなピンクや鮮やかな緑が踊る写真に目を惹かれて、描く手を止める。

「あぁ、そうだな」

 優の差し出す写真を手に取って眺めると、陽の光をそのまま取り込んだようなまぶしい情景が写っていた。

「光が明るいな」
「わかります? 一眼レフだからなんですよ。普通のカメラではこうはなりません」
「へぇー」
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