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第二章 ― 遥斗 ―

連休明け②

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「お疲れ様でーす」

 優が元気に入ってきた。

「弁当、うまかった。ありがとう」

 探るように俺を見るので、真っ先に礼を言う。優がパッと顔を輝かせた。

「よかった! そういえば、イチゴどうでしたか?」

 イチゴは体調のせいか、とてもジューシーに感じて、身体に染み渡るようだった。身体がビタミンを欲していたのかもしれない。

「あぁ、さわやかでうまかった」
「遥斗先輩は果物好きですか?」
「あまり気にしたことはなかったが、お前のお弁当に入っているから、割と好きみたいだと気づいた」

 お前の弁当で初めて知ることは多いよ。
 
 俺がそう答えると、優はうれしそうに笑った。

「それはよかったです。じゃあ、またいろんな果物を入れますね」

 その言葉に、俺は複雑な気分になる。
 これ以上、優が俺を気にかける必要はない。今朝見せたような罪悪感でいっぱいの顔なんてさせたくない。

「あんまり……俺に気を使う必要はない」
「えっ?」
「そんなにお前が俺に一生懸命になる必要はない。弁当も適当に作ればいい」

 もう十分もらっている。
 約束の期限ももうすぐだ。そんなに俺を甘やかせないでくれ。あとがつらくなる。

 俺の言葉に優はその大きな目をさらに見開いて止まっていたが、だんだん怒った顔になってきた。

「なにそれっ! なんなんですか!」

 めずらしく優が怒って叫ぶ。
 でも、俺は取り合わず、黙って絵を描き続けた。

 もう怒って見放してくれてもいい。
 俺のことなど気にせず、楽しく暮らせばいい。

 そう思ったのに、次の優の言葉に反応してしまった。

「もう遅いですよ!」
「は?」

 思いがけない言葉につい優を振り返る。
 どういう意味だ?

「もう遅いんですよ。おせっかいな私に見つかっちゃったんだから。全力でおせっかいしますから!」

 優は一方的に宣言すると、お弁当箱を掴んで、勢いよく部屋を出ていった。 
 あ然とその後ろ姿を見送る。

「……ハ、ハハッ、ハハハハッ」

 おせっかい!

 なんて優に似つかわしい言葉だ。
 
 全力でおせっかいするってなんだよ!?

 笑いが込み上げる。
 俺は腹を抱えて、涙が出るほど笑った。
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