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第二章 ― 遥斗 ―

おせっかいな優③

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 壁際を指して教えてやると、優は紙袋からポットを取り出した。それをコンセントに繋いでお湯を沸かすらしい。
 隅にあった机と椅子を引きずって動かそうとしているので、手伝ってやって、「なにをするんだ?」と聞くが、優はにんまりするだけで答えない。

 仕方なく見守っていると、向かい合わせた机に袋からどんどん紙皿や容器を出し、フレンチトーストとスープを用意した。

「遥斗先輩、朝ご飯食べましょう」

 はっ?

 目をパチパチさせる。

 一緒に食べようと言うのか?

 確かに机の上には二人分用意してある。

「ほら、座ってください。温かいうちに食べましょ?」

 ぼんやりしている俺の手を引っ張り、強引に座らせると、優は「いただきまーす」と手を合わせる。
 優に促されて、俺もようやくフォークに手を伸ばす。
 休みの日は食事を取っていないと思われたのか? まぁ、ゴールデンウィークはたまたまそういう状況に追い込まれたが、そのあと金を無事下ろすことができて、今日はなにか買ってこようと思っていたところだった。
 だから、休みまでこんなことをしてくれなくていいのに。

 そう思ったが、目をキラキラさせて感想を待っている優を見て、あきらめて、一口食べた。

「うまい」

 まだ温かいフレンチトーストはほのかに甘くて優しい味がした。

「ハチミツをかけたフレンチトーストとベーコンを一緒に食べると、甘じょぱくって好きなんです」

 優がそう言うから、おすすめ通りに食べてみる。

「なるほどうまいな」

 好きな味だ。
 目を細めた俺に、「でしょでしょ!」と優が喜んで微笑む。

 ぺろりと食べてしまうと心配そうに優は「足りなかったですか?」と覗き込んできた。

「いや、十分だ。こんな……」

 俺は言いかけて、口をつぐんだ。優が首を傾げて、続きを待っている。

「こんな風に誰かと食事をするのは久しぶりだな」
「たまにはいいでしょ?」

 優が笑いかけるから、ふいっと視線を逸らした。
 こんなのダメだ。ひとりに戻ったとき、今まで感じてなかった孤独に気がついてしまうだろ。
 それに優が俺にこんなに時間を割くことはない。

「優……」

 俺はもう一度優に視線を戻して言った。

「ここまでする必要はない」

 優はある程度、俺の拒否を予想していたらしく、ふふんっと笑った。

「私、全力でおせっかいするって言いましたよね? まだ序の口ですよ?」
「……迷惑だって言ったら?」
「おせっかいはたいがい迷惑なものです」

 涼しい顔で反論する優に、溜め息をついた。
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