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第三章 

全力で……!①

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 遥斗先輩は私の手を引き、暗室へと連れていった。
 パチンと電気を点けると、初めて入る先輩のプライベート空間が見えた。
 と言っても、現像をする作業台の他には、マットの上のお布団ぐらいしかない。
 枕元に私たちの写真があった。
 本当に飾ってくれてたんだとほんわかする。
 その横にはスケッチブックが置いてあった。

「あれは私……?」

 描きかけっぽいデッサンの顔は私だった。
 
 すごい勢いで先輩がスケッチブックを腕の中に隠した。
 めずらしく顔が赤い。

「見たいです。見せてくださいよー」

 私がねだると、少しためらったあと、観念したようにスケッチブックを差し出した。

 スケッチブックを開くと、いろんな私がいた。
 どのページも私の笑顔で、驚いて先輩の顔を見る。
 気まずそうに目を逸らして、先輩は言った。

「俺は、たぶん引くほど、お前のことが好きなんだ。頭の中にずっと優がいる。……気持ち悪いだろ?」
「そんなわけないです!」

 眉を寄せている先輩に抱きついて、うれしいとつぶやくと、キスが落ちてきた。
 先輩は一度顔を話すと、私を確認するように見て、目を細めた。

「私だって、頭の中は遥斗先輩でいっぱいです!」

 そう言った私を抱きしめて、先輩はキスを繰り返す。
 それは余裕のないキスで、本当に愛されているのを実感する。
 だんだん深くなっていくキスと、背中を動き回る手に心臓がバクバクいって、先輩にしがみついていないと倒れそうになった。

 そのうち先輩の手がワンピースのファスナーにたどり着き、それを下ろした。
 ストンとワンピースが滑り落ちる。

 下着姿になった私を先輩が眺めた。
 恥ずかしくて、もじもじして俯く。

「優、かわいいよ」

 耳許に口づけて、布団に誘導された。

 布団の上に座ると、立膝で先輩が近寄ってきて、キスされる。
 そのままそっと押し倒された。

「優、怖くなったなら、いつでもやめるから言ってくれ」

 真剣な瞳で遥斗先輩が見下ろす。
 私は首を振って、先輩の綺麗な顔を引き寄せた。

「遥斗先輩なら怖くない……」

 そっと唇を合わせると、先輩は目を細めた。

「優、好きだ。どうしようもないほど好きなんだ」

 甘い言葉とともに優しい口づけが落ちてくる。
 先輩の頬に手を当て、私も負けずに言った。

「私も遥斗先輩が好き。きっと先輩が思うよりずっと好き」

 私の言葉に、遥斗先輩はとびきりの笑顔で微笑んだ。
 私たちは、引き合うように唇を合わせた。
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