リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第十一話 相応しい伴侶

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それよりも、と前書きしてモルワードはロイを指さした。

「君がティアラ姫の候補の一人だろ? まだリクシオンの耳飾りを受け取っていないのか?」

とても配慮のない言葉に呆れてしまう。つい先日その件でロイとは気まずい思いをしたのだと蹴飛ばしてやりたい。ロイは意表を突かれ表情が固まっている。

「叔父上、お言葉を謹んで下さい。王政にも影響する内容ですので」

もうこれ以上、勘ぐられるのは耐えがたい。話を断ち切って強引に違う話題に振ろうとするが、こちらの尻尾を掴んだと言わんばかりに強制的に話題が戻されていく。漆黒の瞳が興味津々というばかりに向けられている。

「彼が気に入らぬならはっきり言えば良い、貴族なら誰もが喉から欲しがる名誉だ。君なら選び放題だろう?」

笑いながらこちらを侮辱してくる。しかしここで怒りを表しては挑発に乗った事になる。口角を上げて人形のように聞き流すしかない。何も耳に入れず目に映さない、それが私の処世術だ。この事案が過ぎ去るのをただ我慢するしかない。
そんな私の姿に調子づいて彼は距離を詰めてくる。目前に迫る瞳をひるまず睨みかえすと、彼は小さな声で囁いた。

「分かってる? ……例えば私でもいいんだよ」

頭に血が上り、荒ぶる呼吸を必死に抑える。叔父でなければとっくに牢獄に捕らえているだろう。高まる緊張にアンナはモルワードにやんわりと言葉を慎むよう伝える。
冗談だよ、と笑いながらも彼の目は笑っていない。これ以上の同席は、さすがにまずいと思ったか、アンナは言葉巧みに彼を外に連れ出した。
残された茶席で、私はまだ動けないでいる。あの漆黒の瞳に足をすくわれた気分だ。

「助けられなくて、ごめん」

沈んだ声と共にロイが手を差し伸べる。子供のように身体を預けて、彼の腕の中で気持ちを整えようとする。ロイが謝る必要はどこにもない、彼はロイよりも高位の貴族だ。何かあればそれこそ相手の思う壺なのだから。

「いいえ、あんな態度を許した私が悪いの」

ロイを慰めるように静かに呟いて、そこで初めて足が震えているのを知った。明らかな敵意と好色の目、怖くないといえば嘘になる。歳は離れるが彼もまた候補としてあり得る事実は恐怖を倍増させる。
沈んだ顔をした私を心配してか、ロイは何も言わずただ抱きしめてくれている。暖かい腕の中、幼いころから何も変わらない。私にとってこれほど大切な人は他にいない。この心地よさが恋だというなら、私は今すぐにでもロイにリクシオンの耳飾りを与えるだろう。

「貴方もリクシオンの耳飾りが欲しいの?」

口から漏れた言葉をロイは悲しそうに受け止める。耳飾りが欲しいわけじゃない、と彼は小さく答えた。言葉よりも雄弁に彼の瞳が訴えている。

“君の心が欲しい”と。

熱い想いに身が溶かされるのではないかと錯覚する。こんなに愛してもらえるなら、彼を選んでもいいのかもしれない。モルワードが言うように、次期王族の血を繋ぐため誰かを選ばなくてはいけないのなら、ロイしか居ないだろう。

「そうね、貴方ならきっと」

完璧で揺るぎない立派な王配となるのは間違いない。

――だけど、何かが違う。

ゆっくり伸ばした手はロイの目前で宙を掴む。
今はまだ受け入れられない。ロイに対する想いがまだ形を伴わない。この状況で彼にリクシオンの耳飾りを与えるなど出来るはずがない。彼の腕を逃れて宮殿の外に出ればアンナの姿があった。

「ここの花は純白でとても綺麗ですね」

私の思いを汲むように彼女は優しく声を掛けてくれる。これ以上の言葉はいらない。伸ばされた手をとり白の庭園を歩き出せば、宮から現れたロイがこちらを見つめている。後を追うような真似はせず、ただ静かに優しい眼差しだけが注がれる。
アンナも視線を感じているようで、困った表情で微笑んだ。

「バラの式典にはどんなドレスをお召しになりますか? 深紅のドレスは色白の姫様に似合うと思いますわ」

何もなかったように普段通りに振舞ってくれる。彼女の心遣いに顔が綻んでいくのが分かった。

「そうね、少し大人びたドレスがいいかも。子供扱いされないような、ね」

語尾を誇張すると、アンナはくすりと笑う。

「そうですね、フェリドさんは悪意なくサラッと暴言を吐きますから。あまり幼く見えないドレスを選ばなくては」

急に飛び出したフェリドの話題に思わず声を出して笑った。たしかに彼ほど私を侮っている人間はいないかもしれない。

「フェリドには二度と子供扱いさせないって決めているの」

純白の庭園を過ぎて、小道を進むとその先はバラ園だ。もうすぐ開催される式典に皆が慌ただしく手入れをしている。皆の手を止めるのが憚られて、遠くからその美しい花々を見つめている。そういえば、と思い立ち私はアンナに振り返った。

「フェリドがくれたバラを覚えている? きっとあの新種は式典の話題になるわ」

問いかけると彼女も頷く。色が薄く透明に近い花びらは、陽の光を吸収し七色に光る。きっと父王に献上される今年一番のバラになるだろう。早くその光景を見たくて心待ちにしている自分がいる。

「たくさん栽培されるようになったら部屋に飾って、私の一番のお気に入りにするの」

このバラを栽培したロウアやフェリドにもたくさんの褒美が贈られるようにしたい。無邪気に笑うフェリドの顔が思い出されて、こちらも自然に顔が綻んでいた。
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