リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第二十三話 不穏な空気

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「馴れ初めという言葉が正しいか疑問だけど、フェリドと出会ったのは庭園よ。迷った私を世話してくれたのが始まり。そこから叔父上の件があって今に至ったの。平民であるというだけで理不尽な目に合わすのは忍びないでしょう?」

なんとかロイを味方につけたいが、どう説明するのか迷っている。ロイだって上級貴族の出だ。他よりも理解があると思っても、その偏見はすぐに取り除けるものではない。

「僕には正直よくわからない。どうして君があそこまで彼に肩入れしたのか。平民にリクシオンの耳飾りを与えるなんて、君の名誉が傷つくだけじゃないか」

優し気に話しながらも彼の瞳は笑っていない。これが一般的な貴族階級の考え方だ。

「もし彼が貴方でも私は同じようにしたわ。身分なんかより私は人柄を大切にしたい。フェリドは善人よ、だからちゃんと彼に気を配ってほしいの。きっと貴方達はいい友人になれるはず」

ロイにきちんと伝えなければならない。同じくリクシオンの耳飾りを持つ同士で仲違いはさせたくない。必死に説明をする私をロイは黙って見つめている。そんな中で隣にいたアンナが遠慮がちに声を発した。

「姫様のお心はロイ様だけのもの。そこにフェリド様が入り込む隙間などありません。今回はティアラ様の慈悲深さゆえに起きた事故のようなものです。そんなに気にされなくても良いのでは?」

アンナの援護弁論はロイにはよく効いたのか、そうだねと満更でもない様子で彼は再び微笑んだ。しかしここで思わぬ質問が投げられた。

「ティアラは彼に特別な感情を一切抱いていないと言える?」

まさに開いた口が塞がらない。私がフェリドに特別な感情を抱いていると疑われているのが恐ろしい。すぐに否定の言葉を返す。

「じゃあ、僕のことは?」

続けさまにロイは質問を続ける。それは非常に難題で答えに困る問題だ。熱い眼差しが降り注ぎ、顔が熱くなっていることに気付く。

「私達は幼馴染よ。昔からずっと貴方を知っているし、何をするのも一緒だった。貴方を慕っているけれど、そこにまだ特別な感情が必要なの?」

正直な胸の内を伝える。まだ彼を想う気持ちを型にはめたくない。そもそも恋愛とは無縁の生活だった。愛を囁く男の陰謀を暴く、そんな駆け引きばかりの王宮でまともな感性が育つとは思えない。私に純粋な愛を問いかけるのが間違っているのだ。

「僕には君の愛が必要だよ」

視線が再び交じり合う。ロイからは一途でひたむきな想いを感じる。胸に広がる痛み、これの正体がまだ分からない。ただ苦しくて、無性に心が騒めきたっている。この痛みが恋だというなら、私はロイを好きだということになる。

「私は……」

言葉に詰まったところに、タイミングを合わせたようにフェリドが戻ってきた。

「あ、あの洋服ありがとうございます」

異様な空気に彼はすぐに気付いたようで、気まずい表情のまま私の傍に逃げるようにやって来る。綺麗に整えられた彼を見つめて私は安堵のため息をついた。

「ふふ、似合ってる。フェリドらしくないけれど」

馬子にも衣装というが、本当に服を変えただけで彼の印象は大きく変わる。いつもの仕事着の方が彼らしいけれど、こういった衣装も悪くない。ふと胸元をみると、ブラウスのタイが歪んでいる。直そうと思い手を伸ばすが、その和やかな雰囲気を鋭い声が諫めた。

「フェリド」

低い声は嫌悪を隠そうともしない。振り向くとそこには恐ろしい表情のロイがいる。

「そんなふうに睨まれなくても、自分の置かれた立場くらい分かってますよ」

そう言ってフェリドは私の後ろに黙って立つ。その立ち位置は臣下の場所。まるで給仕のように扱うロイに私は異を唱えた。

「二人は等しく私の伴侶なのよ。ロイが態度を改めなければ、誰も彼を敬わない。お願いだから偏見は捨てて」

フェリドに椅子に座るよう勧めるが、彼は決して動こうとしない。黙って首を振るだけだ。

「ティアラ、僕が彼と同じだなんて本気で言っているの?」

これほどロイが不快な声を上げるのを私は知らない。恐ろしく非情な物言いに身がすくむ。こんなにも根深い差別が存在することに悲しくなってくる。

「彼はもう庭師でも平民でもない。私の姓を与えた人間だと知っているでしょう」

冷静に淡々とロイに言い聞かせる。どんな偏見があろうとも今のフェリドは公妾としての身分がある。こんな給仕のような扱いを許してはいけない。加熱する火花にアンナが狼狽えているが、もう彼女ではこの空気を抑えることはできない。

「ロイ、貴方が首位とはいえ彼も次位なの。ちゃんと敬意を持って接してちょうだい」

私の一言にロイは虚をつかれたように目を見開く。私の態度に納得ができないようで、その表情はとても険しい。

「命を救ってやるだけでなく、この男に権力も与えるつもりなのか?」

こんな会話を続けたくない。権力や身分、嫌というほど聞かされてきた。ただ一人の人間を敬うのにどれだけの理由が必要なのか。
白熱する討論にフェリドも困り顔だ。頭を搔きながらバツが悪そうに私の肩に手を置く。

「もういい、俺なんかのことで口論しないでくれ」

耳元で囁かれ、彼は静かに退室しようとする。厳しい表情のロイはさも当然と言わんばかりで止める気配はない。

「アンナ行くわよ」

あたふたするアンナに声をかけ、私はフェリドと共に宮を後にする。私が付いて来たことでフェリドは驚いた顔をするが、気にせず彼の袖を掴んで大股で歩き出した。遠くでロイの声がするが、足を止めようとは思わない。
おいおい、と呆れた様子で私に思い直すよう諭してくるが、それすら無視してただ外に出ることだけを考えていた。
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