リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第四十四話 変わり果てた王宮

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数日後、私の元に使者がよこされた。父王からの伝達はすぐに王都に戻るよう記されている。それ以外の記載がないのが、父の怒りを表しているようだと思った。

「戻って理解を得なければ」

書状を受け取ってすぐに出立の準備を始める。ずっと気になっていた奴隷市場の罪なき者達を解放し、騎士の一部を残して治安維持に努める。
王都へフェリドを連れて行く為に下準備を進めていた。
彼を安静に運ぶため輸送馬車を使い、私とロイはそれぞれ馬に跨っている。フェリドはまだ傷口からの血が止まらず、その身を包帯で傷が広がらないよう巻かれている。
「これぐらい大したことない」と彼は笑っていたが、王都へ道のりは長く不安は尽きない。応急対応ができる騎士を同車させたが、リクシオンの耳飾りを持たない彼をどこまで世話するのか不安もある。

「ティアラ、心配なのは分かるけどもっと気を引き締めないといけない。陛下の怒りは並大抵ではないし、反王政派の動きも活発になっている。間違いなく何かが起きるぞ」

馬を並列に走らせて、ロイが私を忠告している。彼は遠回しに伝えてくるが、おそらくモルワードのことを言っているのだ。彼はここぞとばかりに私の名誉を失墜させ、正々堂々と王位継承の異議を唱えてくるだろう。

「私が排除されたら、貴方は私を見放すの?」

冗談めかして彼に問いかけると、彼は口元を緩ませて笑っている。

「まさか、君が排除されないために僕が居るんだ」

頼もしい言葉で私の不安を拭ってくれる。リクシオンの耳飾りを失ったロイは再びサファイアを身に着けた。宰相家の責務を果たすという彼の気持ちは痛いほど伝わっている。

「王位に未練はないけれど、無様な姿は晒さないと約束する」

ロイは頷いてその言葉を受け入れている。
長い道のりを歩みながら、私達はモデレオンを目指していく。



***



「お待ちしていました。ティアラ姫」

美しく鋭利な微笑みで、モデレオンの城門で私を出迎える者がいる。

「クローディア? どうして貴女がここに居るの?」

かつてモルアードの愛妾であり、フェリドの恋人。そして今はただの侍女に過ぎない彼女が何故私を出迎えるのか理解ができない。

「謁見の間に行けば、お分かりになると思いますよ」

どこか含みのある笑みは、私をこれでもかと不快にさせる。分かった、と返事をし、私は馬から降りた。そしてすぐにロイも私の傍に駆けつける。

「あの女は反王政派の一味だ。悪意の塊で油断ならない」

ロイの耳打ちを聞いて私は頷く。彼女ほどしたたかな人間はいないと思う。モルワードからフェリドに身を移し、主が排除されれば次の寄生主を見つけている。

「俺も一緒に連れていってくれ」

馬車からよろよろとフェリドが降りてくる。変わらず包帯には血が滲み、彼の傷の深さを思い知る。制止しようとした私を被せるようにクローディアが言葉を放った。

「そんな目に合わされても、お姫様に肩入れするの? せっかくの地位も奪われて、残ったのは醜い姿だけ。とんでもない馬鹿なのは昔から変わらないわね」

その言葉は嫌味か憐みか。フェリドはそんなクローディアを見つめている。

「そうだな、俺は馬鹿だ。でもそのおかげで見失わないものがある。誰かを信じ貫くことは何物にも代えられない価値がある」

きっぱりと告げる言葉にクローディアは黙り込んだ。

「お前も早くそんな人が現われるといいな」

そう言って私の傍に寄りそうフェリドに急いで肩を貸した。私達の姿を見てクローディアは美しく微笑んでいる。

「どこまでそんな戯言を言えるのか楽しみね。さっさと謁見の間で絶望を味わうといいわ」

身を翻して彼女は私達の先頭を歩いていく。
城の雰囲気はいつもと違っている。私達の姿を見ても誰も礼を寄越さない。クローディアがこんなに偉ぶる理由も謎だ。嫌な空気を感じて、慎重に謁見の間までの道のりを歩き出す。

「フェリド、歩くのが辛いなら僕が肩を貸す。ティアラに気安く触れるな」

ロイが有無を言わさずフェリドの身体を奪い去った。共にリクシオンの耳飾りを失った者同士、私への接触が許される立場ではないと諫めている。

「アンタが俺に肩を貸してくれるのか? それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうか」

そう言ってすべての体重でのしかかろうとする。ロイは鉄砲玉を食らったように顔をしかめたが、大人しくフェリドを抱えている。

「ちゃんと俺を運べたら、アンタの行いを許してやってもいい」

おぶさるように圧し掛かってフェリドはロイに説教をしている。

「誰に口を利いている。お前なんて僕の足元にも……」

反抗するロイの口元を手で覆って、フェリドはどこ吹く風のように言葉を聞き流す。ロイを翻弄する姿が、彼の今までの人生経験を物語っていた。

「そこは素直になれよ」

宥められるように手の中で転がされて、ロイは不機嫌に黙り込んだ。何も言わずフェリドの身体を持ち上げて歩いていく。その抱え方に一抹の不安があるものの、これが彼らの関わり方なのかもしれない。

「行きましょう」

視線を合わせて同意を求めると二人とも頷いた。謁見の間はもう目と鼻の先だ。重い扉の先に何が待ち受けているのか想像できない。ただ、分かるのは反王政派がこの城を我が物顔で仕切っているということだ。
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