仮面症のノベル

ナヒジキ

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第4話 天敵的エンジニア

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第4話 天敵的エンジニア
「あっつぅ~・・・」
季節ももうすぐ6月に差し掛かる
だが真夏のような気温で私に紫外線を注いでいく
全くノーガードなので早めに帰りたかった
だけどそこが都会の怖い所、すぐには帰してくれない連中もいた
『よぉ姉ちゃん、大変そうだね。大変だったら少し俺等とカフェで休んでいかない?』
「いや、結構です」
断るが4人共グイグイと迫りこんでくる
そしてどんどん人気のない所に誘導されていく
ヤバイと思った時にはもう遅く、周りには誰もいない
男の一人が何か合図をすると襟のところを掴まれる
そこに少し走りこんだ男が来る
やれやれとため息を吐きつつ、男は足早にその人へと歩み寄った
「何か困っているみたいなんで離してあげてください」
「何だよ、ヒーロー気取りか?流行んねぇんだよ」
一発、頬に入れられる
それでも怯まず、逃げもしなかった
チャラ男Aがもう一発殴ろうとした時、腕を掴んで止めた
そして拳を握り締め、腰の回転を使って重心を乗せた一撃をチャラ男Aの顔面に叩き込む。
そのコンクリートでも容易にぶち抜きそうな一撃をモロに喰らってチャラ男Aは勢い良く吹っ飛んでいき、壁に叩きつけら
れ動かなくなった。
「「「・・・」」」
何が起こったのか分からずに呆然としてるチャラ男B、C、Dの中から私の手を掴んで引きずり出し、チャラ男共が振り
向く前に私を背中に隠して三人を睨む。
『な、何だてめぇ!?』
「そりゃこっちの台詞だ、女の子何してんだ!!」
さっき見せた態度からは想像も出来ないような鋭い眼光を湛え、チャラ男共を視線のみで牽制する。
その眼光の鋭さに尻込みするへタレ、改めチャラ男共だが、人数の多さから自分達の方が有利と判断したのか、腰から折り
畳み式のナイフを取りだして精一杯の虚勢を張った。
『舐めてんじゃねぇぞコラァ!』
『その見てくれだけの面、傷だらけにしてやろうかぁ!!』
『ぶっ殺すぞ!!』
絵に描いたような小物だ
男は軽くため息を吐きながら頭を掻き、私にすら目視出来ないほどの速さで拳を繰り出し三本のナイフを手から離させた
折られて宙へと舞う三つのナイフの刀身を掴み、チャラ男共に投げつけてやった
「やるか?」
腹の底が冷えるような声と笑み、チャラ男共は表情を青くしながら首を振り、脱兎の如く逃げていった。
殴り飛ばされた仲間を置き去りにして
「ったく、どこの国でもこんな奴はいるもんなんだね。怪我とかない?」
「はい、助かりました」
「じゃあいいや、気を付けた方がいいよ。ここら辺はこういうの多いから」
「ありがとうございます、名前は?」
「俺は満永見(みながみ)です」
「私は佐々森です」
「じゃあ気をつけて、ここら辺少し騒いじゃったから早く帰りたいのならここから早く離れたほうがいいよ」
そう言ってまた駆け足で戻っていく
いい人だったな・・・

「―――っていう事が昨日あったんだよ」
昨日あった話を今つなし君に話す、こうして2人で話すのは初めてだった
他の2人は役員で出払っていて教室で待っている
「それは大変でしたね」
「もう全くだよ、もうあそこら辺の店には行きたくないよ」
「確かによく警察を見ますからね」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「普通に話せ」
「俺は聞いていただけで何も話してないですよ!?」
「敬語なしにモード・チェンジ!!」
「あぁ~、無理です!!」
「やっぱり好感度上げなきゃダメなの・・・!?」
「それまだ続いていたんですか、その設定・・・」
吉野の事も創路と呼んでタメ語になっている
男子だからという事も考えたがあの屋上以来よくつるんでいるのが分りやすい
あの屋上で何があったかさえ分かればこんなもやもやした気にはならない
「俺は基本人との繋がりは避けているって言ったじゃないですか」
「何で?」
「それは・・・昔あった事件で・・・」
「事件?事故って睦美ちゃんから聞いたけど?」
「あの馬鹿、喋りやがったな!!」
「冗談だよ~、今少しだけど敬語が外れたね」
「はぁ~、もういいですよ」
ため息を漏らしたが佐々森さんの興味は顔の方に向いた
「つなし、普通に髪切ってメガネ外したらかっこいいと思うんだけどね」
「そうですか?まぁ目立ちたくないんで」
「そうか、前から影みたいに教室にいたからね。私は初めから見ていたよ、かっこいいと思ってたから」
「鈴村さんからは第一印象オタクみたいって聞いたんですが?」
「バレちゃった♪でも変わったと思うよ?」
「まぁそうですね」
話していると携帯の着信音が鳴った
「メールが来た?」
「先にカフェに行っててくれって事ですね、それでカフェって何処ですか?」
「つなし父のだよ、因みに私と鈴の口コミでクラス中がもう知っているよ」
「何してんですか!?」
「はっはっはっ、敬語で話しているからだよ」
カバンを持って走り去る
俺も追いかけて走り出そうとすると廊下の角で怒られている佐々森さんを見つけて静かに追い越した

外で合流して2人乗りで俺の家のカフェまで飛ばす
後ろでゆっくり俺に掴まっている
「そういえば何で佐々森さんの所には連絡来なかったんですか?」
「昨日騒ぎで壊れちゃって、今は使えない状態」
「壊れているのを持っているんですか?」
「まぁ今日の帰りくらいにショップに行って直してもらう」
「今から行きます?時間ありますし」
「いいよ、早く行こう」
飛ばしていると見覚えのある顔があった
「あっ!!」
「ビックリした!!どうしたんですか?」
「少し止めて」
言われた通り止めるとせっせと駆け出してしまう
俺は通れる場所を探して少し遅れてしまった
「お久しぶりです」
「あぁ昨日の」
助けてくれた満永見さん
改めて見ると髪は少し不良見たく金が入っていて猫っ毛の様に寝癖をつけている
「あの後大丈夫だった?」
「大丈夫でした、改めてありがとうございます」
「いやいや」
「それで今日は何でこんな所にいるんですか?」
「知り合いがこの近くに住んでいるって聞いたんだよね、それで昨日もあそこら辺歩いていたんだよね」
そこに追いかけてきたつなしが合流する
「佐々も―――!!!」
言い終わる前に満永見さんに目を向けて表情を変えた
すっと走ってくると拳を強く動かして
「何してんだよ!!八代!!!」
バチンッと一発頬に叩き入れた
一瞬何が起きたか理解できなかった
確かに敬語はなくなったが吉野にこういう性格をしたことはない
「いや、さっき話した昨日の―――」
「お前が襲ったのか!!」
バチンをもう一発入れた
「だっ・・・大丈夫ですか?」
「うん、グーじゃないだけマシ・・・しかしちゃんと話を聞いてくれないといけませんね、つなし」
「黙れ!!」
一方的につなしが攻撃をしていて反撃しない
しばらくこんなものが続き、冷静を取り戻した
「全く何してんだよ、俺は正義なのに」
「ごめん、お前との経験上悪と判断される事が多かったものだから」
「それは・・・」
「あと多少のむかつきもあった」
「それ口に出しちゃいけないだろ」
「大丈夫、笑って許してくれるって信じているから。俺は八代を信じ・・・?」
「最後まで言え!!信じてないだろ、それ!!」
「えっと・・・つなし、満永見さんと知り合い?」
「親友だぜ」
「あぁ、親友!!・・・?、?・・・!?」
「なんで途中で不安になんだよ」
「はっはっはっ」
やっぱり関係者に会うと変わったかの様に楽しそうにしている
時間を潰そうと思っても携帯電話は壊れていて使えない
「あれ?携帯壊れているのか?もしかして昨日ので」
「うん、あの時の衝撃でね」
「じゃあ直してやれ」
「言われなくてもやるよ」
意味が分からないが一応八代さんに携帯を渡す
すると色々と工具を取り出して分解していく
「大丈夫、俺が製作の才能を貰ったようにコイツは技術の才能を使っている」
「エンジニアって言えよ」
「まぁロボットだとか男子全員でゲーム製作して儲けたりしている」
「基本直せないものはないと言っても過言じゃない」
そう言っている間に内部のプログラムや部品の検査を終えた
あとは外装の部品を直すだけ、だがその型も既に取ってある
10分もしない内に新品同然になって復活した
「上出来だな」
「朝飯前だ、それにしても睦美が帰ってきたとは意外だったな」
「話が戻ったか、八代の所にも話は来てるのか?」
「あいつのマイクやアンプ、ハーモニングディレクターは、俺の特注品だからな。お前の話で新しくしたいって連絡が来た
から部品調達で忙しくなった」
「良かったな、どうせ暇だっただろ」
「学生業の合間に企業とかの仕事の共同依頼とかやるのは大変なんだからな」
「そんぐらい知ってるよ、俺だってやってんだからさ」
「そうだったな」
「じゃあ俺等は行く所あるから」
「じゃあな、俺に出来ることがあれば何でも言え」
「目の前から消えろ」
そう冷たい言葉を言い残して、何事も無かったかの様に自転車を漕ぎ始める
「つなし、なんか性格変わるね」
「あいつの前だけですよ、馬鹿で罵倒しているだけですから」
「そんな性格があったなんて」
「中学時代を知っている奴等があの状況を見たら誰でもあぁしますよ」
にこやかにだが毒々しく言い放った
「つなしは好きな人とかいるの?」
「いや?今の所そういう人はいないですね?」
「じゃあ私とか、どう?」
「ご冗談を」
「本気だったら?」
しばらく沈黙が続いた
別に考えているわけじゃなく、少し昔の事を思い返している
「その気持ちはありがたく受け取っておきます」
「振られちゃった」
「佐々森さんにもきっと良い人が現れますよ」
「だといいけどね、まぁ収入が良い人がいいな」
「全員そう考えていますよね」
「そしてカッコイイ人がいいな、そしてなんかインドア派で、国語力があって優しい人がいい」
「あぁ、優しい人の部分でアウトになりましたね」
「いや、十分つなしも優しいよ!」
この人はなぜか強引に好みを俺に合わせてくる
面白がっているのか?マジなのかわからない
「ぶっちゃけ一作の収入いくらよ、あんなに売れているんだからめっちゃ儲けているんでしょ?」
「なんかいきなりいやらしい話になった!!」
「そっと一回でいいから言ってみ、誰にも言わないから」
「後々奢らされそうで怖いので言わないです」
「なんでよ、いいじゃん。何桁何桁?」
「あーあー、今日はザッハトルテが食べたい気分だな~」
ギアを変えてこの空間からの脱出を急ぐ

父親のカフェ『コズミキ・コニス』ギリシャ語で星屑という意味
大人気で平日なのに客数も満席に近いほどいる
そして今、俺はなんでか働かされている
それを見てカシャリカシャリと新しく直った携帯で撮影してくる
どうしてこうなかったかというと・・・
「父さん、何か適当に。俺は問答無用でザッハトルテでな」
「いや、今日は店員が少し風邪気味らしくて逆に待ち合わせまで手伝ってくれない?」
「・・・えっ?」
そして抵抗したが結果的にこうなった
佐々森さんがクラスの人達に言った性で学校の人達が放課後にちらほら来ている
髪型も変えてメガネも外しているから俺が暗い奴と言うレッテルが張られている藤ヶ谷だとは思ってない
まぁ今となっては別に苦になってない
そう思っている間もドアに付けられたベルが鳴る
「いらっしゃいませ」
カウンターの前には俺の存在を知っている二人
そして女の方はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた
ここで何かアクションを起こしたら相手の思うツボだ
「何に致します?」
「あれ?意外に普通だなつなし」
「つまらない」
一先ず難は去った
「鈴村は何する?」
「オススメはなんですか?」
「カリカリのパイ生地にレモンカードをよく使ったレモンクリームと滑かにする為にメレンゲをたっぷりと使って200°
のオーブンでいい感じに焦げ目がつくまで焼いた昔ながらのレモンパイです」
「「長っ!!」」
「まぁ説明文であって商品名じゃないですからね」
商品名はリモーネパイで俺しか作れないから俺がいる時限定商品である
そうしている内にカメラマンが一人増えた
「リモーネパイ2つですね」
「あとスマイル1つ」
「あははははっ、合計560円です」
「高校初の友達記念割引とかないのか?」
「ねぇよ!」
「何初の友達?500円でいいよ」
「そんな事しているとまた母親に怒られるぞ!!」
この前はケーキ1時間食べ放題(ドリンクは別)1000円というのを衝動的にやって少し赤字を出したばかりだ
ある意味この人物に経営を任せていたらやばい
待ち合わせの人物が揃ったため、バイトは終わりだ
「あのままやればいいのに」
「これが苦になってんですよ、さらに誰かさんのお陰でクラスや学校の人まで来るようになってますし」
「やったな、利益が増えるようになったじゃん」
「俺もそう言うポジティブ思考になれればいいのにな」
さっきから言っていたザッハトルテを一口代に切って食べる
どれも美味しいがその中で一番これが好きだ
だがそれを不思議そうに全員見つめている
「お前、何でそれ食べれるんだよ」
「特権だろ?今日の気分で無性に食べたくなったから」
どうしてそんな事を言っているかというと
外の売店に『期間限定、一日30個』と書かれている
まぁそれだけならまだ在れば食べれるし、特別作らせた訳じゃない
問題はその先だった
『※女性限定商品、男性の方はお買い求め頂けません』
中学時代の奴に男女差別と言われたこともある
「つなしってやっぱり女だったのか?」
「やっぱりってなんだ!創路は俺をそんな目で見ていたのか」
オタクの次は女疑惑か、他に聞けばもっと出てきそうだ
「それで今日は何の御用なんですか?」
「つなしって敬語とタメ混ざっていて話しにくくないの?」
「特にそんなことは考えたことないですね」
「と言うかどっちが素なの?」
「どちらかと言うとタメですね、親とかには普通ですから」
普通そうに言っているつなし、俺はそれにゾクッと恐怖心を感じた
他人に接する性格が変わる
普通の人でもよくそう言うのがあるが著しく高い場合、それは精神的な病気だと言われている
俺の父さんが医者だし、つなしにも直接聞いたことがある
『人格障害』
ストレスや何かしらの衝撃によって著しい性格的な偏りが長期間続いていて、その性格のために日常生活に支障をきたし、
問題を起こす可能性がある『人格(ペルソナ)障害』とも言われている
つなしの症状は軽目だが偏った性格の連鎖がある限りどんどん進行していく危険がある
治そうとは思っているらしいが原因が妨げになっているから思うようにはなっていない
「タメで話せる様になればいいのに」
「無理だよ、その理由だって知っているだろ」
「もう気が付いてるだろ?多分真実を知っても俺みたいに簡単には離れない。それにここまで仲良くなったんだ、もう後
には戻れないだろ?」
「分かったよ、では出来るだけ努力してみます」
「はいどうぞ」
「今からとは言ってないです」
「ちくしょうおかわり頼んでやる、ザッハトルテって奴」
「もう無いですよ、俺ので最後」
「譲り合いの精神はないのか、つなしには!!」
「早いもの勝ちだから、今言っても仕方ない」
少しぎこちないが敬語は徐々に抜けていく様にはなってきた
「それで集まった理由は?」
「あぁそうかすっかり忘れていた、6月の終わりに修学旅行があるじゃない。この4人で班組まない」
「いいね、つなしがいれば最強な気がする」
「確かにな、外国語喋れるし料理もお菓子も作れる」
「後喧嘩とイカサマが強いみたいだね」
「えっ?それどこで・・・」
「何かさっき直してもらった時にメアド入れてもらって色々とつなしの情報をもらった」
これだからあいつは危険因子なんだよ、普通やるかそんな事?
「後・・・3年前の事も教えてもらった」
「よし、ちょっとぶっ飛ばしてくる」
そう言い残して自転車に飛びってどこかに走っていった
「まぁつなしもいなくなった事だし帰るか」
「それよりも3年前の事って結局何?」
鈴村の質問に言葉を詰まらせてしまう
今なら分かる、つなしがどんなに追い詰められて学校生活を送っている
「まぁ人間知られないない事だってあるさ、それを無理やり聞くのは間違えじゃないのか?」
「そうだけど・・・」
外は昼間とは違って気温が落ちて涼しくなっていた
カバンを置いたままだったが家の店だから問題はないだろう
だけど次の日、つなしは学校に来なかった・・・
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