【短編集】纏う人たちの物語 ゼンタイに関わりたくなかったのに

ジャン・幸田

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アベックゼンタイの凌辱

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 華やかな物の廃墟というのは、物の憐れを感じてしまう。麻巳はそう感じていた。しかし、今いるところは因果なものであった。なぜならラブホテルの廃墟だったから!

 そこは郊外のさらに山奥に入った国道沿いの山林にあった。この国道も近くに高規格のバイパス道路が整備されたので事実上の廃道になっていて、通るのはおそらくどこかの集落への近道に使う地元住民ぐらいのようだった。季節は秋、道路沿いのガードレールには稲刈りした稲わらが干していた。それはそれで風雅ともいえたけど。

 そんなガードレールからさらに行った先に問題のラブホテルがあった。そこは周囲を高い壁で囲まれ、通用口から乗用車のままで入って、車から降りたらすぐ部屋に入って利用できるといった構造だった。その壁は西洋風、ドイツかフランスかわからないけど、そんなところのお城をイメージしたつくりをしていて、中の建物は物見櫓というか御殿というのか表現しようもないけど、独立して林立していた。

 ただ、廃業してから年数が経過しているのか、敷地内にナラやクヌギといった雑木が繁茂していて、まさに森に飲み込まれようとしていた。そんなところに一緒に来たのは浩司だった。

 浩司は麻巳にとっては、ただの男友達だった。それは浩司も一緒だった。なぜなら互いにパートナーがいるからだ。今日は純粋に廃墟探索という目的にきたからだ。このような廃墟を探索する場合、単独で行動した場合のリスクを思うと、もしもの時に安心だからだ。それに二人とも互いに恋愛感情はなかった。従兄妹同士なのでそれは当然だった。

 「ねえ、浩司。このあたりを撮影すればいいんじゃないの?」

 麻巳が指さしたのは、ある廃墟と化した部屋だった。そこは大きなベットが置かれ、周りに広いスペースがあった。たぶん、大人数でパーティーでも出来るようになっていたのかもしれない。でも、今では天井に穴が開き、こぼれ陽が差し込み植物が侵入して、かつての栄華を忘れているようであった。

 この日の廃墟は結構な広さがあった。本当のお城と思うぐらいであった。もしかするとスパリゾートにでも使えそうなぐらいの設備があったかもしれなかった。でも、ここは幹線道路を外れ人の暮らしすらもはぐれた地にある。観光資源もないここに、わざわざ訪れるのは廃墟巡礼をしている連中しかいなかった。ここは、そんな連中の有名スポットだった。もちろん、違法行為であるので散策するのは問題であったが。

 「そうだね、麻巳ちゃん。それにしても分かるよね、この廃墟の美は! なんていいんだろう!」

 そういいながら浩司は写真を撮っていた。浩司はカメラマンを夢見る専門学校生であるが、そのためか廃墟物件に凝っていた。ある意味残念なイケメンだと麻巳は思っていた。本当なら、今日は彼氏とデートであったが、彼に急な出張が入ってしまいキャンセルになり、日程が開いてしまったところに浩司から誘われたわけだった。本当はあまり気が進まなかったけど、助手としてついてきてしまった。まあ、後で洋服を買ってやると買収されたのであるが。

 撮影をしている時、ふと浩司のカメラのファインダーに人影が映った。しまった、面倒な事になるぞと思ったが、その想像は正しかった。その姿は尋常ではなかったからだ。カラフルな人影に見えたのだ。そいつらが、これから始まる二人に対する凌辱行為を行う連中だった!
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