クリスタルレディ との逃亡

ジャン・幸田

文字の大きさ
6 / 9
序・クリスタルレディ

06・タクマに会えぬ姿

しおりを挟む
 チズルは一糸まとわぬ姿となった。全身の毛を全て脱毛処理され、一目で誰なのか分からない状態だった。個性は抹消されていた。もし、タクマが見たとしても彼女だとすぐわからなかっただろう。

 「ほお、思った通り良い肉付きしているわね。今回のクリスタルレディの素体としては申し分ないわね。まあ、可愛らしいあどけない顔をしているから、あなたって素体は」

 ナンシーはそういったが、彼女からすればチズルはただの素体でしかなかった。彼女が興味あるのは自分の芸術作品と言えるクリスタルレディの出来栄えであった。チズルはただの材料でしかなかった。血肉の通う人間を依り代にして生命をもった機械人形を生み出すための。

 チズルはふと自分の下腹部に手をやった。ここを侵すのを許すとすればタクマだけだと決めていたのに、これから機械と融合するために様々な器具が挿入されることになるのがやるせなかった。無言で自分のを触っているとナンシーがこういった。

 「あなたみたいに素体になる女の子はどうしても気になるのよね、そこが。でも、あなたってヴァージンでしょ。機械の経験はあるだろうけど」

 そういわれチズルは顔を赤くした。今どきの若者といえば、希望すれば性教育の一環としてVRマシーンで性交渉の疑似学習が出来るのだが、チズルはタクマが婚約していると知って自暴自棄になり体験したことがあった。ヘッドギアをつけて体験マシーン装置に入れられて、いったいどういう事をするのかを学ぶものであるが、バーチャル上の男性はもちろんタクマだった。妹のようにしか見てくれないあの人を想ったのだ。ああ、もし許されるのならタクマとこんなことをするんだと感じていた。もちろん、それは脳内に刻み込まれた偽りの感覚であった。

 「ええ、まあ。でも、これからすることも学習したことと一緒ですよね」

 「そうよ。でも昨日とは違って最後までいったら、あなたは軍の備品になり下がるのよ。まあ、任務を無事に終えたら元に戻してあげるわ」

 昨日のシミュレーションでVRマシーンを使い最終チェックをしたので、チズルは自分がいかにして機械にされるのかを知っていた。もっとも、激痛を伴う措置の一部は感覚を省略していたし、終わったらまだ人間であった。でも、いまからはタクマに会っても気づいてもらえない姿にされる!

 「はい、わかりました」

 チズルは無重力区画にある改造マシーンの中に浮かんだ。ここは「機械子宮」とも呼ばれ、全身を同時進行に改造できるようになっていた。そして、そこを次に出る時は人間ではなくなったあとだ。そのときチズルは偽りの別れの挨拶を交わしたことを思い出して涙していた。機械に生まれ変わって一緒にいくなんて言わずにチズルが去っていったことを。けじめをつけるといっても・・・

 「おやおや、怖気ついたの涙なんか浮かべちゃって。まあ、大抵の女の子はそうなるものだけど、意外わね。昨日のシミレーションは結構良い線いっていたのにね。機械になる歓びを感じていたみたいだったのに」

 ナンシーはそういったが、昨日のチズルはタクマに再会できる事を想うと楽しくなっていたからそんな反応をしていたのだ。でも、いまはタクマに今の姿では再会できないと悲しくなっていたから、涙したのだ。

 「大丈夫です! 早く終わらしてください。早く身体に慣れたいからお願いします」

 チズルは振り払うようにそういった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...