人形娘香奈同居日誌 -早く人間に戻りたい-

ジャン・幸田

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香奈という人形

故郷で・・・

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 香奈は最後に故郷に帰って来たのは両親の三回忌法要の時だったから、もう二年は経っていた。しかし、故郷の春の空気を感じる事は出来なかった。香奈は人形の中に閉じ込められていた。しかも筆談とジェスチャーでしか意志を伝える事が出来なかった。

 バス停近くのコンビニの駐車場の車両のナンバープレートはほとんどが「愛媛」ナンバーだった。それは当たり前のことであったけど香奈は涙が出そうだった。しかし涙は出せなかった。香奈の顔は人形面の奥底深い所に埋もれていたから。

 その駐車場に智樹の兄の秀樹の車があった。その車は香奈もよく知っているもので、乗せてもらった事もあった。あれは両親が亡くなったときに・・・

 「智樹に香奈ちゃん。久しぶり! 話は車中でしよう!」

 秀樹は周囲を警戒するような動作をしながら二人を招き入れた。すでに香奈についての情報はメールで知らせていたので、承知のことだった。

 迫水家が経営する食堂はそこから南の町にあるので、コンビニを出るとすぐ向かった。その車窓から見える風景は香奈にとっても智樹にとっても懐かしいモノであったが、香奈は何も言葉にすることが出来なかった。

 「香奈ちゃん、災難だったね。話は智樹から聞いたけど、どうしたもんだろうな・・・」

 秀樹の話はそこで終わってしまった。三人は無言で車中にいたが何から話をすればいいのか分からなかった。人形になった香奈の事を思うと・・・

 迫水家の経営する食堂は風前の灯みだった。地方が斜陽化して久しいし常連さんも高齢化によって減少してしまった。まあ、智樹には予算がかからなければリニューアルしてもいいとはいわれていたが、それもこれもせめて祖父が生きている間だけは店を存続させたいというものだった。そう、迫水家も半ば食堂の存続は諦めていたのだ。

 迫水家に戻った秀樹の車はそのまま中庭に入った。香奈が戻ったことが周囲に知られないようにするためだ。そして香奈は迫水家の離れに入った。そこには迫水家の面々が勢ぞろいだった。その中には偽名で使った西岡雅花もいた。彼女は大学生で春休みなので帰郷していた。

 「香奈ちゃん! 本当に香奈ちゃんなの? ほんとに都会ってところはホンマに恐ろしい所じゃのう? これからどうしていこうかのう?」

 智樹の祖母は涙を流しながら香奈を迎えた。数年前に南松山を旅立った娘が変わり果てた姿で戻ってきたから。その姿を香奈の両親の墓前にどう報告したらいいんだろうか? そんな事を考えているかのような表情であった。
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