人形娘香奈同居日誌 -早く人間に戻りたい-

ジャン・幸田

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人形娘故郷へ

帰ってきた香奈

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 バスは瀬戸大橋を渡り四国山地の中腹を走る高速道路を走っていた。もうすぐ故郷は近いことに香奈は感慨深かった。でも私の身体は・・・人形になっていた。動かせるとはいうものの作り物になっていた!

 カーテンで閉め切られた車内は薄っすらと明るくなっていた。その光は春の柔らかい陽射しのはずだと思った。でも香奈が感じるのは人形娘の表面にあるセンサーによって伝えられるデータでしかなかった。内臓にされている香奈の肉体が直接感じることは出来なかった。

 バスタ新宿を前日の21時に出発したバスは、愛媛県内のインターチェンジ近くにある高速バス停をいくつか停まっていったが、その頃にはすっかり明るくなっていた。

 終点はJR松山駅前であるけど、香奈が降りるのは途中の松山インターチェンジそばのバス停だった。そこから智樹の実家、そして香奈の家があった南松山市に向かうのに都合が良かったからだ。そのバス停まで智樹の兄が迎えに来ているはずだった。

 バスは小松ジャンクションを超え、峠道に差し掛かった。ここを並走する在来国道の峠道は桜三里と呼ばれる桜並木があって、そこを親子三人でドライブした思い出に浸っていた香奈であったが、今の自分を思うと悲しくなった。

 両親を失った悲しみから逃れるために、特に目的もなく東京に行ったが、せっかく数年ぶりに帰郷するというのに・・・なにをしていたんだろうかと。

 そう思っていると揺さぶる手を感じた。それは智樹だった。小さい声でこういった。

 「雅花、降りよう」と。これは予約のために使った偽名なので、バスの中では通すしかなかった。香奈はしゃべれないので小さくうなずいて、倒していたリグライニングシートを起こした。

 「次は松山インターチェンジ入り口です。お降りの方は・・・」
 バスの自動音声に呼応し誰かが降車ブザーを鳴らす音がした。バスは料金所を出て一般道に入ったところで停車した。

 香奈は厚着をしたまま降り始めたけど、乗客の中にはその厚着を不審に思う眼差しを向けるものがいるように感じたので、急いで降りた。二人はようやく故郷に戻った。
 二人の元には桜を開花させるような温かい春風が舞っていたけど、香奈はそれを「内臓」にされた生身で感じられないことが悲しかった。

 「兄貴は近くのコンビニの駐車場で待っているから」
 智樹の言葉に頷いた香奈であったが、これから始まる生活に対しとても不安になっていた。それに・・・人形娘ではなく早く人間に戻りたい! それが一番の願いだった。
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