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来るべきだった世界

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 その時見たのはたぶん男で全身黒っぽい姿であった。それで幽霊に見えたのであるが、顔はなかった。そして服も着ていなかったようにみえた。あれって・・・戦闘員?

 僕の頭の中に戦闘員という言葉が浮かんだ。それは子供の時に見た特撮作品の中でヒーローたちにいつもヤラレ役として出てくる奴だ。扮装は黒っぽくて無個性なその他大勢の雑魚にしか見えなかった。それがなぜここにいるんだ?

 しばらく身を伏せていた僕は早く自分の部屋に帰りたかったが、ここはどこなのかわからなかった。わからないのに電車の車庫を飛び出してしまった。もし鉄道に興味があればわかったのかもしれないけど、地名すらわからなかった。ああ、どうすればいいのかと考えていると、とりあえず近くの駅に行けば良いと気づいた。駅に行けば誰かいるはずだと。とりあえず線路沿いを歩くことにした。

 僕は歩きながら本能的に何かがおかしいと思った。町の姿に違和感を感じたのだ。それにしても人と出会わないのは何故だろうか。そのとき、道端にホームレスが寝ているのに気づいた。いつもなら声をかける事すらないというのに、寝ている彼に話しかけた。起こしてしまったら怒られてしまう、と思い直して立ち去ろうとしたら、彼が飛び起きてこういった。

 「お前さん! 結構いい格好しているが、まだ調整されていないのか?」

 僕は何の事なのかわからなかった。

 「調整って何ですか?」

 「寝ぼけているのか? この国では市民登録されると管理スーツの着用が義務化されているんだ。わしのように、市民登録される価値がなければ、問題ないがな」

 管理スーツ? 市民登録? なんのことなのかわからなかった。

 「なんですが? さっき顔まで真っ黒なのを見たのですが関係あるんですか」

 「そいつか? 市民だな。市民は特権を与えられる代わりに全てを政府に管理されているのさ。全身を改造されてな」

 「改造? なんなのそれ?」

 僕はなんにも知らないという態度をするので、ホームレスは呆れながらこういった。

 「まさか・・・迷い込んだな。じゃあ、今は何年何月何日か言ってみろ!」

 「いまって、1997年4月15日じゃないのですか?」

 「やっぱりな! 今は2027年4月7日だ! お前さんは三十年後の世界にタイムリープしてきたのだ!」

 そういってホームレスは拾ってきたようなボロボロな新聞紙を見せてくれた。その日付けは2027年となっていた。そして新聞の写真に群衆が写っていたが、ほぼ全員がつなぎのような服を着ていて顔がなかった。それは超管理社会のなれの果てだった。
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