上 下
20 / 57
啓子が啓子を着る!

ソフィアの誓い(3)

しおりを挟む
 カリンは「ソフィアの誓い」では悪役令嬢に相当する役回りだった。悪役、といっても母の立場上そのように振る舞うしかなかったし、ソフィアが窮地に陥った時には密かに助けた事も一度や二度ではなかった。だからソフィアはそうなる事を望んでいなかったが、復讐の相手に連座して奴隷階層へと落とされようとしていたのだ。ソフィアは自分の復讐によって唯一無二の親友さえも失おうとしていたわけだ。

 「カリン、あなただけは助けたい! どうすればいいのよ?」

 ソフィアは取り乱してカリンの前に膝まついた。しかしカリンは何かを悟ったような晴れ晴れした表情だった。

 「いいのよ、あなたは何もしなくても良いわよ。わたしのことを助けようと思わないで良いわよ。そうじゃないの、法を曲げ民を苦しめ正義をないがしろにしてきた者たちの報いなんだから。だから、このままここから去らせてもらえないかしら? もう、わたしはここにいる資格はないのだから」

 カリンの表情とは対照的にソフィアは自分がしでかした事の重大さに胸が押しつぶされそうになっていた。母の復讐を果たすため、悪い奴には悪事を働くのは当たり前とばかり人を陥れたが、何ら罪悪感を抱かなかった。しかし復讐で得たのは友人を失う事だと知ったソフィアは打ちのめされた。

 「そんなことを言わないで、まさかこんなことになるなんて・・・どうすればいいのよ!」

 ソフィアは半狂乱になろうとしていた、それをなだめたのはカリンだった。

 「いいのよ、あなたを全て許しているとは言えないけど、そうなる運命だったのよ。分かっていたのよ、あなたが母に復讐心を抱いていて機会さえ到来すればこんなことになるって。
 それを妨げなかったのは、それがあなたが生きていく力になっていたからと分かっていたからよ。だから協力したのよ」

 それにしても友人の為に自分の身が危うくなるのを厭わない人なんていないとソフィアはおもっていたけど、いま現実に目の前にいた。
しおりを挟む

処理中です...