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(弐)処女妻の時代
勾玉の能力
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「あなた丁寧で良いわね、うちの息子のお嫁さんに来ない?」
私は宿を紹介してくれたお礼に藤原さんの背中を流していた。彼女は五十代目前で戦災で一家ごと喪った実家の母を思い出していた。でも、実家ではやったことはなかったけど。
「褒めていただきありがとうございます。でも、まだ戦地から帰らない許婚がおりますから」
「そうなんだ、残念だねえ、早く戻って来られたらいいのにね」
私はそうかわしたけど、それらは全て別人になり切るために考えた設定だ。今の私は20歳の遍路中の無職の娘で、戦争中は勤労動員で縫製工場に勤務していて、両親は空襲で亡くして、今は傷痍兵の叔父と一緒ということにしていた。人外の姿をしていても肉親だから一緒にいても不思議でないということにしている。でも、弾正さんは私にとって本当はどんな存在なのかは説明できなかったけど。
その宿屋の温泉は源泉かけ流しの比較的大きな露天風呂だった。だから私は隅の目立たない岩陰の所に移動して勾玉を手に持った。すると、横にいたお糸さんの想いが伝わっていた。
「香織様! ずっと無視するのですから! 私の事見えていたんでしょ!」
お糸さんは脱衣場からずっと私にくっついっていた。でも、姿は認識できても話しかけるわけにはいかなかった。脱衣場にいた藤原さんをはじめ多くの人にはお糸さんの姿はみえないからだ。今のところ彼女の姿が見えるのは私と弾正さんだけで、話しかければおかしな人と見られるから仕方なかった。
「ごめんなさいね。それにしてもお糸さんはずっと巫女さんの姿なのね」
幽霊である彼女は湯船に巫女装束の姿のままでつかっているように見えた。でも幽霊なので濡れる事はなかったけど。
「そうよ、仕方ないわよ。死ぬ直前の姿が反映されるからね幽霊は。これでも祠で神と祀られていた時は少しは違っていたのよ。いまじゃ、ただの幽霊だけど」
彼女とこうやって想いを口にせず交感出来るのは勾玉の能力のおかけだった。たまたま勾玉を手にしたときに言葉を口にしなくても以心伝心出来る事に気付いたので、周囲に人がいる時は勾玉を手にかけていた。
「どお、温泉は? 私もはじめてだけど良いわよ」
「温泉ねえ・・・あたいも生きていた時にここには来たことあるけど湯船につからなかったわ。だから・・・でも、幽霊なりに感じるけど生きていた時とは違う感覚だわ、たぶん」
幽霊に温泉の感想を求めるのはなんてバカらしいことだったと思っていた。すると、彼女は質問してきた。
「こみいった事情があるようだけど、香織様って処女ですよね? その勾玉の能力を使えるのは処女じゃないといけないようですから。なのに子供を残して亡くなったとか、話が変じゃないですか、それって?」
「そう思われても仕方ないわね、私の話を聞いてもらえないかな? そしたら事情が分かるわよ」
「して! して! お願いします!」
私は長湯の後、浴衣に着替えて就寝するまでの間、結婚してから遍路の旅を始めるまでの身に起きた事をお糸さんに話して聞かせた。処女妻の時代のことを。
私は宿を紹介してくれたお礼に藤原さんの背中を流していた。彼女は五十代目前で戦災で一家ごと喪った実家の母を思い出していた。でも、実家ではやったことはなかったけど。
「褒めていただきありがとうございます。でも、まだ戦地から帰らない許婚がおりますから」
「そうなんだ、残念だねえ、早く戻って来られたらいいのにね」
私はそうかわしたけど、それらは全て別人になり切るために考えた設定だ。今の私は20歳の遍路中の無職の娘で、戦争中は勤労動員で縫製工場に勤務していて、両親は空襲で亡くして、今は傷痍兵の叔父と一緒ということにしていた。人外の姿をしていても肉親だから一緒にいても不思議でないということにしている。でも、弾正さんは私にとって本当はどんな存在なのかは説明できなかったけど。
その宿屋の温泉は源泉かけ流しの比較的大きな露天風呂だった。だから私は隅の目立たない岩陰の所に移動して勾玉を手に持った。すると、横にいたお糸さんの想いが伝わっていた。
「香織様! ずっと無視するのですから! 私の事見えていたんでしょ!」
お糸さんは脱衣場からずっと私にくっついっていた。でも、姿は認識できても話しかけるわけにはいかなかった。脱衣場にいた藤原さんをはじめ多くの人にはお糸さんの姿はみえないからだ。今のところ彼女の姿が見えるのは私と弾正さんだけで、話しかければおかしな人と見られるから仕方なかった。
「ごめんなさいね。それにしてもお糸さんはずっと巫女さんの姿なのね」
幽霊である彼女は湯船に巫女装束の姿のままでつかっているように見えた。でも幽霊なので濡れる事はなかったけど。
「そうよ、仕方ないわよ。死ぬ直前の姿が反映されるからね幽霊は。これでも祠で神と祀られていた時は少しは違っていたのよ。いまじゃ、ただの幽霊だけど」
彼女とこうやって想いを口にせず交感出来るのは勾玉の能力のおかけだった。たまたま勾玉を手にしたときに言葉を口にしなくても以心伝心出来る事に気付いたので、周囲に人がいる時は勾玉を手にかけていた。
「どお、温泉は? 私もはじめてだけど良いわよ」
「温泉ねえ・・・あたいも生きていた時にここには来たことあるけど湯船につからなかったわ。だから・・・でも、幽霊なりに感じるけど生きていた時とは違う感覚だわ、たぶん」
幽霊に温泉の感想を求めるのはなんてバカらしいことだったと思っていた。すると、彼女は質問してきた。
「こみいった事情があるようだけど、香織様って処女ですよね? その勾玉の能力を使えるのは処女じゃないといけないようですから。なのに子供を残して亡くなったとか、話が変じゃないですか、それって?」
「そう思われても仕方ないわね、私の話を聞いてもらえないかな? そしたら事情が分かるわよ」
「して! して! お願いします!」
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