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(弐)処女妻の時代

筆談で!

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 怪しい鉄道公安が身分証を見られてから桔梗さんの動きは激しくなった。そのとき冬の弱々しい朝日の中を走行していた列車は大きな町に差し掛かっていた。帝都ほどではないが大きな建物が立ち並んでいて、大きな工場群の煙突から濛々と煙をあげていた通過する駅のホームには通勤客らしい人々の顔が並んでいた。

 「いい、香織。次に停まる駅で降りるのよ! いいわね!」

 そういって、減速し始めると同時に席を立ちあがりデッキへと駆け出した、私ははぐれないようにと必死だった。ホームに降りると跨線橋の階段へと荷物を抱えたまま駆け上っていった。降りた駅は帝都中央駅以上に大きなターミナルのようでホームが無数にある様に見えた。そして桔梗さんは私を駅構内の食堂に連れて行った。

 この食堂は混雑していたけど、なぜか私たちが来るとさっとお客さんが空いて来た。そして端っこの席に座ると軽食を注文して桔梗さんは手帳を広げ鉛筆を持って筆談し始めた。

 ”あの鉄道公安官、人外組織のよ。これから言う事が分かったら首を縦に振って”

 私は首を振った。どうやら人外の手の者がいるのを警戒しているようだ。

 ”急いで食べて。食べたら15番線に行く。次の列車に乗る。私が言う駅でさっきと同じように降りる。そしてタクシーで行く”

 どうやら桔梗さんは終着駅に人外たちが先回りしていると見ているようだ。どうも私と勾玉を狙う人外たちの組織力はあなどれないようだ。それにしても、なぜ以蔵さんは分かっているのに同行する人を付けてくれなかったのだろう?

 私が縦に首を振ったところで軽食がやって来た。その軽食は座敷牢で食べさせられていた食事よりも貧相であったけど、こうやって桔梗さんと食べる方がずっと美味しかった。食べた後はすぐ次の電車にのった。こちらの電車は夜行列車よりも混雑が激しかった。そしていくつかの駅を過ぎた後で、とある駅で降りた。その駅の前にはタクシー屋の営業所があったので、すぐタクシーに乗ることが出来たけど、いったいどうなるのか不安になってきた。
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