冤罪！ 全身拘束刑に処せられた女

（閑話）真由美の放課後

なぜ分かったの？

　姉と慕う愛莉が全身拘束刑を受けている！　真由美には意味がわからないことであった。全身拘束刑といえば矯正が不可能な犯罪者もしくは国家に対する反逆罪など、かつての死刑を間違いなく受けるであろうぐらいの重罪人に適用される刑罰だ。人間としての存在を抹殺し機械という道具にするものであるぐらい、現代を生きる人々の大多数が認識している事であった。

　「え？　お姉ちゃんって・・・今はロボットという訳なのですか？」

　真由美の頭の中で、高校の時に閲覧した刺激の強い教材動画を思い出していた。それは一種の犯罪抑止のためのPR動画だった。それは思い込みによって逆恨みした男が、放火によって何ら罪のない無辜の人々を死に追いやった報いとして全身拘束刑を受けたというものであった。

　放火殺人犯の男は動機に何ら情状酌量すべきものもなく被害者の処罰感情も厳しく矯正可能性もないとして死刑が宣告された場面から始まった。そして男は死刑が執行されるのかと思ったら、人体改造研究所に連行され、身も心もサイバネティクス技術によって機械に改造され、人類に隷属する存在にされ、罪を繰り返し悔い改めても元に戻ることなく、スクラップになるまで酷使されるという話だった。最期の人間ではなくゴミとして廃棄される場面は真由美にとってホラー以外の何物でもなかった。

　「まあ、そういうことだな、気の毒だが」

　杠の表情は曇っていた。

　「なんでなのですか？　さっき無罪なのにといっていたではないですか？　首相の力でなんとかならないのですか？」

　真由美は明らかに動揺していた。手が震えているのを自覚するほどであった。大好きな愛莉が人体拘束刑を受けていると知って落ち着いていられなかった。

　「それはな・・・あまり詳しい事は言えないんだよ。ここで本当の事を言うとあなたにも危険が及ぶかもしれないしな。はずかしい話だが、私は首相といっても名目的なものなんだ。あくまでも次の総選挙が行われるまでの管理人みたいなもので、積極的な関与は許されないのさ。だから、愛莉さんが全身拘束刑にされるまで気が付かなかったのだ、すまない」

　杠はそういうとハンカチを目に当てていた。それが演技なのか本当にそうやっているのかは分からなかったが、真由美は思った。なぜ分かったの？