婚約していたことを忘れていたので破棄するなんて私にとっても都合良いですわ

ジャン・幸田

文字の大きさ
12 / 28

11 (修羅場?)

しおりを挟む
 パーティー直後、一同は国王陛下の執務室でも謁見の間でもない場所に招集された。そこは王宮にある一部の者しか存在することをしらされていない秘密の間だった。今回の事態は外部に漏れては困る王室のスキャンダル。そう判断されたからだ。そこは王宮中枢の玉座のある間の地下にあり、薄暗い部屋の中で松明たいまつがたかれていた。ここは別名を「火刑の間」といい、そこで取り決められた事の大半は半永久的に公開されないと噂されていた。だから、スキャンダルで王子などが失脚して処刑が決定されるときぐらいしか使われたことはないといわれていた。もっとも、そんな事態はもう半世紀以上も起きていなかったが。

 その場には騎士団長ツーゼ、カリンの父親もいた。彼の手は震えていることを感じ取ったカリンはこう思った。”もし、あのパーティー会場にいたらハインツ様は殴られていただろう” と。

 カリンの父は騎士団の女性騎士としては厳しい態度であったが、家庭内では溺愛といっていいほど甘やかしていた。特に婚約式から始まる一連の嫁入りの儀式のために必要な品物を、まだ日取りすら決まっていないのに伯爵家として相応しいものを注文していたほどだ。それらの品物に相当の私財を使っていたのは噂になっていた。

 「カリン、大丈夫か?」

 騎士団など世間の多くの者が知らない父の優しい声でカリンにたずねてきた。

 「はい、呆れていますが」

 カリンはあきらめた境地を装っていった。自分の本当の気持ちを偽って。

 「そうか?」

 この「火刑の間」は、現在では枢密院が秘密会を行うためのところであり、高い天井に相当の面積があった。だから先方のシファードルフ家側とは距離があった。この時、国王陛下は官房長官に命じ宰相府や宮内省など関係各所にいろいろと手配している様だった。

 小一時間後。国王陛下が入場してきた。この会議の議長を務めるために。この時すでに国王陛下の裁可が決定していた。事前に聴取した両者の調書で判断したようだ。ハインツの処分は決まっていた。後は形式的に本人たちの意見を聴取したうえで宣告するはずだった。

 「これから王孫ツファードルフ公爵令息ハインツとツーゼ特別伯爵令嬢カリンの婚約契約についての裁可を行う。事前にハインツ側からこの婚約契約をなかったものとしたいと申し入れがあったために行う。一同起立!」

 国王陛下自らが王族の婚姻に関する事で会議を行うのは異例で合った。通常は全て書面のやり取りだけでしか行わないものだから。それにしても、国王陛下は娘夫婦の爵位を言い間違えていたが、それだけ頭の中では違う感情が渦巻いていたのかもしれない。

 「それでは・・・まずはハインツ。そなたは婚約破棄を願い出たそうだが理由を述べよ」

 国王陛下がそう言うと、ハインツは少し震えながら言った。さきほどまでの尋問でカリンという婚約者がいたのを失念していたことを思い出したからだ。

 「陛下・・・申し訳ございません。わたくしはこちらの令嬢と結婚したいと思っていたのですが・・・令嬢カリンの事・・・彼女と婚約していたことを忘れておりました。それで手続きとして婚約破棄をしていただきたく・・・お願いします」

 ハインツは相当汗をかいている様だった。隣にいるローザ嬢は言葉が分からないのできょとんとしていた。一応、通訳をする官吏がいたので、少し遅れてリアクションしているようだった。

 「そなたは・・・まあ、ここで愚痴はよそう。会議を迅速にしたいからな。では、カリン。そちらの意見は?」

 カリンは証言台にむかった。このように緊張するのは試合でもなかったことだ。本当は、色々といいたいこともあったし、自分の気持ちを正直に言いたかったが。事前の打ち合わせ通りの事をいった。

 「わたくしカリンといたしましては、全てそちらのハインツ様のご希望通りの裁可になることを希望します。どのような裁可が下っても一切の異議を申しません。以上です」

 実は内々に裁可の内容がカリン側だけに伝えられていたのでカリンはそう述べた。これが婚約を維持するというものだったら。そういわなかった。後は、双方の弁護代理人が事実関係を整理した書類を提出した。この裁判に近い会議は結果が決まっているので全ては書面を秘密裡に残すための形式的なものだった。

 国王陛下は提出証拠を点検したうえで、ハインツに意見陳述するようにこう促した。

 「ハインツ。そなたはカリン嬢に対して何か述べる事はないか? 申し訳ないと思うのならなにかしら陳謝すること」

 そう述べる国王陛下の手は震えていた。それは国王ではなく祖父として表現できない怒りの感情からくるものであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

婚約破棄されましたがそれどころではありません

メッタン
恋愛
ステファニーは王太子シャルル様に婚約破棄をされるも、まさにそれどころじゃない事態に陥るのであった。どうする?

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!

鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。 ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。

婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜

夜桜
恋愛
辺境の地を治めるクレメンタイン辺境伯家の令嬢ノアは、帝国元老院から突然の召喚を受ける。 帝都で待っていたのは、婚約者である若きエリート議員、マグヌス・ローレンス。――しかし彼は、帝国中枢の面前でノアとの婚約を一方的に破棄する。 「君のような“辺境育ち”では、帝国の未来にふさわしくない」 誰もがノアを笑い、見下し、軽んじる中、ひとりの男が静かに立ち上がった。 「その令嬢が不要なら、私がもらおう」 そう言ったのは、“冷血の大提督”と恐れられる帝国軍最高司令官――レックス・エヴァンス。 冷たく厳しい眼差しの奥に宿る、深い誠実さとあたたかさ。 彼の隣で、ノアは帝都の陰謀に立ち向かい、誇りと未来を取り戻していく。 これは、婚約破棄された辺境伯令嬢が、帝国最強の大提督に“一瞬で”溺愛され、 やがて帝国そのものを揺るがす人生逆転の物語。

処理中です...