婚約していたことを忘れていたので破棄するなんて私にとっても都合良いですわ

ジャン・幸田

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 形式的な審議が行われ国王陛下の判決は既に決まっていた。カリン側に内々に事前通知されていたから。このような裁判の形式を取ったのは、そうしなければならないと法律が決めていたから。これがフツーの貴族家だったら勘当して追い出して終わりだろうけど、ハインツは王族の血族だから仕方なかった。王になる可能性は絶無でも王位継承権をもっているから。

 「王孫ツファードルフ伯爵・・・さっきは言い間違えてしまったな。ハインツ! お主に記録抹殺刑とする! 出生直後に遡って貴族籍を剥奪する!」

 記録抹殺刑とは最初から存在しなかったものとされるもので、勘当よりも重罰であった。ハインツは生まれた直後から王国にいない事になった。だから貴族どころか王国臣民として存在しなかったと認定された。

 「詳しい判決は此処に記述しているから自分で読むこと! これ以上いない者に時間をかけられない。以上、閉廷!」

 その判決を聞いてもハインツとローザはポカーンとしていたが、両親は泣き崩れていた。一方のカリン側はどうでもいいという態度だった。記録が抹消されても婚約していた事実は人々の記憶に残っていても構わないと。その直後、ハインツとローザは法廷から連行されていった。

 あとで聞いた話によれば王族でなくなったハインツは直ちにジーゼル帝国大使館員に引き渡されたという。もう王国臣民ではない異邦人扱いされ、強制送還された。ハインツは生涯王国への入国禁止処分を受けたという。カリンたちには関わりないことであった。

 「ハインツの事は申し訳なかった、カリン嬢。あいつはいないことになったから最初から婚約などなかったことにしたから」

 国王陛下からカリンに直接謝罪された。本来ならツファードルフ伯爵当主が謝罪すべき事であったが、既に存在しない者の事をどうすることは禁じられているので、奪った陛下がするしかなかった。

 「滅相ございません、大変恐れ多いことです」

 カリンはそう発言したが、陛下が強硬策を取ったのはこれ以上カリン側が主張するのをやめさせたと感じていた。これ以上ハインツの事は触れてはならないと暗に命令されたと同じだと。

 「カリン嬢、お主だが朕が新たな婚約者を探してもいいと思うかどうか? もちろん望んだらであるがな。好きな人がいたら構わないぞ!」

 陛下の後半の発言にカリンは光に包まれる思いがした。もし、王命で婚約者を指名するといわれたら、ハインツという不良債権がいなくなった意味がなくなるところだった。

 「陛下のご配慮、ありがたき幸せでございます。もし、よろしければ私が思っている殿方がおりますので、その方との婚姻を認めていただきたいと願います」

 カリンは陛下の前で跪いて許しを乞うたが、その心の中であの方と一緒になりたいと願っていた。いつも騎士として一緒にいる男と。

 
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