86 / 166
第参章:この世界で二人生きていくためには
085.ヴァリラディスへの秘密の指示
しおりを挟む
ヴァリラディスは要塞馬車でこの世界各地に残存する破綻戦争以前の超高度科学文明の遺物を回収するのが生業だった。それは魔道士ギルドの任務の一つであった。この世界の秩序を維持するための超国家的組織だから出来る事であった。だから永久炉のような技術を独占しているのもそのためであった。
アサミとタクヤを迎えに行くように指示したのは魔道士ギルドの最高位の筆頭統領であったが、それは異例なことだった。筆頭統領の地位は儀礼的なもので公式には通常は直接的な権力を行使しないはずだった。なのに、なぜ秘密裡に行使したのかといえば、答えは限られていた。
「ヴァリラディス、二人は無事にお迎えできたのですね? あとは、その指示書にある様に連れて行くのですよ」
先ほど、ギルドの支部で秘密裡に送られた筆頭統領の命令親書をヴァリラディスは開封していた。その時ヴァリラディスは通常使えない通信機器で本部と連絡を取っていた。この世界がある惑星の衛星軌道上には破綻戦争以前の通信衛星が残存しているのだが、それを使えるのもギルドだけだった。
「ひとつ伺っていいか筆頭統領殿下、あの二人は時々いる異世界からの召喚者と大差ないようですが、なぜ殿下自らが指示されるのですか?」
少しの沈黙の後、向こうの中年女性の声は重大な秘密を語る様な口調でこういった。
「あの二人は・・・この世界の存続を左右する命運を握っているのですよ。たとえば ”死の女神” が再臨する事があれば対抗できるのかもしれませんよ」
「し、”死の女神”が再臨・・・まさか?」
中年の女が発したその固有名詞は伝説によれば破綻戦争の全ての原因を生み出したものとされるものであった。また伝承によれば再び降臨することがあれば、この世界は消滅するとされていた。
「二人については、神の御神託所の巫女が預言しているのですが、その事を知っているのは限られた者だけです。決して何人にも話さないでください、本人たちにも」
「本人もですか?」
「ええ、時が来れば分かる事ですが・・・今しばらくは魔道士見習いとしてその日に備えます。その日ですが・・・」
しばらくの沈黙の後、結局筆頭統領はなんにも語ることはなかった。ただ、側近の一人らしい若い女の声で命令親書についての説明が行われた。そして命令親書の内容を暗記してから他の者が読むことない様に、近くの暖炉の中で灰にしてしまった。
「ご指示通りに致します。取りあえず二人と旅を続けます」
ヴァリラディスは要塞馬車への帰途に就いた。この宿場町は夜中になってもにぎやかであったが、命令親書の最後の一文に不安を覚えた彼はこうつぶやいていた。
「あの二人が、世界を滅ぼすことも再生させることも、両方の可能性があるだなんて・・・どういうことなんだ、それは?」
アサミとタクヤを迎えに行くように指示したのは魔道士ギルドの最高位の筆頭統領であったが、それは異例なことだった。筆頭統領の地位は儀礼的なもので公式には通常は直接的な権力を行使しないはずだった。なのに、なぜ秘密裡に行使したのかといえば、答えは限られていた。
「ヴァリラディス、二人は無事にお迎えできたのですね? あとは、その指示書にある様に連れて行くのですよ」
先ほど、ギルドの支部で秘密裡に送られた筆頭統領の命令親書をヴァリラディスは開封していた。その時ヴァリラディスは通常使えない通信機器で本部と連絡を取っていた。この世界がある惑星の衛星軌道上には破綻戦争以前の通信衛星が残存しているのだが、それを使えるのもギルドだけだった。
「ひとつ伺っていいか筆頭統領殿下、あの二人は時々いる異世界からの召喚者と大差ないようですが、なぜ殿下自らが指示されるのですか?」
少しの沈黙の後、向こうの中年女性の声は重大な秘密を語る様な口調でこういった。
「あの二人は・・・この世界の存続を左右する命運を握っているのですよ。たとえば ”死の女神” が再臨する事があれば対抗できるのかもしれませんよ」
「し、”死の女神”が再臨・・・まさか?」
中年の女が発したその固有名詞は伝説によれば破綻戦争の全ての原因を生み出したものとされるものであった。また伝承によれば再び降臨することがあれば、この世界は消滅するとされていた。
「二人については、神の御神託所の巫女が預言しているのですが、その事を知っているのは限られた者だけです。決して何人にも話さないでください、本人たちにも」
「本人もですか?」
「ええ、時が来れば分かる事ですが・・・今しばらくは魔道士見習いとしてその日に備えます。その日ですが・・・」
しばらくの沈黙の後、結局筆頭統領はなんにも語ることはなかった。ただ、側近の一人らしい若い女の声で命令親書についての説明が行われた。そして命令親書の内容を暗記してから他の者が読むことない様に、近くの暖炉の中で灰にしてしまった。
「ご指示通りに致します。取りあえず二人と旅を続けます」
ヴァリラディスは要塞馬車への帰途に就いた。この宿場町は夜中になってもにぎやかであったが、命令親書の最後の一文に不安を覚えた彼はこうつぶやいていた。
「あの二人が、世界を滅ぼすことも再生させることも、両方の可能性があるだなんて・・・どういうことなんだ、それは?」
0
あなたにおすすめの小説
俺のレベルが常人では到達不可の領域にある件について ~全ユーザーレベル上限999の中俺だけレベル100億いった~
仮実谷 望
ファンタジー
ダンジョンが当たり前のようにある世界になって3年の月日が流れてずっとダンジョンに入りたいと願っていた青年が自宅にダンジョンが出現する。自宅の押し入れにダンジョンが出現する中、冷静に青年はダンジョンを攻略する。そして自分だけがレベル上限を突破してレベルが無尽蔵に上がり続けてしまう。そうしていづれは最強への探索者として覚醒する青年なのであった。
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について
マカロニ
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。
クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。
{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜
Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。
だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。
赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。
前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、
今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。
記憶を失ったふりをしながら、
静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。
しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。
――これは復讐でも、救済でもない。
自由を求めただけの少年が、
やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。
最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。
重複投稿作品です
小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる