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序・チェンジリング
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貴族など上流階級の婚姻はほぼ全て政略結婚といって差し支えない。全ては打算によるものだ。当事者は恋愛感情など全く顧みられないし、愛情などを構築していくのは婚礼が終わってから絶えまなく続くことになる。
そんな努力を最初から放棄しようとする花嫁がいた。彼女は王族の娘という地位を疎んじていた。その地位を自ら放棄するのではなく、父親たる国王に勘当してもらおうと非行に走っていたが、意図どおりにならなかった。そのかわり、臣下に降嫁するように命じられた。王朝にとって主従関係を強化するのは婚姻が有効であるが、相手はその時の候補者に左右される。
彼女には姉が6人いたので、王家に見合う家柄へ嫁いでいったため、7番目になると目ぼしい候補者はいなくなっていた。しかも非行に走った、具体的にはだらしない男性関係に耽っていた娘を花嫁に向える王族や貴族はほぼいなかった。高額の持参金を用意すると表明したところで、求愛する貴族もいた。しかしそれらの男は後妻としてとか、借金を抱えた貧窮貴族ばかりであった。そこで国王は本来跡を継ぎはずでなかったが、父や兄を相次いで亡くして相続したばかりの三男を無理矢理指名した。彼が忠誠心に篤いのにつけこんで。
それで婚礼の日を迎え、その日最後の儀式は結婚初夜だ。世襲制度の中で後継者は必須であり、授かる能力があるのを示す機会であった。しかし、当人同士はその意思は無かった。互いに嫌悪感を抱いていたのだ。双方ともそれなりに容姿端麗な金髪碧眼であったが、相手に抱く印象が悪かった。新婦は武人であるのが嫌であったし、新郎は男性にだらしなく下々の者に対し横柄なのが嫌だった。
「わたくしを女にしてください。よろしくおねがいします」
新婦はうやうやしく言ったが、新郎は拒否した。女として抱く気にならなかった。武人であったので、いつか討ち死にして妻や子を残すのが嫌だったので婚姻する意思がなかったのに国王に強制されたうえ、その相手が嫌いなタイプの女だったのでなおさらだった。相手は貴族から庶民まで評判が良くなく、悪い噂が数多く出ていた。なかんずく「悪役令嬢」と呼ばれていた。「王女」ではなく「令嬢」がつくのかといえば、王女では不敬罪に問われるからだ。
新郎は抱きたくなかったが、結婚初夜ぐらいは妻となる女がいうように、夫婦の契りを結ばないとならないのは確かだった。そこで新婦からもらった媚薬を服用することにした。その薬は別室で飲んで来てというので、執務室に移動した。
新郎が席を外している間、新婦は婚礼道具として持ち込んだ箱の中から、あるものを取り出していた。それは自分に容姿が似ている娘だった。この日の為に協力者が拉致してきたのだ。その娘は眠らされた後に身体を洗い化粧してきたが、新婦はあんまりにも自分に似ているのが嫌になるほどそっくりになっていた。彼女も媚薬を飲まされたうえ、全身に男が欲情する香料を塗られていた。
その娘は裸であったが、新婦はその時着ていた寝間着を彼女に着せた。そして代わりに旅支度をし始めた。さっきまでの新婦は入れ替わってしまった。
「これでよし! 悪いわねあんたにはあたいの身代わりになってちょうだいね。取りあえず朝までは役に立ってね!」
そういって何も知らない娘は寝台の上に横にされた。彼女の意識は虚ろで自分がどこの誰なのか分からなかった。理性のない人形のようになっていた。結婚初夜に出奔する計画決行に用意された身代わりだった。新婦と瓜二つだったので、選ばれてしまった。すると、新郎が戻って来た。
「なんだ、あんたが先に寝台で待っているのか?」
そういって隣に寝ると、だんだん野獣のようになっていく自分の気付き嫌になった。でも、身体の方が言う事を聞かず彼女を愛撫し始めて、そして儀式は始まった。身代わりになった娘は純潔を知らないうちに散らしていった・・・
「うーん、うーん、うーん」
娘は朦朧とした意識で今何が起きているのかを考える事が出来なかった。全身を侵奪されるのは分かったが抵抗できなかった。そのとき、自分が何者であったのかわからなかった。その時の彼女は理性など持たぬ生物の雌であった。本能的に相手を受け入れてしまった。自分で自分の身体を揺らしていた。そんなことをするなんて彼女は考えたことがなかった。身体が自然と動いてしまった。
処女を護ることを神の前で誓った彼女からすれば、最もやってはならない事態だった。愛撫された後は、本当に契りを結ばれてしまった。そして大事なものが彼によってかき回されていた。回される度に彼女の瞳から涙がこぼれていた。快楽の歓びと純潔を失った悲しみによって。
「はあ、はあ、はあ」
男もまた薬に支配されているのを自覚していたが、結局行くところまで行ってしまった。彼女の貞節を奪った証の赤い花びらがシーツを染めていた。そして身体は満足したが心は嫌悪感に苛まれていた。愛情を感じない女を抱いてしまったことに。でも、薄々おかしい事に気付いた。この女は処女じゃないと聞いていたのに。目の前の女は?
寝台の上にいた娘はさっきまでいたはずの新婦によく似ていたが、違っていた。
「これでよし、じゃあな」
寝室を密かに脱出した新婦は、さっきまでいた屋敷を遠くから振り返っていた。今までの人生を捨てた元・王女の女は暗闇へと協力者と共に消えていった。彼女のその後ははっきりしない。公式にはそのような事実などないことにされたから。そのかわり、拉致され身代わりにされた娘の物語が始まる。オルガの物語が。
そんな努力を最初から放棄しようとする花嫁がいた。彼女は王族の娘という地位を疎んじていた。その地位を自ら放棄するのではなく、父親たる国王に勘当してもらおうと非行に走っていたが、意図どおりにならなかった。そのかわり、臣下に降嫁するように命じられた。王朝にとって主従関係を強化するのは婚姻が有効であるが、相手はその時の候補者に左右される。
彼女には姉が6人いたので、王家に見合う家柄へ嫁いでいったため、7番目になると目ぼしい候補者はいなくなっていた。しかも非行に走った、具体的にはだらしない男性関係に耽っていた娘を花嫁に向える王族や貴族はほぼいなかった。高額の持参金を用意すると表明したところで、求愛する貴族もいた。しかしそれらの男は後妻としてとか、借金を抱えた貧窮貴族ばかりであった。そこで国王は本来跡を継ぎはずでなかったが、父や兄を相次いで亡くして相続したばかりの三男を無理矢理指名した。彼が忠誠心に篤いのにつけこんで。
それで婚礼の日を迎え、その日最後の儀式は結婚初夜だ。世襲制度の中で後継者は必須であり、授かる能力があるのを示す機会であった。しかし、当人同士はその意思は無かった。互いに嫌悪感を抱いていたのだ。双方ともそれなりに容姿端麗な金髪碧眼であったが、相手に抱く印象が悪かった。新婦は武人であるのが嫌であったし、新郎は男性にだらしなく下々の者に対し横柄なのが嫌だった。
「わたくしを女にしてください。よろしくおねがいします」
新婦はうやうやしく言ったが、新郎は拒否した。女として抱く気にならなかった。武人であったので、いつか討ち死にして妻や子を残すのが嫌だったので婚姻する意思がなかったのに国王に強制されたうえ、その相手が嫌いなタイプの女だったのでなおさらだった。相手は貴族から庶民まで評判が良くなく、悪い噂が数多く出ていた。なかんずく「悪役令嬢」と呼ばれていた。「王女」ではなく「令嬢」がつくのかといえば、王女では不敬罪に問われるからだ。
新郎は抱きたくなかったが、結婚初夜ぐらいは妻となる女がいうように、夫婦の契りを結ばないとならないのは確かだった。そこで新婦からもらった媚薬を服用することにした。その薬は別室で飲んで来てというので、執務室に移動した。
新郎が席を外している間、新婦は婚礼道具として持ち込んだ箱の中から、あるものを取り出していた。それは自分に容姿が似ている娘だった。この日の為に協力者が拉致してきたのだ。その娘は眠らされた後に身体を洗い化粧してきたが、新婦はあんまりにも自分に似ているのが嫌になるほどそっくりになっていた。彼女も媚薬を飲まされたうえ、全身に男が欲情する香料を塗られていた。
その娘は裸であったが、新婦はその時着ていた寝間着を彼女に着せた。そして代わりに旅支度をし始めた。さっきまでの新婦は入れ替わってしまった。
「これでよし! 悪いわねあんたにはあたいの身代わりになってちょうだいね。取りあえず朝までは役に立ってね!」
そういって何も知らない娘は寝台の上に横にされた。彼女の意識は虚ろで自分がどこの誰なのか分からなかった。理性のない人形のようになっていた。結婚初夜に出奔する計画決行に用意された身代わりだった。新婦と瓜二つだったので、選ばれてしまった。すると、新郎が戻って来た。
「なんだ、あんたが先に寝台で待っているのか?」
そういって隣に寝ると、だんだん野獣のようになっていく自分の気付き嫌になった。でも、身体の方が言う事を聞かず彼女を愛撫し始めて、そして儀式は始まった。身代わりになった娘は純潔を知らないうちに散らしていった・・・
「うーん、うーん、うーん」
娘は朦朧とした意識で今何が起きているのかを考える事が出来なかった。全身を侵奪されるのは分かったが抵抗できなかった。そのとき、自分が何者であったのかわからなかった。その時の彼女は理性など持たぬ生物の雌であった。本能的に相手を受け入れてしまった。自分で自分の身体を揺らしていた。そんなことをするなんて彼女は考えたことがなかった。身体が自然と動いてしまった。
処女を護ることを神の前で誓った彼女からすれば、最もやってはならない事態だった。愛撫された後は、本当に契りを結ばれてしまった。そして大事なものが彼によってかき回されていた。回される度に彼女の瞳から涙がこぼれていた。快楽の歓びと純潔を失った悲しみによって。
「はあ、はあ、はあ」
男もまた薬に支配されているのを自覚していたが、結局行くところまで行ってしまった。彼女の貞節を奪った証の赤い花びらがシーツを染めていた。そして身体は満足したが心は嫌悪感に苛まれていた。愛情を感じない女を抱いてしまったことに。でも、薄々おかしい事に気付いた。この女は処女じゃないと聞いていたのに。目の前の女は?
寝台の上にいた娘はさっきまでいたはずの新婦によく似ていたが、違っていた。
「これでよし、じゃあな」
寝室を密かに脱出した新婦は、さっきまでいた屋敷を遠くから振り返っていた。今までの人生を捨てた元・王女の女は暗闇へと協力者と共に消えていった。彼女のその後ははっきりしない。公式にはそのような事実などないことにされたから。そのかわり、拉致され身代わりにされた娘の物語が始まる。オルガの物語が。
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