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結婚式をしていないのに目覚めたら花嫁
朝食にて
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ノルトハイム家は王国の北部辺境部に領地を持つ公爵家であった。辺境は多数の隣国と国境を接しているので、隙あらば侵略してくることが多く、自然と強大な軍事力を持っていた。そのため、王家としても他の国に寝返らないようにするためにも王家の娘を輿入れさせる必要があった。
そのためコンラートの長兄に時の国王は第三王女を輿入れさせていたが、子供を残さないまま相次いで死去していた。そのうえ次兄も戦場で未婚のまま散華したので、最後に残った相続人であるコンラートにオルガと婚姻することが命じられたわけだ。
三男の自分は公爵位以外は何ももらえないと思いコンラートは士官学校で出て前線で騎馬隊の指揮官を勤めていたが、父の死去でわずか25歳で当主に思わぬ形で相続して困惑していたところに、評判の悪い王女との婚姻で気持ちが折れそうになっていた。自分よりも身分が下の大多数の民衆をバカにするような悪役令嬢と一緒になることに。
でも、幸か不幸か王女は失踪し代わりにどこかの娘が目の前に現れた。ある意味ほっとしていたが、問題は今後のことであった。真相を世間に公表すれば王家にとって醜聞であり、命運も尽きかねないし、かといって彼女の意志に反し、まあ貴族の婚姻全てがそうであるが、このままの状態にするのも不憫だった。
朝食前のオルガのした祈りはコンラートも感銘をうけたが、そのあとは彼女にとって試練だった。貴族のテーブルマナーなんて分からなかったからだ。おかげで執事のセバスチャンに教えてもらいながら食べる羽目になった。
「もうしわけございません。このような素晴らしい食材が用意されているというのに、おかしな食べ方をしてしまいまして」
オルガは恐縮しながら悪戦苦闘しながら食器にナイフやフォークを使っていた。産業革命直前の時代は庶民といえば食事を手掴みで食べる方が多かったので、オルガは殆ど使えなかった。
「仕方あるまい。でも、お前はこのままというわけにはいかないな。セバスチャン、ローザに躾の家庭教師を探してくるように指示しろ。まあ悪名高い令嬢だから嫌がるかもしれないが、多少言い値になっても構わないという事に」
コンラートはオルガの顔をじっと見つめていた。昨日大聖堂で結婚したはずの花嫁とそっくりだというのに、なんでこんなに受ける印象が違うのだろうかと考えていた。これは同情なのかそれとも愛情なのかその時には分からなかった。
「ノルトハイム公爵殿下、これからわたしはどうなるのですか? まさか口封じで殺したりしませんよね?」
オルガは不安になった。こんな王女が失踪したなんていう秘密を知ってしまったからには、生きて帰れないかと心配していた。そうなったら孤児院の院長を務めるハウザー未亡人にも会えなくなるし、弟や妹として可愛がっている子供たちにも会えなくなると悲しく思っていた。
「殺すだと? 僕はそんなことはしない。戦場で場合によって命を奪う事をしてしまったことはあるが、無辜のお前の命を奪うような非道はしないぞ。だって知らなかったんだろ、こんなことになるのを」
コンラートは微笑んでいた。なんとなくオルガを可愛らしいと思ったからだ。
「そうですが・・・とりあえず何をすればいいのですか?」
オルガはなんとか食事を終え、一仕事終わったという感覚になったが、先が見えない事に変わりはなかった。
「とりあえず、僕の花嫁のふりをしてもらえないかな? 此処だけの話だが国王陛下が近いうちに王太子カール殿下に譲位されるそうだ。それまではオルガとして振る舞ってくれ。まあ多少はズレていても周囲の者は結婚して変わったとでも思ってくれるだろうから大丈夫だろう。そのあとは、お前の望むようにしてやるぞ。どっちかいいのか答え給え」
オルガは望むようにしていいという意味をこう感じた。このまま公爵夫人として一生を全うするのか、元のオルガに戻るのかを選択しろということだと。その時のオルガはこう答えた。
「それでは然るべき時期に元の生活に戻してもらえませんか? 出来なければいいですが」
そういうオルガにコンラートは少しの失望と大いなる感銘をうけた。
「そうか、それならこうしないか? 国王陛下が譲位されたあと、オルガは病に斃れ亡くなったことにしよう。流行り病でということにして、誰にも見せずに棺をすぐに埋葬してやる。その葬儀の最中にお前を逃がしてやる。そうすればいいだろう? それまでは苦労を掛ける事になるが僕の妻オルガとしていてくれ」
オルガはコンラートの頼みに応じないといけないと思った。もし、邪魔なら自分は首を絞められているはずだと。そのかわり何とかしてくれるようだから、頼るしかないと。でも、嫌な事がひとつあった。なんで王国中の嫌われ者の”悪役令嬢”オルガの振りをしないといけないのよ!
そのためコンラートの長兄に時の国王は第三王女を輿入れさせていたが、子供を残さないまま相次いで死去していた。そのうえ次兄も戦場で未婚のまま散華したので、最後に残った相続人であるコンラートにオルガと婚姻することが命じられたわけだ。
三男の自分は公爵位以外は何ももらえないと思いコンラートは士官学校で出て前線で騎馬隊の指揮官を勤めていたが、父の死去でわずか25歳で当主に思わぬ形で相続して困惑していたところに、評判の悪い王女との婚姻で気持ちが折れそうになっていた。自分よりも身分が下の大多数の民衆をバカにするような悪役令嬢と一緒になることに。
でも、幸か不幸か王女は失踪し代わりにどこかの娘が目の前に現れた。ある意味ほっとしていたが、問題は今後のことであった。真相を世間に公表すれば王家にとって醜聞であり、命運も尽きかねないし、かといって彼女の意志に反し、まあ貴族の婚姻全てがそうであるが、このままの状態にするのも不憫だった。
朝食前のオルガのした祈りはコンラートも感銘をうけたが、そのあとは彼女にとって試練だった。貴族のテーブルマナーなんて分からなかったからだ。おかげで執事のセバスチャンに教えてもらいながら食べる羽目になった。
「もうしわけございません。このような素晴らしい食材が用意されているというのに、おかしな食べ方をしてしまいまして」
オルガは恐縮しながら悪戦苦闘しながら食器にナイフやフォークを使っていた。産業革命直前の時代は庶民といえば食事を手掴みで食べる方が多かったので、オルガは殆ど使えなかった。
「仕方あるまい。でも、お前はこのままというわけにはいかないな。セバスチャン、ローザに躾の家庭教師を探してくるように指示しろ。まあ悪名高い令嬢だから嫌がるかもしれないが、多少言い値になっても構わないという事に」
コンラートはオルガの顔をじっと見つめていた。昨日大聖堂で結婚したはずの花嫁とそっくりだというのに、なんでこんなに受ける印象が違うのだろうかと考えていた。これは同情なのかそれとも愛情なのかその時には分からなかった。
「ノルトハイム公爵殿下、これからわたしはどうなるのですか? まさか口封じで殺したりしませんよね?」
オルガは不安になった。こんな王女が失踪したなんていう秘密を知ってしまったからには、生きて帰れないかと心配していた。そうなったら孤児院の院長を務めるハウザー未亡人にも会えなくなるし、弟や妹として可愛がっている子供たちにも会えなくなると悲しく思っていた。
「殺すだと? 僕はそんなことはしない。戦場で場合によって命を奪う事をしてしまったことはあるが、無辜のお前の命を奪うような非道はしないぞ。だって知らなかったんだろ、こんなことになるのを」
コンラートは微笑んでいた。なんとなくオルガを可愛らしいと思ったからだ。
「そうですが・・・とりあえず何をすればいいのですか?」
オルガはなんとか食事を終え、一仕事終わったという感覚になったが、先が見えない事に変わりはなかった。
「とりあえず、僕の花嫁のふりをしてもらえないかな? 此処だけの話だが国王陛下が近いうちに王太子カール殿下に譲位されるそうだ。それまではオルガとして振る舞ってくれ。まあ多少はズレていても周囲の者は結婚して変わったとでも思ってくれるだろうから大丈夫だろう。そのあとは、お前の望むようにしてやるぞ。どっちかいいのか答え給え」
オルガは望むようにしていいという意味をこう感じた。このまま公爵夫人として一生を全うするのか、元のオルガに戻るのかを選択しろということだと。その時のオルガはこう答えた。
「それでは然るべき時期に元の生活に戻してもらえませんか? 出来なければいいですが」
そういうオルガにコンラートは少しの失望と大いなる感銘をうけた。
「そうか、それならこうしないか? 国王陛下が譲位されたあと、オルガは病に斃れ亡くなったことにしよう。流行り病でということにして、誰にも見せずに棺をすぐに埋葬してやる。その葬儀の最中にお前を逃がしてやる。そうすればいいだろう? それまでは苦労を掛ける事になるが僕の妻オルガとしていてくれ」
オルガはコンラートの頼みに応じないといけないと思った。もし、邪魔なら自分は首を絞められているはずだと。そのかわり何とかしてくれるようだから、頼るしかないと。でも、嫌な事がひとつあった。なんで王国中の嫌われ者の”悪役令嬢”オルガの振りをしないといけないのよ!
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