ふたりはサードライフはじめました!

ジャン・幸田

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奇跡の朝

01・鏡のふたり

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 やさしい春の日差しが差し込んできた。龍治は寝ぼけた目をこすっていた。なんだか柔らかいモノを抱いている感覚がした。龍治はその時77歳で、つい最近長年住んでいたボロアパートを追い出されてしまい、露頭を彷徨う羽目になった。結婚したことがなく親族とも疎遠になっていたので、頼るべき存在がない彼は途方に暮れていた。そんなときに救いの手を差し伸べてくれたのは知り合いの助言だった。同じような独り身の老婆の世話をすることを紹介されたのだ。

 その老婆は早苗で隆治とおなじように身寄りがいない83歳だった。彼女は足が不自由で介護の必要な状態だった。しかも財産もなくあるのは倒壊しそうな古い平屋だった。そこに住んで彼女の世話をすればいいということになったが、問題があった。赤の他人が住むのはおかしいという事だ。だから、籍を入れた。結婚したわけだ、好きでもないのに! しかも二人とも高齢になるまで一度も結婚経験がなかったというのに!

 そんな利害が一致しただけで暮らし始めた二人であったが、一緒にいれば同居人としての情愛は生じていたが、それは男女のものではなかった。恋愛なんてする年齢でもないし、それに互いに異性としての魅力などなくなっていたから。だから夫婦というよりよシェアハウス仲間でしかなかった。早苗は住居を提供する代わりに介護してもらい、隆治は住ませてもらう代わりに身の回りの世話をする共生関係にあった。

 その前日の事を思い出そうと隆治はしたが、思い出したことといえばベットから早苗がトイレに行く手伝いをして、粗相の世話をしてから部屋に戻って・・・記憶がなかった。そういえば早苗を寝かせた覚えがなかった! なにが起きたのだろう?

 「うーん、婆さんをどうしたんだろワシは? まさか?」

 この時、隆治は二人揃ってベットの脇で倒れて失神したんじゃないのかと思った。そういうことなら、早苗が目の前で・・・風邪をひいている? そう思って早苗を探したがいなかった! 代わりにいたのは若い二十代の女だった! 柔らかいモノだと思ったのは彼女のオッパイだった!

 「だ、誰だ、お前?」

 こんなにも若い女、しかもハダカのなんて見たのは何年前の事だったのか思い出せなかったし、もしかすると初めてだったのかもしれなかった! すると、その女は目を覚ました。

 「誰って? あんただって誰よ! こんなバーさんを襲ってなにしようというのよ! おかしいんじゃないのよ!」

 バーさん? 隆治は変だと思った。どう見ても娘だというのに!

 「ちょと、そんなに肌に張りがあるバーさんっているのかい?」

 そう言われ女は自分の身体をマジマジと見ていた。そのとき隆治は気づいた。彼女が介護用のオシメをしているのに! それは昨晩、早苗に着せたものだった!

 「なによ、これ? あたしって83歳のはずよ! なんで娘に戻っているのよ! ここって、まさか天国なの? 死んでしまったの? ねえ、そこのボウヤ教えてくれない?」

 ボウヤ? なんのことなんだと隆治がいぶかっていると自分の手を見た。その肌は若々しかった!

 「ワシは隆治だ! ボウヤなんかじゃない! あ、そうだ鏡があったよな!」

 そういって早苗の枕元にある手鏡を持ち出して自分たちの姿を見た。鏡に映っていたのは二十代前後の若い男女だった。

 「誰よあんたは?」

 「お前こそなんだよ!」

 二人は戸惑っていたが、互いに答えは分かっていた。そして同じことを言った。

 「わたしたちって、若返ったというの?」

 二人がいた早苗の寝室は昨日と同じであったが、介護用ベットの上の二人は別人だった。中身はともかく。
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