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奈緒の暴動
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暗闇に塗られた部屋で、言葉では表せぬ唸り声が聞こえる・・・。
その声には感情が込められていた。それは自分の感情を放出しているようにも思える。
彼女は今日、ある事で担任に叱られた。その時こそ、それは仕方のないことだと思ったが、今思い返すと全く異なる感情が芽生えてくる。
畜生・・・。邪魔しやがって・・・、村上の野郎・・・・・・マジ死ねよ・・・ッ!!
私の人生に自由はない・・・。いつも誰かに命令されて、いつも誰かに束縛される。
そんな日々を過ごしている私が、ひねくれない訳がない。人間誰しも自由が欲しいのは当たり前の感情だと、私は思う。
私はそんな当たり前すら奪われて生まれてきて、もう自分が何でこの世に生まれてきたのさえ見失いかけている・・・。
でも、自殺という様な馬鹿な考えは決して起こさない。
私の先に道があるなら、選択するのは自由を手に入れること・・・。待っていたって誰も与えてはくれない。ならば、自らが勝ち取るしかないのだ。
どんな場所でも良い。私は、上位に立ちたかった。
もう僕は嫌だ・・・。誰も私に指図するな・・・。哀れむ眼で私を見るな・・・・・・。
そんな奴等は、みんな嫌いだ。親も、教師も、薫子も・・・。
いつもの角で待ち合わせ。私が待つ義理はないのだが、何故かあいつだけは待ってやりたくなる。まぁ、小突く相手がいないと私の心が保たないからだろう・・・。
そんなに待つことなく、元気な少年が駆けて来た。私を見つけると、満面の笑顔で手を振ってくる。私が振り返すわけないだろっての・・・・・・。
「奈緒ー、おはよう!! いつも待っててくれて有り難う!」
「私と一緒に登校したいなら、私より早く来なさいよ。女を待たせる男は嫌われる」
「わ、解かったよ!! 明日からは早く来ますッ!!」
「明日は休日だろっての・・・・・・」
不機嫌な私と元気な光。これが私たちのいつもの光景。楽しいとは思わないが、この時だけはなんとなく落ち着くのだ。
「じゃあ月曜から!」
「絶対に光じゃ忘れてるって・・・・・・」
「忘れてないよ!!じゃあ、約束するから」
「約束破ったらこれからは一人で行くけど、いいの?」
「う・・・・・・」
ちゃんと守れるか自分と相談しているようだ。責任感無さ過ぎだっての・・・。
「ってかさ、なんでそんなにも私にくっ付いてる訳? 光は薫子に従う義理なんてないじゃん」
「えー、奈緒とは幼馴染だし気が合うって言うかなんていうか・・・・・・」
「小学生で幼馴染って・・・、まぁ間違っちゃいないけど」
光とは幼稚園前から遊んでた・・・・・・、らしい。私はよく覚えていないが、母親に公園へ連れて行かれた時はいつも遊んでいたらしい。
それから幼稚園も一緒。小学校も、なぜか今までクラスが同じ。そして、気付けば私の傍らには光がいる生活が当たり前になっていたのだ。
しかし、落ち着くのはそれが理由ではない。
私は、親といたって落ち着かない。多分、信頼の深さが影響しているのだろう。
なんだかんだで、私が光を求めているのかもしれない・・・。もしかして、それを光は悟ってる? いやいや、有り得ないっての・・・。
校門前、私の表情は陰りを見せる・・・。
出来ればここを潜りたくはない・・・。緊張は、私には似合わない。いつも堂々としていなければ・・・・・・。
潜ってしまえば、この緊張は終わりだと思った。しかし、心臓は全力疾走したまま止まらない。より血脈は加速し、頭を刺激した。
「・・・・・・、はぁ・・・」
溜息をすると少し楽だった。でも、仕草にして出すと光が気付いてしまう。
案の定私の方を見ながら、どうしたの? 大丈夫? など、お決まりな言葉を並べている。返事をする気分ではないので無視。沈黙を保ったまま、ゆっくり教室へと向かった。
それからの私は様子がおかしかったと思う。
教室内は昨日とは違う。一昨日と変わらない、薫子が制圧している国のようだった・・・。
いや、薫子は変わった・・・。衣宮美結という少女により、何かが変わった。それは好都合な反面、不都合でもあった。
薫子が衣宮美結とつるむようになってからは、私は奴にあまり近寄らなくなった。向こうからも話しかけて来ない。正直、私のとってもの凄い喜ばしいことだった。
でも、未だにお嬢様口調が耳に残っている・・・。それが実際に聞こえてくるたび、私の心は怒りに震えた。
カッターナイフで机の内側を抉っているのは誰にも気付かれてはいない。気付かれたところでどうという訳ではないが、私の感情を悟られて変に同情されるのはこの上なく不愉快だ。
机をお嬢様の首に見立てたことも少なくない。あの時はスカッとしたな・・・。でももう飽きた。
偽りの救いでは私の心は癒せない・・・。本当の癒しが欲しかった。
でもそれを与えてくれる者は現れない。実際に5年間現れなかったんだ。
私は馬鹿だった・・・。現れるはず無いものを無駄に待ち続けていたのだ。5年間も・・・・・・。
しかし、昨日はチャンスだった。もう二度と現れないような状況が出来た。奴が斉藤イジメの犯人にされたのだ。
誰も本当の犯人を知らない。私も知らない。だから、一番実現可能な奴が疑われた。そのおかげで奴を何度も殴ることが出来たのは、生まれてきてから一番の快感だった。
これからはそれが続くと確信した。これが俗に言う薔薇色の学園生活なんだと思った。でも・・・、衣宮が教師にチクった・・・・・・。
それだけの行為で、私の理想は見るも無残に破壊されたのだ。それからは誰も手を出さなかった。私も、その時だけは反省していた・・・。帰宅して冷静になると、それは馬鹿な反省だったことに気付いた・・・。
やり返して、何がいけないというのだろう・・・。そんなもの、やったもん勝ちじゃないか・・・・・・。
悔しくって一晩泣いた。そして、私はひとつの結論に辿り着いた。
やったもん勝ちなら、私もやればいいじゃないか。
今しか奴を殺すチャンスはない・・・。だが、衣宮美結が奴の味方に付いたことで少し困難になった。でも、それくらいで怖気づいていては勝者にはなれない。
負けを生かして勝利に活かせとはよく言ったものだ。
・・・・・・・・・、私は絶対に勝者になる。
バンッ!! っと思い切り机を叩く。粉砕でも出来たらインパクトが強かったが、小学生の少女にそれほどの力はないので諦めた。しかし、それにより発せられた衝撃音は、生徒達の心にそれ並みのインパクトを与えたようであった。
「おい、みんなはこれでいいっての? 今まで下僕のようにひそひそやってなきゃいけなかった仕返しは、昨日で終わりなの・・・ッ!?」
生徒達は唇すら動かない。それはなにも言わないのではない。言葉を考えているのだ。ってことは、迷ってるってこと・・・?
一瞬勝機が見えたのを確認した奈緒は、畳み掛けるように言う。
「教師なんて口だけじゃない。今までのことを知っていながら、お嬢様優先。そんな奴の話聞かなくていい!! 自分が正しいと思ったことが正しいに決まってるッ!!」
「そうだ・・・・・・」
きた・・・ッ!! 生徒達に昨日の怒りが蘇ってくる。そう、みんなは1日だけ怒りを押し殺しただけ。少し叩けば本心は転がり出てくる。
「やっ、やめなよ、奈緒!!」
光が私の袖を引くが、私は昨日の夜に決めた。今回は絶対に引かない、いくら光が止めようと・・・。
「「「そうだ、そうだ!!」」」
「伊藤の言うとおりだ、なんで龍ヶ崎ばっか優遇されなきゃいけないんだよ!!」
「あんな奴の言うこと聞く必要なんてないもんな!!」
徐々に昨日の惨状を蘇らせていく。それは奴を殴った時にも勝る快感だった。
私が作り上げている。作らされてるんじゃない!! 私が怒りを作っているんだ!!
「おい、昨日も言っただろ。薫子は犯人じゃねぇ!!」
案の定出てきたか、衣宮美結・・・!
「はっ・・・、もうそんなことどうだっていい。もうそんな口実必要ないってのッ!!」
「ッ!! はは、今まで自分を主張出来なかったことを薫子のせいにするのかよ?」
「実際にそうだっての! 奴がいなきゃ私は普通に育って、普通に女の子できてたってのッ!!!」
奴さえいなければ、私だって可愛く笑えてたっての・・・・・・・・・。
「それは薫子ちゃんのせいじゃないもん!! 奈緒ちゃんも言える勇気があれば、きっと薫子ちゃんといい友達になれたと思うよ」
斉藤栞・・・。あんた等和解したっての!? これは面倒臭い・・・・・・。
いざとなれば、イジメのことを話しにだしてごり押す気でいたけど、これじゃあ無理ってことか・・・・・・。
「私はあんたと違ってお人好しじゃないっての!! よくイジメの犯人候補と仲良くできるな、普通、疑って話もしたくないだろっての」
「わ・・・、私は犯人ではありませんわ!! 栞さんはそれを解かって下さいました。栞さんを責めるのはやめて!!」
「お前は黙ってろ!! その声聞くだけでムシャクシャしてくるっての・・・・・・」
「奈緒・・・。私はお友達だと思ってましたのに・・・・・・」
「私がお前に対して抱いてた感情は、怒りと憎しみだけだっての!!」
気付けば生徒の半数は私側に立っていた。不満を持って、未だに奴を許せない者がこんなに!? これなら・・・。
「私たちは、奴を絶対に許しはしない!! 反お嬢様勢力とする!! みんな異議なし?」
「「「おー!! 今までの分をきっちりやり返す!!」」」
反お嬢様勢力は一斉に返事をする。やる気は満々のようだ。
「・・・ッ!! どうする、薫子!?」
「どうって言われましても・・・・・・」
「クラスの半数が奈緒ちゃん側だよ・・・、私たち三人じゃきっと無理・・・・・・」
3人は身構える。が、その様子は実に頼りなかった。
「みんなぁ、手始めに昨日の続きだッ!!」
私が手を振ると、人ごみが一斉に三人を飲み込む。なんという優越感なんだろうか、これこそ私の夢見ていた立場!!
三人の少女はよってたかって殴られたり蹴られたり・・・。本当に昨日の続きにも見えた。
奈緒の指示は絶妙なところでかかる。やめろと言えば、みんなの手はピタリと止まった。それすらも気持ちが良い。
少し後に村上が入室する。
一同が静かに着席すると、美結は奈緒を睨んでいた。それに気付いた私は、にやりと悪意に満ちた笑みを返してやった。
授業中はいつも通り、何一つ変わらない。私はいい部下を持った。馬鹿みたいに紙くずを投げたり、消しゴムのカスを飛ばしたりする奴はいない。
そうだ、少し待てば好きなだけ遊べるんだ。これくらいは我慢してもらわなくては困るっての。
次の休み時間、奴等はすぐに逃げていった。まぁいい。それすらも私に悦楽を覚えさせる糧なのだから。
「村上に何か聞かれても黙秘。絶対になにも答えないで! 解かりません、とか知りませんとか言っておけば相手はそれ以上踏み込めない」
私は村上と戦う覚悟さえあった。村上も私を見下す者の中のひとり。それに恐らく今は奴等三人の味方・・・。彼と戦わずして勝利することは出来ないのだ。
生徒に体罰なんて与えられない。ということは、出来ることなんて精々口で叱るか親にチクるくらいだろう。もう親なんて怖くない。昨日の夜覚悟を決めてから、私に怖いものなんて無かった。
「伊藤たちが!? ・・・あいつら反省してなかったのか・・・・・・」
「生徒の半数は奈緒の味方です。私たちだけじゃとても太刀打ちできません・・・・・・」
三人の少女の姿は職員室にあった。三人が共通して頼れる者、村上に相談していたのだ。
てっきり昨日の一件で反省しただろうと思っていた村上は頭を抱えていた。
「最近の子供はタフだなぁ・・・。俺が侮っていただけかもしれないが、厄介なことになってきたな」
彼は本気で悩んだ。薫子を助けたいという気持ちはある、だが、それより優先的に、立場上薫子を助けなければならないという使命がある。
薫子に危害を加えることは、今後の職の有無に関係してくるほど大きい。ここの教師達はそう校長から叩き込まれていた。担任である村上は特に五月蝿く言われていた。
先生でさえ頭を抱えるという現実を見て、少女たちは不安でいっぱいだった。
「まぁ、もう一回叱ってみる」
それが一時しのぎでしかないことは村上も解かっている。
でもそれしか出来ないくらいに追い詰められていたようだった。
「おい、聞いてるのか? みんな、伊藤!?」
宣言どおり、次の授業の初めに村上は叱った。
反応はない。昨日とは正反対で、奈緒にいたっては落ち込むどころか堂々としていた。
馬鹿な村上。私はそんな半端な決意じゃないっての。止められるものならとめてみろってのッ!!
今の私には、笑みを浮かべてしまう程に余裕があった。
奈緒は実に悪意の操作が上手だった。もの凄く冷静で、このことに関してはかなりの速さで頭が回った。
奈緒勢力の生徒には、村上の前では絶対に奴等をイジメさせない。
それは当然、村上が恐ろしいからではない。手を出した生徒が叱られて、怒りを押さえ込ませたくなかったからだ。
そればっかりは、いくら私の覚悟が強くてもどうしようもないこと。
出来るだけ数は減らしたくない。私の勢力はクラスの半数以上。
半数以上がこちらに付いていれば、奴等が勢力を作っても数が超えられることは絶対にない。人数差で勝っていれば、部下達も強気でいられるはずだ。
それから何度も少女たちを逃がした。だが、捕まえた休み時間は、それを補足するくらいにイジメてやった。
1週間が経っても、村上は頭を抱えながら何も出来ない。私の決意は完璧。私は完璧な勝者になった!
その時はそう思っていた・・・・・・。
午後の授業が始まる。引き出しから教科書とノート、そして筆箱・・・・・・。あれ・・・? 筆箱どこだっけ・・・。
私はロッカーにあるランドセルに確認しに行く。・・・、そんなところにあるはずはないのだが、学校で次に心当たるところはそこしかなかった。
3時間目の授業に使った後、どうしたっけ? ・・・・・・・・・、ちゃんとしまった。再び引き出しを弄る。しかし、筆箱は出てくることは無い。
・・・・・・・・・? 訳わかんないっての・・・・・・。
午前授業の4時間目は体育だった。だから教室内は空になる。パクられるとしたらその時だ。
だけど、奴等は私より先に校庭にいた・・・。奴等だけじゃない。敵だと思っている村上もそこにいた。
ということは、誰だ・・・?
私が知る限り、それ以外に敵はいない。その4人には不可能なのに、私の筆箱が消えた・・・。
午後の授業中私は、昔のようにイライラしていた。
次の日、私の椅子が消えていた。またしてもイライラする。
部下に聞くが、知らないという。誰だ、私を不愉快にする奴は誰だ!!
そういえば、最近は斉藤へのイジメがなくなっている気がする。犯人不特定のまま闇に消えた事件だ。それがまた帰ってきたということか・・・・・・。私をターゲットにして・・・。
「・・・・・・・・・ッ!! くそが・・・・・・」
仕方なく村上に報告する。悪いことをしているから悪いことが帰ってくるんだぞ。と言われたが、私は聞き流した。
取り敢えず新しい椅子を用意してもらい教室まで持っていく。
それから、朝の会まで黙っていた。今は部下の笑い声さえ耳障りだ・・・。
何もかもがイラつく・・・。それは懐かしく、そして絶対に戻りたくない感情だった。
朝の会。先日出されていた宿題を提出しろということだ。
宿題なんて下らないが、一応ちゃんとやっている。奈緒は成績が悪くなく、レベルの高い中学校を狙えるほどだった。
それはほんの少しであったが、私に優越感を与えてくれるもの。だから勉強はちゃんとやった。
ここで違和感を覚える・・・。椅子を持ち帰った後、ランドセルの中身を全て引き出しに移した。その時、宿題のノートらしきものを移した記憶が無かった。
家の時、ランドセルへ入れたのは記憶がある。だけど、出した記憶が無い・・・。
入れるときはひとつずつ確認するが、出す時はいちいち全て確認なんてしない。だって、入ってることが解かっているんだから。
それだけのこと。単なる勘違いだろう。そう思い引き出しを調べる。そうは思っている、いや、言い聞かせているのだが、身体は妙に緊張して冬だと言うのに汗が吹き出てくる。
ある・・・、あるんだってば・・・。
その期待は裏切られる・・・・・・。そのノートは引き出しのどこにも入ってはいない。
入れたものが消えた。・・・、そういえば聞いたことがある。学校の怪談のひとつ・・・、思考を洗脳して錯覚を生み出す怪物がいるようなことを・・・。
以前、それはカウンセラー室の教師をオーバーに捉えた話だと思っていた。でも、それは勘違いなんじゃないか・・・・・・?
初めて自分が正しいと思ったことに疑問を感じる・・・。
違う・・・、誰かが、誰かが私に嫌がらせをしている! それ以外は絶対にない!! それが正しい答え・・・ッ!!
「おい、伊藤。お前以外全員出したぞ? もしかして忘れたのか?」
「・・・・・・・・・ッ! 忘れました・・・・・・」
私が狙われていることは誰にも悟られてはならない・・・。それが知られたら私の立場が危うくなる。
自分のリーダーである者が、闇のいじめっ子に狙われているなんて部下が知ったら恐怖し、私に非協力的になるに決まっている。
そうなれば私の作り上げた理想郷はすぐに消え去り、後に残るのはイジメを受ける私だけ・・・・・・。
そうはなりたくない・・・。いや、そんなことには絶対にさせない。既に親と教師を敵に回している。闇のいじめっ子がひとり増えたところで変わらないようなものだ。はは、変わらない・・・、絶対に変わらないっての・・・・・・。
その日から奈緒は忘れ物が増えてくる。
斉藤がイジメを受けている時、パクられたことに気付かない馬鹿な奴だと思った・・・。でも違う。斉藤が馬鹿なんじゃない。いじめっ子が有能過ぎるのだ。
気付けばものはなくなっている。でも、なくなった時は気付かない。
流石の奈緒も、遂に恐怖を覚えた・・・。
理想郷だと思っていた学校は、いつしか奈落に続く地獄のように思えてきた。
行きたくない・・・、でも家には親がいる。でも、学校にはいじめっ子がいる。袋小路とはこういうことを言うのだと、初めて解かった気がする・・・。
私は逃げ場がないことに、悲しみを感じたりはしなかった。
立ち向かう覚悟はまだ消えてはいない。小さい灯火くらいだが、信念は消えてはいなかった。
しかし、それもいつまで保つか時間の問題だ。恐れていた通り、徐々に部下達は離れて行った。
私ひとりになったら全てが終わり。そういえば、最近は奴等に手を出してなかったっけ・・・・・・。そんな余裕すらない。もう、何のために、何に対して立ち向かうのかすら見失っていた。
「サボろっかな・・・・・・学校・・・」
そう呟いた時、聞き覚えのある安らかな声が聞こえた。
「奈緒・・・、大丈夫?」
私は飛び上がるほどに驚いた。振り向くと、思ったとおりの少年がこちらを見ていた。
「何・・・、いきなり声かけんなっての・・・。ウザい・・・」
強がるしかなかった・・・。私は、人に弱さは見せない。その相手が光なら、それは尚更だった。
「ごめん・・・、最近の奈緒、辛そうだったからさ」
「は!? 何私なんかの心配してんだっての!!」
「どんなことしたって、奈緒は僕の大切な存在だから・・・」
「なんで私なんかに執着するんだっての・・・、訳解かんない。たまたま公園で出会って、たまたま小学校が同じで、たまたま全学年一緒だっただけだってのに・・・」
そう、光とはたまたま一緒にいるだけ。こいつはいつも私にくっ付いてくるけど、私から光への特別な執着はなかった。
「うん、たまたまだよね。全部偶然。でもさ、僕はその偶然に感謝してる。まだ、奈緒と一緒に居ていいって神様が言ってるような気がしてさ」
訳が解からない・・・。私が光に何をしたってのよ・・・・・・。
「奈緒は覚えてないかもしれない・・・。ううん、覚えてないと思う。でも、僕がしてもらったことは全て大切な思い出なんだよ」
「私が、なにしたっての・・・・・・?」
「奈緒がしてくれたこと全てが嬉しかった。僕が玩具を盗られた時、奈緒は取り返してくれた。僕が風引いた時、奈緒は看病してくれた。僕が膝を擦りむいて泣いていた時、奈緒は慰めてくれた・・・。もっとある、言い切れないくらいにあるよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・ッ・・・!!
「そして僕が笑顔に戻ると、奈緒も一緒に笑ってくれた・・・」
「もういい・・・、言わなくていい・・・」
私は思い出す。それは捻くれる前、少女の頃の記憶。光はずっと見てた・・・。『あたし』を覚えててくれたんだ。
いつの頃か『あたし』というフレーズに子供っぽさを感じ、自分の事を私と呼ぶようになった。ひねくれ始めたのは丁度その頃・・・。
それは『あたし』を忘れ『私』になってしまった自分への罰なのかもしれない・・・。
光は、『私』になった後も『あたし』だけを見ていてくれた。世界に縛られて、何もかもを恨む『私』を『あたし』は嫌悪した。
復讐・・・、仕返しなんてしなくてよかったんだ。ただ、自由になれればそれでよかったんだ。
「あたし、どこで間違っちゃったんだろうね・・・・・・」
「奈緒・・・・・・」
あたしの涙をみて、光も泣いていた・・・。何であんたが泣くんだっての・・・・・・。
「あたし・・・、謝るよ。薫子たちに」
「!? 本当に?」
「うん、今まで悪いことをした・・・。親の束縛を振り払えなかったことを薫子のせいにして暴走した罪は大きい。でも、私の罪はあたしの罪だから」
光は言っていることがよく解からないようだったが、反省していることは伝わったみたいだ。
「じゃあ、早く学校行こ!!」
そう言い勢いよく駆け出す。少し遅れて私も後を追った。
すると私の前で光は、その勢いのままこけてしまった。
「いてて・・・・・・」
「何やってんの!! 馬鹿・・・」
「うわ・・・、擦り剥いちゃったよ・・・。血が出てる」
「ったく・・・、唾でも付けときゃ治るっての」
「へへ・・・、何だか昔みたいだね」
「五月蝿い!! さぁ、早く学校行くよ」
・・・ッ!! 恥ずかしくなるようなこと言うなっての!!
私は、真っ赤に染まる顔を見られないようにすたすたと先に歩みだした。
教室に着くと、奴等・・・・・・、少女トリオは既に固まっていた。好都合だ。
近付くと、妙に警戒された。まぁ、当然か・・・・・・。
「あのさ・・・」
「なっ、なんだよ・・・!」
「ご・・・、ご・・・・・・」
「ご・・・、なんですの・・・?」
こういう覚悟ってのはすぐに決まらないものだ・・・。人間心理は意味不明だっての・・・・・・。
「ごめん・・・」
三人は口を開いて呆けた顔をしていた。普段なら面白いと思えるが、今はその後の反応が気になって仕方なかった。
「ごめんって・・・、どういうことですの・・・?」
「反省してるってことか?」
「う・・・、うん。私の罪はあたしの罪だから、今まで馬鹿なことやってごめん・・・」
「私が・・・あたし・・・?」
そこは気にしなくていいっての・・・ッ!! と心の中で突っ込む。
「奈緒ちゃんはきっと反省したんだよ。謝ってきたんだもん、許してあげよ?」
「栞は本当にお人好しだな・・・・・・」
「うー、・・・悩みますわ」
「あぁ、別に許しを貰いに来たわけじゃないから、ただ謝りにきただけ」
「は!? なんなんだよお前!!」
「大丈夫だよ奈緒ちゃん、私は許すよ!」
「んー、・・・悩みますわ」
トリオで一緒に居る割には、意見が噛みあわないものなんだ・・・。なんか意外だった。
「有り難う斉藤。他の二人は許せないなら許さなくていいから」
斉藤にはいじめっ子の一件で少し親近感がある。久しぶりに心の底から感謝した。
「う・・・、取り敢えず今は許せない!」
「あー、・・・悩みますわ」
「うん、それでいいよ。じゃ」
さて・・・、あたしにはもうひとつ問題がある。
それは未だいじめっ子のターゲットになっていることだ・・・。
少女トリオも色々やったようだが、まだ影のイジメが存在する以上、犯人を見つけられてはいないのだろう。
テストの点数が良くても、こういうことに頭が回る訳ではない・・・。
斉藤へのイジメが止んだ後、あたしにターゲットを変えた訳はなんだっての?
確か薫子が責められている期間はなにも無かった。そしてあたしが暴動を起こした初めの方も・・・。
止んでから始まるまでのタイムラグ。これは何を意味しているのだろう・・・。
・・・・・・・・・。ただの気紛れか、それとも何か理由があるのか・・・・・・。
ここは理由があるとして考えてみよう・・・、そうしなければ推理が進まない。
そうなると、多分それより大切なことがあったと考えていい。イジメを実行するよりも大切なことをしていたのだろう。
しかし、その期間にテストや難しい宿題が出たわけではない。ということはその人にとって大切なことだ。
しなければならない何かがあった。
そしてその期間後、何を思ったのかターゲットをあたしに変更した。
その時のあたしを狙う理由なんて暴動を起こしたから、としか考えられない・・・。
犯人にとって、あたしが暴動を起こすとなにかまずいのか?
トリオの中には斉藤がいる。斉藤は今まであんたが狙ってた子じゃないか。自分の獲物を盗るなって言いたいってのか?
・・・・・・・・・、犯人は斉藤に特別な感情でも抱いてるっての?
生まれるのは疑問ばかり、あたしは頭を抱えるくらいに悩んだ。
解かることはひとつ。斉藤を狙う何らかの理由があること。斉藤自身ではなく、斉藤付近に理由があるのかもしれないが、あたしではそこまで踏み込めない・・・。手詰まりだ・・・。
だからといって衣宮美結と薫子を頼りたくはない。
悔しいけど、これがあたしひとりの限界ということか・・・・・・。
その日も、また次の日も、色々なものが消えていった。でもあたしは決して挫けない。あたしには光がいる。あたしの闇は、光が照らしてくれるから・・・・・・・・・。
不意に光と眼が合う。光はそれに気付くと微笑みかけてきてくれた。恥ずかしいけど、やってやるか・・・・・・。
あたしも微笑み返す。それは今までの感謝の気持ち、そしてこれからもよろしくという意味が込められている。光はそんなこと気付かないかもしれない。それでもいい。あたしたちはいつまでも一緒なのだから・・・。
来年も、偶然に同じクラスになろうね・・・・・・。
・・・ッ! やっぱ恥ずかしいっての!!
その声には感情が込められていた。それは自分の感情を放出しているようにも思える。
彼女は今日、ある事で担任に叱られた。その時こそ、それは仕方のないことだと思ったが、今思い返すと全く異なる感情が芽生えてくる。
畜生・・・。邪魔しやがって・・・、村上の野郎・・・・・・マジ死ねよ・・・ッ!!
私の人生に自由はない・・・。いつも誰かに命令されて、いつも誰かに束縛される。
そんな日々を過ごしている私が、ひねくれない訳がない。人間誰しも自由が欲しいのは当たり前の感情だと、私は思う。
私はそんな当たり前すら奪われて生まれてきて、もう自分が何でこの世に生まれてきたのさえ見失いかけている・・・。
でも、自殺という様な馬鹿な考えは決して起こさない。
私の先に道があるなら、選択するのは自由を手に入れること・・・。待っていたって誰も与えてはくれない。ならば、自らが勝ち取るしかないのだ。
どんな場所でも良い。私は、上位に立ちたかった。
もう僕は嫌だ・・・。誰も私に指図するな・・・。哀れむ眼で私を見るな・・・・・・。
そんな奴等は、みんな嫌いだ。親も、教師も、薫子も・・・。
いつもの角で待ち合わせ。私が待つ義理はないのだが、何故かあいつだけは待ってやりたくなる。まぁ、小突く相手がいないと私の心が保たないからだろう・・・。
そんなに待つことなく、元気な少年が駆けて来た。私を見つけると、満面の笑顔で手を振ってくる。私が振り返すわけないだろっての・・・・・・。
「奈緒ー、おはよう!! いつも待っててくれて有り難う!」
「私と一緒に登校したいなら、私より早く来なさいよ。女を待たせる男は嫌われる」
「わ、解かったよ!! 明日からは早く来ますッ!!」
「明日は休日だろっての・・・・・・」
不機嫌な私と元気な光。これが私たちのいつもの光景。楽しいとは思わないが、この時だけはなんとなく落ち着くのだ。
「じゃあ月曜から!」
「絶対に光じゃ忘れてるって・・・・・・」
「忘れてないよ!!じゃあ、約束するから」
「約束破ったらこれからは一人で行くけど、いいの?」
「う・・・・・・」
ちゃんと守れるか自分と相談しているようだ。責任感無さ過ぎだっての・・・。
「ってかさ、なんでそんなにも私にくっ付いてる訳? 光は薫子に従う義理なんてないじゃん」
「えー、奈緒とは幼馴染だし気が合うって言うかなんていうか・・・・・・」
「小学生で幼馴染って・・・、まぁ間違っちゃいないけど」
光とは幼稚園前から遊んでた・・・・・・、らしい。私はよく覚えていないが、母親に公園へ連れて行かれた時はいつも遊んでいたらしい。
それから幼稚園も一緒。小学校も、なぜか今までクラスが同じ。そして、気付けば私の傍らには光がいる生活が当たり前になっていたのだ。
しかし、落ち着くのはそれが理由ではない。
私は、親といたって落ち着かない。多分、信頼の深さが影響しているのだろう。
なんだかんだで、私が光を求めているのかもしれない・・・。もしかして、それを光は悟ってる? いやいや、有り得ないっての・・・。
校門前、私の表情は陰りを見せる・・・。
出来ればここを潜りたくはない・・・。緊張は、私には似合わない。いつも堂々としていなければ・・・・・・。
潜ってしまえば、この緊張は終わりだと思った。しかし、心臓は全力疾走したまま止まらない。より血脈は加速し、頭を刺激した。
「・・・・・・、はぁ・・・」
溜息をすると少し楽だった。でも、仕草にして出すと光が気付いてしまう。
案の定私の方を見ながら、どうしたの? 大丈夫? など、お決まりな言葉を並べている。返事をする気分ではないので無視。沈黙を保ったまま、ゆっくり教室へと向かった。
それからの私は様子がおかしかったと思う。
教室内は昨日とは違う。一昨日と変わらない、薫子が制圧している国のようだった・・・。
いや、薫子は変わった・・・。衣宮美結という少女により、何かが変わった。それは好都合な反面、不都合でもあった。
薫子が衣宮美結とつるむようになってからは、私は奴にあまり近寄らなくなった。向こうからも話しかけて来ない。正直、私のとってもの凄い喜ばしいことだった。
でも、未だにお嬢様口調が耳に残っている・・・。それが実際に聞こえてくるたび、私の心は怒りに震えた。
カッターナイフで机の内側を抉っているのは誰にも気付かれてはいない。気付かれたところでどうという訳ではないが、私の感情を悟られて変に同情されるのはこの上なく不愉快だ。
机をお嬢様の首に見立てたことも少なくない。あの時はスカッとしたな・・・。でももう飽きた。
偽りの救いでは私の心は癒せない・・・。本当の癒しが欲しかった。
でもそれを与えてくれる者は現れない。実際に5年間現れなかったんだ。
私は馬鹿だった・・・。現れるはず無いものを無駄に待ち続けていたのだ。5年間も・・・・・・。
しかし、昨日はチャンスだった。もう二度と現れないような状況が出来た。奴が斉藤イジメの犯人にされたのだ。
誰も本当の犯人を知らない。私も知らない。だから、一番実現可能な奴が疑われた。そのおかげで奴を何度も殴ることが出来たのは、生まれてきてから一番の快感だった。
これからはそれが続くと確信した。これが俗に言う薔薇色の学園生活なんだと思った。でも・・・、衣宮が教師にチクった・・・・・・。
それだけの行為で、私の理想は見るも無残に破壊されたのだ。それからは誰も手を出さなかった。私も、その時だけは反省していた・・・。帰宅して冷静になると、それは馬鹿な反省だったことに気付いた・・・。
やり返して、何がいけないというのだろう・・・。そんなもの、やったもん勝ちじゃないか・・・・・・。
悔しくって一晩泣いた。そして、私はひとつの結論に辿り着いた。
やったもん勝ちなら、私もやればいいじゃないか。
今しか奴を殺すチャンスはない・・・。だが、衣宮美結が奴の味方に付いたことで少し困難になった。でも、それくらいで怖気づいていては勝者にはなれない。
負けを生かして勝利に活かせとはよく言ったものだ。
・・・・・・・・・、私は絶対に勝者になる。
バンッ!! っと思い切り机を叩く。粉砕でも出来たらインパクトが強かったが、小学生の少女にそれほどの力はないので諦めた。しかし、それにより発せられた衝撃音は、生徒達の心にそれ並みのインパクトを与えたようであった。
「おい、みんなはこれでいいっての? 今まで下僕のようにひそひそやってなきゃいけなかった仕返しは、昨日で終わりなの・・・ッ!?」
生徒達は唇すら動かない。それはなにも言わないのではない。言葉を考えているのだ。ってことは、迷ってるってこと・・・?
一瞬勝機が見えたのを確認した奈緒は、畳み掛けるように言う。
「教師なんて口だけじゃない。今までのことを知っていながら、お嬢様優先。そんな奴の話聞かなくていい!! 自分が正しいと思ったことが正しいに決まってるッ!!」
「そうだ・・・・・・」
きた・・・ッ!! 生徒達に昨日の怒りが蘇ってくる。そう、みんなは1日だけ怒りを押し殺しただけ。少し叩けば本心は転がり出てくる。
「やっ、やめなよ、奈緒!!」
光が私の袖を引くが、私は昨日の夜に決めた。今回は絶対に引かない、いくら光が止めようと・・・。
「「「そうだ、そうだ!!」」」
「伊藤の言うとおりだ、なんで龍ヶ崎ばっか優遇されなきゃいけないんだよ!!」
「あんな奴の言うこと聞く必要なんてないもんな!!」
徐々に昨日の惨状を蘇らせていく。それは奴を殴った時にも勝る快感だった。
私が作り上げている。作らされてるんじゃない!! 私が怒りを作っているんだ!!
「おい、昨日も言っただろ。薫子は犯人じゃねぇ!!」
案の定出てきたか、衣宮美結・・・!
「はっ・・・、もうそんなことどうだっていい。もうそんな口実必要ないってのッ!!」
「ッ!! はは、今まで自分を主張出来なかったことを薫子のせいにするのかよ?」
「実際にそうだっての! 奴がいなきゃ私は普通に育って、普通に女の子できてたってのッ!!!」
奴さえいなければ、私だって可愛く笑えてたっての・・・・・・・・・。
「それは薫子ちゃんのせいじゃないもん!! 奈緒ちゃんも言える勇気があれば、きっと薫子ちゃんといい友達になれたと思うよ」
斉藤栞・・・。あんた等和解したっての!? これは面倒臭い・・・・・・。
いざとなれば、イジメのことを話しにだしてごり押す気でいたけど、これじゃあ無理ってことか・・・・・・。
「私はあんたと違ってお人好しじゃないっての!! よくイジメの犯人候補と仲良くできるな、普通、疑って話もしたくないだろっての」
「わ・・・、私は犯人ではありませんわ!! 栞さんはそれを解かって下さいました。栞さんを責めるのはやめて!!」
「お前は黙ってろ!! その声聞くだけでムシャクシャしてくるっての・・・・・・」
「奈緒・・・。私はお友達だと思ってましたのに・・・・・・」
「私がお前に対して抱いてた感情は、怒りと憎しみだけだっての!!」
気付けば生徒の半数は私側に立っていた。不満を持って、未だに奴を許せない者がこんなに!? これなら・・・。
「私たちは、奴を絶対に許しはしない!! 反お嬢様勢力とする!! みんな異議なし?」
「「「おー!! 今までの分をきっちりやり返す!!」」」
反お嬢様勢力は一斉に返事をする。やる気は満々のようだ。
「・・・ッ!! どうする、薫子!?」
「どうって言われましても・・・・・・」
「クラスの半数が奈緒ちゃん側だよ・・・、私たち三人じゃきっと無理・・・・・・」
3人は身構える。が、その様子は実に頼りなかった。
「みんなぁ、手始めに昨日の続きだッ!!」
私が手を振ると、人ごみが一斉に三人を飲み込む。なんという優越感なんだろうか、これこそ私の夢見ていた立場!!
三人の少女はよってたかって殴られたり蹴られたり・・・。本当に昨日の続きにも見えた。
奈緒の指示は絶妙なところでかかる。やめろと言えば、みんなの手はピタリと止まった。それすらも気持ちが良い。
少し後に村上が入室する。
一同が静かに着席すると、美結は奈緒を睨んでいた。それに気付いた私は、にやりと悪意に満ちた笑みを返してやった。
授業中はいつも通り、何一つ変わらない。私はいい部下を持った。馬鹿みたいに紙くずを投げたり、消しゴムのカスを飛ばしたりする奴はいない。
そうだ、少し待てば好きなだけ遊べるんだ。これくらいは我慢してもらわなくては困るっての。
次の休み時間、奴等はすぐに逃げていった。まぁいい。それすらも私に悦楽を覚えさせる糧なのだから。
「村上に何か聞かれても黙秘。絶対になにも答えないで! 解かりません、とか知りませんとか言っておけば相手はそれ以上踏み込めない」
私は村上と戦う覚悟さえあった。村上も私を見下す者の中のひとり。それに恐らく今は奴等三人の味方・・・。彼と戦わずして勝利することは出来ないのだ。
生徒に体罰なんて与えられない。ということは、出来ることなんて精々口で叱るか親にチクるくらいだろう。もう親なんて怖くない。昨日の夜覚悟を決めてから、私に怖いものなんて無かった。
「伊藤たちが!? ・・・あいつら反省してなかったのか・・・・・・」
「生徒の半数は奈緒の味方です。私たちだけじゃとても太刀打ちできません・・・・・・」
三人の少女の姿は職員室にあった。三人が共通して頼れる者、村上に相談していたのだ。
てっきり昨日の一件で反省しただろうと思っていた村上は頭を抱えていた。
「最近の子供はタフだなぁ・・・。俺が侮っていただけかもしれないが、厄介なことになってきたな」
彼は本気で悩んだ。薫子を助けたいという気持ちはある、だが、それより優先的に、立場上薫子を助けなければならないという使命がある。
薫子に危害を加えることは、今後の職の有無に関係してくるほど大きい。ここの教師達はそう校長から叩き込まれていた。担任である村上は特に五月蝿く言われていた。
先生でさえ頭を抱えるという現実を見て、少女たちは不安でいっぱいだった。
「まぁ、もう一回叱ってみる」
それが一時しのぎでしかないことは村上も解かっている。
でもそれしか出来ないくらいに追い詰められていたようだった。
「おい、聞いてるのか? みんな、伊藤!?」
宣言どおり、次の授業の初めに村上は叱った。
反応はない。昨日とは正反対で、奈緒にいたっては落ち込むどころか堂々としていた。
馬鹿な村上。私はそんな半端な決意じゃないっての。止められるものならとめてみろってのッ!!
今の私には、笑みを浮かべてしまう程に余裕があった。
奈緒は実に悪意の操作が上手だった。もの凄く冷静で、このことに関してはかなりの速さで頭が回った。
奈緒勢力の生徒には、村上の前では絶対に奴等をイジメさせない。
それは当然、村上が恐ろしいからではない。手を出した生徒が叱られて、怒りを押さえ込ませたくなかったからだ。
そればっかりは、いくら私の覚悟が強くてもどうしようもないこと。
出来るだけ数は減らしたくない。私の勢力はクラスの半数以上。
半数以上がこちらに付いていれば、奴等が勢力を作っても数が超えられることは絶対にない。人数差で勝っていれば、部下達も強気でいられるはずだ。
それから何度も少女たちを逃がした。だが、捕まえた休み時間は、それを補足するくらいにイジメてやった。
1週間が経っても、村上は頭を抱えながら何も出来ない。私の決意は完璧。私は完璧な勝者になった!
その時はそう思っていた・・・・・・。
午後の授業が始まる。引き出しから教科書とノート、そして筆箱・・・・・・。あれ・・・? 筆箱どこだっけ・・・。
私はロッカーにあるランドセルに確認しに行く。・・・、そんなところにあるはずはないのだが、学校で次に心当たるところはそこしかなかった。
3時間目の授業に使った後、どうしたっけ? ・・・・・・・・・、ちゃんとしまった。再び引き出しを弄る。しかし、筆箱は出てくることは無い。
・・・・・・・・・? 訳わかんないっての・・・・・・。
午前授業の4時間目は体育だった。だから教室内は空になる。パクられるとしたらその時だ。
だけど、奴等は私より先に校庭にいた・・・。奴等だけじゃない。敵だと思っている村上もそこにいた。
ということは、誰だ・・・?
私が知る限り、それ以外に敵はいない。その4人には不可能なのに、私の筆箱が消えた・・・。
午後の授業中私は、昔のようにイライラしていた。
次の日、私の椅子が消えていた。またしてもイライラする。
部下に聞くが、知らないという。誰だ、私を不愉快にする奴は誰だ!!
そういえば、最近は斉藤へのイジメがなくなっている気がする。犯人不特定のまま闇に消えた事件だ。それがまた帰ってきたということか・・・・・・。私をターゲットにして・・・。
「・・・・・・・・・ッ!! くそが・・・・・・」
仕方なく村上に報告する。悪いことをしているから悪いことが帰ってくるんだぞ。と言われたが、私は聞き流した。
取り敢えず新しい椅子を用意してもらい教室まで持っていく。
それから、朝の会まで黙っていた。今は部下の笑い声さえ耳障りだ・・・。
何もかもがイラつく・・・。それは懐かしく、そして絶対に戻りたくない感情だった。
朝の会。先日出されていた宿題を提出しろということだ。
宿題なんて下らないが、一応ちゃんとやっている。奈緒は成績が悪くなく、レベルの高い中学校を狙えるほどだった。
それはほんの少しであったが、私に優越感を与えてくれるもの。だから勉強はちゃんとやった。
ここで違和感を覚える・・・。椅子を持ち帰った後、ランドセルの中身を全て引き出しに移した。その時、宿題のノートらしきものを移した記憶が無かった。
家の時、ランドセルへ入れたのは記憶がある。だけど、出した記憶が無い・・・。
入れるときはひとつずつ確認するが、出す時はいちいち全て確認なんてしない。だって、入ってることが解かっているんだから。
それだけのこと。単なる勘違いだろう。そう思い引き出しを調べる。そうは思っている、いや、言い聞かせているのだが、身体は妙に緊張して冬だと言うのに汗が吹き出てくる。
ある・・・、あるんだってば・・・。
その期待は裏切られる・・・・・・。そのノートは引き出しのどこにも入ってはいない。
入れたものが消えた。・・・、そういえば聞いたことがある。学校の怪談のひとつ・・・、思考を洗脳して錯覚を生み出す怪物がいるようなことを・・・。
以前、それはカウンセラー室の教師をオーバーに捉えた話だと思っていた。でも、それは勘違いなんじゃないか・・・・・・?
初めて自分が正しいと思ったことに疑問を感じる・・・。
違う・・・、誰かが、誰かが私に嫌がらせをしている! それ以外は絶対にない!! それが正しい答え・・・ッ!!
「おい、伊藤。お前以外全員出したぞ? もしかして忘れたのか?」
「・・・・・・・・・ッ! 忘れました・・・・・・」
私が狙われていることは誰にも悟られてはならない・・・。それが知られたら私の立場が危うくなる。
自分のリーダーである者が、闇のいじめっ子に狙われているなんて部下が知ったら恐怖し、私に非協力的になるに決まっている。
そうなれば私の作り上げた理想郷はすぐに消え去り、後に残るのはイジメを受ける私だけ・・・・・・。
そうはなりたくない・・・。いや、そんなことには絶対にさせない。既に親と教師を敵に回している。闇のいじめっ子がひとり増えたところで変わらないようなものだ。はは、変わらない・・・、絶対に変わらないっての・・・・・・。
その日から奈緒は忘れ物が増えてくる。
斉藤がイジメを受けている時、パクられたことに気付かない馬鹿な奴だと思った・・・。でも違う。斉藤が馬鹿なんじゃない。いじめっ子が有能過ぎるのだ。
気付けばものはなくなっている。でも、なくなった時は気付かない。
流石の奈緒も、遂に恐怖を覚えた・・・。
理想郷だと思っていた学校は、いつしか奈落に続く地獄のように思えてきた。
行きたくない・・・、でも家には親がいる。でも、学校にはいじめっ子がいる。袋小路とはこういうことを言うのだと、初めて解かった気がする・・・。
私は逃げ場がないことに、悲しみを感じたりはしなかった。
立ち向かう覚悟はまだ消えてはいない。小さい灯火くらいだが、信念は消えてはいなかった。
しかし、それもいつまで保つか時間の問題だ。恐れていた通り、徐々に部下達は離れて行った。
私ひとりになったら全てが終わり。そういえば、最近は奴等に手を出してなかったっけ・・・・・・。そんな余裕すらない。もう、何のために、何に対して立ち向かうのかすら見失っていた。
「サボろっかな・・・・・・学校・・・」
そう呟いた時、聞き覚えのある安らかな声が聞こえた。
「奈緒・・・、大丈夫?」
私は飛び上がるほどに驚いた。振り向くと、思ったとおりの少年がこちらを見ていた。
「何・・・、いきなり声かけんなっての・・・。ウザい・・・」
強がるしかなかった・・・。私は、人に弱さは見せない。その相手が光なら、それは尚更だった。
「ごめん・・・、最近の奈緒、辛そうだったからさ」
「は!? 何私なんかの心配してんだっての!!」
「どんなことしたって、奈緒は僕の大切な存在だから・・・」
「なんで私なんかに執着するんだっての・・・、訳解かんない。たまたま公園で出会って、たまたま小学校が同じで、たまたま全学年一緒だっただけだってのに・・・」
そう、光とはたまたま一緒にいるだけ。こいつはいつも私にくっ付いてくるけど、私から光への特別な執着はなかった。
「うん、たまたまだよね。全部偶然。でもさ、僕はその偶然に感謝してる。まだ、奈緒と一緒に居ていいって神様が言ってるような気がしてさ」
訳が解からない・・・。私が光に何をしたってのよ・・・・・・。
「奈緒は覚えてないかもしれない・・・。ううん、覚えてないと思う。でも、僕がしてもらったことは全て大切な思い出なんだよ」
「私が、なにしたっての・・・・・・?」
「奈緒がしてくれたこと全てが嬉しかった。僕が玩具を盗られた時、奈緒は取り返してくれた。僕が風引いた時、奈緒は看病してくれた。僕が膝を擦りむいて泣いていた時、奈緒は慰めてくれた・・・。もっとある、言い切れないくらいにあるよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・ッ・・・!!
「そして僕が笑顔に戻ると、奈緒も一緒に笑ってくれた・・・」
「もういい・・・、言わなくていい・・・」
私は思い出す。それは捻くれる前、少女の頃の記憶。光はずっと見てた・・・。『あたし』を覚えててくれたんだ。
いつの頃か『あたし』というフレーズに子供っぽさを感じ、自分の事を私と呼ぶようになった。ひねくれ始めたのは丁度その頃・・・。
それは『あたし』を忘れ『私』になってしまった自分への罰なのかもしれない・・・。
光は、『私』になった後も『あたし』だけを見ていてくれた。世界に縛られて、何もかもを恨む『私』を『あたし』は嫌悪した。
復讐・・・、仕返しなんてしなくてよかったんだ。ただ、自由になれればそれでよかったんだ。
「あたし、どこで間違っちゃったんだろうね・・・・・・」
「奈緒・・・・・・」
あたしの涙をみて、光も泣いていた・・・。何であんたが泣くんだっての・・・・・・。
「あたし・・・、謝るよ。薫子たちに」
「!? 本当に?」
「うん、今まで悪いことをした・・・。親の束縛を振り払えなかったことを薫子のせいにして暴走した罪は大きい。でも、私の罪はあたしの罪だから」
光は言っていることがよく解からないようだったが、反省していることは伝わったみたいだ。
「じゃあ、早く学校行こ!!」
そう言い勢いよく駆け出す。少し遅れて私も後を追った。
すると私の前で光は、その勢いのままこけてしまった。
「いてて・・・・・・」
「何やってんの!! 馬鹿・・・」
「うわ・・・、擦り剥いちゃったよ・・・。血が出てる」
「ったく・・・、唾でも付けときゃ治るっての」
「へへ・・・、何だか昔みたいだね」
「五月蝿い!! さぁ、早く学校行くよ」
・・・ッ!! 恥ずかしくなるようなこと言うなっての!!
私は、真っ赤に染まる顔を見られないようにすたすたと先に歩みだした。
教室に着くと、奴等・・・・・・、少女トリオは既に固まっていた。好都合だ。
近付くと、妙に警戒された。まぁ、当然か・・・・・・。
「あのさ・・・」
「なっ、なんだよ・・・!」
「ご・・・、ご・・・・・・」
「ご・・・、なんですの・・・?」
こういう覚悟ってのはすぐに決まらないものだ・・・。人間心理は意味不明だっての・・・・・・。
「ごめん・・・」
三人は口を開いて呆けた顔をしていた。普段なら面白いと思えるが、今はその後の反応が気になって仕方なかった。
「ごめんって・・・、どういうことですの・・・?」
「反省してるってことか?」
「う・・・、うん。私の罪はあたしの罪だから、今まで馬鹿なことやってごめん・・・」
「私が・・・あたし・・・?」
そこは気にしなくていいっての・・・ッ!! と心の中で突っ込む。
「奈緒ちゃんはきっと反省したんだよ。謝ってきたんだもん、許してあげよ?」
「栞は本当にお人好しだな・・・・・・」
「うー、・・・悩みますわ」
「あぁ、別に許しを貰いに来たわけじゃないから、ただ謝りにきただけ」
「は!? なんなんだよお前!!」
「大丈夫だよ奈緒ちゃん、私は許すよ!」
「んー、・・・悩みますわ」
トリオで一緒に居る割には、意見が噛みあわないものなんだ・・・。なんか意外だった。
「有り難う斉藤。他の二人は許せないなら許さなくていいから」
斉藤にはいじめっ子の一件で少し親近感がある。久しぶりに心の底から感謝した。
「う・・・、取り敢えず今は許せない!」
「あー、・・・悩みますわ」
「うん、それでいいよ。じゃ」
さて・・・、あたしにはもうひとつ問題がある。
それは未だいじめっ子のターゲットになっていることだ・・・。
少女トリオも色々やったようだが、まだ影のイジメが存在する以上、犯人を見つけられてはいないのだろう。
テストの点数が良くても、こういうことに頭が回る訳ではない・・・。
斉藤へのイジメが止んだ後、あたしにターゲットを変えた訳はなんだっての?
確か薫子が責められている期間はなにも無かった。そしてあたしが暴動を起こした初めの方も・・・。
止んでから始まるまでのタイムラグ。これは何を意味しているのだろう・・・。
・・・・・・・・・。ただの気紛れか、それとも何か理由があるのか・・・・・・。
ここは理由があるとして考えてみよう・・・、そうしなければ推理が進まない。
そうなると、多分それより大切なことがあったと考えていい。イジメを実行するよりも大切なことをしていたのだろう。
しかし、その期間にテストや難しい宿題が出たわけではない。ということはその人にとって大切なことだ。
しなければならない何かがあった。
そしてその期間後、何を思ったのかターゲットをあたしに変更した。
その時のあたしを狙う理由なんて暴動を起こしたから、としか考えられない・・・。
犯人にとって、あたしが暴動を起こすとなにかまずいのか?
トリオの中には斉藤がいる。斉藤は今まであんたが狙ってた子じゃないか。自分の獲物を盗るなって言いたいってのか?
・・・・・・・・・、犯人は斉藤に特別な感情でも抱いてるっての?
生まれるのは疑問ばかり、あたしは頭を抱えるくらいに悩んだ。
解かることはひとつ。斉藤を狙う何らかの理由があること。斉藤自身ではなく、斉藤付近に理由があるのかもしれないが、あたしではそこまで踏み込めない・・・。手詰まりだ・・・。
だからといって衣宮美結と薫子を頼りたくはない。
悔しいけど、これがあたしひとりの限界ということか・・・・・・。
その日も、また次の日も、色々なものが消えていった。でもあたしは決して挫けない。あたしには光がいる。あたしの闇は、光が照らしてくれるから・・・・・・・・・。
不意に光と眼が合う。光はそれに気付くと微笑みかけてきてくれた。恥ずかしいけど、やってやるか・・・・・・。
あたしも微笑み返す。それは今までの感謝の気持ち、そしてこれからもよろしくという意味が込められている。光はそんなこと気付かないかもしれない。それでもいい。あたしたちはいつまでも一緒なのだから・・・。
来年も、偶然に同じクラスになろうね・・・・・・。
・・・ッ! やっぱ恥ずかしいっての!!
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