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「それって、どういう?」
「わからない?」
戸惑いばかりが大きくなるカガリに、クスっと笑ってレジナは続きを口にした。
「あのね、君たちを野放しにしておいたとする。んで、他の国が君たちの存在を知って接触することを避けたかったんじゃないかと思うわけ」
「???」
ますます、意味が分からなくて混乱してしまっているカガリにレジナは、また指を振って今度は茶菓子を出現させた。
それは、小さなチョコだった。
「はい、頭を使う時は甘いものね」
「ありがとう」
素直に受け取って、カガリはそれを口に放り込んだ。
レジナも幸せそうに、チョコの甘さを堪能している。
「それで、なんで追放された俺たち異世界人の存在を他国に知られることを避けたかったんだ?」
「さっきも言ったけど、君みたいな異世界人らしき人達の情報が少しずつ表に出始めてる。
まぁ、でも一般人の耳に入るまではまだ時間が掛かると思うけどね。
そもそも、勇者伝説が残る国には人知れず異世界から勇者を召喚する儀式だったり奥義だったりがこっそり伝わってることが多いの。
で、なんでこっそりなのかって言うと、魔法技術って言うのはモノによるけど国家機密の一つだから。
特に軍事機密なことが多いの。
研究内容にもよるけどね。
国によって、魔法形態が違ったりすることがあって、とくに国家試験をパスしてるエリートなんかは旅行だとしても他国に行くときにかなり手続きで苦労するって言うし。
あたしみたいな、協会に登録してる人間は特殊だから簡単に、とは行かないけどわりと普通にあちこち行けたりする。
まあ、この辺の話は長くなるから省くとして。
言ってしまえば、【異世界から勇者を召喚する魔法技術は国家機密であり軍事機密である】ってこと。
ファルゼル王国からすれば、ちょっとでも情報が漏れることを嫌ったんだと思う」
知識はなくても、どう言った場所に召喚されたのか?
その場には誰がいたのか?
魔方陣はあったのか無かったのか?
エトセトラ、エトセトラ……。
異世界転移者は、いくらでも他国にとっては有益になりえる情報を握っているのだ。
何が漏れるかわからない。
だから、口封じをしてしまおうと考えたのではないかと、レジナは踏んでいる。
ただ、その口封じの命令を出したのが国王なのかそれとも王族なのか、はたまたそう言った機密を管理する責任者なのかはわからないが。
「それに、数値は変化するものだし」
「変化?
変わるってこと?」
「伸び代は人それぞれだろうし、遅い早いはあると思うけど。
よく言うでしょ?
成功は99パーセント努力と1パーセントの才能だって。
つまりはそういうこと。よその国で頑張られて万が一にも億が一にも、才能を開花されて強くなられちゃ困ったことになるから」
レジナはもう一欠片チョコを口に放り込んで、味わっている。
「あとは、そもそも勇者っていう、言い方は悪いけど魔王とか人じゃ絶対勝てないはずの絶対的な存在に勝てちゃうくらいの化け物の卵をそのまま放逐して放置なんて、しないでしょ。
いつ爆発するかわからない爆弾を放ったらかしにするようなもんだし」
「バケモノ?」
「うん」
「世界を救う、魔王を倒すヒーローがバケモノ?」
「いや、そうでしょ?
たしかにヒーローかもしれないけどさ、国の上層部とかからしたら魔王を倒して国民の人気が高まるとヤバいでしょ。
王様は地位を脅かされるとか考えるかもしれないし、魔王を倒すほどの力がいつ自分たちに向けられるかもわからないし。
【かもしれない】思考は、結構危険でね。だから美しいお姫様とかと結婚させて、御機嫌取りをするわけだし。
お伽噺だとその辺は、ドラマチックのロマンチックな描かれ方されてるけどさ。
第一資料とかを手に入れるようになって、改めて調べてみたら政略結婚のオンパレード。
いやぁ、事実は小説よりも奇なりってやつだったね」
アッハッハッハッハッと、レジナは豪快に笑って、さっきの黒い手帳とは別の本を出現させると、開いてパラパラとページを捲る。
「これは、とあるお姫様のそば仕えだった人の日記。
神話時代の遺産ね。
当事者の記録だから、信頼性はあるよ。
でもさ、下手に日記とか残ってるとホント悲惨だよね。
少し前に立ち寄った国の博物館だと、時の領主が同性の恋人に送ったラブレターが目立つところに飾られてたし」
死後の公開処刑である。
その領主、よく化けて出なかったな、とカガリは場違いなことを考えた。
「あ、あれはラブレターじゃなくて、浮気したことをひたすら謝り続けてる手紙だったかな」
どちらにしろ、酷い公開処刑に変わりはない。
どうやらヒトというものは、死んだあとも公開処刑できるらしい。
「えっと、あったあった」
目的のページを見つけたのか、その部分を彼女は読み上げる。
「今日は、ついに婚礼の日だ。しかし、姫様の顔は浮かないまま。
それはそうだろう。何しろ姫様は賞品なのだから。
恩賞なのだから。
本来なら今頃、元々の婚約者の元に輿入れしているはずだったのだ。
しかし、異世界から召喚された英雄の妻となることが我々はおろか姫様にすら内密に決められていた。
当然、決定していた婚約は白紙に戻り、婚約者である、かの国の王太子から届いた祝いの手紙を読んで、ついに耐えられなかった姫様はその時はじめて泣いた。
泣いたその日からどれだけ日数が経っただろうか?
姫様の顔に笑顔が浮かぶことは今日もないのだろう」
そして、また何ページかめくり、レジナは声に出してよむ。
「あぁ、ついに。恐れていたことが起きてしまった。
姫様が毒を飲んで、自ら命を絶ってしまった。
英雄は、今日も愛人のところだ」
そこで、パタンとレジナは本を閉じた。
そして、本を消すと彼女はカガリを見た。
「ま、こんな感じの話があちこちにゴロゴロしてるわけ。
ちなみに、さっきの日記に出てきたお姫様は家庭内暴力を振るわれて、性的な暴力行為も酷くて、ついに自殺しちゃったみたい。
力があっても、どんなに他の人から讃えられる英雄だったとしても、人格や性格が伴ってなければ、ただのバケモノだよ。
ましてや、この日記に出てくる英雄殿はかなりの好色だったみたいだし。
身目麗しいなら、男でも女でもイケた口みたいだし」
「うわぁ」
さすがにカガリはドン引きするしか無かった。
「んで、君みたいな異世界人だったらしいし。
でも、読んでいくと異世界人関係なく逆らえない立場だっただろうしね、お姫様」
つまりは、権力ではどうしようもない力の差というものがあるのだ。
「とりあえず、今日はもう寝よっか」
と言って、彼女は毛布を一つカガリに渡した。
「寝袋は一つしかないし、一応凍死しないように暖める用の魔法をかけてあるから、これで寝て」
「はい」
まさか寝袋の方が良いなんて言えるわけもなく、カガリは毛布を受け取るとくるまった。
眠気は意外にも、すぐやってきた。
素直に眠気に飲まれた彼は、程なくして穏やかな寝息を立て始める。
それを見て、レジナは困ったような呆れたような、その二つが混じったなんとも複雑な表情を浮かべたのだった。
「いやいや、信用しすぎでしょ」
大丈夫か、この子。
と、レジナは呟いた。
別にレジナにはカガリへ危害を加える理由もなければ、つもりもない。
しかし、あまりにも無防備である。
理不尽な理由で追い出され、さらに殺されそうになったにも関わらず、その日に出会ったばかりの人間をここまで信用出来るものだろうか。
少なくとも、レジナには出来ないことだ。
「よっぽど、この子がいた場所はいい所なのかねぇ」
温室のような環境なのかもしれない。
なにしろ、この世界での、過去の勇者たちの記録はあれど、勇者達が元々いた世界に関する記述や情報はその伝説の多さに比べ、全くと言っていいほどないのだ。
「次はそっち方面も研究してみようかな」
「わからない?」
戸惑いばかりが大きくなるカガリに、クスっと笑ってレジナは続きを口にした。
「あのね、君たちを野放しにしておいたとする。んで、他の国が君たちの存在を知って接触することを避けたかったんじゃないかと思うわけ」
「???」
ますます、意味が分からなくて混乱してしまっているカガリにレジナは、また指を振って今度は茶菓子を出現させた。
それは、小さなチョコだった。
「はい、頭を使う時は甘いものね」
「ありがとう」
素直に受け取って、カガリはそれを口に放り込んだ。
レジナも幸せそうに、チョコの甘さを堪能している。
「それで、なんで追放された俺たち異世界人の存在を他国に知られることを避けたかったんだ?」
「さっきも言ったけど、君みたいな異世界人らしき人達の情報が少しずつ表に出始めてる。
まぁ、でも一般人の耳に入るまではまだ時間が掛かると思うけどね。
そもそも、勇者伝説が残る国には人知れず異世界から勇者を召喚する儀式だったり奥義だったりがこっそり伝わってることが多いの。
で、なんでこっそりなのかって言うと、魔法技術って言うのはモノによるけど国家機密の一つだから。
特に軍事機密なことが多いの。
研究内容にもよるけどね。
国によって、魔法形態が違ったりすることがあって、とくに国家試験をパスしてるエリートなんかは旅行だとしても他国に行くときにかなり手続きで苦労するって言うし。
あたしみたいな、協会に登録してる人間は特殊だから簡単に、とは行かないけどわりと普通にあちこち行けたりする。
まあ、この辺の話は長くなるから省くとして。
言ってしまえば、【異世界から勇者を召喚する魔法技術は国家機密であり軍事機密である】ってこと。
ファルゼル王国からすれば、ちょっとでも情報が漏れることを嫌ったんだと思う」
知識はなくても、どう言った場所に召喚されたのか?
その場には誰がいたのか?
魔方陣はあったのか無かったのか?
エトセトラ、エトセトラ……。
異世界転移者は、いくらでも他国にとっては有益になりえる情報を握っているのだ。
何が漏れるかわからない。
だから、口封じをしてしまおうと考えたのではないかと、レジナは踏んでいる。
ただ、その口封じの命令を出したのが国王なのかそれとも王族なのか、はたまたそう言った機密を管理する責任者なのかはわからないが。
「それに、数値は変化するものだし」
「変化?
変わるってこと?」
「伸び代は人それぞれだろうし、遅い早いはあると思うけど。
よく言うでしょ?
成功は99パーセント努力と1パーセントの才能だって。
つまりはそういうこと。よその国で頑張られて万が一にも億が一にも、才能を開花されて強くなられちゃ困ったことになるから」
レジナはもう一欠片チョコを口に放り込んで、味わっている。
「あとは、そもそも勇者っていう、言い方は悪いけど魔王とか人じゃ絶対勝てないはずの絶対的な存在に勝てちゃうくらいの化け物の卵をそのまま放逐して放置なんて、しないでしょ。
いつ爆発するかわからない爆弾を放ったらかしにするようなもんだし」
「バケモノ?」
「うん」
「世界を救う、魔王を倒すヒーローがバケモノ?」
「いや、そうでしょ?
たしかにヒーローかもしれないけどさ、国の上層部とかからしたら魔王を倒して国民の人気が高まるとヤバいでしょ。
王様は地位を脅かされるとか考えるかもしれないし、魔王を倒すほどの力がいつ自分たちに向けられるかもわからないし。
【かもしれない】思考は、結構危険でね。だから美しいお姫様とかと結婚させて、御機嫌取りをするわけだし。
お伽噺だとその辺は、ドラマチックのロマンチックな描かれ方されてるけどさ。
第一資料とかを手に入れるようになって、改めて調べてみたら政略結婚のオンパレード。
いやぁ、事実は小説よりも奇なりってやつだったね」
アッハッハッハッハッと、レジナは豪快に笑って、さっきの黒い手帳とは別の本を出現させると、開いてパラパラとページを捲る。
「これは、とあるお姫様のそば仕えだった人の日記。
神話時代の遺産ね。
当事者の記録だから、信頼性はあるよ。
でもさ、下手に日記とか残ってるとホント悲惨だよね。
少し前に立ち寄った国の博物館だと、時の領主が同性の恋人に送ったラブレターが目立つところに飾られてたし」
死後の公開処刑である。
その領主、よく化けて出なかったな、とカガリは場違いなことを考えた。
「あ、あれはラブレターじゃなくて、浮気したことをひたすら謝り続けてる手紙だったかな」
どちらにしろ、酷い公開処刑に変わりはない。
どうやらヒトというものは、死んだあとも公開処刑できるらしい。
「えっと、あったあった」
目的のページを見つけたのか、その部分を彼女は読み上げる。
「今日は、ついに婚礼の日だ。しかし、姫様の顔は浮かないまま。
それはそうだろう。何しろ姫様は賞品なのだから。
恩賞なのだから。
本来なら今頃、元々の婚約者の元に輿入れしているはずだったのだ。
しかし、異世界から召喚された英雄の妻となることが我々はおろか姫様にすら内密に決められていた。
当然、決定していた婚約は白紙に戻り、婚約者である、かの国の王太子から届いた祝いの手紙を読んで、ついに耐えられなかった姫様はその時はじめて泣いた。
泣いたその日からどれだけ日数が経っただろうか?
姫様の顔に笑顔が浮かぶことは今日もないのだろう」
そして、また何ページかめくり、レジナは声に出してよむ。
「あぁ、ついに。恐れていたことが起きてしまった。
姫様が毒を飲んで、自ら命を絶ってしまった。
英雄は、今日も愛人のところだ」
そこで、パタンとレジナは本を閉じた。
そして、本を消すと彼女はカガリを見た。
「ま、こんな感じの話があちこちにゴロゴロしてるわけ。
ちなみに、さっきの日記に出てきたお姫様は家庭内暴力を振るわれて、性的な暴力行為も酷くて、ついに自殺しちゃったみたい。
力があっても、どんなに他の人から讃えられる英雄だったとしても、人格や性格が伴ってなければ、ただのバケモノだよ。
ましてや、この日記に出てくる英雄殿はかなりの好色だったみたいだし。
身目麗しいなら、男でも女でもイケた口みたいだし」
「うわぁ」
さすがにカガリはドン引きするしか無かった。
「んで、君みたいな異世界人だったらしいし。
でも、読んでいくと異世界人関係なく逆らえない立場だっただろうしね、お姫様」
つまりは、権力ではどうしようもない力の差というものがあるのだ。
「とりあえず、今日はもう寝よっか」
と言って、彼女は毛布を一つカガリに渡した。
「寝袋は一つしかないし、一応凍死しないように暖める用の魔法をかけてあるから、これで寝て」
「はい」
まさか寝袋の方が良いなんて言えるわけもなく、カガリは毛布を受け取るとくるまった。
眠気は意外にも、すぐやってきた。
素直に眠気に飲まれた彼は、程なくして穏やかな寝息を立て始める。
それを見て、レジナは困ったような呆れたような、その二つが混じったなんとも複雑な表情を浮かべたのだった。
「いやいや、信用しすぎでしょ」
大丈夫か、この子。
と、レジナは呟いた。
別にレジナにはカガリへ危害を加える理由もなければ、つもりもない。
しかし、あまりにも無防備である。
理不尽な理由で追い出され、さらに殺されそうになったにも関わらず、その日に出会ったばかりの人間をここまで信用出来るものだろうか。
少なくとも、レジナには出来ないことだ。
「よっぽど、この子がいた場所はいい所なのかねぇ」
温室のような環境なのかもしれない。
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