Legendary Saga Chronicle

一樹

文字の大きさ
4 / 15

しおりを挟む
 「それって、どういう?」

 「わからない?」

 戸惑いばかりが大きくなるカガリに、クスっと笑ってレジナは続きを口にした。

 「あのね、君たちを野放しにしておいたとする。んで、他の国が君たちの存在を知って接触することを避けたかったんじゃないかと思うわけ」

 「???」

 ますます、意味が分からなくて混乱してしまっているカガリにレジナは、また指を振って今度は茶菓子を出現させた。
 それは、小さなチョコだった。

 「はい、頭を使う時は甘いものね」

 「ありがとう」

 素直に受け取って、カガリはそれを口に放り込んだ。
 レジナも幸せそうに、チョコの甘さを堪能している。

 「それで、なんで追放された俺たち異世界人の存在を他国に知られることを避けたかったんだ?」

 「さっきも言ったけど、君みたいな異世界人らしき人達の情報が少しずつ表に出始めてる。
 まぁ、でも一般人の耳に入るまではまだ時間が掛かると思うけどね。
 そもそも、勇者伝説が残る国には人知れず異世界から勇者を召喚する儀式だったり奥義だったりがこっそり伝わってることが多いの。
 で、なんでこっそりなのかって言うと、魔法技術って言うのはモノによるけど国家機密の一つだから。
 特に軍事機密なことが多いの。
 研究内容にもよるけどね。
 国によって、魔法形態が違ったりすることがあって、とくに国家試験をパスしてるエリートなんかは旅行だとしても他国に行くときにかなり手続きで苦労するって言うし。
 あたしみたいな、協会に登録してる人間は特殊だから簡単に、とは行かないけどわりと普通にあちこち行けたりする。
 まあ、この辺の話は長くなるから省くとして。
 言ってしまえば、【異世界から勇者を召喚する魔法技術は国家機密であり軍事機密である】ってこと。
 ファルゼル王国からすれば、ちょっとでも情報が漏れることを嫌ったんだと思う」

 知識はなくても、どう言った場所に召喚されたのか?
 その場には誰がいたのか?
 魔方陣はあったのか無かったのか?
 エトセトラ、エトセトラ……。
 異世界転移者は、いくらでも他国にとっては有益になりえる情報を握っているのだ。
 何が漏れるかわからない。
 だから、口封じをしてしまおうと考えたのではないかと、レジナは踏んでいる。
 ただ、その口封じの命令を出したのが国王なのかそれとも王族なのか、はたまたそう言った機密を管理する責任者なのかはわからないが。

 「それに、数値は変化するものだし」

 「変化?
 変わるってこと?」

 「伸び代は人それぞれだろうし、遅い早いはあると思うけど。
 よく言うでしょ?
 成功は99パーセント努力と1パーセントの才能だって。
 つまりはそういうこと。よその国で頑張られて万が一にも億が一にも、才能を開花されて強くなられちゃ困ったことになるから」

 レジナはもう一欠片チョコを口に放り込んで、味わっている。

 「あとは、そもそも勇者っていう、言い方は悪いけど魔王とか人じゃ絶対勝てないはずの絶対的な存在に勝てちゃうくらいの化け物の卵をそのまま放逐して放置なんて、しないでしょ。
 いつ爆発するかわからない爆弾を放ったらかしにするようなもんだし」

 「バケモノ?」

 「うん」

 「世界を救う、魔王を倒すヒーローがバケモノ?」

 「いや、そうでしょ?
 たしかにヒーローかもしれないけどさ、国の上層部とかからしたら魔王を倒して国民の人気が高まるとヤバいでしょ。
 王様は地位を脅かされるとか考えるかもしれないし、魔王を倒すほどの力がいつ自分たちに向けられるかもわからないし。
 【かもしれない】思考は、結構危険でね。だから美しいお姫様とかと結婚させて、御機嫌取りをするわけだし。
 お伽噺だとその辺は、ドラマチックのロマンチックな描かれ方されてるけどさ。
 第一資料とかを手に入れるようになって、改めて調べてみたら政略結婚のオンパレード。
 いやぁ、事実は小説よりも奇なりってやつだったね」

 アッハッハッハッハッと、レジナは豪快に笑って、さっきの黒い手帳とは別の本を出現させると、開いてパラパラとページを捲る。

 「これは、とあるお姫様のそば仕えだった人の日記。
 神話時代の遺産ね。
 当事者の記録だから、信頼性はあるよ。
 でもさ、下手に日記とか残ってるとホント悲惨だよね。
 少し前に立ち寄った国の博物館だと、時の領主が同性の恋人に送ったラブレターが目立つところに飾られてたし」

 死後の公開処刑である。
 その領主、よく化けて出なかったな、とカガリは場違いなことを考えた。

 「あ、あれはラブレターじゃなくて、浮気したことをひたすら謝り続けてる手紙だったかな」

 どちらにしろ、酷い公開処刑に変わりはない。
 どうやらヒトというものは、死んだあとも公開処刑できるらしい。

 「えっと、あったあった」

 目的のページを見つけたのか、その部分を彼女は読み上げる。

 「今日は、ついに婚礼の日だ。しかし、姫様の顔は浮かないまま。
 それはそうだろう。何しろ姫様は賞品なのだから。
 恩賞なのだから。
 本来なら今頃、元々の婚約者の元に輿入れしているはずだったのだ。
 しかし、異世界から召喚された英雄の妻となることが我々はおろか姫様にすら内密に決められていた。
 当然、決定していた婚約は白紙に戻り、婚約者である、かの国の王太子から届いた祝いの手紙を読んで、ついに耐えられなかった姫様はその時はじめて泣いた。
 泣いたその日からどれだけ日数が経っただろうか?
 姫様の顔に笑顔が浮かぶことは今日もないのだろう」

 そして、また何ページかめくり、レジナは声に出してよむ。

 「あぁ、ついに。恐れていたことが起きてしまった。
 姫様が毒を飲んで、自ら命を絶ってしまった。
 英雄は、今日も愛人のところだ」

 そこで、パタンとレジナは本を閉じた。
 そして、本を消すと彼女はカガリを見た。

 「ま、こんな感じの話があちこちにゴロゴロしてるわけ。
 ちなみに、さっきの日記に出てきたお姫様は家庭内暴力を振るわれて、性的な暴力行為も酷くて、ついに自殺しちゃったみたい。
 力があっても、どんなに他の人から讃えられる英雄だったとしても、人格や性格が伴ってなければ、ただのバケモノだよ。
 ましてや、この日記に出てくる英雄殿はかなりの好色だったみたいだし。
 身目麗しいなら、男でも女でもイケた口みたいだし」

 「うわぁ」

 さすがにカガリはドン引きするしか無かった。

 「んで、君みたいな異世界人だったらしいし。
 でも、読んでいくと異世界人関係なく逆らえない立場だっただろうしね、お姫様」

 つまりは、権力ではどうしようもない力の差というものがあるのだ。

 「とりあえず、今日はもう寝よっか」

 と言って、彼女は毛布を一つカガリに渡した。

 「寝袋は一つしかないし、一応凍死しないように暖める用の魔法をかけてあるから、これで寝て」

 「はい」

 まさか寝袋の方が良いなんて言えるわけもなく、カガリは毛布を受け取るとくるまった。
 眠気は意外にも、すぐやってきた。
 素直に眠気に飲まれた彼は、程なくして穏やかな寝息を立て始める。
 それを見て、レジナは困ったような呆れたような、その二つが混じったなんとも複雑な表情を浮かべたのだった。

 「いやいや、信用しすぎでしょ」

 大丈夫か、この子。
 と、レジナは呟いた。
 別にレジナにはカガリへ危害を加える理由もなければ、つもりもない。
 しかし、あまりにも無防備である。
 理不尽な理由で追い出され、さらに殺されそうになったにも関わらず、その日に出会ったばかりの人間をここまで信用出来るものだろうか。
 少なくとも、レジナには出来ないことだ。

 「よっぽど、この子がいた場所異世界はいい所なのかねぇ」

 温室のような環境なのかもしれない。
 なにしろ、この世界での、過去の勇者たちの記録はあれど、勇者達が元々いた世界に関する記述や情報はその伝説の多さに比べ、全くと言っていいほどないのだ。

 「次はそっち方面も研究してみようかな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...