Legendary Saga Chronicle

一樹

文字の大きさ
5 / 15

しおりを挟む
 「あのー、もう適当で良いから」

 試着室から出てきたカガリの言葉に、レジナの鋭い視線が向けられる。

 「適当過ぎはダメでしょ。とりあえず防御の魔法が掛かってるし、服はそれね。次は、防具と武器を選ぶよ」

 二人がいるのは、ファルゼル王国の王都からほど近い街にある、そこそこ大きな魔道具店である。
 魔法の杖から、能力を持たせた服まで揃っており。
 武器なんかも売られている。

 「あたしの服をまだまだ着てたいってのなら、話は別だけど」

 あの後、カガリはこの世界では目立つ学ランーー学生服から一時的にだがレジナの服を借り着替えて行動していた。
 もちろん、ファルゼル王国側の目を欺くためだ。
 カガリの髪は、レジナと同系色の紅い髪のカツラを現在は着けている。
 紅髪のカツラとレジナの服を借りたため、二人が並べば姉妹のように見える。
 さすがに目の色は変えられなかったが、目の色くらいならいくらでも言い訳できる。
 服の貸し借りについては、意外とカガリが細身だったことも幸いした。

 「いや、さすがにそれはちょっと」

 会計後、カガリは試着した服を着たままでつぎの売り場に移動させられた。

 「全身鎧なんてどうせ使いこなせないだろうから、ライト・アーマーで、いや皮のショルダー・ガードでいっか。あとは武器だけど、うーん」

 レジナはショーケースに並べられた、様々な魔法の効果が付与された武器とカガリを交互に見る。
 しかし、彼女のお気に召すものは無かったのか結局武器は買わなかった。
 皮のショルダー・ガードを買い、装備の仕方を教わりながら着けて、店を出た。
 ちなみに、この買い物の代金はすべてレジナ持ちである。

 「さて、ここで一つ大事なことを話しておくけど」

 昼食には丁度いい時間なので、先程の店で聞いた食堂に向かいながらレジナはカガリに言った。
 
 「剣が見つかって無事引き抜けたら、それをあたしに、ちょーだいね。
 じゃないと、今の買い物分の値段で君を売るからね」

 「それは、もちろん。
 でも、その一応聞いていいかな?」

 「なに?」

 「この装備、全部でいくらしたの?」

 「一応専門店で買ったし、保証書もついてること考えるとまぁ、そこそこ?」

 「そこそこ」

 「家族五人くらいなら向こう十年、遊んで暮らしてもお釣りがくるくらい」

 返答に、カガリは動きを止めてしまった。
 レジナは構わず歩いていく。

 「ち、ちょっと待って!
 そんな高価なもの、俺もらえない!」

 「大丈夫。伝説の剣を見つけられればそれだけで黒字になるし。
 ようは、先行投資ってこと」

 魔法の加工をされた道具は、それだけでとても高価なものになる。
 しかし、魔法具に限って言えば高いものほど良いもの、というのが常識だったりする。
 一つだけでも簡単な家が建つ程の金額になるものもある。
 今回の服だけではなく、路銀もすべて彼女持ちだ。
 さすがに、色々と悪い気がする。

 「それに、君に死なれたらより良い状態での研究ができなくなる」

 「でも、あるかどうかわからないのに」

 「ある」

 きっぱりと前を向いたまま、レジナは言った。

 「剣はある。勇者王の武器は絶対にある」

 「それは、そうかもしれないけど。
 でも、ニセモノかもしれないとか、そういう可能性は」

 伝説の武器が現存していることに、カガリは疑問を抱いていた。
 何しろ千年以上も前のものだ。
 朽ちないように魔法がかけられている手帳を見た後でも、本当にあるのかどうか彼は疑問だった。
 仮にあったとしても、既にほかの人間が見つけているかもしれない。

 「だったらなに?
 かもしれない、は考えない!
 仮にニセモノだった時は、その時はその時!」

 彼女は振り返らない。
 後ろから追いかけてくるカガリを見ない。
 
 「なんで、有るってわかるのさ?」

 「わからないよ。見るまではわからない。在るのか、無いのかわからない」

 そこで、レジナは足を止め、そこでようやく追いついてきたカガリを見た。

 「正直、天界人ーーいや、異世界人の噂をきいて、君を見るまではあたしはその存在の実在を知らなかった。
 暗喩か何かだと思っていたというのが正直なところかな。
 いや、実在を疑っていた。
 でも、君という存在は今どこにいる?」

 真っ直ぐに見つめられる。
 宝石のようなキラキラした翠の瞳に、カガリが映る。

 「レジナの、目の前?」

 返ってきた答えに、レジナはニッコリと笑った。

 「正解」

 「でも、本当に今更だけど。危ない目に合うかもしれないよ?」

 「だから?」

 「殺されるかも」

 「それで?」

 「それでって」

 「危ない目に合う、殺されるかもしれない。
 生きてりゃそんなの普通だよ。
 人を殺すのは、人だけじゃないし。
 事故に食中毒、病気に自然災害。
 いろいろあるよ。
 でも、だからって、あたしはそれをやりたいことをしない理由にしたくない」

 「それは、そうなのかもしれないけど」

 「逃げたり諦めたりするのは、一瞬でできるから。
 あたしはその一瞬を先延ばしにしてるだけ。それだけのことだよ」

 強いなぁ、とカガリは思った。
 元の世界とは違って、こっちの世界は殺伐としている。
 人の生き死にが、命が軽いとかではなく、環境そのものが違うから当たり前と言えば、当たり前の事なのだが。
 でも、そんな世界でも自分の好きなことに夢中になっている彼女は、とても力強くカガリに映った。

 実力が伴って、それが自信になっているのだろう。

 元の世界では、命のやり取りなんてしたことが無かったし、まさか殺されそうになるとは思ってもいなかった。
 だからこそ、より彼女が魅力的に見えたのだ。
 その感情は恋とか愛とか甘酸っぱいものではなく、小さな子供がテレビに映る特撮のヒーローに対して持つ羨望だった。
 近いけど遠い場所にいる者へと向けるそれ。

 「レジナ、聞いてもいい?」

 「なに?」

 「レジナはどうして、伝説の武器を探して旅をしてるんだ?」

 カガリの質問に、レジナはきょとんとする。

 「言ってなかったっけ?」

 聞いたような気もするし、聞いていない気もする。
 
 「あたしはね、伝説が好きなんだ」
 
 「それは、聞いた気がする」

 「神話も好きなんだ」

 「それも、聞いた気がする」

 「なら言ってたね」

 「でも、わからない」

 「なにが?」

 「なんで、それで危険な旅ができるの?」

 「好きなことをするのに、命をかけるのはおかしい?」

 「おかしいよ」

 「君のいた世界では、命をかけて好きなことをするのはおかしいことなんだ?」

 「それは」

 いないわけではない。
 そう言ったことをする人間が全くいないわけではない。
 でも、白い目で見られ、後ろ指を指され、嘲笑されることは珍しくない。
 好きなことをしていると公言すれば、迫害とまではいかないが孤立させられる。否定される。

 「窮屈な世界だね」

 「でも、死ぬよりはいい」

 「好きなこと、やりたいことを諦めて生きるのが君の世界だと、正しいことで普通なんだ?
 まぁ、人には向き不向きがあるからね~。
 ん~、あたしはそっちに行ったらたぶん心が死ぬなぁきっと。
 体が死ぬよりもさきに、心が死ぬ」

 苦笑して、彼女はこわいこわいと続けた。
 どこまで本音かはわからないが、どうやらレジナは命を落とすよりも心が死ぬ方が怖いらしい。

 「カガリはつくづく運が無いね。
 こんな馬鹿な女に拾われて、利用されるなんて」

 「そんなことは」

 「あたしも聞きたいんだけど」

 「?」

 「君は、あたしからしてみれば、そんな心が死ぬような世界をどうやって楽しみながら生きてたの?
 そもそも、楽しみはあった?」 

 「それは」

 「それともう一つ」

 食堂の前で立ち止まると、カガリには読めない文字で書かれた立て看板を見ながらレジナは続けた。

 「チキン定食とハンバーグ定食、あ、魚の照り焼きもある。
 今日は何食べたい?
 ランチには日替わりメニューもあるみたいだし。
 ま、好きに決めて食べなよ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...