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「じゃあ、結局なにもわからなかったのか?」
そうアーサーが言ったのは、【ハジマリの地】から離れ、街道を歩いてる時だった。
アーサーの背には、無傷なものの気を失ったカガリ。
襲われた王族パーティはそのまま放置してきたが、観光地の職員が集まってきていたし手遅れでなければ助かっているはずだ。
「いんや、聖剣の行方と、それこそセットで語られ続けていたアイテムがもう一つあるでしょ」
「まさか」
「そう、たぶんアーサーの考えてる通りの物の在り処がわかったかも」
「聖杯、実在したのか」
聖杯。
後世の創作物にこれでもかと登場する杯のことである。
その杯には、神の血がたたえられ一口口にしただけで、神と同等の力が得られるという伝説のアイテムである。
「勇者王の伝説には切っても切り離せない道具。
まあ、機能は伝説によって多少ことなるけどね」
「かなり血生臭い話が多いよな」
「一説には処女の血、それも経血を聖杯に注いで口にするなんて嫌な話もあるからね~。
そんな伝説があるもんだから、吸血鬼伝説と結びつけられちゃったりしてるわけだけど」
「でも、なんで魔族があんなとこにいたんだ?」
ファルゼル王国が派遣した王族パーティがいたことを考えると、おそらく偶然とは思えない。
「そりゃ、現代の勇者王候補を抹殺にきたとかそんなんじゃない?」
「へえ」
「ここ最近、そんな話ばっかり聞くしね」
「まぁ、たしかに。ほんとここ最近きな臭いなぁとは思ってたけどさ」
「こうして、魔族の存在も確認できたってことは、ファルゼルだけじゃなくて、他の国でも似たりよったりなこと起こってるだろうし」
「で、どうするんだ?」
「何が?」
「コイツだよ、コイツ」
アーサーは自分の背中におぶっているカガリのことを聞いた。
「全然動けない、戦えない、こうなってくるとただのお荷物だろ。
邪魔になるんじゃねーの?」
「バケモノの卵だよ」
「お前なぁ、仮にも勇者予定のやつをバケモノ呼ばわりすんなよ」
アーサーに呆れたように言われ、レジナは少し考え込む。
「磨けば光る金の卵候補だよ」
「磨いて光らさせたあとは?」
「そのあとは、伝説の武器を手に入れるために必要だしね」
「それで飼ってるってわけか」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、躾もちゃんとしてるよ」
「躾とか言うなよ」
レジナもカガリも利害関係の一致で、その辺は納得している。
たしかに、その辺の事情は当人達の問題なのでアーサーが口を出す義理も意味もないのだ。
「で、話は戻るけどよく魔族はさっさと引き上げたな」
魔族に対して傷を負わせることのできる武器と、それなりの強さを兼ね備えたレジナがいた。
そのレジナは自分の楽しみを邪魔されたことに、血が頭に昇って斬りかかったのだが、そんなレジナにそこまで興味を抱かなかったのだろうと思われる。
魔族に人間は基本的に勝てないと言われている。
英雄で相打ち、勇者で勝てる。
それが通説だ。
そう、せいぜいガキが玩具の剣をぶん回して遊んでいる程度としか見られていなかったのだろうと思われる。
魔族が基本興味あるのは、自分たちという存在を滅ぼせる勇者だけだ。
だから、
「だって、ただの人間なんか構うわけないでしょ」
「それもそうか」
ただの人間であるレジナにはそこまでの価値はない。
勇者の存在に比べれば、価値はその辺の石ころ以下だ。
レジナにも、アーサーにも魔族にとって魅力的な価値は無いのだ。
しかし、カガリは違う。
「……でも【ただの人間じゃない】コイツに、魔族は気づいてなかったみたいだけどな」
「そこだよ。
不思議なんだよね。
いや、うがった見方をすれば答えはでるんだけどさ」
「どういう意味だ?」
「カガリを拾った時のことは話したじゃん?」
「殺されそうになってたとかいう、あの話か」
「そう、その話。
あれからひと月ちょっと経ったけど、その件が表沙汰になってないんだよ。
匿名でお役所にタレコミをいれた。
そのお役所が動いたのも確認済み。
でもさ、全くその情報が表に出てこないの。
新聞にすら、出てない。
地方新聞の片隅に載るか、情報屋に流れれても不思議じゃないくらい、ショッキングな人死にが起こったのに、だよ」
「そりゃアレだろ、情報が伏せられてるんだろ」
「それもあると思う。
でもさ、そうじゃないんだよ。
良い?
あたしの匿名のタレコミがあった、あの場所にはその子のクラスメイトと暗殺者の死体があって、でも、一人だけ死体が見つかっていない状況なんだよ。
国がわは、消えた転移者であるカガリの行方くらい追っても良いと思うんだよね。
極端なことを言っちゃうと、カガリを殺人犯に仕立てあげて指名手配くらいするかなと考えてたんだけど、それも無かった。
聖剣や勇者王伝説に関する情報を集めるついでに、指名手配されてないかとか、行く先々確認してたんだけどね、指名手配どころか尋ね人としての届出も無かった」
「だから、それは」
「情報統制されてたから?
たしかにそうなのかもしれない。
でもだったら、情報を操作して生死とわずで懸賞金をかけたほうがいい気がする。
だって、カガリはまだ未熟だから。
殺そうと思えばいつだって殺すことができた」
「もしかして、授業を後回しにした理由は、それか?」
「否定はしない。
様子を見るつもりだったし、伝説の勇者と同じ役割があるならどこかでその片鱗が見られるかもとか期待したし」
「で、お前は何が気になってるんだ?」
「ただの勘なんだけどさ、こうもカガリの情報が出て来なさすぎるのって、死んだことにされてるんじゃないかって思ったんだ。
つまり、カガリの生存を知りながらそれを知らんぷりしてる存在がファルゼル王国側にいるんじゃないかって」
「仮にその勘が当たってるとして、だ。
どういうことになるんだ?」
「……そりゃ、どこもそうだけどファルゼル王国は一枚岩じゃないってことなんじゃない?
少なくとも、カガリの生存を隠しておきたい誰かがいるのは確かだと思うし」
「…………」
「でもさ、わざと生かしておいたのだったら動向が気になるもんでしょ。
その誰かさんが、何をしたいのかイマイチわかんないのよ」
「案外、お役所仕事だから適当に処理されたとかじゃねーの?」
「あ、そっか。それもあるか」
とか納得していた矢先のことだった。
三日後。
やはり勇者王関連で町おこしをしている、その町の食堂に入った時だった。
わずかだが、レジナたちを見た他の客と店員がざわついたのだ。
と、これまた僅かな殺気。
周囲をそれとなく確認すれば、強面の賞金首稼ぎらしき風体の者達がチラホラといる。
そして、顔色を変えた店員が厨房に引っ込んで行くのを、レジナは見逃さなかった。
「あ、俺そういえば急用を」
なんて言いながらそそくさと、その場を去ろうとするアーサーの髪を引っ掴んで止める。
「おい、逃げんな」
「いや、長年の経験で」
「逃げんな」
「これかなりの厄介ごとじゃん!」
「なにを今更」
そんなやり取りをするレジナとアーサーを、カガリは疑問符を浮かべて見ている。
と、そんなカガリの肩を誰かが掴み、そのまま床へ叩きつけるように押し付けた。
「まさかこんなとこで出くわすとは、運が良い」
カガリを押さえつけたのは厳つい男だった。
その男は、紙をレジナとアーサーに見せつけながら続ける。
手配書だった。
レジナとカガリの手配書である。
カガリの方は、変装をした状態での手配書だったので、人相書きの方に赤髪の少女と特徴が書かれてあった。
「気をつけろ!
仮にも勇者様達を返り討ちにしたヤツらだぞ!」
なんて声が上がり、状況を把握できていないカガリは床に押し付けられたまま戸惑うことしかできない。
「は?」
殺気を伴って、レジナから低い声が出た。
と、そこに。
「火炎球!」
炎の魔法により生み出された火の玉が、どこからともなく放たれた。
「馬鹿!ここ店内だろ!」
それに反応したアーサーが神剣を鞘から抜きはなって、一刀両断する。
そこにすかさず、レジナの魔法が展開した。
「水流柱!」
レジナの魔法によって水柱が出現し、炎の玉を消火する。
「カガリ! なにやってんの!?
ナイフ使いなさい!」
「え、で、でも」
レジナのヒステリックな声に、カガリは戸惑いの声を漏らす。
「でもじゃない! 使え!」
レジナがパチンと指を鳴らす。
すると、ベルトに差していたナイフがすり抜け、組み敷かれ拘束されているカガリの手に収まろうとして、カガリを押さえつけていた男の手を切り落とした。
「は?」
何が起こったのかわからず、間抜けな呟きがカガリを押さえつけていた男から漏れた。
そうアーサーが言ったのは、【ハジマリの地】から離れ、街道を歩いてる時だった。
アーサーの背には、無傷なものの気を失ったカガリ。
襲われた王族パーティはそのまま放置してきたが、観光地の職員が集まってきていたし手遅れでなければ助かっているはずだ。
「いんや、聖剣の行方と、それこそセットで語られ続けていたアイテムがもう一つあるでしょ」
「まさか」
「そう、たぶんアーサーの考えてる通りの物の在り処がわかったかも」
「聖杯、実在したのか」
聖杯。
後世の創作物にこれでもかと登場する杯のことである。
その杯には、神の血がたたえられ一口口にしただけで、神と同等の力が得られるという伝説のアイテムである。
「勇者王の伝説には切っても切り離せない道具。
まあ、機能は伝説によって多少ことなるけどね」
「かなり血生臭い話が多いよな」
「一説には処女の血、それも経血を聖杯に注いで口にするなんて嫌な話もあるからね~。
そんな伝説があるもんだから、吸血鬼伝説と結びつけられちゃったりしてるわけだけど」
「でも、なんで魔族があんなとこにいたんだ?」
ファルゼル王国が派遣した王族パーティがいたことを考えると、おそらく偶然とは思えない。
「そりゃ、現代の勇者王候補を抹殺にきたとかそんなんじゃない?」
「へえ」
「ここ最近、そんな話ばっかり聞くしね」
「まぁ、たしかに。ほんとここ最近きな臭いなぁとは思ってたけどさ」
「こうして、魔族の存在も確認できたってことは、ファルゼルだけじゃなくて、他の国でも似たりよったりなこと起こってるだろうし」
「で、どうするんだ?」
「何が?」
「コイツだよ、コイツ」
アーサーは自分の背中におぶっているカガリのことを聞いた。
「全然動けない、戦えない、こうなってくるとただのお荷物だろ。
邪魔になるんじゃねーの?」
「バケモノの卵だよ」
「お前なぁ、仮にも勇者予定のやつをバケモノ呼ばわりすんなよ」
アーサーに呆れたように言われ、レジナは少し考え込む。
「磨けば光る金の卵候補だよ」
「磨いて光らさせたあとは?」
「そのあとは、伝説の武器を手に入れるために必要だしね」
「それで飼ってるってわけか」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、躾もちゃんとしてるよ」
「躾とか言うなよ」
レジナもカガリも利害関係の一致で、その辺は納得している。
たしかに、その辺の事情は当人達の問題なのでアーサーが口を出す義理も意味もないのだ。
「で、話は戻るけどよく魔族はさっさと引き上げたな」
魔族に対して傷を負わせることのできる武器と、それなりの強さを兼ね備えたレジナがいた。
そのレジナは自分の楽しみを邪魔されたことに、血が頭に昇って斬りかかったのだが、そんなレジナにそこまで興味を抱かなかったのだろうと思われる。
魔族に人間は基本的に勝てないと言われている。
英雄で相打ち、勇者で勝てる。
それが通説だ。
そう、せいぜいガキが玩具の剣をぶん回して遊んでいる程度としか見られていなかったのだろうと思われる。
魔族が基本興味あるのは、自分たちという存在を滅ぼせる勇者だけだ。
だから、
「だって、ただの人間なんか構うわけないでしょ」
「それもそうか」
ただの人間であるレジナにはそこまでの価値はない。
勇者の存在に比べれば、価値はその辺の石ころ以下だ。
レジナにも、アーサーにも魔族にとって魅力的な価値は無いのだ。
しかし、カガリは違う。
「……でも【ただの人間じゃない】コイツに、魔族は気づいてなかったみたいだけどな」
「そこだよ。
不思議なんだよね。
いや、うがった見方をすれば答えはでるんだけどさ」
「どういう意味だ?」
「カガリを拾った時のことは話したじゃん?」
「殺されそうになってたとかいう、あの話か」
「そう、その話。
あれからひと月ちょっと経ったけど、その件が表沙汰になってないんだよ。
匿名でお役所にタレコミをいれた。
そのお役所が動いたのも確認済み。
でもさ、全くその情報が表に出てこないの。
新聞にすら、出てない。
地方新聞の片隅に載るか、情報屋に流れれても不思議じゃないくらい、ショッキングな人死にが起こったのに、だよ」
「そりゃアレだろ、情報が伏せられてるんだろ」
「それもあると思う。
でもさ、そうじゃないんだよ。
良い?
あたしの匿名のタレコミがあった、あの場所にはその子のクラスメイトと暗殺者の死体があって、でも、一人だけ死体が見つかっていない状況なんだよ。
国がわは、消えた転移者であるカガリの行方くらい追っても良いと思うんだよね。
極端なことを言っちゃうと、カガリを殺人犯に仕立てあげて指名手配くらいするかなと考えてたんだけど、それも無かった。
聖剣や勇者王伝説に関する情報を集めるついでに、指名手配されてないかとか、行く先々確認してたんだけどね、指名手配どころか尋ね人としての届出も無かった」
「だから、それは」
「情報統制されてたから?
たしかにそうなのかもしれない。
でもだったら、情報を操作して生死とわずで懸賞金をかけたほうがいい気がする。
だって、カガリはまだ未熟だから。
殺そうと思えばいつだって殺すことができた」
「もしかして、授業を後回しにした理由は、それか?」
「否定はしない。
様子を見るつもりだったし、伝説の勇者と同じ役割があるならどこかでその片鱗が見られるかもとか期待したし」
「で、お前は何が気になってるんだ?」
「ただの勘なんだけどさ、こうもカガリの情報が出て来なさすぎるのって、死んだことにされてるんじゃないかって思ったんだ。
つまり、カガリの生存を知りながらそれを知らんぷりしてる存在がファルゼル王国側にいるんじゃないかって」
「仮にその勘が当たってるとして、だ。
どういうことになるんだ?」
「……そりゃ、どこもそうだけどファルゼル王国は一枚岩じゃないってことなんじゃない?
少なくとも、カガリの生存を隠しておきたい誰かがいるのは確かだと思うし」
「…………」
「でもさ、わざと生かしておいたのだったら動向が気になるもんでしょ。
その誰かさんが、何をしたいのかイマイチわかんないのよ」
「案外、お役所仕事だから適当に処理されたとかじゃねーの?」
「あ、そっか。それもあるか」
とか納得していた矢先のことだった。
三日後。
やはり勇者王関連で町おこしをしている、その町の食堂に入った時だった。
わずかだが、レジナたちを見た他の客と店員がざわついたのだ。
と、これまた僅かな殺気。
周囲をそれとなく確認すれば、強面の賞金首稼ぎらしき風体の者達がチラホラといる。
そして、顔色を変えた店員が厨房に引っ込んで行くのを、レジナは見逃さなかった。
「あ、俺そういえば急用を」
なんて言いながらそそくさと、その場を去ろうとするアーサーの髪を引っ掴んで止める。
「おい、逃げんな」
「いや、長年の経験で」
「逃げんな」
「これかなりの厄介ごとじゃん!」
「なにを今更」
そんなやり取りをするレジナとアーサーを、カガリは疑問符を浮かべて見ている。
と、そんなカガリの肩を誰かが掴み、そのまま床へ叩きつけるように押し付けた。
「まさかこんなとこで出くわすとは、運が良い」
カガリを押さえつけたのは厳つい男だった。
その男は、紙をレジナとアーサーに見せつけながら続ける。
手配書だった。
レジナとカガリの手配書である。
カガリの方は、変装をした状態での手配書だったので、人相書きの方に赤髪の少女と特徴が書かれてあった。
「気をつけろ!
仮にも勇者様達を返り討ちにしたヤツらだぞ!」
なんて声が上がり、状況を把握できていないカガリは床に押し付けられたまま戸惑うことしかできない。
「は?」
殺気を伴って、レジナから低い声が出た。
と、そこに。
「火炎球!」
炎の魔法により生み出された火の玉が、どこからともなく放たれた。
「馬鹿!ここ店内だろ!」
それに反応したアーサーが神剣を鞘から抜きはなって、一刀両断する。
そこにすかさず、レジナの魔法が展開した。
「水流柱!」
レジナの魔法によって水柱が出現し、炎の玉を消火する。
「カガリ! なにやってんの!?
ナイフ使いなさい!」
「え、で、でも」
レジナのヒステリックな声に、カガリは戸惑いの声を漏らす。
「でもじゃない! 使え!」
レジナがパチンと指を鳴らす。
すると、ベルトに差していたナイフがすり抜け、組み敷かれ拘束されているカガリの手に収まろうとして、カガリを押さえつけていた男の手を切り落とした。
「は?」
何が起こったのかわからず、間抜けな呟きがカガリを押さえつけていた男から漏れた。
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